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【幕間1】 兄より優れた妹など

     ***




 レイナート・バシレウス新国王の即位式の日。



「――――コルセット、きついですぅ……(泣)」



 ベルセルカは、自分付きの侍女たちによりそわれ、正装の白い手袋をはめた手を取られながら、へっぴり腰でヨタヨタと歩いていた。



「まぁまぁ、ベルセルカ様。お部屋まで、あと少しの我慢ですよ??」

「痛いです苦痛です拷問です~(泣)」

「はいはい(笑)」「もううちの姫ってば…(呆)」



 久しぶりのコルセットは、軽く死ねる。



 説明するまでもないが、コルセットとは、ドレスの下に着る補正下着である。

 下胸からウエストから、鋼鉄の芯が入った伸縮性のない素材で、これでもかというほどきゅうきゅうとしめあげる。本当に、意味がわからない。


 さらにその上に着ているのは、宝石と金銀の糸で彩られ、これでもかというほどの花飾りをつけられた華やかなドレス。ついでに、足首も出ないのに、やたら高いヒールの靴。

 とどめを刺すように、慣れないセットをされ、たっぷりと花と装飾品をつけられ、盛りに盛られた髪。

 さらには足の動きをもったりと邪魔する、やたら重いスカートを引きずる。


 歩くのもコツが必要で、スカートの前部分をすねで毎回蹴るようにして、布地を跳ね上げながら歩くのである。スカートの中の光景はさぞ滑稽(こっけい)だと思う。



 衣装係が、

『せっかくのレイナート様の即位式ですし、ほかの令嬢たちのように、もっとクリノリンで大きく膨らませたり、後ろに長いトレーン (引き裾)をつけたドレスにしては?』

と勧めてきたのは断固拒否したが―――やはり、ドレス自体を拒否して、鎧か軍装で出るべきだったか?


 ―――まぁ、ベルセルカと比較される令嬢方も、今回、ほとんどいなくなってしまったのだけど。


 今回、唯一神の名において戴冠し、レイナートは正式に征魔大王国レグヌムの国王となった。

 対外的な名としては、王家の姓を継いで、レイナート・バシレウス・テュランヌス。

 国内では今後、カバルス公や征北将軍ではなく、『国王陛下』と呼ばれることになる。

 もし後世、同じ名の王が出てきたら、レイナート一世と呼ばれるのだろうか。


 しかしいずれにしろ、国王陛下はこの後いろいろと忙しいはずだ。

 自分は先に着替えて、せめて身体的に楽になろう。

 そんなことを考えていた16歳の元副将軍は、侍女たちに手を取られて、どうにか王城内の自室に入った。


 王城の中には、王佐公家や重臣の個室がある(当然レイナートのものもある)。


 が、貴族令嬢で完全な個室が与えられているのは、副将軍クラスの軍人であるベルセルカだけだ。

 ちなみにトイレは―――この国としては最先端なので、ぜひ強調しておきたい―――水洗である。素晴らしい。


 椅子にベルセルカがこしかけると、メイドたちが手早く髪の飾りをはずして、ほどいてくれる。

 また、一人がどこからか、洗顔用の水を大きな金属の器に用意してくれた。

 長く赤い髪が優しくとかれる。

 ベルセルカは手袋をはずし、ハイヒールを脱いで、簡易な靴を履いて立ち上がった。



「このドレスもコルセットも、ひとりで脱げるようにつくってもらっているから、みなさん、あとは大丈夫ですよ。私、軍服に着替えるので」



 ベルセルカが言うと、彼女のメイドの一人が、惜しそうに、

「もったいないですわね」

とつぶやいた。


 その意図するところは知っている。

 貴族の中でも、国内いちの資産を持つ名門の指折りの家の令嬢に生まれ、流行最先端の衣装もおしゃれも、よりどり見どりだろう立場のベルセルカが、さしてそれらに関心を示さなく見えるのが、もったいないと言っているのだ。ベルセルカ自身は、ドレスも甲冑も剣もその他小物も、自分のお気に入りのものにとてもこだわっているつもりなのだけど、そこは見解の相違。


