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(28)本を投げてはいけません





「ヴィス。

 なぜ、先代国王にオクタヴィア王女という直系の女子がありながら、血縁が遠くはなれた俺が国王になったと思う?」


「……男だったから?」


「そうだ。この国が女の王を認めず、かつ、俺が男だったからだ。

 もし、この国が女の王を認めていれば、オクタヴィアが王位についただろう。

 そして、もし今後、ウヌス・カエルムが俺に替わって王になれるとしたら、それも、彼が男で、かつ、この国が女の王を認めない状態のままだからだ、ということになる。

 だが、男のウヌスが偽者だったら、その妻が王の落胤であろうと、何ら意味がなくなる」



 レイナートが国王であるのはひとえに、この国が【男系継承】にこだわっているから。その一点によるのだ。



「……つまり?」


「本物の落胤は男子ということになるでしょうな――――正確には、男の身体に産まれた、という言い方になるでしょうが」



 オストラコン大臣が挟んだ言葉に、グラヴィスが、目を見開く。



「あとからで恐縮ですが、ソロル家の動きもこちらは調査しております。

 はっきり申しますと、グラヴィス様をご懐妊された時期、意図してご夫妻は領地と王都に離されていた節がございます。

 お父上が、領地に。お母上が、王都に。

 そうしてお母上は王都を離れることないまま、グラヴィス様のご出産に至りました」



 おそらくは、先代国王と夫妻、合意の上で(あるいは命令により)、グラヴィスの母が先代国王の子種を受け、妊娠したのではないかというのだ。



「――――私が、先代国王陛下の落胤で?

 ヴェーラとウヌス卿は、いざというときに、私にこどもを作らせようとしたと?」


「というか……いざというとき、自分の代わりに王位につかせようとした可能性がある、と俺は思う」


「!!!」


「王室法では、そのなかでの『男』『女』の定義を明示していないんだ。

 精神に関係なく、男の身体に産まれていることを以って、男子であるから王位継承権ありと主張することができる。

 ……たぶん、それをする際には、何らかの意思を奪う魔法をかけた上でになるだろうが」


「まぁ、それもいざというときのことで。

 ウヌス卿自身は、本人が王位につく気まんまんの様子ではありましたがな」



 グラヴィスは、蒼白な顔で、カタカタと震えはじめた。


 さすがに、自分が国王にされる可能性など考えたこともなかったのか。

 あるいは、昨日のことを思い出させてしまったのか……。



「し………しかし……。

 ウヌス卿は、伯爵にもかかわらず、王家王族の皆様しかつかえないはずの上級魔法をつかっていらっしゃいました。

 それに、私は……私には、ほとんど魔力がありません、さっきの封印がつく前も」


「前者はちょっと調べるが、後者は説明がつく。

 魔法は、ごく一部の天才を除けば、教育と訓練で身につけるものだ。

 ヴィスが落胤であることを他に悟られないよう、魔力を伸ばす機会を奪われていたとしたら」



 言いながら、レイナートは疑問がひとつ浮かんでいた。

 王家王族貴族の魔力を保持するために、国王が多くの婚外子をつくっていた。

 ――――となると、その婚外子であるグラヴィスから魔力を伸ばす機会を奪うのは、当初の目的からすれば逆になる。


 では、いったい誰が、そうしたのか。



「それは、封印を解いたあとに確認できるだろう。

 まず、この件は、今日はここまで。

 それから、ヴィス。頼みがある」



 言いながら、レイナートはカバルス軍の面々の顔を見つめていた。


 グラヴィスを殺すべきと強く主張していたペルセウスも、さすがに王位継承権保持者とあっては……と、思ったのか、行き場に困ったような表情を浮かべていた。


 できればレイナートとしても、彼女の命を助けたい気持ちはあった。

 王が持つべきではない私情だが。



「死者を最小限に抑えると誓おう。

 “転生者狩り”について、関与している者、組織構成、今後の計画、その他、洗いざらい知っていることを吐いてくれ」



   ◇ ◇ ◇



 数日後。



「――――ウヌス卿が、大怪我を!?」


「正確に言うと暴漢に襲われて一度お亡くなりになり、蘇生魔法で生き返られたとのことでございます」


「お亡くなりに……?」


 一向に領地に帰ってこないグラヴィスにいらだっていたヴェーラは、手の者からの報告を受け、思わず大声を上げてしまった。

 そこは、普段すんでいるメインの城ではない。かつてソロル家の先祖が使用していた、いまは森に包まれている古城だ。


 城の周りには配下の者たちが、夜営している。

 資金を恐ろしいほどつぎ込み、配下には精鋭の傭兵がそろい始めていた。



「いったい、………何をやっていたの、よ!!」



 古い貴重な書物を、ヴェーラはやはり投げつける。

 重い書物をぶつけられた男は、しばしうめき、その後、血を流しながら何事もなかったように報告を続ける。



「おそらくその上でただいま、先日任じられた王都知事のもとで聴取を受けているとのこと……。

 それ以降、ウヌス卿がつてを作っていた協力者の皆様も、お返事を返してくれなくなりました」


「…………国王にバレたと思われて、皆が保身に走っているのね」



 腹立たしく、ヴェーラは思わず舌打ちした。

 なぜ思いどおりにならないのかと、いらだつ。

 グラヴィスが他の者に比べて従順すぎるほど従順なのだということを、改めて思い出す。



「グラヴィスは、どうしたの?

 私がいなければ何もできないはずよ」


「グラヴィス様は……ウヌス卿が襲われました夜から、ずっと行方不明となっております」


「逃げたのね!

 国教会に、グラヴィスは転生者だと報告してやるわ!」



 言い放ったヴェーラのもとに、もう一人の手の者が、駆け込んできた。



「ヴェーラ様!! お逃げ、ください!!」


「……いったい何なのよ、いったい」



「謎の男が……黒猫をつれた、黒髪の、正体不明の男が、……城の外の皆を、たったひとりで全滅させました」




番外編(ファランクス過去、8話のネタバレあり)

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/552553/blogkey/2688753/


現実世界では決して本を人に投げつけてはいけません。

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