第八十九話 美鈴のガチャ
ぜえぜえと息を吐く。俺とリーンは避けることのできないゾンビを倒し、エヴィーと美鈴との合流を目指す。それにしても間一髪だった。もしあのとき、寡兵報酬で【睡眠耐性】が生えてなかったら……。
「ゾッとするな」
リーン共々ゾンビになっていたかもしれない。【睡眠耐性】というスキルがあることは知っていた。この階層で生える可能性が一番高いはずだった。でももっと早く生えると思っていた。それさえ生えればどうにかなると勝手に思い込んだ。
捕らぬ狸の皮算用とはこのことである。
『まさか、【睡眠耐性】が寡兵報酬とはな。めったに持ってる人がいないスキルなのか?』
『分からない。でも、【暗視】は早かった』
『だよな……。リーン、悪かったな。命がけになってしまった』
『ううん、リーンはユウタと一緒で楽しかったよ』
夜のサバンナを走り続ける。空気は凍てつくように冷たく、後ろからは大量に集まってきたゾンビの行進が地響きを起こしている。さっさとエヴィー達と合流して、こんなおっかない階層からはおさらばしたい。
まあ、おっかなくない階層があるのかといえばそんなものないが、一時も休めないことが、かなり辛いのだ。地図アプリを確認する。エヴィー達の印が300mまで近づいていた。もうすぐ合流できる。
『主達だ』
思っていたらラーイに乗った二人の姿が見えて来た。リーンが喜んでいるのが合体しているせいでよく伝わってくる。聞いていた通り、エヴィーは相当ゾンビが苦手らしく、後ろでぐったりして、美鈴だけが手を振っていた。
当然、俺たちの“後ろ”の様子に気づいて【意思疎通】を送ってきた。
『ユウタ。う、後ろのそれは何なの?』
倒さずに放置してしまったゾンビが、うしろから津波のように押し寄せてきている。地面が揺れ続け、振り向くと気持ち悪いほどの大量のゾンビがこちらを追いかけていた。エヴィーが急に口を押さえたのが見えた。
『うっおえっ』
『主……』
すごく萎えたラーイの【意思疎通】が届く。美鈴がうわーという感じで、エヴィーの背中を撫でてあげている。エヴィーはラーイの背中で吐いてしまったみたいだ。どうもゾンビに慣れることが出来ず、更にこじらせているようだ。
『二人ともちゃんとS判定だよね?』
エヴィーがそんな様子で大丈夫かと心配になって尋ねた。
「大丈夫。今回は私もちゃんとS判定をもらえたから。エヴィーはまあこんな感じだけど、リーンとラーイが頑張ってくれてるし、ちゃんと取れたみたいだよ」
ラーイが弧を描くように走って、俺の横にスムーズに並走して、美鈴が直接言ってきた。五日ぶりに見るその顔にこんな状況だというのに嬉しさがこみ上げた。
『五日も離れ離れだったのって、探索者になってから初めてだよね?』
「うん。寂しかったでしょ?」
『ああ、寂しかった』
「ふふん、私も寂しかったなー」
『こいつら本気で嫌。どうして死んでるのに動くのよ』
二人でイチャついているとエヴィーが文句をたれる。生物学上で言えば、かなりおかしな生き物。そもそも死んでいるのに、生きているものよりも生命力があるというのが意味不明だ。でも、それを言い出したらダンジョンは意味不明なものだらけである。
「エヴィー。この下の五階層もゾンビが一杯出るよー」
ゾンビは結構長く出てくるモンスターなのだ。かなり長いお付き合いになるのは、南雲さんから聞いていた。何しろゾンビは南雲さんがいる階層ですら、出て来るそうだ。
『うぷっ。言わないでミスズ。次にダンジョンに入るまでには、なんとか慣れてみせるから、今はそっとしておいて。私、イマリのレベル上げの間はここに籠ってるつもりだから』
「それ、本気? 余計こじらせないでよ。というか、エヴィーはゾンビとまともに戦えないじゃん。長時間見てるだけでも気分悪くなってるし」
『大丈夫よ。ラーイとリーンがいるもの。リーンと合体して、ラーイの上に乗ってれば、この階層では無敵よ』
『リーン、体の中でゲロ吐かれたくない』
『私も背中の上でゲロを吐かれるのはちょっと』
可哀想だが召喚獣の意見は無視された。かなり荒療治だが、エヴィーはやる気のようだ。次までにはもうちょっとマシになっているだろう。でも、南雲さんがいる階層のゾンビが出てきたら、エヴィーは正気でいられるんだろうか。
