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(27)どうして殺すのを躊躇するのですか



   ◇ ◇ ◇




 ――――翌日。



「生かすべきではありません、たとえ貴族の子弟であろうとも」



 カバルス公爵邸、大広間。

 皆の前で椅子に座らされたグラヴィスは、投げつけられたペルセウスの言葉にうなだれていた。



転生者(わたしたち)の敵です」



「いや、待って待ってペルセウス。

 15歳とかの子じゃん?

 殺さずに済むんなら殺さずにいこうって」


「ファランクスは甘いです。

 彼女に殺された人間の思いはどうなります?

 大事な人間を彼女に殺された人間の心は?」


「いや、その考え危険にゃ。

 罰は、遺族とか誰かの心を満たすためのものじゃないにゃ。

 あくまでもやったことに基づいて、公平に、法に従ってくださなきゃいけないものにゃ」


「ならば、公平に法に従ってでよろしいです。

 いずれにせよ、迅速に殺すべきです。

 異世界人は、どうしてそんなに人を殺すことを躊躇(ちゅうちょ)するのですか」


「「――――いや、だって……」」



 普段穏やかなペルセウスが、珍しくきつく強い口調でグラヴィスを殺すよう主張する。



 昨日のうちにオクタヴィア王女と王都知事コルリス・マグヌス、ほか王佐公爵家の面々には一報をいれている。ブラッタ伯爵ウヌス・カエルムは別の場所で確保している。


 なので、この場にいるのは、文字通りカバルス軍のみだ。



「おいこら、焦んなペルセウス。

 陛下の御前だぜ」



 カバルス軍剣闘騎兵隊長・兼・王国軍征北副将軍であるグラッドにたしなめられ、何か言いかけた口を閉じるペルセウス。だが、その顔は憤然として、折れていない。

 情をかけてはならない、とばかり、グラヴィスのことについてはかたくなだ。


 レイナートといえば、国王としてカバルス軍の主として、グラヴィスのそばに腕組みして立っていた。

 上から見下ろすと、ひどく小さく見える。

 自分の15歳の頃もこんなものだっただろうか? 父親から家督を引き継がされたばかりで、右往左往しながら皆に助けられていた記憶ばかりがのこっている。

 しかし、その頃の自分と比べても、グラヴィスはだいぶ小さく、頼りなげだ。



「――――殺しはしない。

 今回の件の全体像を証言してもらう必要がある」



 そうレイナートが言うと、



「で、では陛下!!

 今回の件が、解決してから!!」



 と、ペルセウスが食い下がる。



「……それからは、いま呼んでる客人次第かな」

「客人……?」



 ペルセウスが、レイナートの言葉を繰り返す。そのとき。



「レイナートさま!!

 いらっしゃいましたよ!」



 緊迫した雰囲気など無条件に十文字槍でぶったぎるような、少女の元気の良い声が大広間に広まった。


 白金の甲冑姿で歩いてきたのは、赤髪の美少女。

 レイナートがこれでもかというほど念には念をいれて治癒したベルセルカは、今朝にはもう動きまわっていた。

 多少無理はしているかもしれないが、見た感じいつもどおり元気だ。緊迫感を根こそぎ持っていかれるその笑顔には、この場の誰一人勝てないだろうとレイナートは思う。



 その後ろに、財務大臣ヒッピアス・オストラコンと、令嬢のエレナが続いて大広間に入ってきて、深々と礼をする。



 財務大臣登場に、ひっ、と喉の奥で変な声をあげたファランクス。

 がんばれ、逃げるなファラン、と、レイナートは内心声をかける。



「――――――呼び立ててすみません。

 ブラッタ伯爵が昨日、ユリウス王子の襲撃を受けた件で、少しお話をうかがいたく」


「ええ、ご用件はおおむね察しております。

 しかし、陛下。よく、わたくしがブラッタ伯爵と付き合いがありましたことを突き止めていらっしゃいましたなぁ」


「……ああ、まぁ、そうなんですが……(……エレナ、挙動不審になるな、がんばれ)こちらの彼女を見てもらえますか?

