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(8)召喚は計画的に

     ***



「『呪いの墓場に集いし“絶望”よ、あの若者の血肉を冥府の女王に捧げよ』」



 子分たちが皆やられ、転がる、広間で、アステリオスは再び杖をかかげた。


 杖の先から、幾筋もの白い煙が走る。

 それぞれがすぐに白く半透明な人間のかたちをつくる。

 皆、筋骨隆々の体に(よろ)っているが、首のない者、片腕のない者、足のない者……その数、六体。

 それぞれが戦斧や大剣、大鎌などの重厚な武器を手にしている。



幽霊(ファントム)か」



 レイナートは左手で防御魔法の楯をつくりながら、右手で剣を抜く。



「あんたからは触れられない、幽霊たちからはあんたにふれられる。さあ、どう倒す!?」

「―――どうしてこの幽霊たちを呼んだ?」

「は?」



 アステリオスの目に映るレイナートは、しきりに首をかしげている。



「な、なんだい、はったりをかけようとしているのかい!?」

「まぁ、いいが」



 軽く流すとレイナートは、目の前の一体の幽霊と対峙した。


 この幽霊には首がなく、表情はわからなかったが、戦斧を振り回す腕には歓喜がにじんでいる。


 膨らみを帯びた胸。その体が女性戦士のものだとレイナートは気づいた。

 腕の太さなど、レイナートの4倍はある。女の体を、ここまで鍛え上げたのか、と、生前の彼女に敬服を禁じ得ない。


 瞬殺してもよかったが、レイナートは、わざと何度も斬り結ぶ。魔力を込めれば武器も体も、幽霊たちに問題なく触れられる。


 打ち合ったのち、戦斧の首を切り飛ばした。

 そしてその胸、心臓が生前脈を打っていたであろう場所を、ぐっと一突き。


 ゆらっと揺れて、あっさりと、首無し霊は消えた。



『次は、わしじゃあ!!』



 二体目の幽霊は、口をきいた。白いひげの、かくしゃくとした老人だ。足のない体で空中を飛び回りながら意気揚々と大鎌を振り回す。父に似てる、と一瞬思ったレイナートは、大鎌の激しい一撃を剣で受け、後ろにはねとばされた。


 再び襲いくる鎌。床を転がりながらその下をくぐり、老人霊の体の下に。


 レイナートがすくい上げるように剣を喉に突き立てると、嗤いながら、老人もまた消えた。



 三体目、四体目、五体目……幽霊たちはことごとく、レイナートと戦って致命傷を負っては、あっさりと煙のように姿を消していく。


 アステリオスは茫然と立ち尽くす。



「な、なぜ…なんで、みんないなくなるのよ!?」

「? 未練が消えたからだろう?」

「……みれん?」

「貴女は、本当にてきとーに霊を呼んだんだな」



 六体目の幽霊は、巨大な戦槌を手にレイナートに襲いかかる。

 振り回される武器に、部屋の中はもうめちゃめちゃだ。

 倒れた飾り棚を足場にレイナートは跳躍し、戦槌を振るう幽霊の手に着地。

 幽霊の首を刎ねる。

 ふわっと浮いた幽霊の首は、わずかな笑みを残し、光りながら雲散霧消した。



「いま呼び出された幽霊たちは、戦場の勇者たちだった。

 もっと戦いたかったのに、肉体は闘志よりももろく、戦場で命を落としたんだろう。

 集団で同時に来なかったのは、皆、腕に覚えがある者たちだったからだ」



 涼しい顔で剣をさやにおさめるレイナート。



「心残りをかなえてやれば、幽霊は満たされ、冥府に行けるようになる。

 六人とも俺で満足してくれたようで、何よりだな」



 アステリオスは憎悪よりも、恐怖の目を向けた。



「……………なにもの……なにものなの、あんた……」


「貴女の知っているとおりの男だ。

 ただ、幽霊の相手はそこそこ慣れている。

 前国王と宰相の無茶ぶりで4回ぐらい各地の城に幽霊退治にいかされたし」



 ベルセルカは断固として来なかったけどな、とレイナートが補足したその時。

 アステリオスは再び杖を握りしめる。

 徹底抗戦のつもりなのだろう。再び詠唱を。



「『―――来たれ交差せし道をその黒き手で治めるものよ、太陽の敵、闇の友よ―――夜の掟の下に汝の鏖殺(おうさつ)の力…』」



 今度は悪魔を呼び出すものか?

 さすがに、彼女だけは多少手荒にせざるをえないか、とレイナートが剣をかまえた時。



「にゃあにゃあ!!」



 つい先ほどのベルセルカのようなことを言いながら、アステリオスの顔にふってきたもの……いや黒猫がいた。



「な、なに、この猫は!?」



 ――――言わずと知れたナルキッソスだ。

 詠唱が、途切れた。

 〈転移〉で屋敷の中に入ってきたのか…?


 アステリオスの豊かな胸に乗るも、そのまま滑っていきそうになる黒猫。

 見た目は美しくかわいらしい黒猫なので、アステリオスは自分の胸に、思わず抱き留める。



「―――『太陽の加護のもと、汝の降魔の道を封ず』――〈召喚封滅〉」



 ふいにナルキッソスの口から、呪文がこぼれた。杖が、まとっていた光を失う。



「なに、これ……」


「ダメですよ、とっても綺麗なお姉さん。

 ()()()()だけは、呼び出したら」



 ナルキッソスが突然妙に人間臭い口調でしゃべった。



「オレのもとの(あるじ)は、その悪魔に食い殺されたんです。

 いま召喚解除しましたから。あきらめて」



 はりつめていたところにいきなり毒気を抜かれたらしいアステリオスは、猫を抱きしめたまま、へたっ、と床に座り込んだ。

 赤いドレスから力なく投げ出された脚。



「お疲れ様です、レイナートさま!!

 ベルセルカ、ただいま戻りました!」



 赤髪の娘が元気よく広間に戻ってきた。



「いいタイミングで帰ってきたな」

「屋敷の中の手下、全滅(オールクリア)です!」



 そのベルセルカの言葉を聞いても、アステリオスは反応せず、放心したように猫を抱きしめていた。

 レイナートは剣をおさめる。



「さて、アステリオス。

 なんでこんなことをしたのか。説明をしてもらおうか……――――フェリクスに」



 レイナートが後ろを振り返る。ベルセルカもつられて振り向く。

 どうやら急いで駆けつけたらしいフェリクスが、ぜいはぁと荒い息で、ぼこぼこに壊された扉に、もたれかかっていた。



「……国王陛下もお人柄が悪い」



 くくく、と、フェリクスは笑い、片眼鏡をくいと持ち上げる。



「私が追ってくることまで予想していらっしゃったのですか?

 それとも読心術でもお使いになるので?」


「種明かしは、おまえの話の後にしていいか?」


「か、勝手に話を進めてんじゃないよ、フェリクス!」アステリオスが、猫を抱きしめながら、声を荒らげる。



 フェリクスは数度深呼吸し、息を整えた。



「お話をしても良いですが……できれば、その女性―――その御方が、椅子におかけになることをお許しください、陛下」


「?? 御方??」


「彼女こそ、タウルス公爵グラ家のたったひとりの生き残り。

 先代当主のご令嬢、アリアドネ様です」



 一瞬のちに「「………はい?」」レイナートとベルセルカはそろって間抜けな声をもらしてしまった。



     ***

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