第九十七話 伊万里とダンジョン①
自分の口からどうしてあんな言葉が出たのか? 親父に対する恨み事がたくさんあった。碌な親父じゃない。あんな言葉、知ってる人が聞いたら薄っぺらに聞こえたかもしれない。それでも親父を恨んで生きて行くような人生は嫌だった。誰かを恨んで生きていくようなことは、もう嫌なのだ。
実母と会うべきかどうか……正直お母さんの記憶などほとんどない。優しい人。という気はするが、思慕の念など大して無い。それに今更、会いに行っても仕方がない。
「どうして捨てられたのかぐらいは知っておきたいけど……」
「落ち込んでるの?」
後ろから声をかけられた。まさか美鈴かと思ったら、また榊さんがいた。
「なんでいるんだ?」
「あんた達、なんだか不穏な空気だったから気になって見てたの。探索者になってから耳もやたらと良くてね。声も聞こえちゃった……」
「あのな、それは盗み聞きだぞ」
「わかってる。ごめん。途中でこれは聞いてたらまずいと思ったんだけど、興味の方が勝っちゃったわ。本当にごめん」
榊さんが素直に頭を下げる。怒りは思ったほども湧いてこなかった。別に聞かれたところで実害があるわけでもないし、ちょっとばつが悪いだけだ。
「まあいいよ。美鈴に言うなよ」
「それもわかってる」
「はあ」
深い溜め息が漏れる。親父のことでか、この女のことでかは自分でもよく分からなかった。榊さんとだけは一生仲良くなることがないと思っていた。それなのにいつの間にか結構近い距離にきていた。
「六条。元気出しなよ。私が傍にいてほしい時はいくらでも居てあげるからさ」
榊さんが腕を組んできた。
「必要ない」
拒否するように腕を振るとすぐに榊さんは離れた。
「ケチ」
「ケチじゃない。親と一緒に家に帰らなかったのか?」
「実はさ……」
榊さんが口ごもった。言うべきか言わないべきか迷うように、こちらを見てくる。
「なんだよ」
「まあ六条なら良いか」
「俺ならいいの意味がわからない」
「そんなに冷たくしないでよー。実はさ、うちの兄ってダンジョンで死んでるのよ」
「それは……可哀想に……」
「いいわよ。六条にとっては赤の他人だし、なんとも思わなくて当たり前だから。でも、うちの両親は兄貴が死んでから超ダンジョン嫌いなの。ダンジョンに入るどころか、『Dランに通いたい』って言っただけで、もう美鈴のところ以上の大喧嘩になるほどよ。それでも隠れてダンジョンに入らざるを得ないことが起きた。まあ、その理由は自業自得なんだけど」
「そうだな」
この女が余計なことをしなければ、俺はそもそも池本を殺さなかったかもしれない。そう考えると、この女はかなりやらかしてる。まあ、池本を殺した事自体は自分自身で決めてしたことだ。榊さんに恨み言を言う気はなかった。
「でさ。私がダンジョンに入らなきゃいけなくなった理由を両親に言うわけにいかないでしょ?」
「ああ」
「で、黙ってたの。だけど、ダンジョンでレベルが上がるごとに、この顔が、みるみるうちに美少女になっちゃうわけよ。小野田とか後藤ぐらいしか容姿が変わってなかったら誤魔化せたんだけど、完璧に見た目変わっちゃってるでしょ?」
「まあ、そうだな」
それまでは胸はでかいが、顔はそこまでよくなかった。今では超売れっ子のグラビアアイドルみたいな容姿になっている。色気のある瞳に、ぽってりとした肉厚の唇。そしてただでさえ大きかった胸は、更に魅力的に豊かになっていた。
「おかげでダンジョンに入ったことが一発でバレちゃったの。そうしたら両親がもう信じらんないぐらいカンカン。『親子の縁を切る!』みたいな話になってさ。私を思って『ダンジョンに入るな!』って怒っていたくせに。言うこと聞かないから親子の縁切るっておかしくない? 今日も来てないしさ」
