表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/262

(3)神と闘った父親の物語




「やったー!

 久しぶりにレイナートさまの手料理ですね!?」


「手料理ってほどじゃないけどな。

 串焼きにするだけだから」



 調理場にて。

 さきほど、感謝感激した村人たちから、


『ぜひ、お礼に受け取ってほしい!』


と言われ土産にもらったタウルス牛の赤身肉を、レイナートは、一口大よりだいぶ大ぶりに、手際よく切り分けていく。


 そんなに機会があるわけじゃないが、夜営での料理には慣れている。

 常備携行(じょうびけいこう)している乾燥した香草、輸入物の香辛料、岩塩、貴重品のコショウを砕いたものを肉にかけ、もみこむ。


 その上で、長い鉄串に、丁寧に刺していく。


 3人分、ひとり2本ずつ。それからナルキッソスの分1本(こちらはやや塩を振っただけ。本人いわく、猫の身体にはあまり刺激的なものはよくないとか)。計7本。

 あとは、これを、こんがりと焼くだけだ。


 人にふるまうなら本当は副菜とスープとパンもそろえたいところだが、おなかが減っている人間には極力早く食べさせるのが良いだろう。



「さっき、お肉もらっておいてよかったですねー!!」


「残りは持ってかえってすぐ、ワインで煮込もうか」


「やった!」



 レイナートの手元を嬉々として見つめるベルセルカ。


 涙のあとが残る顔で、それでも興味深そうに(のぞ)きこんでいるカルネ。

 すっかり、しゃべる猫ナルキッソスが気に入ったようで、ずっと抱き上げつづけている。



 彼らはのんきに料理などしているわけだが、少し離れたところでは、この城の料理番たちが、


「あれ、国王陛下…なの? 本当に?」

「国王陛下が、なんだって料理なんかするんだよ!?」

「さぁ……?」

「うちのかまどの火でやけどでもしたら、俺たち、縛り首になったり…」

「ま、まさか!?」


などと、戦々恐々と騒いでいた。



 タウルス牛の肉は、炭火でじっくり、十分な焼き色がつくまであぶり、頃合いを見て、鉄皿に6本、盛った。ナルキッソスの分はしっかり火を通した上で、皿に入れる。


 焦げ目から香ばしいにおいが立ちのぼる。

 香草の香りと相まって、ひどく食欲をそそる。

 台所の一角に使用人たちが使う椅子とテーブルがあったので、レイナートたちはそこで串焼きを口にした。



「おいしいっ!!」



 少女が思い切り叫ぶ。


 かぶりつけば、肉汁と弾む歯ごたえ。

 香草の香り。

 脂はやや控えめであるが肉は柔らかく、繊維の一本一本が躍るようだ。

 そして広がる濃厚なうまみが、岩塩と香辛料で引き立てられている。



「すごーい!

 こんなにおいしいもの食べたことない!?」


「でしょう?

 美味しいですよね~さすがレイナートさま!」



 なぜベルセルカが自慢げなのか。



「うにゃ~!

 ステーキは死んで以来初ですにゃ~!!

 うま~!」



 ナルキッソス死んで以来て。



 カルネはおなかがすいていたのか、夢中になって串焼きを食べている。

 小さな口で大きな肉のかたまりにかぶりついては、肉の繊維を味わい咀嚼(そしゃく)している。


 あまりに勢いよく食べるので、レイナートは自分のぶんを1本やったほどだ。



「はーっ。おいしかった!」

「ごちそうさまでした」



 6本の空の串が再び鉄皿に置かれた時、少女の顔は満面の笑みだった。



「ありがとう!!

 美味しかったわ」



 かぶったままだった、大きな毛皮の帽子を、かぽっ、と少女は外し、胸元に抱えた。

 彼女なりに礼を尽くす態度なのだろう。



「私、カルネ。

 あちこち旅をしながら狩人(ハンター)兼便利屋をして暮らしてるの」


「そんなに小さいのにですか?」


「小さくないわよ!

 もう11歳だし」



 レイナートの初陣(ういじん)が12歳。

 ベルセルカが13歳。

 確かにそんなに違う歳ではない。



「それにしても……ねぇ、奴隷なのに、どうしてモンスター狩りしてたの?」



 頭を(かたむ)けて、レイナートの顔を覗き込む。

 そして、(よろい)を着ていた時は隠れていた、いまはあらわになっている、彼の首の烙印(らくいん)を指さした。



「首にその印があるっていうことは、転生者で、奴隷なのよね? 料理もできるし。

 どうして、貴族みたいな(よろい)着てたの?