『それにしても祐太、最後のほうすごかったね』
美鈴は声が聞こえ難いと判断したのか、【意思疎通】に切り替えた。
『私たち。五時間前に全部の範囲を探索し終わったんだけど、五階層の階段はそっちにあったから最後まで見つからなかったんだよね。おかげでゾンビに一気に押し寄せられてさ。そいつら倒すのにめちゃくちゃ手間取ったんだ。エヴィーもその時はさすがにこんな感じじゃなかったし』
『美鈴、【睡眠耐性】生えた?』
『生えた生えた。レベル24だったかな』
『寡兵報酬じゃなかった?』
『寡兵報酬は別のだけど?』
俺とリーンは最後の方はほとんどゾンビと戦ってなかった。だからレベル23である。さっきも最低限しか戦ってないからレベル23から上がっていない。ということは【睡眠耐性】が俺たちに生えたのは不思議だ。
『そういえばリーン。ダンジョンが間違ったアナウンスをしたって言ってたな?』
『リーン、マジで嫌。主、考え直してほしい』
『煩い却下。この雪辱は死んでも果たすの!』
でもリーンは俺の疑問への答えを返すどころではないようだ。
「うおえっ」
またエヴィーが吐いた。もう何も吐くものがなくて、液体が出ているだけだった。それでもラーイはかなりゲンナリしている。楽しそうに喋ってて羨ましいとエヴィーが見てくる。そんな顔をされても交代してあげるわけにもいかなかった。
三階層への階段が見えてくる。俺たちは後ろを振り向いた。ゾンビが相変わらずこちらを恨めしそうに睨みながら大量に押しかけていた。
「またな」
どうせまたすぐに会うことになる。そう思いながらも階段をくぐった。一瞬であの酷暑が戻ってくる。さんさんと照りつける太陽の中、ゆっくりと移動しているヌーの群れ。それを見ると、ダンジョンの中なのに牧歌的とすら思えた。
ちょっと前までここで地獄を見ていたというのに不思議なものだ。
リーンが離れた。そしてすぐに抱きついてきた。ギュッとされた。正面からされると、さすがに乳房の感触が柔らかい。顔を見ると涙目だった。
「どうした?」
「ユウタよく頑張った。リーン痛くしてごめんね?」
「いいや、あれで本当に助かったんだ。謝らなくていいよ」
リーンの頭を撫でると、美鈴は微笑ましそうに声をかけてきた。
「リーン、よく頑張ったね。エヴィーがあんなだから私が代わりに褒めてあげる」
美鈴もリーンの頭を撫でた。
「で、祐太。眠いの我慢してたんでしょ? 【睡眠耐性】切ってここで寝ていいよ。ゴブリンが来ても私と……」
美鈴がエヴィーに目を向けると。地面にうずくまってまだかなり気分が悪そうなエヴィーがいた。エヴィーの名誉のためにも見ないほうがいいだろう。
「うん。あれは無理ね。あっちはラーイが介抱してくれるでしょ。私とリーンの二人で見張りしておいてあげるから、安心して」
「ああ、頼む……」
俺はもう我慢の限界だった。思いっきり心ゆくまで眠りたかった。【睡眠耐性】をオフにした。それと同時に強烈な眠気が襲ってきて、意識を手放した。
「起きた?」
目が覚めると目の前に美少女がいた。一瞬、自分の状況がわからなくて混乱する。ゾンビはもういない。家じゃない。伊万里じゃない。榊さんでもない。義母でもない。目の前にいるのは美鈴だった。膝枕されていた。
「うん……」
「私の膝枕、気持ちよかった?」
「うん……ずっとこうしていたい」
俺は甘えて美鈴の膝に頬ずりした。
「そうかそうか。存分に堪能していいよ」
「どれぐらい寝てた?」
「かなり寝てたよ。20時間ぐらい」
「そんなに寝てたのか……」
探索者になってからそこまで長時間の睡眠は取ったことがなかった。というか探索者になる前でもそんなに寝たことはない。最近は2、3時間でも寝れば、完全に体調が回復する。それが20時間。
「【韋駄天】かな」
なんというか、あのスキル。使った後に異常なほど疲れた。あの時、あの場で、あんなに急激に眠ってしまうつもりはなかった。それなのに命の危険もある状況で、問答無用で寝てしまった。
「スキルを使ってあんなに疲れたのは初めてだったな」
「へえ、どんなスキル? なんか最後の10秒ぐらいの時。祐太のスマホの地図上の位置が急に進んだんだよ。ギューンッて」