俺は自分のことを大概素直じゃない性格と思っているが、彼女も大概のようだ。
「全然そんなふうに見えなかったぞ」
「そりゃもう最後の最後でクラスメイトに悪い意味でのネタを提供してあげるほど、私は親切じゃないの。でも心の中はあんたと同じもやもやもやもやしてた。だから正直、六条が同じような感じでホッとした」
「ホッとね」
「おっと、悪い意味じゃないから怒らないでよ。悪意はないのよ。ただ、まあ私はあんたのことがものすごく気になるってだけ」
「美鈴は?」
「美鈴が両親を放っておいて、彼氏の所にこられるわけないでしょ? あの子、六条のことをまだ両親に言えてもないのよ。何より、優しい両親と自慢の姉まで来ている美鈴が、今のあんたの所に来たらなんの嫌味だって感じでしょ? あの子そういうこと結構気にするから」
「美鈴のことがよく分かるんだな」
「長い付き合いだからね」
俺が歩き出すと、榊さんもついてきた。一緒に歩くことが嫌だったわけではないから、それは放置した。しばらく無言のまま歩いていたが、国分寺駅が見えてきたぐらいで、口を開いた。
「親ってなんなんだろうな」
「今の私にそれを聞いても答えられないわ」
「まあそうか。榊さんは探索者になって、親はなんて怒るんだ?」
「『顔が変わりすぎて自分の子供だと思えない』だって。それがまあ一番怒ってる原因みたい。でも、そんなこと言われたってさ。どうしろってのよ。今の時代ダンジョンに入るのが本当に駄目とか無理だし」
「やっぱり容姿が変わりすぎて悩んでるんじゃないか」
人は結局、どれだけ陽気にしている人でも悩んでいるのだなと思った。一人だけが不幸だったら、その不幸に浸っていられるのに、みんな意外と不幸なことがあるから、自分だけだと信じて浸っていることもできない。
「榊さんさ。一つだけ気になってたんだけど、聞いていいか?」
「なんでも聞いていいけど、六条。せめて私を呼び捨てにしてくれない? どうも六条に『榊さん』って言われるのはこそばゆいのよ」
「じゃあ榊、お前は、俺のイケメンが好きだって言ったな?」
「ええ、大好きよ」
「じゃあ俺よりイケメンが現れたらどうするんだ? 今度はそいつに付き従っていくのか?」
「バカね。そんなことするわけないじゃない」
何を当たり前のことを聞いているんだ。という感じで、榊が返してきた。呼び捨てにすること自体は、美鈴の時と違ってほとんど抵抗はなかった。なんというか、榊にはあまり距離を感じない。性格は全く違うが、属性的には同じなのではと思えるのだ。
「どうしてそんなことが言えるんだ? 榊は死ぬほどイケメンが好きだろ。この世には俺以上のイケメンがたくさんいるはずだ」
「絶対たくさんはいないわよ。まあ、こんな時代だから、六条以上のイケメンだって指で数えられるぐらはいるかもだけど。でもそれとお近づきになる確率自体も少ないし、そもそも六条よりもイケメンってどんな顔よ?」
「まあ、そうだな」
考えてみる。今のレベル7の顔なら上がいることは分かる。しかし、魅力80の時の顔になると自分でも惚れてしまうほど絶世の美男子になる。それ以上のイケメンがいるというのは……。
「いないか……」
「いないわよ。まあそれ以前に、そこまで尻軽じゃないから安心して。和也を裏切ったのはね。和也が私を裏切ったからよ。神楽さんたちのところで、頭が馬鹿になるぐらい気持ち良くさせてもらって、私なんて奴隷扱いよ。私の顔がよくなってから、それが余計ひどくなった。こちらのことをちゃんと思って和也がしてくれたら、私だって多少は対応変えたわ」
「その言葉は本当か?」
「本当よ。私はあんたに本当に惚れてる。いえ、なんというか、私の六条に対する想いって、そういうのじゃない。六条に好きにされたいっていうか、何されても許せるっていうか。私、六条なら和也と同じことをしても裏切らないからね」