 子爵家の、グラヴィス・ソロルという…」



 性別の説明をどうするか、レイナートが一瞬考えた、その間に、オストラコン大臣は微笑みながら進み出て、グラヴィスの前に立った。

 含み笑い。

 どうやら、グラヴィスについても情報を先に掴んでいた?



「ブラッタ伯爵の婚約者の、兄君でございますね」


「え、ああ、そうなんですが。

 ヴィス、腕のアレを見せてくれるか?」


「え、は、はい」



 グラヴィスは、袖をまくり、腕をぐるりと一周する封印を見せた。

 オストラコン大臣は、ふむむと、それに見入り、その口許に笑みが広がっていった。



「……これは。

 陛下はこちらが何かおわかりで?」


「オクタヴィアの手につけられた封印と同種だが、魔力も難易度も遥かに下。

 いつでも封印は解けます」


「そうですか。

 では、陛下はこの御方を、枢密会議にお連れするべきですな」



 うなずく。


「では、やはり」

「お察しのとおりにございます」



「――――どういう、ことでしょうか?」



 グラヴィスが不安げにレイナートを見上げた。「この紋が、何か」



 どう説明するべきか、しばらく迷ったのだが、レイナートは直球で返すことにした。



「グラヴィス・ソロル。

 王になる気はあるか?」


「は、はい?」



 オストラコン財務大臣が、うやうやしく、グラヴィスのあしもとにひざまずく。



「あなたさまは――――先代国王陛下の、ご落胤である可能性が非常に高いと、考えられるのです」



   ◇ ◇ ◇



 ――――その場にいる、レイナートとオストラコン大臣以外の全員の驚愕がしばしその場を支配し、皆がようやく落ち着いたタイミングで、大臣は自分がなぜブラッタ伯爵ウヌス・カエルムとの付き合いができたのかを話し始めた。


 元々オストラコン財務大臣はじめ、“血の結婚式”で生き残った重臣の面々は、先代国王、先々代国王の落胤で存命の者がいるのではないか?という可能性を探っていたという。


 王佐公、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家、はては国王に呼ばれたことのある高級娼婦……と、国王と接触しえた女性を、レイナートに知られないよう極秘裏に探していた、と。



「その中で、自分から、『亡き母が先々代国王陛下と非常に懇意にしていたようだ』と、売り込んできたのが、ウヌス・カエルムでございました。

 それでいて、中級魔法も使いこなせないほど魔力も低い。

 先々代国王陛下のご落胤にそういうことはあり得るのか、と疑問に思い、こちらの手の者に調べさせたことがございます」



 言いながら、どこかせせら笑うような表情となるオストラコン大臣。



「――――結論を申しますと、ウヌス卿のお母上が当時の国王陛下のお誘いに応じた可能性は、非常に希薄でございます。

 ご懐妊をされたであろう時期、記録されたお二方の行動を照らし合わせ、お会いになるというのは、ほぼ不可能であろうと結論づけました。

 しかし、当時の国王陛下がご結婚前のお母上にご執心でいらしたために、領地近辺でそのような噂が起こったのだそうで。その噂を信じたお父上から、こどもの頃は遠ざけられていたのだそうです。

 すぐに立ち消えた噂だったそうですが……どうやら、それを利用し、ウヌス・カエルムを落胤に仕立て上げようとした者がいると」



「それは、ウヌスを王位につかせて、権力を握ろうとしたということなのですか?」



 ベルセルカが、尋ねる。



「そうではないかと思いますが、黒幕となる者はなかなか掴めずおりました。

 しかし、ウヌス・カエルムと会食を重ねるうち、ふと、彼が洩らしたことがございました。

 自分がたとえ、詳しく吟味された結果偽者であったとしても、王家の血はつながるため、安心してほしい……と」


「――――素直に考えれば、ウヌスが偽者であっても、王家の血を引いた子を産ませることができる、と言っていることになるな」


「ええ」



 混乱した様子のグラヴィスが、すがるようにレイナートを見上げた。



「で、では!

 私ではなく妹が、落胤、ということなのでは……?

 それに、言っていることだけでは証明など」


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