「【韋駄天】っていうスキルなんだよ。なんか異常なほど早く進めたんだ。エヴィーは?」
「あっち。さすがにもう回復したってさ」
エヴィーが見張りをして、ラーイとリーンは元の世界に還してるらしい。美鈴とエヴィーは休んだのかと聞くと、俺が寝ている間に、交代で休んだそうだ。
「ありがとう」
「いいよ。こっちこそS判定取らせてくれてありがとう。おかげでもうちょっと探索者頑張れそう」
「美鈴……」
「大丈夫。自分でちゃんと判断するつもりだから」
「そうか」
美鈴なりに俺たちとの実力差が離れてきていることに気付いている。そしてその状況で探索者を続ければ、俺たちもだが美鈴が一番死ぬかもしれない。それもすべてわかっているはずだった。
「——美鈴、上に戻ろう」
全員の体調が万全になっていることを確認して俺は言った。
「うん。エヴィー! 戻るよ」
「……OK」
エヴィーは自分の四階層での惨状を気にしているのか、真っ赤な顔で近づいてきた。俺は何も見なかったフリで並んで走り出した。
「祐太」
エヴィーの喋りそうにない様子に、美鈴が、
『気にしなくていいのに。私も祐太に吐くとこ見られたよ』
とフォローしていたが、『放っておいて』と言われて、俺に話しかけてきた。
「うん?」
「もう中学の卒業式終わっちゃったね」
「ああ、いつだったの?」
美鈴に尋ねる。興味がなさすぎていつが卒業式なのかも覚えていなかった。それでも、もう中学生ではないのかと思うと感慨深いものがあった。
「3月13日」
「へえ」
「死ぬほど興味なさそう」
スマホを取り出して今日の日付を確認する。3月14日だった。伊万里の誕生日には間に合ったようでホッとした。時間は夜の8時で、相変わらずダンジョンは時間感覚がよく分からなくなる。四階層は寒い夜だし、ここはカンカン照りだ。
「卒業式、出たかった?」
「うーん。まあちょっとはね。でも、自分で決めて捨ててきたことだし、あんまりかな。エヴィーは学校どうしてるの?」
「……」
エヴィーはまだもう少し自分の失態について考えていたい様子だった。しかし、美鈴にじーっと見られると根負けしたのか口を開いた。
「はあ。アメリカだと学校に行くより、ダンジョンに入るほうが、有利なことが多いから、私も学校のことは気にしてないわね。仕事で忙しいのもあって、ここ三年ほどはまったく行ってなかったしね。まあ、もちろん当然の知識を持ってないといけないから、教師を雇って個人授業は受けてたけど」
ダンジョンを中心とした世界に変わろうとしている過渡期の時代とも言われる昨今。学校というものが、なくなることはないだろうが、ダンジョンの方が優先される。そんな世界が、もう少し先の未来でありえるのかもしれない。
ただ、美鈴は学校ではリア充の方に属していた。だから中学の卒業式は出たかったんだろうなと思った。
「美鈴。ごめんな。四階層に行かなきゃ卒業式に出れたのに」
「ほんのちょっと出たかっただけ。私がそれよりもここに居ることを選んだんだから、それでいいの。それよりコインどうだった?」
「それも……ごめん。暗くてほとんどわからなかった。リーンも探してくれたから10枚だけは見つけられたんだけど、急いでいたこともあって、後半はほとんど確認する暇もなかった」
美鈴にとってはそっちも大事なはずだった。何しろ敵に弓での攻撃が効かなくなってきている。四階層はゾンビで、防御力が低いからまだいけたが、下ではかなり硬い敵も出てくると聞いていた。
「祐太の見つけたコインは、祐太のなんだから、謝る必要ないよ。それに祐太が階段探索に集中してくれたから、階段が見つかったんだしね」
「そっちはどうだった?」
「私たちは二人いたしねー」
美鈴が自慢げにエヴィーを見ていた。
「ふふ、ミスズがコインを見つけるのは一番上手よ。二人で36枚見つけられたわ。これで46枚よね」
「うん。三階層ではガチャを回してないし、明るかったからかなりいっぱい見つかってるよ。三人合わせて114枚! 46枚と合わせて160枚!」
「ゆっくり探索してたらもっと見つかったんだろうな」
