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(23)黒猫は転生者を語る。




「おねぇさん、転生者じゃないかもにゃ?」



 いきなり猫がしゃべったと思ったら、驚くようなことを言われ、グラヴィスとしては何から突っ込んでいいかわからなくなった。



「転生者じゃ……ないって?

 そんなことありえない、魂と身体が合致してないのに」


「オレの故郷では、その存在が広く認識されていたにゃ。転生関係なく、心と身体の性が違ったり、ズレがある人が。

 この世界では男女のジェンダー規範がオレがいた世界以上に厳格にゃ。よけい違和感がキツイと思うにゃ」


「異世界……転生者?」



 このかわいらしい猫が、大罪人である異世界転生者なのか?



「この国でも、昔から男のふりをして兵士になる女は一定数いるが、その中にも精神と身体が合致していない人間も含まれていたと言われている」


「そ、それも、転生者なのでは……?」


「カバルス軍はじめレグヌムの正規軍全体で、性別に違和感がある者が9人確認されている。

 そのうち、前世の記憶が明確にあって転生者なことが確定しているのは、3人だ。

 のこり6人をどう説明する?

 記憶がないものを、どう転生者だと証明する?」


「わ、私には、前世で死んだときの記憶がある!!

 行ったこともない、見たことない城の高台から、突き落とされて死んだときの……!!」


「うん。それを信じてもいいにゃ。

 でも、人間の記憶って簡単に捏造できるのにゃ」



 黒猫が、また口を挟む。



「それを思い出す前後に、誰かに、こんな記憶はあるはずだ、思い出せ、って何度も言われたりしなかったにゃ?」


「…………ない」嘘だ。妹に言われた。



 妹に、転生者めと嘲られたとき、最初は、自分は転生者なんかじゃないと言い返した。

 そうしたら言われたのだ。


 嘘つき。必ず記憶があるはずだ。記憶を忘れているなら何も気にせず男でいられるはずだ。思い出せ、思い出せ。


 そう、繰り返し責め立てられた。

 そうしたら、浮かんできたのだ、過去の記憶が。



「――――オレの故郷……じゃないけど、同じ世界の中のとある国で、昔こんな事件があったにゃ。

 カウンセラー……人の話を聞いて諭す、牧師みたいな立場の人間が、相談をしてきた人に執拗に、虐待されていたんじゃないかと問いただした。

 そうしたら、相談していた人の頭に、性的虐待されていたという偽の記憶が植え付けられてしまったにゃ。

 そうして、その人たちが、偽の記憶をもとに、親を訴え始めたにゃ」


「その話は、俺もファランから聞かされた。

 実際、家のなかで親がこどもに無体を働くのは、昔からどの国でも起きている問題ではあるが……といって、偽の記憶を植え付けられることが良いわけがない」



(……私は、転生者では、ないかもしれない?)



 そうだとしたら、どんなにいいだろう。



(いま、私は、国王に手玉にとられているだけなのだろうか?)



 転生者たちの言葉など、信じるべきではないのだろう。

 わかっていても、救いになるほうを、心が選びたがっている。



(私が、転生者ではないのなら。

 もう、妹にも、縛られずに済む……?)



「ねぇ、転生者って、どうして嫌にゃ?」



 黒猫が、グラヴィスに尋ねてくる。



「オレ、べつに、前世いた周りの世界のほんの少しのことしか知らないにゃ。

 会ったことある転生者だって、みんなそうにゃ。

 頭の中の知識だけで世界を変えられるような、そんな神様みたいなひと、いないにゃ」



 黒猫の、ぱっちりと張った大きな黒い瞳が、グラヴィスを見据える。



「だけど、違う場所にいて違うことを知ってきたから、ちょっとその知識や経験がひとより役に立つにゃ。

 問題を解決したり、誰かの命を助けたりできる。転生者は、それが嬉しいのにゃ」


「…………」


「この世界のみんなみんな、そんなたくさん知ってるわけじゃない知識や経験を持ち寄りながら、考えたり調べたりしながら、協力しあって生きてるにゃ?

 人間が知ってることなんて、ほんのちょっとにゃ。

 神様がどれだけ大きいかわからないけど、どうしてオレたちが、そんなにこの世界の脅威になると思うにゃ?

 みんなと同じように、自分のもってるものを持ち寄って、寄り添って、協力して生きていきたいだけにゃ」



(…………そんなことを言ったって)



 転生者は悪なのだ。

 神はそう、おっしゃったのだ。


 本当にそうか?

 自分は、自分以外の転生者と、話してみたか……?


 混乱する。わからなくなる。

 グラヴィスは、頭を抱えた。そのとき、余裕のあったドレスの袖が、肘のあたりまでずり落ちた。



「――――――それは?」

「え?」



 国王が、グラヴィスの前腕の中ほどに入った黒い刻印を指差した。

 ああ、これを見られたのか。



「妹が……私の、転生者の悪い力が出てこないようにと、なにか偉い聖職者の方を連れてきて封印したのです」


「ついて、何か変わったか?」


「? いいえ? これがついてから魔法は使えなくなりましたが、元々私の魔法はそれほど強くはなかったですし」


「オクタヴィアの腕につけられたものと同じ系統だな、封印者の力は比較にならんが」



 ――――しばし、グラヴィスの腕を手にとって国王が見つめる。


 彼の長い指が、グラヴィスの肌に触れている。どうしてなのか、先ほどウヌス卿に触れられたときと、感覚がまるで違う。

 くすぐったいような、もっと触れていてほしいような。いや、そんなはずはない。この男をそんな好ましいものと感じるはずがない。


(私は、この男を、)



「――――若!! じゃなかった、陛下!!」



 なんとも大きな声とともに、山吹色の髪の長身の青年がその場に走り込んできた。



「ベルセルカ様から報告ッス!!

 ブラッタ伯爵尾行中、ユリウス王子との遭遇、結果――――伯爵は死亡、現在引き続きブラッタ伯爵邸付近で交戦中とのことッス!!」



   ◇ ◇ ◇

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