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(14)最愛の人は答えた



 一気にレイナートの中に、忘れていたあの夜の夢の内容がよみがえった。

 目を閉じたような視覚のない状態で、誰かが自分にキスをした。

 一度目のキスと二度目のキスの間に、耳に響いたのはベルセルカの声で、『愛しています』。



(…………夢じゃなかった?)




 ……ようやく失言を自覚して、「あっ……」と口を押さえるファラン。

 レイナートはきびすを返して、走り出した。



「まっ、待って!! 若!!」



 ……と思ったら、ファランに下半身タックルを食らって、廊下の床に顎を打ちつける。



「痛って!!

 何すんだ、放せ!!」


 怪力と格闘しながら再び立ち上がるレイナートと、ずっしり体重をかけて主の身体に乗っかり、ズズズズズズと引きずられるファラン。



「……だって、若、いまからベルセルカ様探すでしょ!! ダメっス! オレがベルセルカ様に殺されます!! 三枚下ろしにされて焼き魚にされちゃうっス!!」


「言わねぇから!!

 おまえって言わないから!!

 は、な、せっ!!」


「ダメっ!! ベルセルカ様、めっちゃ勘いいから!! 絶対にバレます!!」


「っていうか、なんで、おまえが知って!?」


「いや、わかるじゃん!! 明らかにベルセルカ様、若のこと好きじゃないっスか!! でも、この世界って、身分とか家のこととか、いろいろあって好きな相手と結婚とかそうそうできないでしょ! 特に女の子は悩むんじゃないんスか!? わかんないけど!!」



 途中から、いきなり大雑把にぶん投げてきた。



「というかファラン、おまえいい加減に離れ……」


 移動しながら思いきり体重をかけてきている部下を引き剥がそうと、大きなその手をべりべりとひねりめくっていた、そのときだった。

 レイナートたちの目の前に、階段から下りてきた、ベルセルカが現れたのは。



「………ベルセルカ」

「えっと、ベ、ベルセルカ様?

 どこから聞いてました??」


「ファランクス」



 にこっ、と不吉なまでの満面の笑みとともに、ベルセルカは続けた。



「炭火と(わら)焼きと、どっちがいいですか?」


「…………!!!」



 身を(ひるがえ)して脱兎のごとく駆け出すファランクス。

 追おうとするベルセルカの腕を一瞬早くレイナートは捕まえた。

 ファランの姿は、すでに無い。



「……離してもらえませんか」

「ベルセルカ」



 ぎゅ、っとレイナートはそのままベルセルカを抱きしめる。

 熱くはないし、腕が燃え落ちたりはしていないから、おそらく寸前にベルセルカ自身が、身体の“純潔の加護”を無効化しているはずだ。



「おまえ、俺のこと、好きか?」

「…………」



 ベルセルカは答えない。

 少しはなれざま、逃げられないように壁際に彼女の身体をおいて、レイナートは目を合わせた。

 ふいっと、彼女は目をそらす。上から見るこんな顔さえ、綺麗だ。



「ベルセルカ」

「………いま、それ聞かなくても良くないですか」

「いま聞きたい。答えてくれ」

「いや、です」

「答えて」



 顎をとらえて自分の方に顔を向けさせることもできたが、それはしなかった。ベルセルカに、自分の意思でこちらを向いてほしかった。


 でも、ベルセルカはなかなか顔をあげない。上から見下ろしていると、まつげの長さが目につく。

 やがてそのまま、ぽか、ぽかと、レイナートの胸に拳をぶつけてきた。



「……私にだって、計画とか都合とかあったのに。

 ファランの馬鹿……」


「いまはファランの話じゃない」


「私は、レイナートさまの役に立ってる自分が好きです。あなたの足を引っ張る自分は、きらいなんです。

 国王陛下に必要な、王権を支えられる王妃さまを、私は支える側でいたいんです」


「俺に誰が必要か、なんでおまえが決める?」


「……だって……」



 ふだんよりも歯切れの悪いベルセルカの言葉。ぽかぽか、レイナートの身体にぶつける拳も、力が入ってない。


「おまえが、俺のことを好きかを聞いている。

 きらいだと言われれば、もう2度とおまえには触れない」



 ハッとしたように、ベルセルカが顔をあげる。ただでさえ大きな目を、潤ませながら見開いて。こんな怯えた眉の彼女を、ものすごく久しぶりに見た。



「それは、いや……です」

「ベルセルカ?」



 ごちん、と、レイナートの胸に、ベルセルカが額をぶつけてきた。



「ちょっと、そういうの、ズルくないですか。。。」



 そのまま抱きしめると、今度はレイナートの脇腹にショートレンジのパンチをぼこぼこ入れてきた。さすがにこっちは地味に痛い。


 しばらくレイナートの腕のなかでもがいたあと、レイナートの胸で、すぅと息を吸ったベルセルカが、そのまま、ふぅ、と吐いた。



「……好きです」



 ぐり、と額を擦りつけてくるように、ベルセルカは告白する。

 顔は見えないけど、どんな顔をしているか手に取るようにわかる気がした。



「正直に言いましたから、もう(ゆる)してください。

 私を、あなたの弱点にしないで」


「……結婚してくれ」


「話、聞いてくださいよ!」



 キスされまいとレイナートの身体に顔を埋めようとするベルセルカの顔を引っ張り出して、少し首を曲げながらその唇にくちづけた。



 自分のことを好きでさえいてくれるなら、何とかなる。何とかしてみせる。

 気持ちが確認できたのだから。どんな手を尽くしても、彼女と結婚する。


 どんな障害があろうが、どんな候補がつれてこられて自分の前に並べられようが、天地がひっくり返ろうが亡者が地上に溢れようが、絶対に自分はベルセルカと結婚する。


 長いくちづけをしながら、レイナートはそう誓った。




【第10話 了】

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『王子、婚約破棄したのはそちらなので、恐い顔でこっちにらまないでください。』

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― 新着の感想 ―
[一言] やっと無自覚両思い主役カップルが自覚あり両思いカップルにー!(号泣) これからも結婚までは道のりが果てしなく遠そうですが、レイナート君は何がなんでもベルちゃんを嫁にするそうなので頼もしいです…
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