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(26)決戦は王城で



   ◇ ◇ ◇



 痛い。痛い、痛い痛い痛い痛い痛い!!!!


 レイナートの“寵姫”を殺してやったという興奮が収まると、今度は腕の痛覚に頭が支配された。

 みっともなく、テセウスはわめきちらす。



(……というか、“ベルセルカ・アースガルズ”を殺したって、そのまま僕がこのクソガキに殺されるんだったら同じじゃないか!?)



 一気に、少し前の自分に対して後悔が押し寄せる。


 おかしい。

 自分はこんな失敗などしないはずの人間なのに。

 “魔剣”を手に入れて以降の自分は、ただただ成功しかしない、この世界を支配すべき、すべての人間にあがめられるべき王なのに。



「―――何をやっているんだ?

 さっきの女は無事に浜に戻ったぞ」


「!?」


「腕を1本切られたぐらいで動けないのか?」



 さらにとどめを刺すようなレイナートの言葉。



(うるせぇよ!!

 おまえも腕一本斬られてみろよ!!

 死ぬほど痛いぞ!!)



 しかし、もう、抵抗するような口をきく気力はない。

 どうしてだ。“魔剣”は自分を選んでくれたというのに……。



「……殺さないのか?」

「ノールトで裁判にかけるからな。ただ」



 激痛が走った。レイナートがもう1本の腕まで切り落としたのだ。

 さらに両足にまでその痛みが広がる。

 ああ、足まで切られてしまったのか?



「――逃げられてレグヌムの国民に害をなされるわけにはいかん」



 あっさりとレイナートは言う。



(なんて周到で冷酷な。こいつ本当に18歳か? 僕の半分の歳って本当か?)



 いや、それよりも痛みだ。

 苦しい、いやだ、いっそ殺してくれ。

 この痛みから、どうか離れたい。

 いっそ魂ごと抜けられれば―――


 ああ、最終目標は王都だったのに。

 カバルスのどこかにあるという王都へ出入りする入り口を使い、レイナート・バシレウスが不在にしている王城に入り込み、思いを遂げるはずだったのに……。



(どうか、魂だけ抜け出せれば、それが叶いはしないだろうか?)



 ふいにそう思い、テセウスは願った。



   ◇ ◇ ◇



 直後に起きた現象は、魔法のある国でもそうそう見ないようなものだった。


 剣の鞘が再び生き物のように跳ね、抜き身の剣が、中に納まると、そのまま、恐ろしい速さで空を飛んでたちまちに見えなくなったのである。



「……そこまでやるか」思わずレイナートは呟いた。



 一方、地面に転がるテセウスの身体は、まるでもう壊れた人形のように、くたりと土のうえに力なく果てている。



「なんにゃ? 何が起きたにゃ?」



 黒猫ナルキッソスが駆け寄ってきてレイナートに声をかける。



「最終手段として、魂を抜いて剣に宿って逃げたようだな……」

「もはや身体を無くして? それって、どうするにゃ!?」

「行き先はわかっているし、万が一の手は打っている。が」



 レイナートは空を見上げた。

 ここまで彼を乗せてくれた黒い(ドラゴン)に、腕をまっすぐ王都の方角向けて振ってみせると、(ドラゴン)は一声鳴いて“魔剣”のあとを追った。



   ◇ ◇ ◇



 ……テセウスの意識は“魔剣”に宿り、まっすぐに王城を目指していた。

 王城の間取りも、どこに誰の部屋があるかも覚えている。


 ―――8年前、自分の運命を狂わせた彼女がどこにいるかも、間違いなくわかる。



(まさか、王城にまで僕が来るなんて、思ってもみないだろう)



 本当ならば、自分の肉体をもって王城に来、彼女の前にあらわれたかったのだ。

 だが、問題はない。

 この“魔剣”の魔力があれば、古い自分の身体など捨ててもかまわない。




(さあ、待っていてくれ、誰よりも愛しく、誰よりも憎いオクタヴィア)



   ◇ ◇ ◇



 ――――テセウスの魂をおさめた黒い“魔剣”は、王城へとたどり着いた。



(…………?)



 テセウスは異変を察した。

 王城の警備の兵はいつもより少ない。



(国王が不在だから……捜索にでも出ているのか?)



 宮殿のなかに入る。

 しかし、人の気配がない。

 誰か、それなりに魔力が強い男の貴族の身体にはいりこもうと考えたのだが……。



(どういうことだ?)



 王城には、王族貴族たちのための部屋が与えられている。

 もちろん王都にもそれぞれ屋敷を持っているのだが、貴族たちの多くは、王城で寝泊まりすることが多かった。それがステイタスを誇示することでもあったのだ。



 だが、今は、王城のなかに貴族の男がいる気配がない。



(あの国王か?)



 王城に何か異変が起きる可能性を考えて、国王が王城から離れるように事前に命じていたのだろうか?

 だとしたら、なんと忌々しい……。



(――――でも、国王が不在ならなおさら、宰相は城にとどまらなければならないはずだ。

 いまはもう代替わりしているか?

 ……ムステーラ侯爵アースガルズ家の部屋へ)



 確かに、宰相グリトニル・アースガルズは、貴族のなかで唯ひとり王城にいた。

 実際には留守居などではなく国王への反発から王城を離れることを拒み、自室で執務に集中していたのであるが。


 部屋の外から彼の存在を感知したテセウスの魂は喜んだ。

 するりと“魔剣”から抜け出し、扉をすり抜けて、宰相の身体に入り込む。



「ン、ンぐぅっ!?」



 異物が入り込んだことに気づき抵抗する宰相グリトニルの魂。

 しかしテセウスの魂のほうが強かった。

 抑え込み身体を支配する。



(期待よりも、魔力はだいぶ低いが……

 まぁ、僕よりも若いし、悪くはない)



 宰相の身体を試しに少し動かして、にんまりと笑った。そうして部屋の外にて待っていた“魔剣”を携え、誰もいない王城の廊下を急いだ。



 ――――王女、オクタヴィアの部屋へ……。



 部屋の前に着いた、宰相の身体に入ったテセウスは、重厚な扉を、コンコンとノックした。

 中の反応はないが……

 ベッドに誰か眠りについている気配がある。



 テセウスは、扉を、ゆっくりと開けた。

10月20日夜更新になります。

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