(4)歓迎の夜会
◇ ◇ ◇
「“加護”の正体はやっぱりまだわからない。
けど、ヴェーラと同じようなケースも、昔、ノールトにあったみたいだ」
レイナートは自分に用意された部屋のベッドに座り、女王フィリから借りた本をめくってみせながら話す。
「“魔剣”を受け取った王が、後天的にそのような体質になったそうだ。
敵味方問わず魔力を吸い取ることにより、王個人の戦闘力としては無敵を誇ったが、周囲の人間たちは、すぐに魔力が枯渇。
死人が多く出たとか」
「……その方は、どのように“加護”を克服されたのです?」
と、ヴェーラを後ろから抱きつかまえながら、ヴィスが言う。
「克服……うーん?
してるといえるのかな?
意思次第で魔力を吸い取る量を強くしたり、その吸い取った魔力を他者に与えることができるようになった……とはある。
でも、魔力の吸収を止められた、という記述はない。
むしろ、周囲の人間をたくさん死なせた話が強調されてる」
「その王さま、解除魔法を知らなかったんでしょうか?」
と、ベルセルカ。
「かもな。
王妃も、魔力を吸われて早死に。で、それを5人繰り返して、結局王の実子はひとりしか産まれず。
しかしそのひとりがとんでもない魔力の持ち主の女性だったらしく、15歳で“魔剣”と王位を奪い取ったんだ」
「ということは……後世に残るのは奪った側の記録した歴史ですから、ある程度はそちらよりだと心に留めて読んだほうがいいですね」
「………でも、私と同じ15歳で王位簒奪ですか……」
ヴィスは規格外の話に、目を見開いてため息をついた。
「ねぇ、聞いた? ヴェーラ。
おまえがあんまり国王陛下にずっと抱きついてると、昔の王妃様みたいに、魔力を吸い尽くされて陛下が死んでしまうよ?」
そう、ヴィスに声をかけられたヴェーラだが、ぷい、と顔を背け、ヴィスの手から逃れるとベッドに潜り込んでしまった。
どれぐらいわかってくれているだろうか。
せめて、加護の無効化魔法は是非習得してほしい。
「――――すみません、国王陛下。
きょうもだいぶ魔力を吸い取られたかと思うのですが……お身体は?」
「いまのところ問題ない」
以前の、王位に就く前の過労による魔力枯渇状態とはだいぶ違う。
睡眠と栄養をしっかりとっていることもあり、むしろヴェーラの魔力吸収はレイナートの身体の魔力生産量・最大保持量を上げるほうに働いていた。
「……ていうか、むしろ、ずっとヴィスの面倒をみてるおまえがすごいよな?」
「そう……ですか?」
「たぶん、ちゃんと訓練すれば俺よりも」
と、レイナートが言いかけたところで、コンコン、というノックの音がした。
「ネフェルか。入れ」
レイナートの声に、ギイ、と開く重い木の扉。
部屋にネフェルが入ってきた。
「女王陛下のお話は、いかがでしたの?」
「“加護”について、ある程度の情報は得られた。明日の日中にまた時間をとってもらったから、そこで“魔剣”と“大陸聖王会議”について話を聞こうかと……思うんだが。
アンフィデール王女は正直、厄介だな」
「申し訳ございません、陛下。
権力には関心のないご様子で、殿方との色恋のお話ばかりが多かった方で、今回このような態度に出られるとは」
「そういう、猫をかぶっていたんだろうな。
今日、俺にも何か魔法をかけようとしたんだが、おまえの方で判別ついたか?
判断する前に俺の防御魔法が弾いてしまって」
「〈魅了〉――――のようなものであったかと」
「都合のいい手駒にしようと思ったのかな」
恋愛初心者かつ童貞としては、魔力や地位目当てで色仕掛けだとか口説きにこられるのは、そろそろ本当に、そろってお引き取り願いたい。
「あら、もうすぐお着替えを始めなければですわね」
「……歓迎の夜会か。
ほんと……やらなくていいのに(渾身の本音)」
「ダンスは、陛下の数少ない苦手なものでございましたわね」
クスクスとネフェルは笑う。
落ち込んでいたのかと思ったが、やはり自分よりも大人だ、切り替えが早い。
「そっちは、オクタヴィアの特訓で、たぶんなんとかかたちにはなった?気がする」
「では楽しみにしていますわ」
◇ ◇ ◇
――――――――そして、夜会。
(……うん。いくら着飾っても限度があるな)
夜会の会場である広間で鏡を見て、レイナートはため息をつく。
「お似合いですよ?
大丈夫ですカッコいいです」
と、隣で絶世の美女が言ってくれることだけが救いだ。
当のベルセルカは、さほどしっかりと化粧をつくりこんでいるわけではないらしいが、
(本人いわく、『うちの侍女の腕がいいんです!!』とのこと)
自前の顔と肌の美しさを生かしながら、ポイントで差した紅がさらに華やかさを増している。
艶やかな長い赤髪は、上部を結い上げ宝石で飾りつつ、肩にも優美な線を描いて垂らされている。
なめらかな肩と鎖骨を見せながらも胸元は品よく覆ったドレスは、その場では異色だったが
(何せ夜会に出る貴婦人は、コルセットで押し上げた胸の上部をむちっとドレスの襟元からのぞかせてるのが定番だ)、
逆にその場の話題にもなっているようだ。
「で、何か私におっしゃることはないですか?
おにいさま」
「――――――――とても、綺麗、ですね」
「何でカタコトなんです?」
きょうだいという体になっているとはいえ、ベルセルカに『おにいさま』と呼ばれるのは、まだなれていなくて妙に心臓に悪い。
というか、ベルセルカは、どうやらそう呼ぶのを楽しんでいる風だ。側に立っているネフェルがクスクス笑っている。
「楽しんでくれているだろうか?」
「女王陛下。
このたびはこのような素晴らしい夜会を開いていただき、まことにありがとうございます」
夜会の主催者である、女王フィリが、優しい声でレイナートたちに話しかけてきた。
黒の、深い光沢あるビロードのドレスに品良く配置された宝石。あくまでも、きらめく首飾りを主役としたスタイルだ。
つり目のややシャープな顔立ちに良く似合う。
後ろから、ネフェルに軽くつつかれた。
こそっと、ベルセルカが後ろからささやいてくる。
「あれです、これはきっと噂に聞く、男性側から誘わないと失礼になる系です」
(……系、ってなんだ。系って)
「がんばってください!」




