(4)“占有憑依者(ポゼッサー)”と不確定要素
「……そう言えば、先日の“転生者狩り”の一件で、ヴィスが仲間として把握していた者たち以外の“転生者狩り”はまだ見つけきれていなかったんですよね」
2杯めの珈琲には、たっぷりの生クリームをつけてもらった。
黒い水面に生クリームのかたまりを落として、ベルセルカは口にする。
ふわふわの甘いクリームと苦味の組み合わせがくせになりそう。
酒の飲めないレイナートが最近この輸入品の黒い飲み物にハマっている気持ちが、わかる。
「はい、国教会の中にもたくさんのシンパがいたはずです。
やはり先行する“転生者狩り”の事件に触発されて動いたのだと思うのですが、追いきれなくて」
「……私たちがドラコで戦った時、国教会聖騎士団は、ほぼ壊滅状態になりましたね。
聖騎士の肉体を魔法で強化していたと思われた“聖女”マーティアは死亡。
聖騎士団長デメトリオ・エセキエルも死亡。
それからは、国教会も戦力を傭兵に頼らざるをえなくなっている……と」
「ですが、聖騎士団はもともと多くが領地か扶持を与えられた世襲の人間たちです。
たぶん息子がいれば、その子が聖騎士として任じられて、今後私たちとの戦いに出てくるんじゃないかと思います」
「――できれば、こどもを戦場に駆り出させずに済めば良いのですがな」
レマとの間に、老年の男の声が入ってきた。
「エクエス様! ご無沙汰しています」ベルセルカが起立して敬礼する。
「おや、エクエスで良いと何度ももうしましたが」
現れたのは、バシレウス家に仕える老年の騎士のエクエス・レクタムだ。
家督は息子に譲って、バシレウス家の騎士を束ねている。
身分的には、侯爵令嬢のベルセルカが『様』付けで呼ぶ相手ではない。
だが、バシレウス家から拝領している騎士としてのベルセルカにとっては、上司ということになる。
「陛下は十二歳で初陣、ベルセルカ様は十三歳で初陣。
特に転生者はペルセウスはじめ、若すぎるうちから戦場に出ている者たちが多い。
ですので、感覚が麻痺されるのを心配しております。
本来ならば心も体も傷を受けやすいこどものうちは、しっかりと守られ教育を受けるべき時期。
こどもを戦場に駆り出すのは、道理の壊れた獣の所業でございます」
――――ああ、そういえば。
うっすらベルセルカの記憶にもあるが、六年前、エクエスは何度もレイナートの初陣が早すぎると止めたのだ。
あまりに幼いうちに、戦場に出ることや、戦場の残酷さのただ中に入ることは、こどもに、回復しきれない傷を残しうる、と。
結局、いろいろな理由でレイナートは出ざるをえなかったのだが……。
「外と中、両方に敵を抱えて戦うことになるなら、できれば一気に決着つけたいんですけどね」
年齢規定にも伝統にも反して駆り出されたこどものような歳の騎士に、父の仇と憎悪を向けられるのは、どうかレイナートではなく自分であってほしい、と、ベルセルカは思った。
***
「――――大陸聖教会が動いた?
ちょっとあんた、もっと遅いはずって言ってたわよね?」
レグヌム国内、とある教会。
ある女が、一人の聖職者の男に絡んでいた。
豊かな金髪と青い目の美しい女であるが、口調も態度も、とてもガラが悪い。
この女、かつて子爵令嬢ヴェーラ・ソロルの身体を乗っ取って“転生者狩り”と国王の交代をはかっていたが、レイナートに祓われた(正確には魂のコピーを消滅させられた)、転生者の女だ。
互いに名を呼ばぬ彼ら2人である。
ここでは、女のことを仮に“占有憑依者”と呼ぼう。
占有憑依者の目的は、転生者を減らすこと。
もっと言えば、『自分以外の“現代知識”を持つ者』を皆殺しにすること。
理由は、この世で唯一無二の存在としてちやほやされたいから、だ。
「予想よりも早かったですね。
おそらく、南の皇帝がレイナート王の後ろ楯となる姿勢を明確にし、来年頭の“大陸聖王会議”への出席を確定させてしまったせいでしょう。
……会議をつつがなく終えてしまえば、大陸の国々に国王として認められてしまい、手を出しづらくなる。
なので、どうにか会議前に、かの国王の暗殺をしてしまいたいのでしょう」
「いま、あの男が死んだら、次の国王には誰がなるの?」
「いまのままなら、王佐公爵家の男子……カロン・セネクスまたは、ドレイク・カタラクティスでしょうね。
国王は、女性が王位につくことができるよう、また王太子を王が指名できるように法改正しようとしているそうですが、今のところ反対多数で通っていないようです」
「あののろまは?」
「公に前王の子であることが認められれば、可能性はなくもないでしょうが……いまの時点では難しいかと。
いずれも、いまやレイナート王の手の内にあるというのが悩ましいですね」
「そのへんよくわかってない、大陸聖教会がでしゃばってこないでほしいものだわ。
おおかた、転生者から生まれた王さえいなくなればいいとしか考えていないのよ。
あ、そうだわ、問題は特にカバルスだわ。
あの男が死んだら、カバルス公爵は絶えるの?
他にも継承者はいるの?」
「親戚はいたはずではありますが。
どうしましたか?」
「良いことを考えたのよ」
占有憑依者は、ニヤリと笑った。
「合法的に、カバルスの転生者を皆殺しにできる方法を思いついたの!」
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