 軽く笑って、「もういいですよ、ありがとうございました」と繰り返すと、メイドたちは一礼して、出ていった。 


 ぎいいぃ、と重い扉が閉まる。


 ベルセルカの好みで仕立てられたドレスは、胸元はほぼ出さないスクエアネック。

 ドレスのボタンを自らはずし始めた、その時。



「――――<短剣(プギオ)>!」



 部屋の各所実に数十か所以上から、突然短剣が飛び出てベルセルカへ迫った。

 全方位からその短剣が突き立とうとした、寸前。



「――――<短剣(プギオ)解除(フィーニス)>」



 指一本動かさずベルセルカが呪文を唱えただけで、短剣は、その体に触れる前にすべて消滅した。

 口元に、ふ、と笑みが浮かぶ。


 クローゼットから一人の男が剣を構え飛び出し、こちらに突進してきた。

 ドレスなので足元は引き続き不自由。動けない。

 とっさにベルセルカは、わざと後ろに倒れた。

 彼女の体を貫こうとした剣は空振りし、ドレスの裾を踏んだ男は、もんどりうって、ベルセルカの上に落ちる。


 否。


 落ちる寸前に、ベルセルカからみぞおちに渾身の拳を食らい。

 男の体は、くの字に折れ曲がるように浮き上がった。

 そのまま彼女は、ドレスの裾から引き出した足で、横に蹴り飛ばす。



「か………は……っ」



 男は椅子を倒しながら、床に転がった。

 みぞおちを押さえ苦しみながら、しかしベルセルカの頭の後ろに落ちた剣へと、手を伸ばす。

 その手を、ベルセルカは止めた。


 ぐぐぐぐぐ。


 体格がひと回り大きいの男の腕を、ベルセルカは腕力勝負で制していた。



「お疲れさまです。

 妹の暗殺、いったい何回目の失敗ですか? 兄上」



 あんまり攻撃的に聞こえないよう、かわいらしい声でねぎらったのに、相手は―――宰相グリトニル・アースガルズは、ちっ、と舌を撃つと、ベルセルカの手を乱暴に払った。



「……貴、様っ。なぜ…この魔法も防いだ!?」


「残念でした♪

 兄上がお持ちの魔法書はだいたい、私も読んでいるのですよ?」


「バ、バカな……!

 おまえの目にだけは触れぬよう、地下の図書室に封じていたのに……

 あ!? あの男か!? あの男がおまえに見せたのか…!?」


「もぅ兄上ってば、国王陛下をそんな風に呼んじゃだめですよー??

 あの方の蔵書はうちをはるかに越えていますから」


「おのれ……!!」


「もし私を殺したければ、ご自身で魔法を開発されてはいかがでしょう? 陛下のように」



 ベルセルカは立ち上がり、ぱん、ぱん、とスカートのほこりを払った。

 洗濯係がちょっと大変になってしまったけど、きっときれいにしてくれるだろう。

 洗顔用の水も、こぼれなくてよかった。



「兄上もおつかれでしょう?

 今日はゆっくり休まれるとよいですよ。

 明日からも新米の国王陛下をよろしくお願いいたしますね」


「…………」



 妹をにらみつけ、アースガルズ宰相は椅子を乱暴に蹴りつけながら立ち上がる。



「貴様、何を企んでいる?」

「企む、ですか?」



 おやおや、兄はいつまでもわかってくれないようだ。



「何度も言っているでしょう?

 あなたの妹は、レイナート様の御身を守ること以外、一切関心がないのですよ」


「信じられるか!! 貴様は……貴様など」


「兄上がいないと、王になったばかりで右も左もわからないレイナート様が国を回せませんもの。

 レイナート様の今後のためなら、私が殺されるリスクなんて、ごくごく些末(さまつ)なことです」


「……………!!!!」



 言葉に詰まった宰相は、再び、憎々し気に妹をにらみつける。



「……この、化け物が……」



 そして荒々しく歩き、部屋の扉を開いて、出ていきざまに、



「この、穢れた転生者めが」



と、吐き捨てていく。


 ベルセルカは、大きな音を立てて閉まった扉をしばし見つめたあと、おのれの手のひらに目をやる。


 左の手のひらには、注意して見ないとわからないぐらい薄いうっすらと、インクを薄めて書いたような模様が浮かんでいる。

 決して洗っても取れない、文字なのかそうでないのかもわからない、謎の模様。


 それを右手の指でふいになぞり、ため息をつくと、ベルセルカは何事もなかったかのように再びドレスを脱ぎ始めた。





【幕間1 おわり】

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