「その代わりS判定は取れないしね。S判定の報酬は、主要ステータスがトータルで+40よ。私達三人の分とリーンとラーイを合わせれば+200。果実50個以上の価値があるわ。A判定も取れなかった人たちと比べたら更に倍よ」
「そう考えると、やっぱりS判定ってすごいねー」
「まあ、そりゃあんなに命がけになるんじゃね」
100回用のガチャが16回分。美鈴は目をキラキラさせて、集めたコインを見つめてる。かなり期待しているようだった。
「エヴィー、ガチャのコイン配分決めてほしいんだけど、いいかな?」
ただ、それでも俺は美鈴に対して冷静になれる自信がなくて、ガチャに関することはエヴィーに任せることにした。
「私?」
「ああ、俺はこういうことは一番エヴィーが冷静だと思ってる。だからそうしてくれ。美鈴もいい?」
「う、うん。それでいいよ」
ちょっと驚いたようだが、美鈴は頷いてくれた。
「ただ、エヴィー、先にこれだけは聞いてからコイン配分を決めてほしいんだ」
「何かしら?」
「以前、外に出た時、俺なりに美鈴の虹カプセルを出す方法を考えてみたんだ」
「ガチャは確率論よ。方法も何もいっぱい回すしかないんじゃない?」
「まあいいから聞いてくれ——」
そして俺は、自分なりに検証したことがあって、エヴィーに説明した。
まず、俺は、
「今回のガチャコインを、美鈴に全部回させてあげてもいいんじゃないかと思っている」
と伝えた。というのもストーンエリアのガチャの情報は、ほとんど完全にわかっている。だから自分のガチャ運の数字を入れると、擬似的にガチャが引けるサイトがあるのだ。
俺はそれを使ってネットでガチャを回してみたのだ。もちろんアイテムが実際にもらえるわけではないが、新人の探索者は、これを使って、自分たちがどんな確率でガチャアイテムが出てくるのかを調べたりしているようだ。
でも、ガチャ運1は情報がほとんど無いらしく確率は4D8と、4D7の二つ。二つとも回してみたところ、今までの美鈴のガチャの結果から4D8で出る結果とほとんど一致した。おそらく美鈴のガチャ運は4D8で間違いない。
その場合、虹カプセルが出る確率は4096分の1である。ではどうやって回せば一番虹が出る可能性が高いのかを調べた。そうして得た結論は、美鈴に100回用(一度回すのに10枚必要)のガチャを最低20回以上連続で回させることだった。
そこまでしてようやく1/2ぐらいの確率で、虹カプセルが出てきた。ただ40回連続で回してようやく出てくることも多い。俺はエヴィーにその検証結果を話した。
「ユウタ。ガチャに希望を持ち込むべきではないわ。それにね。ユウタは100%と言っていい確率で専用装備が出てくるのよ。それに私だって自分専用の杖が欲しいの」
「そうだろうね……」
エヴィーの言いたいことは分かる。それでも俺は美鈴にガチャを回させてあげたい。そのための理由付けもたくさんできた。でも自分でもそれは冷静じゃない気がしていた。
「くっそ、コイン集めはダメだしな」
それならコインだけを集めればいいじゃないかと考える探索者は多い。極論で言えば、時間さえかければガチャコインはいくらでも集められる。しかし、ダンジョン側はそれに対して、ほぼ完璧と言っていいほどの対策をしている。
「ええ、デビット達はそれしか再起の道がないからやっているだけよ。露骨なコイン集めをダンジョンはかなり嫌っているわ。デビット達の話じゃ十日探して一枚も出ないなんてザラよ。それぐらいコイン集めは、コインが出ない。ダンジョンからのメッセージなのか、コイン集めが終わって、普通に探索を始めても、コインの排出率が変わらなくなってしまった。っていう悲惨な話もあるわ」
どうやらダンジョンは誰でも頑張れば、同じ結果が得られるというようなことが嫌いらしい。だから一生懸命探索して、それで出てきたコインを集める行為はもちろん推奨されるが、コイン集めだけをすると途端にダンジョンに嫌われる。
まあ、コイン集めを許してしまうと、探索もせずにダンジョンの中でコイン集めばかりをしている輩が跋扈するようになる。そう考えるとダンジョンが、コイン集めを嫌う理由も分からなくはなかった。
「つまり一度使っちゃったコインの後での補填はできないのよ。だから、今の状況で美鈴に全部回させて、もし虹カプセルが出なかった場合、最悪、探索が行き詰ってしまうわ」