「榊」
「何?」
キラキラした目でこっちを見てくる。名前を呼んだだけで頬を赤らめる。この女を警戒することもだんだんとばかばかしくなってきた。
「電車に乗るのか?」
国分寺駅の構内に入ってきたので尋ねた。
「この後、ね?」
「『ね』じゃない」
「えー」
「銀の鈴、それはちゃんとネットで調べておく」
「わかった」
俺はそれからすぐに新しい家に向かった。電車に乗る必要がある。榊も同じだ。だが、榊は反対車線のようだ。私立なので、榊は少しだけ離れたところからきている。駅で別れてそのまま立ち去る姿を今度は俺が見ていた。
榊の姿が見えなくなると、声を掛けられるのが面倒なので、魅力を一番低い、元の自分に戻してしまった。電車に乗っても、誰も声をかけて来なくなる。席が空いていたので、女性の隣に座ったら、すごく嫌そうな顔をされた。
「一緒なのにな」
人は顔によって見事に対応を変えてくる。でも、イケメンというだけで人生が楽なのかと言われると、それはよくわからなかった。何しろあまりに顔がよくなると街中を歩くだけでも大変になる。それに顔が目的で近づいてくる奴も多い。
榊がまさにそれだ。だからってブサイクな姿のまま居たいかといったらそれは勘弁だ。せっかく格好良くなれたのにそれを捨てたいと思うほど聖人じゃない。
「だから属性的に榊と同じと思えるのか」
親父のこととか、伊万里の母親のこととか、クラスであった事とか、いろいろ考えていた。学校からの帰り道もこれが最後である。その最後の帰り道は全くいつもとは違う道で、一時間以上もかかって池袋の新居に帰り着いた。
伊万里がいつも通り、まず俺の体を抱きしめて迎えてくれた。
「ただいま」
伊万里が痛がらないように優しく抱きしめ返した。
「卒業式どうだった?」
「親父が来てたよ」
「へえ、良かったね」
「良かったのかな……」
「私のお母さんは、私の卒業式に来てなかったな……祐太は嬉しかった?」
「なんか複雑だった。それに親父とはもう二度と会うこともないだろう」
俺はそのままひょいと伊万里の体を持ち上げると、お姫様抱っこをして歩き出した。伊万里はうれしそうに俺の首に腕を回して、しっかり抱きついてくる。キングサイズの広いベッドに下ろすとそのまま上にのしかかった。
俺は伊万里の体をしばらく堪能させてもらった。
「——私も同じだから」
終わると伊万里が服を整えながら言ってきた。
「伊万里は母親に会ってもいいと思うけどな」
「いいの。祐太と同じの方が良いから。それよりまた学校で虐められたりしなかった?」
「はは、まさか。校長先生がさ。謝罪してたよ」
「何を?」
「担任は俺の虐めに気づいてたのに知らないふりしていた。だから担任をクビにしたんだってさ。正直、そこまでいくと前沢先生を可哀想だなと思う。たしか結婚してたし、子供もいたから、これからどうするんだろうな」
「私は、ざまあみろとしか思わないよ」
「怖いな」
このまま伊万里ともっと気持ちよくなりたいと考えたが、立ち上がった。
「もうしないの?」
残念そうにベッドの上から伊万里が見てくる。タンクトップと短パンを穿いていて、肌をかなり露出している服装だ。伊万里に告白してから、ただでさえよかった伊万里との仲は更に深まった。お互い隠す場所などもうないし、伊万里はいつでも俺を受け入れてくれる。
「ちゃんと風呂に入ってくる。ご飯頼む」
「わかったー」
私物が持ち込まれている部屋に入って、着替えを手に持つ。ジャグジー付きの風呂は、広々としていて、ゆったりと入ることができた。鏡に自分の姿を映す。魅力80の自分に戻った。今の本来の自分がそこに居る。