 ベルセルカがあなたとナルキッソスのご主人様なのよね?」


「ああ、えーと……

 俺は奴隷じゃなくて、転生者でもない、母が転生者だった。父の身分が高かったので奴隷にならなかった。料理は行軍に必要だから覚えた。以上」


「いえ、でも……その印を押された人は、身分、関係なくなるでしょ?」



 カルネはまだ納得していない様子だ。



「レイナートさまー。

 ざっくり説明しすぎですよ」



 ベルセルカに横から突っ込まれる。

 こほん、と、レイナートは咳ばらいをした。



「たしかに。

 転生者および転生者から生まれた者は、カバルス以外の地では原則、戸籍・財産ほか、すべてを持つ権利を奪われるな」


「ん?

 うん、そうよね?」



 この国では、転生者は神の禁を犯した罪深い存在として忌まれている。


 では、『転生者』をどうやって判定するのか?

 各地の領地にいるレグヌム国教会の司教たちが、容疑がかかった者を“神判”する。


 『転生者である』と結論が出れば、国教会領では即、火刑。

 そうでない土地では、その首筋に烙印が刻まれる。

 転生者の女が出産した子も同じ扱いである。


 そうして烙印を押された者たちは、領主所有の奴隷として領地単位で管理されるか、国教会から人買いに売り渡されるのだ。



 売られた奴隷の行く先は、個人所有の奴隷となるか、大規模農園か、娼館(しょうかん)か。飢餓(きが)の時には真っ先に殺され食われることさえある。



「正確に言えば、俺も、そうなっていてもおかしくなかった」


「じゃあレイナートは、どうして奴隷にならなかったの?」


「ああ。それはうちの父が―――」



 レイナートは微妙に口ごもる。

 ここから先の話を言うのがちょっと恥ずかしいから、できれば省略したかったのだが。



「……俺が産まれたとき、連れていこうとした国教会の聖職者たちを、素手(すで)で殴り倒して、追いだしたんだ」


「えっ!!??」


「そのあと家の存続をタテに、王家と国教会と大喧嘩して、王国軍をひとりで追い払い―――」


「え、ええ、え!?? 嘘、嘘よね!??」


「残念ながら全部実話だ。

 3年粘って、実力行使と交渉を駆使して、法を改正してカバルス領では転生者法を適用しないとし、俺を跡継ぎとして認めさせた。

 まぁ、父が平民だったなら、戦いようもなかっただろうけどな」



 カルネは一瞬ぽかんとして。

 そうしてすぐ、目をキラキラ輝かせた。



「すごい!!

 おとぎ話の勇者さまみたいだわ!!

 強くてカッコいいお父さんね!!」


「どうです?

 レイナートさまのお父さま、すごいでしょう?」



 繰り返すが、なぜベルセルカが自慢げなのか。



「うん! すごい!!

 じゃ、じゃあ、レイナートのお母さんは?

 奴隷なのに、えらいひとの奥様になったの?」



 期待をこめて、カルネがレイナートを見つめる。

 幸せなおとぎ話の終わりを、期待しているのだろうか。

 だったら、それは申し訳ない。



「―――母は、俺を産んだ後、すぐに亡くなった。

 顔も、肖像画でしか知らない」


「そう、なの……ごめんね」



 カルネは、目を伏せた。



「俺の話はともかく。

 カルネの話を聞かせてくれ。

 いま、味方が必要なんだろう?」


「う、うん……」


「友達の身代金を要求している悪い奴らっていうのは、何者なんだ?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★スピンオフ作品の書籍化決定・コミカライズ連載開始しました★
『王子、婚約破棄したのはそちらなので、恐い顔でこっちにらまないでください。』

気に入ってくださったら、ブクマ、評価など頂けると嬉しいです。
また、もし何か思うところあれば、感想などもぜひ。

小説家になろう 勝手にランキング

↓新作はじめました。

◆NEW!!◆ 『冷遇王女の脱出婚~敵国将軍に同情されて『政略結婚』しました~』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