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(23)覚めない悪夢



    ◇ ◇ ◇



 町の住人たちは悪夢の中にいた。

 たまたま外に出ていただけで、たまたま騒ぎに外の様子を見に出ただけで、文字どおり踏みにじられた命。

 瞬く間に、この町の、こどもを含めた数十人もの命が奪われた。

 いったい何が起きているんだ?



「あの、あの、命ばかりはどうかおた……」



 命乞いの中で剣を突きこまれる男。



「――――なに、すんだよっ!!!」



 馬上の男にほうきを振り上げて戦いを挑み、首を跳ね飛ばされる女。

 遅ればせながら危機を理解した者たちは慌てて家に入り戸締りをしようとするが、籠れた幸運な者も町の中では少数だった。


 逃げろ、隠れろ、いや、間に合わない、どうすれば。




「――――!?」

「なん、だっ!! 矢がぁっ!!?」

「あ、ああああ!!?」



 突如豪雨のように降り注ぐ矢が、国教会“裏”聖騎士団を襲う。


 覆面で視界を覆われていた馬上の者たちは、矢に気づくのが遅れる。

 気づいたときにはハリネズミのように身体から矢を生やし、馬から落ちていく。



 逃げ惑っていた町の人間たちは、何が起きたのかわからず、呆然とした。



「矢を、矢を避けろ!!」

「人を楯にしろ!!! 軽いこどもを使え!!」



 中隊長からの指示が飛ぶ。

 第一撃で絶命を免れた白覆面たちは建物の陰に隠れる。

 あるいは、持ち上げやすい小柄な女やこどもを馬の上に引き上げ、楯にする。


 ――――が、そうした彼らは、信じられないものを見た。


 泣きさけぶ生きた肉の楯に、まっすぐ突き立っていくはずの矢が、ぐるりとありえない軌道をたどり……自分に襲いかかるのを。

 建物の輪郭にまるで沿うように、落ちてくる矢を。



「散れ!! 散れ!!!」

「人家に押し入れ! 死ぬな!!」

「我々が生きのこりさえすれば、国王らの、カバルス軍の足止めになるんだ!!」



 白覆面の生き残りの半分ほどは、再び馬に乗り遁走していく。

 残りは―――馬を射られ失った者も多かったが―――中に入れる家を探して入り込んだ。あるいは、逃亡不可と腹を決めて、地面を駆けながらさらなる殺戮のため、剣を振るった。



「ひ、ひとごろし……!!」



 馬に踏み潰された我が子の身体を抱きしめた父親が、唾を吐きかける。



「わからぬか!?

 国王を殺すため、必要な足止めなのだ!

 我らも、おまえたちもな!!」


「ここで犠牲を惜しんでは、かの者は討てぬ。

 ずっと転生者の王を仰がねばならなくなるのだ!!」



 そう言い剣を振りかざす白覆面たち。



「安心しろ、死んだ子もおまえも、神の御許で永遠(とこしえ)の安寧を得るであろう!」


「神か、これが!? 悪魔の間違いではないのか!?」


「なんだと!!」



 激高した白覆面。

 父親はその向こうに、信じられないものを見た。


 巨大な異形の生き物……輝くような黄金の毛に黒い縞模様が刻まれるその生き物。

 それが虎という生き物であることを、父親は知らなかった。



「な、なんだ!?」

「と、虎!?」



 人の身の丈をはるかに越える大きさの虎だった。

 恐怖に襲われた白覆面たちは、剣をも捨てて逃げ出していく。

 また、虎が、地響きかと疑うほどの大きな声で吠えると、家に立てこもった白覆面たちも怯えて、逃げ出した。



「何が、おきてるんだ……?」



 父親が我が子の死体を抱いたまま呆然としていると、その眼の前に、軍装の少女が唐突にあらわれた。

 虎の上に乗っていたらしい。と、少女は虎のほうに向いて声をかける。



「―――セメレー様、彼らが他に残っていないか見てきていただけますか?」



 虎は吠え声で女兵士に応え、町の中をさらに見回るように、走り出した。

 女兵士は、父親に近づく。

 いつの間に来たのか、彼女と同じ軍装の男女の兵が、町の中に現れていた。まるで何もないところからパッと現れたように。



「〈捕魂(アニマム・カピト)〉」



 ごく末端の者らしい女兵士は、こどもの遺体の胸に触れ、魔法をかけた。



「な……なにを?」

「息のある人と、損傷の少ない遺体を、集めてもらえますか?」

「……??」


「脳と心臓を破壊されていない遺体なら〈蘇生魔法〉が利く可能性があります」


「それは、本当なのかっ!?」



 父親は女兵士につかみかかり、叫ぶ。



「あくまで可能性です、保証はできません。

 それが可能な方はいま、先ほどの者たちと戦っています。

 また我々の三分の二も、先ほどの騎士たちを追撃しています。

 ですが……協力していただけますか?」



   ◇ ◇ ◇




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