「誰だお前? か……」
お湯に浸かりながら外の景色を眺めることができた。外からは見えないようにマジックミラーになっているらしい。ジャグジーをつけると程良い泡の感覚が気持ちよかった。くだらないことで、いつまでも落ち込んでいる場合でもない。
センチメンタルになるのもここまでだ。
「切り替えるか」
湯船から立ち上がる。以前ならもっと引きずるところが本当にこれで頭が切り替わった。両親のことよりも、まず伊万里がダンジョンに入ることの方が重要だ。伊万里はもう準備ができているという話だったから、今からでも行こうと思えば行ける。
ロンティーと綿パンを履いて、バスルームから出ると香ばしい良い匂いがしてきた。食欲をそそる匂いだ。
「祐太ご飯出来てるから。今日はカツ丼にしたよ」
久しぶりに伊万里のカツ丼が食べられる。ガチャから出てくるカツ丼よりもこっちの方が美味しい。俺は直ぐに好物を食べることにした。
「相変わらず好きだね」
「やっぱりカツは後乗せがいいよな。このサクサク感がたまらん。卵もふわふわだし、伊万里の飯を食べると、家に帰ってきた気がするよ」
「祐太の食べっぷりを見てると私もお腹すいてきた」
伊万里と昼飯を食べて、その後、誕生日のお祝いをして、【アリスト】をプレゼントした。首にかけるとすごく喜んだ伊万里の顔が可愛かった。
その夜、というか深夜。草木も眠る丑三つ時。
伊万里と俺は起きだして、朝4時にダンジョンへ出発する準備を始めた。外に出ると事前予約していたマークが、リムジンを出して待ってくれていた。デビットとエヴィーは既にアメリカへと帰ったらしい。
「お前、すげえマンションだな。いくらした?」
「六億」
「ファ!?」
マークさんはマンションの外観を見ているだけなのに、あんぐりと口を開けていた。一時間半ほど車に乗っていると、伊万里と話し合いになった。伊万里は探索者についてかなり調べたようで、タブレットには分かりやすく新人探索者の装備候補が挙げられていた。
「よく調べたもんだな」
自分も調べていたが伊万里ほど分かりやすくまとめてはいなかった。
「うん」
「ちょっとチェックするぞ」
伊万里が俺達と同じような勘違いをしていないか一つ一つ調べていく。伊万里は拳銃の使用についての考察もしていた。そして米崎と同じような結論に達していたようだ。その内容を見るに、最初から伊万里がいればかなり楽だったんだろうなと思えた。
しかし、その調べられた内容の中で一つだけ“異質”なものがあった。
「伊万里、何これ?」
俺はタブレットの画面をスクロールさせていく途中、気になる項目があった。
「へ? ああ、これ? みんなやってることでしょ?」
「え? やってるの?」
俺は首をかしげた。いや、確かに似たような内容は、ネット内で冗談として囁かれる事はあった。でもそれを本気にするものはいない。俺はそう思っていた。何しろそこに書かれていた内容は【動物殺害プラン】だった。
「去年のDランの受験にもこれがあったって聞いたよ」
「そりゃあったって話は聞いたけど」
俺は気になって内容に目を走らせた。
【ダンジョンでは人型の生物を殺す必要があるため、普段から殺しに慣れておく必要がある。でないと、いざ実戦という段階で非常に迷うことになる。そして、それが魔の10匹における一番の死亡理由である。この対策として、最も良いと思われるのが、実際に実戦を行うことだ。
もちろんここで意味もなく人間を殺したら、ただの犯罪者なので、殺しても問題のない生物を殺すことで、ダンジョン探索への一助になるようにと考える。方法は、下記の通りの順番で進めていくのが良いと考えられる。
第一段階:ネズミの殺害。 動物として最も人から忌避されているともいえる生物。殺したところで問題が無いので、いくらでも殺そう。
