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(36)異端の線引き




「殺された方々の心臓――――おそらくは魔核と化したあとのものと思いますが――――が、奪い取られていたのは、召喚して使役した悪魔への報酬として、必要か何かだったんじゃ?」



『あ。それ、気づいてたんだ?』



「でも、オクタヴィアさまのことは、ずっとわかりません。

 あの方は、王位継承権をお持ちではない。

 決してユリウスさまとオクタヴィアさまは仲がお悪かったわけでもありません。

 それでも、どうしてユリウスさまがオクタヴィアさまを殺しかけたのか」



 ユリウスの表情に異変はない。

 特に動揺する要素でもないのか。



「ひとつ思い至ったのですけど、殺すふりをしたのでは、ないですか?」


『どうして?』


「オクタヴィアさまもまた、レイナートさまに必要だからです。政権を支える柱として、王位の正当さを語るストーリーの主要人物として。

 本来の計画どおりであったなら、瀕死の重傷の王女を、後日戦場から帰還したレイナートさまが治癒魔法で治し、命を救うことになりました。

 レイナートさまは大手柄。

 一躍英雄になるでしょう。

 もしレイナートさまがあの夜に王城に戻っていなければ………皆さんを見殺しにしていれば、いえ、私があんな魔法を得意気にレイナートさまにお見せしなければ………きっと、国民からも、王位につくにふさわしい人物として認められたでしょうね」



 ――――そうして、あなたは、オクタヴィア王女さまが、レイナートさまと結婚すればさらに王位は安泰。……ぐらいのことは、きっと考えていたのでしょう?



 そう、ベルセルカは思いながら、ユリウスの返事を待った。


 しばしのち。



『やっぱ期待はずれ』



 ユリウス王子はやれやれと言いたげに肩をすくめた。『全っ然だね、キミ』



「――――違いましたか?」


『君たちはオクタヴィアを、心強い味方とでもおもってるの?』


「…………???」


『最初から殺すべきは彼女だよ。

 彼女が誰よりも、レイナートの王位を脅かす。

 レイナートが王位についたとき、君たちが真っ先に追放すべきは、彼女だった』


「ま、……待ってください。

 誰の話をしているんです?

 オクタヴィアさまですよ!!?」


『彼女が虎視眈々と王位を狙っていることをわかってて、それ言ってる?』


「ねらっ……て、というか、諦めてはいらっしゃらないのは、薄々感じてはいましたけど。

 でも!! 宰相の動きとか国教会の動きとか、私たちに教えてくださいましたよ!?

 野望なんて誰だって持つじゃないですか!?

 それは、排除の理由になりますか?」


『そんな余裕が、きみたちにあるの?

 オクタヴィアは力を回復したあとは、何かあれば混じりけのない正義と善良さでレイナートに牙をむくよ?』


「…………!!」


『王妃にしたとしても、それで飼い慣らせる女じゃない。

 何より危ういのは、レイナートは、オクタヴィアを心から尊敬している。

 この国のなかで、彼が身を引いて王位を譲りうる唯一の人間が、オクタヴィアだ』



 落ち着け。ただ疑心暗鬼と分断を煽っているだけだ。

 そう、ベルセルカは自分に言い聞かせる。



「――――――ご忠告、ありがたくお受けさせていただきます。

 ……でも、オクタヴィアさまを本当に殺そうとしたのなら。どうして、そうまでしてレイナートさまを王位につけたかったんですか?

 もし、国の中のことを何かご自分の思うとおりに動かしかったのなら、それこそ、うまく画策して、ご自身が王位に就く道だって、あったのでは」


『それではダメだったんだよ、僕ではね』


「……どうしてですか?」


『まぁいいや。見る?』



 ユリウスは、鏡の向こうで、すっと立ち上がると、着ている白いシャツのボタンをひとつひとつはずし始めた。


 ぱさり、と、肩からシャツを滑り落とす。


 均整の取れた、色白の身体。

 レイナートのように骨ばっていることもない上半身。きれいな身体だ。


 目を疑った。

 その身体に、白い肌に、急速に、黒い毛が生えていく。

 まるで、わさりと毛皮が覆うように、肌の上に模様を描く。

 シーミアで見かけた、悪魔化した人間のように。




「…………そのお身体は、いったい?

 悪魔に何かされたんですか?」



『ねぇキミ、15年前、どうしてこの国は内戦にならなかったと思う?』



 ユリウスは突然、質問に質問を返してきた。

 こんな話に、楽しそうな笑みで。



『どうして王家はカバルスに対して譲歩し、レイナートをカバルス公爵の跡継ぎとして認め、奴隷にさせることを諦めたと思う?

 レイナートの魔力が3歳時点で桁違いすぎたからだよ』



 もっとも、それは3歳まで見事に我が子を守りきったカバルス公がいて初めて皆が認知できたんだけど、と、ユリウスは補足する。



『奴隷にしてしまっても恐ろしい。

 殺してしまうのも難しいし、もったいない。

 異世界人のくせにこんな力を持つなんて生意気だ。

 ……そういう葛藤を抱きながら、王家、王族、貴族は、レイナートのことを認めざるを得なくなった。

 だけど常に恐れてもいた。

 異世界人の子だと、蔑んでるくせにね』


「――――それは、私もわかってます。

 でも、それで、ユリウスさまがどうして」


『だから、王家と国教会は考えた。

 レイナートよりも強い王をつくらないといけない、と』



「でも……そのお身体、失礼ですが、悪魔がかかわっていますよね?

 悪魔の力を借りるなんて、異端の最たるものですよ。

 国教会が、認めないはず」



 床に落ちたシャツを拾い、ユリウスは袖を通す。ボタンを留め始めながら、答えた。



『力を借りることは異端扱いでも、退治することは国教会のつとめってことにされてるでしょ?

 そしてその死体は、人間のようにきちんと弔ったりしなくても、どんなに粗雑に扱っても許される。

 ――――こどもの食事に混ぜ込んでもね』



 ユリウスの言葉の意味を、理解するのに少し時間がかかった。

 声が、一瞬出ない。

 まさか……国教会がそんなことを?



「………悪魔の肉を、食べさせられたのですか!?」




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『王子、婚約破棄したのはそちらなので、恐い顔でこっちにらまないでください。』

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