「そうなるか……」
そもそもダンジョンは何故なのか“急いでいる”と言われている。どういうわけか早く早く探索を進めていく探索者の方が、ダンジョンに好かれやすいと言われていた。だから、大抵のクエストは探索が早く進むように出来ている。
そして、コイン集めが出来ないということは、階層ごとにガチャコインを集められる枚数に制限があるとも言えた。だからガチャ運が高いことは重要であり、ガチャ運1は虹カプセルの可能性があるにもかかわらず、仲間として非常に嫌われる。
「ガチャ運4ですら、ストーンエリアで専用装備が全部揃わない人が多いって話よ。あなたのガチャ運5がどれだけ凄いか分かるでしょ? 何しろあなたなら100%専用装備が揃うのよ。あなたのガチャ運。それを活かさない方法は私たちにとって最大の損害になるわ。何か私は間違ってる?」
「いや、その通りだね……」
「勘違いしないでほしいんだけど、私もミスズとずっと一緒にいたいと思ってる。でも、ミスズが0枚。私が60枚。ユウタが100枚。これでどうかしら?」
「美鈴に回させないのか?」
さすがにエヴィーがそんなことを言うとは思わなかった。最近仲良く見えたのはまやかしだったのか?
「鬼の田中の話はアメリカでも有名よ。あの英傑様が、嘘をついていない限りは、虹カプセルというのは一つ出るだけで恐ろしいほどの強化になるのは間違いない。でも、ユウタの言うとおりなら、ミスズのガチャ運だと少し位ガチャを回したところで、どうにもならないんでしょ?」
「あ、ああ」
「ユウタ。こういうのは優先順位が大事よ。まず、ほぼ100%の確率で揃えられるあなたの専用装備を揃えるの。そして各階層に必要な軍資金。今回かなりの赤字を出したことは分かってるわね?」
「うん……」
特にポーションがかなり赤字の元になっている。俺たちは先を急ぐためにポーションを湯水のように消費している。回復役のいないパーティーでこんなに早く探索が進むのもポーションがあるからだ。
「あと、私も杖だけは専用装備にしたい。だから、それが出るまではガチャを回したい。まあ私は召喚獣の種族進化が思った以上に強力だった。だから杖以外は最悪なくてもいい。あと、今までパーティ内でのガチャコインの恩恵を全く受けていないイマリには、5、6階層でかなり優遇する必要がある。ギャンブル性の高い美鈴のガチャは一番最後よ。7、8階層で出た全てのコインを美鈴のガチャに注ぎ込む。おそらく、200枚以上一気に回せるわ。つまり、ユウタの言う100回用のガチャ20回分よ」
「エヴィー、それってまさか八階層が終わったら、私の1/2の確率に賭けるってこと?」
美鈴が驚いたように口を開いた。
「ええ、その階層でなら1/2の可能性に賭けてもいい。ユウタ、ミスズ。この案でどう?」
「……」
そうなると美鈴は攻撃力不足で八階層までかなり危険な状態が続く。美鈴がその状態で生きていられる保証もない。
「えっと、もちろん私はいいよ。かなり迷惑かけちゃうかもだけど」
「美鈴。正直、美鈴にとってはかなり危ないことだと思うけど本当にいいの?」
「うん。ガチャを回していても思うの。正直、今のままだとガチャコインを無駄にしてるだけだなって。でも、エヴィーの方法なら本当に出てくれそうな気がするの。それに私がちょっとぐらい回してハズレばっかり引くより、ユウタの果実でステータスの底上げする方が現実的だしね」
「本当にいいんだね?」
俺はもう一度確認した。
「うん」
「……わかった。じゃあ、ガチャに関してはこのプランで行こう」
俺はネットガチャで検証した後、美鈴にガチャコインを200枚も渡す方法が思いつかなかった。だが、ガチャに関しては一気に回したほうがいいということだけは間違いなかった。どういう作用なのか、確率的には変わらないのにその方がよく虹が出たのだ。
美鈴が本当に大丈夫なのかという不安はあった。
だが、エヴィーなりに美鈴がパーティーに残れる可能性を最大限に考えたのだ。文句はない。外に出る予定日を分かっているデビットさん達は、すでに外で待機しているようで二階層にはいなかった。
そして俺たちは久しぶりにガチャゾーンにやってきた。





