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(4)反逆に反逆



   ◇ ◇ ◇



「“転生者狩り”……

 本来は、密告から転生者裁判から処刑の、一連の流れのことを指す俗称として使われているけれど」


「ええ、オクタヴィア。

 転生者の処刑を禁止してから、動物を狩るように人間を“狩る”人間たちが出てきた、ということです」



 ────翌朝。


 カバルスから王都に転移魔法で戻ったレイナートは、早急にそれを伝えたい面々を王城の玉座の間に招集した。


首脳陣

 王女  オクタヴィア・テュランヌス

 ラットゥス公爵  カロン・セネクス

 タウルス公爵令嬢(に復した)  アリアドネ・グラ

 タウルス領主代行  フェリクス・グール

 ドラコ公爵令嬢・領主代行  メサイア・カタラクティス

 シーミア公爵令嬢  ルーシー・アファレンシス

 征北副将軍  グラディオ・ディアマンテ

 王都知事  コルリス・マグヌス

 国王付き騎士  ベルセルカ・アースガルズ


転生者

 国王親衛隊所属  レマ・ユピテル

 カバルス軍諜報部隊准将  ナルキッソス

 カバルス軍剣闘騎兵隊所属  ファランクス・ロクセ

 ほか、国王親衛隊とカバルス公爵家に仕える、“転生奴隷”出身者



 “転生奴隷”とひとくくりにするが、この国の“転生者裁判”はいにしえの“魔女狩り”のレベルでザルである。

 悪意のある他人からの密告と、イカサマすぎる“神判”で断定されてしまう。

 そうして“転生奴隷”の烙印を押されている人間はみなひとくくりで転生者とみなされてしまうのだ。


 “転生奴隷”1万人中、自分が転生者だという確信があるのはたった1000人……とは、グラディオ・ディアマンテ、通称グラッドの調査結果だった。



「昨日、俺とベルセルカがアリエスからカバルスへの移動中、その“転生者狩り”と、それから逃げる親子に遭遇した」



 ────親子は国教会領からの逃亡者だった。


 今年の春、わずか4歳の娘が、転生者ではないかと疑いをかけられた。

 密告したのは、同じ歳の子を持つ隣の家の母親だ。

 同じ歳のうちの子よりもずっと言葉を覚えるのが速い、これは転生者に違いない、と告発したのだ。


 娘は“神判”にかけられ、有罪となった。


 たった4歳の子どもは転生者として火刑に処されることになった。

 だがちょうどその頃レイナートは、国教会領に『転生者裁判の停止』を命じる。

 一家は娘の火刑を免れたが、周囲の人間たちの転生者への“憎悪”がこどもたちを傷つけることを危惧し、命を守るために、カバルスへの逃亡を決意したのだという。



「……その逃亡直後は特に追われる気配はなかったそうだが、アリエスに入った頃から追われていたのだそうだ。

 国教会の聖職者の衣服をまとい、武器を持った者たちに」



 そうレイナートが伝えると、「なんてことを」と震える唇をかんだ女がいた。


 シーミア公爵令嬢、ルーシー・アファレンシス。


 全滅したと思われていたシーミア公爵一家の生き残りであり、レイナートたちが先日シーミアに行ったときに出会った修道女である。


『母が不貞の果てに産んだ子であると言われ、物心ついた時から修道院で育ったのです』

と彼女は言った。


 父の血を引くわけではない自分には公爵令嬢の資格はないのだと考え、公爵の死後も名乗り出ることもしなかったようだ。


 レイナートはある理由から彼女に還俗を要請し、結果、ルーシーは公爵令嬢の立場となっている……のだが、そういった貴族らしい格好にはまだ慣れないのか、今日も修道女の服装をしている。年齢は23歳。



「……国教会にそのような不埒者(ふらちもの)がいるとは、考えたくありません。

 聖職者を装い、己の鬱憤(うっぷん)を晴らそうという愉快犯であろうと思うのですが…」


「同様の事例は過去にもございますな。

 聖騎士団のふりをした偽者たちの暴力行為など……もっとも、実は本物の聖騎士団であったことが判明した例もございますが」



 口を挟んだ王都知事コルリス・マグヌス。

 40歳の男である。


 この中では最年長だったが、通常60歳を過ぎて選ばれることの多い〈王都知事〉の大役に、それよりも20歳も若くして抜擢された(というかレイナートが抜擢した)人物だ。

 元々カバルス近くの王家直轄領の官吏を務め、その仕事ぶりをレイナートもよく知っていたのだ。

 カーキ色の髪に、やや小柄でフェリクスよりも年下に見える容姿、三白眼で鋭い目つき。舶来の眼鏡をかけている。三男一女の父でもある。



「―――――ルーシー。

 先日のドラコの件を話したでしょ?」



 ドラコ公爵令嬢兼領主代行、メサイアが、ルーシーに言う。

 3歳も下だが姉御肌のメサイアは、何かにつけて領地の仕事をルーシーに教えるようにしていた。



「国教会は、レイナートを……国王陛下を、認めていないわ。

 “転生者”を含めた異端を、“聖女”を名乗る女を利用して狩りつくそうとした」


「主語を大きくしないでください。皆が皆、そうではありません」


「でも力を握っている人間がそういう選択をしたのよ。末端の暴走とは違うわ。

 今回も、国教会の命令で国教会内部の者がそういう選択をしたのだったら……。

 全土でなりふり構わず転生者を、いいえ、“転生者の烙印を押された人”を、殺しにかかってくるかもしれない」


「……メサイアがいま言ったことを、俺も危惧している。

 命令ではなく、単に“煽った”のかもしれない」



 そう、レイナートが付け加えると、ナルキッソスが「ホームグロウンテロリストってことにゃ……」とうめいた。その言葉は初めて聞く。



「もちろん、今回の件が、突発的なものであることに越したことはないが、近い立場の人間たちだけでも危険は回避しておきたい」



 レイナートはそう言って、自分の首筋の烙印を指さしてみせる。


 “烙印”は、国教会が、転生者であると判定した証として押したもの。


 つまり、この烙印があれば転生者であると、この国ではそうみなされる。


 そして、教会の聖なる力をもってこの烙印は刻まれると信じられていた。

 押されれば死ぬまで消すことはできない。この国の民たちは皆そう信じている。なのに。



「……今まで残していた者もまだ消せていなかった者も。

 俺以外の全員、この場で烙印を消すぞ」



 レイナートは当たり前のように、そう言った。

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