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(16)実行日時決定



「ナルキッソス、ちょっと来い」



 呼ばれたナルキッソスは、レマの膝をかろやかに降りてレイナートの身体の上をかけあがり、胸のあたりで止まる。

 黒光りする毛並みをレイナートは撫でる。相変わらず毛並みと手触りがいい。



「ほかに、イクシオンで気になることはあったか?」


「正直、経歴がわからないことにゃ。騎士として戦ったわけでもないし、そもそも戦闘できるのか?もわからないにゃ。

 わからないことが多くてごめんなさいにゃ」


「や、人員の割き方を再考しよう。

 イクシオン含めた聖騎士団の動向と、マノロ・レウスも同様に押さえ、かつ、俺を見張らせて襲撃犯の体勢を都度探るとしたら、どれぐらい諜報部隊の増員が必要だ?」


「……う?

 うにゃー……じゃ、いまカバルスでベルセルカ様の護衛についてる騎兵隊の面々に加わってほしいですにゃ」


「了解。人員調整する。

 ファランはベルにつけていても大丈夫か?」


「海のない場所に潜入できないからアイツは数えてないにゃ」


「おまえファランに冷たいな」



 背中を撫でていると、ジト、っとした目でナルキッソスににらまれる。

(またオレをベルセルカ様の代わりにして……)

と言いたいのだと思うが、長らく我慢していたので、できれば容赦願いたい。



「もうひとつ。大陸聖教会から国教会に派遣されている人員がいるんじゃないかと思っているんだが、入国の記録はこないし、表にもそれらしい人物は出てこない。

 それも、調べてもらえるか?」


「わかったですにゃ!

 ……でも、マノロ・レウスも正直不気味ですにゃ。

 バシレウス家から分岐して数代経過しているにゃ。この国でこの身分なら、普通は、中級魔法もなかなか使えないにゃ。なのに魔法を駆使して間諜の目を()(くぐ)って……」


「そして私に、若を殺させようとした」レマは、唇をかんでそう言った。



 少なくとも押さえておかなくてはならないのは、マノロ・レウスの魔力が彼の身分だと通常ほぼありえないほど強かったということだ。

 バシレウス家の血筋ゆえか?

 もしかしたら、国王の婚外子であるヴィスやヴェーラよりも上かもしれない。



「とりあえず今は、その2人を中心に探ってくれ。

 それにしても、このタイミングでルーシーを聖職者にという話を持ちかけてきたのも、気になるな……」


「もし、ルーシー様が聖職者につくことを正式に承諾したら、陛下が任命するわけではなくても、任命式への出席打診があるのではないですか?

 比較的短い期間で打診しても、不自然ではないし、出席を拒む理由がつくりにくいでしょう」



 イヅルの言葉に

「……そうか、その可能性もある」

と、レイナートはナルキッソスを抱き上げながら返した。

 そしてナルに、黒く長いしっぽで鼻先をくすぐるという仕返しをされる。



「ネフェルの帰国開始まであと2週間、転移魔法は使わないで帰るから、レグヌム入りまであと3週間。

 そんなに長くはない。奴らの動きもこれから派手になってくるだろう。きっちり拾っていくぞ」



   ◇ ◇ ◇



 王都から南東へ100ミッレ(約150キロ)。イクソドイデア大聖堂。


 再び高位聖職者らが集結していた。



「――――戦力の分断工作は成功。

 それから、国王への恒常的な襲撃と、マノロ・レウス氏のプレッシャーにより、国王の魔力を削ぐことには成功……しかし、何とも気が遠くなる作戦ですな」


「残念ながら、王城では、毒だけはどうしても盛れませんでしたからな――――」



 とんでもなく精緻な治癒魔法がつかえる国王を唯一、一時戦闘不能にできるとしたら毒であろうと考えられた。細かな血管の中を流れる成分を分解無害化していくのに非常に時間がかかる、というその原理を彼らはわかっていなかったが、いい線は突いていたのである。


 しかし、王城の料理人は、家族も含めて手厚く保護されており、懐柔や脅迫は不可能。

 厨房にもすでに結界が張られており、侵入は不可能であった。


 ただそれは、あくまでも王城では、の話である。



「先日、正式に国王から、ルーシー・アファレンシス公爵令嬢を聖職者にしたいという返答がかえってまいりました。

 二週間後、かの南の帝国の“魔女”の帰還前に、任命式を開催いたします。

 場所はこの地――――イクソドイデアにて」


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