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幕間 復帰しました




   ◇ ◇ ◇




「―――ノールトの重臣たちは、講和条件を受け入れたか。よくやった」



 執務室にて。

 レイナートは机の上に置いた魔道具の鏡越しに、イヅルの報告を受けていた。

 ノールトとの戦争の講和の交渉に、あちらの王宮へ使者として出向いたのである。



『いえ、おれは決して説得や交渉をしたわけではなく。

 どうも女王追放後のテセウスが……本当に酷かったようです。

 できればノールトに返さず処刑もレグヌムで行っていただきたい、などと、堂々と言われました』


「それは……ノールト国民が納得するのか?」


『国民の間では、本当にテセウスは人気のようですね。

 しかし一部の狂信者を除いて熱は冷めつつあります。

 宗教はレグヌムと同じ唯一神を奉じる一神教ではありますが、フィリ様の前にも女王はいたそうで、女性が上に立つことへの反発はレグヌムほどではないと感じます』



 レイナートはうなずく。

 これで、ここ数日中には、フィリ女王とネフェルがノールトに向かうことになる。


 子どもを産んでまだ数か月のネフェル。

 本当ならグラッドと3人の子どもたちも一緒に行ければよいのだろう。

 だが、傘下に入ったばかりの元敵国に我が子を連れて行くのは心もとないと本人が言ったため、しばらくこどもたちはグラッドとともに王都のカバルス公爵の屋敷で預かることになった。


 王城にもネフェルとグラッドの部屋を用意してはあるが、馴染みのない貴族たちの目にさらされるより、気心の知れたものたちばかりの屋敷のほうがいいだろう。

 とはいえ、レイナートも彼らの子どもたちにしばらく恨まれることを覚悟しなければなるまい。



「わかった。

 イヅルもできるだけ早く帰ってきてくれ」


『承知いたしました―――ところで。

 結局、フィリ女王には、国王としてはお会いにならないのですか?』


「? いまは一刻も早く女王が戻ったほうがいいだろう?

 ノールト国内が落ち着けば、追って、会う機会をもうける」


『レイ・アースガルズとしても?』


「? ああ」


『そうですね、それが良いでしょう。

 では、報告は以上です』


「ご苦労」



 レイナートは通信を終え、鏡をしまう。


 いまフィリに会いたくないのは、タイミングの問題が大きい。

 ノールト王国が、まだ安定した同盟国(という名の属国)にならないうちにフィリをレグヌムの王都へ呼ぶと、先走った者がフィリの暗殺を謀るかもしれないし、逆にフィリとの政略結婚を早急に進めろという話になるかもしれない。


 ノールトが安定し、できればベルセルカが結婚を承諾してくれるまでは。



(って………あいつ、承諾してくれるんだろうか)



 これは、彼女がレイナートを異性として見られるのかどうか?という点だけではない。


 レイナートを夫として選ぶということは、そこに王妃の仕事がついてくるということだ。

 ずっと騎士でいたいという彼女の望みが透けて見えるだけに、難航しそうな気はしている。



 ――――コンコン。


 執務室のドアをノックする音。

 入るように指示すると、「失礼します」と扉が開く。

 赤髪を後頭部高く結い上げた美少女が、かっちりとした軍装でそこに立っていた。


 深々と一礼し、ベルセルカは部屋に入る。

 レイナートは出迎えない。彼女が机の前に立つのを、待つ。


 大粒の宝石のような瞳に長いまつげ。果実のように瑞々しい肌。優しい直線と曲線が描く優美な鼻筋。甘い色味に、ほんのりと艶めいた輝きをはなつ唇。

 いつまでも見つめていたくなるほど、心を奪われる美しさだ。



「大変長らくご迷惑をおかけいたしました。

 ベルセルカ・アースガルズ。昨日、謹慎期間を終了いたしました」



 姫騎士は、再び、深く腰を折る。

 長い長い美しい髪が、さらさらと肩を流れ落ちた。



「本日より、おそばに再びお仕えさせていただきたく。どうぞ、お願い申し上げます」


「こちらこそよろしく」



 大将軍も国王親衛隊も解任されているので、ベルセルカは、ただの国王付きの騎士という立場になる。

 つまりしばらくは、ずっと自分のそばに置いておける……それを、不謹慎ながらどこか喜んでいる自分がいた。



「“魔剣”について、ペルセウスから情報を得たいところだったんだが」


「どうしました?」


「カバルスの西隣アリエスでの学校建設の妨害工作にあって、足留めを食らってるそうだ。

 早速だが援護に向かいたい」


「はい!!」



 ――――それから私室と執務室を往復し、荷物をまとめた彼らが、出発をしようとしたとき。

 ベルセルカが不意に、レイナートの手をとった。



「……? どうした?」

「いえ。そういえば、私騎士でしたよね」

「? そうだけど、それが?」



 スッ、とひざまずく。

 ベルセルカは、レイナートの手の甲に、チュッと可愛い音をたててくちづけた。



「!!!!!?????」



 いや、それ、いにしえの騎士道の風習というか、貴婦人に対して騎士がするやつでは!?


 とレイナートが心中で突っ込んだとき。

 小悪魔っぽい笑みを浮かべて立ち上がりながら、ベルセルカは言う。



「この間びっくりさせられた仕返しです」


「おまえな……」



 これはただ、こちらをからかっているのか?

 それとも、少しでもその気はあるのか?


 駆け引きのつもりなら、そういうのまったくわからないので勘弁してほしい!!



「……行くぞ、ベルセルカ」

「はい!!」



 ――――クッソ。なんでそんなに嬉しそうに笑うんだよ。


 自分ばかりが振り回されているような気持ちになって、レイナートは腹いせにベルセルカの手を握る。

 確かにベルセルカは、その手を握り返していた。




【幕間 了】

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