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(3)アンフィデールの高笑い



「申し遅れましたわ、わたくし、ノールト王女アンフィデールと申します。

 国王の妹ですわ」


「征魔大王国レグヌム宰相、グリトニル・アースガルズの弟、レイ・アースガルズです。

 こちらは妹のベルセルカと申します。

 ――――ずいぶんと独創的なかたちでのご挨拶で、いささか驚きました」



(テセウスの愛人だったという、フィリ女王の腹違いの妹か)



 では年齢も19歳から下ということだが、若さゆえの非常識ではなく、計算してわざわざ非常識なことをやっているように感じた。



「あら、個性的な女はおきら」「国王陛下、ではお話を」


 レイナートはアンフィデールの言葉に食い気味にかぶせるように、フィリに声をかけた。


 いち貴族の子弟(ということになっている人間)が、異国の王女に取る態度ではない。


 アンフィデールの眉が、ぴくりと動く。

 わずかな苛立ちがにじんでみえる。

 最初に非常識な態度をぶつけてきたのはそちらだろう?


 ベルセルカも、先ほどまで笑顔の奥でいまにも毒舌をかましたそうにウズウズしていたようだが、レイナートが、喧嘩を売るなら買うぞという態度を示したからだろう、無駄な殺気も、すっと抑え込む。




「ああ、すまないな、レイ。

 では、場所を変えようか」


と、フィリ。レイナートの言葉にアンフィデールが黙りこんだのが不思議そうだ。



 この妹。ただ女王を侮った態度を皆の前で見せたかったのだろう。それで権威を落とそうとしたのか、はたまた女王を怒らせようとしたのか。

 どうもノールト王宮もすっかり落ち着いたというわけではないらしい。



(もう少し、様子を見るか)



 すぐにでも正体を話してしまいたいと思っていたのだが。

 レイナートは方針を変えることにした。



   ◇ ◇ ◇



 ノールト王宮の国王執務室らしき場所に、レイナートとベルセルカは通され、そこでまず最初にフィリは、妹アンフィデールの無作法を詫びた。



「本当に申し訳ない。

 私のひとつ下の妹なのだが、こちらの教育が行き届いておらず、2人には不快な思いをさせてしまったな。

 心より謝罪する」


「お気遣いありがとうございます。

 しかし、あの方はいつも、ああなのですか?」


「……かばう言い方になるかもしれぬが、やはり不遇な育ちではあるのだ。

 それに……」


「王配テセウスに、愛人にされたそうですね」


「ああ、父が亡くなってすぐ、まだ15歳の時に……恐かったであろうに、守ってやれなかった」



 その弱みが、甘い態度の原因となってしまったのか。



「申し訳ない。

 ――――“魔剣”と、“加護”についての話を聞きたいのだったな。

 しかし、私も“加護”について、さほど詳しいわけではないのだ。むしろ、そちらの“加護”持ちの者の話を……いや、もしかして、その妹君のことなのか?」



 尋ねられたので、レイナートとベルセルカは目を合わせ、“加護”の話にはいることにした。



「こちらの、()()()ベルセルカが持つのが、“純潔の加護”。

 レグヌムでは同様の“加護”のことが、古い記録に残っていました」


「私の持っている力は、3つあります」


 

 紙に書きながら、ベルセルカは、自分の“加護”について説明する。

 どの程度情報を開示するかは事前に話し合ったが、“加護”は基本的に個人の身体の防衛に関するもので、またフィリ女王にのみ開示するのは問題ないであろうと判断した。



「1つめは、身体に触れると触れたところが燃えます。また触れようとする箇所と相手の意思によっては……そうですね、具体的にいうと胸を触ろうとした不届き者なんかは、触れる前に手が焼け落ちます。

 2つめは、肌を見た人間のその眼球が燃えて爆発し、目を失います。

 3つめは、私の意思または自動発動で、異界の神らしき何かの扉が開いて、目の前に強姦犯ないしそれに荷担した前科のある人間がいれば、引きずり込まれ裁かれるというものです」


「なるほど……?」


「3つ目は改心していても関係ないようなので、かなり注意してつかっています」



 目を丸くして、ベルセルカのかたった内容を自分のなかで消化しようとしているフィリ。



「徹底的にその身を(けが)そうとする者を許さぬという“加護”なのか。それで、“純潔の加護”……。

 やはり、それは、私も聞いたことがない。

 ノールトにも記録はないのではないかと思うが、後で史学博士に話を聞こう。

 もしや何か心当たりがあるかもしれぬ」



「王宮におかかえの歴史学者もいるのですね」


「ああ。ほかに“加護”持ちは?」



 問われ、レイナートは続ける。



「ひとりは、以前にお伺いしました、ノールトにあったという“不死の加護”に近いものを持っています。

 何もかけずとも、治癒魔法がまるで常時自動的にかけられているかのように負傷が治るのです。

 といっても、どこまでが治るのか、未知数なのですが。

 もうひとりは、自動的に魔力を人から吸い取ることができる“加護”です」


「“不死の加護”に近いもの、それから魔力を吸い取る“加護”……少し待ってくれぬか」



 しばし考え込むと、フィリは立ち上がり、執務室の本棚から一冊の本を取り出した。



   ◇ ◇ ◇



「――――――――間違いないわ。

 あの黒髪の男が、レグヌム国王レイナート・バシレウスよ」



 一方。


 アンフィデール王女は、一部の重臣たちを自分の部屋に呼びつけて、そう断言していた。



「……ぎ、偽名で、身分を隠していらっしゃったと!?」

「本当ですか!?」


「魔力の大きさは見事に隠してみせていたわ。

 けれど精神に強力なプロテクトがかかっていた。魅了の魔法もまったく通じず。あげくに私に対するあの態度。いざとなったら、自分の身分を明かせば良いと思っているからだわ」


「や、やはりそうではないかと思っていたのです!!」


「貴様、あと出しで言うな!」


「しかし、それをアンフィデール様は見抜けたのに陛下は見抜けておらぬとなると、ますます、王たる器か心配になりますな」


左様(さよう)ですな。

 敗戦当初は、陛下にレグヌム国王と再婚いただきノールトの安定をはかりたいと考えておりましたが……やはり」


「そうです、やはりアンフィデール王女殿下こそが王たる器。

 つきましては、レグヌム国王には何がなんでもアンフィデール様とご結婚いただかねば。滞在中にどうにか」


「しかし、婚約者の有無を当然この滞在中にお伺いするとして――――もし、レグヌム国王に他に婚約者がすでにいたならば?」




 その最後の心配げな声に、アンフィデールは高笑いで答えた。




「その際は、レグヌム国王陛下におかれましては、この国で、お亡くなりいただきましょう?」




   ◇ ◇ ◇

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