第二段階:イタチの殺害。これも生物としてはあまり好かれていないので問題ないだろう。甲府の山に行くと意外と多くいるらしい。
第三段階:鹿の殺害。昔から鹿肉としてよく食べられるから殺しても問題ない。野生の鹿はかなり臆病らしく、近づくと逃げる。その対策が必要。
第四段階:猪の殺害。これも害獣として知られた存在なので、殺しても問題ないと判断。
第五段階:熊の殺害。日本の野生生物でおそらくこの生き物が最強だと思われる。そしてダンジョンの中に居るゴブリンと同じぐらいの強さだと判断している。この相手は油断するとこっちが殺されてしまうので、日本刀と拳銃をデビットさん達に頼んで入手。】
「マジ?」
「何が? ああ、デビットさんたちに頼んで、日本刀とか拳銃を手に入れたこと?」
いや、ツッコミたいのはそこじゃないんだけど。
「伊万里はさ。今からこれを実行するの?」
「まさか。そんな悠長なことしてる暇ないでしょ?」
「だ、だよねー」
さすがにこれを本気でやってたらドン引きだった。計画だけなのならよかった。
「第五段階までもう全部完了してるよ。熊はこのあいだ殺し終わったところ」
「へ、へえ。ちなみにどうやって殺したの?」
「日本刀でまず足を刺したの。それから首筋。最後は心臓。まあ、それまでのことでかなり動物殺すのに慣れてたから結構簡単だったよ」
「ふ、ふーん。熊ってレベルアップしてない身体能力で倒せるんだ。……あ、アグレッシブだね」
それ以外の言葉が俺には見つからなかった。
「まあ、祐太から二ヶ月遅れだしね。私も頑張らないと」
ちょっと怖いけど、確かにそれぐらいやってちょうどいいかもしれない。最初にゴブリンを殺す時の忌避感は想像以上だったし、何よりもあいつらは人間への殺意がすごい。自分自身が死ぬことになっても、絶対に人間を殺すという殺意は想像以上に怖い。
「祐太は熊とゴブリンってどっちが強いと思う?」
「どっちが強い?」
「うん。ダンジョンでよく襲ってくるっていう日本刀を持ったゴブリンと熊だとどうなるかな?」
日本刀を持ったゴブリンと熊はどちらが強い? 身体能力では確実に熊の方が強い。でも全力で命を賭して襲い掛かってくるコブリンを、普通の感覚の動物が勝てるだろうか?
「ゴブリンかな……」
「ゴブリンってそんなに強い?」
「うん。強いっていうか、躊躇がないんだよ。熊だと襲いかかってくるまでの段階があるだろうけど、ゴブリンは最初からトップギアなんだ。その躊躇のなさで、ゴブリンは熊に勝っちゃうんじゃないかな。もちろん負けるときもあるだろうけどね」
「じゃあ私はまだまだ対策不足か」
「いやいや、まさか伊万里がこんなに積極的にダンジョン対策をしているとは思わなかったよ。対策十分だ」
「お二人さん。到着したぜ」
マークさんが甲府に到着したことを知らせてきた。
「イマリ。頑張れよ。お前の努力は必ず実を結ぶぜ」
車から降りてマークさんが、伊万里に声をかけていた。動物殺害プラン。入れ知恵したのはマークさんではないだろうかと思えたが、結果的に悪いことではないので俺は何も言わないことにした。
「うん。 マークさんもこれからアメリカでしょ。気をつけて」
「ああ。ユウタも俺達とはもう一年以上会わないかもしれん。生きてまた会おうぜ」
「はい」
マークさんがいなくなり、俺たちは暗がりの中で静かにたたずんでいた。周りに人影はなく、それでも一応、二人とも天変の指輪で姿を変化させていた。俺は以前の姿に、伊万里は兄弟設定で、ちょっと顔を似せた弟に。
ダンジョンの前まで行く。甲府ダンジョンなので、二つ入り口があるだけで、その右側へと俺と伊万里は入った。その瞬間、伊万里の探索者としての生活が始まった。





