第八十六話 Sideエヴィー⑥
「エヴィーさ」
「何よ?」
「怖いの苦手なの?」
「別にそんなことないわよ」
「じゃあさ。あんまりくっつかないでくれる? 動きにくくて仕方ないんだけど」
「い・や・よ。私の火魔法がなかったら、あなたが危ないでしょ。だからはぐれないようにくっついてる。それだけよ」
「あ、そう」
死ぬ程怖かった。なんなのこの階層、本当になんでこいつら隠れてるの?
ラーイの上に二人で乗っているのに、『はぐれる』はかなり苦しい言い訳だなと自分でも思った。
『主。私も居る。元気を出せ』
ミスズと二人で騎乗しても平気そうに走っているラーイ。私に【意思疎通】で声をかけてくれる。それでも体が震えるのが止まらない。先ほどからゾンビにずっと追いかけ続けられているような気がして仕方なかった。
生まれながらにホラーは嫌いだった。アメリカ人にはホラー好きが多いけど、私は大嫌いで見たことがなかった。というのも私は霊感があるみたいで怖いものを見ると、その後本当に霊を見てしまうのだ。
昔は幻だと思った。脳が作り出した幻覚を見ているのだと。でもダンジョンが現れてから、やっぱりあれは本物なんだと思うようになり、余計にこういうのが怖くなった。
「とにかくエヴィーの火魔法がこの階層だと重要なんだから頼むよ。私の弓は、心臓なんて見えないから当てるのめっちゃムズイのよ」
ユウタの意思疎通で、必ずしも心臓に拘らないという攻撃方針は取っている。ミスズはその矢でゾンビを地面に縫いつけてくれてもいる。でも、矢の攻撃では中々一発で死んでくれない。
そこから殺そうと思うと火で焼いて、心臓を露出させなきゃいけない。そうしてようやくミスズが確実に心臓を仕留めてくれるのだ。
「ユウタ達みたいなごり押しは、弓じゃできないんだから、ちゃんとビビってないで火魔法を使ってね」
「ビビって無いけど、あまり自信がないわ」
ミスズが呆れて私のマネをして肩をすくめた。こんなのを寝ずに五日間も耐えろというのか、もう心が挫けてきた。24時間が経過して、レベルも二つ上がり、ユウタ達と同じく、【暗視】が生えた。
おかげでゾンビの顔がきっちり見えて気持ち悪い。
「あ、進行方向にゾンビがわんさかいるね」
「【火炎弾】!」
取り合えず撃った。周囲が炎で照らされて周りにたくさんのゾンビがいるのがよくわかった。怖気が走る。吐きそうだ。実際に最初は気持ち悪すぎて吐いた。そしてすべてを焼き払わねばと思った。
「【火炎弾】【火炎弾】【火炎弾】【火炎弾】【火炎弾】!」
「こらこらこら。ストップストップ。ちゃんと狙いを定めて撃ってよ。それに進行方向以外のヤツは殺さなくていいから。こいつら山ほどいるんだから、全部焼いてたらキリないよ」
「すうはあ」
何も食べてないのに胃液が逆流してきて、口が酸っぱくなる。自分でも自分に落ち着かなきゃいけないと言い聞かせる。なんとか目を向けると腐った体のハイエナの群れが六匹いた。
こいつらは集団行動をするから厄介だった。私の放った【火炎弾】は適当に撃ったこともあって、一発しか当たってない。
「いい加減慣れなさい」
「分かってるわ」
くっ付かれると動きにくいと言われながらも、後ろからしっかりとミスズに抱きついた。怖いとは言わないけど、怖いから仕方がない。群がってくるゾンビの群れ。三階層では臭い思いをして四階層でもまたこんなの。
おまけに追いかけてきているゾンビの声が大きくなってきているような気さえする。怖がる私に面白がってゾンビ映画を見せてきた妹を思い出した。あの映画では確か気づいた時には後ろに山ほどゾンビがいて……。
「ダンジョンはとことんまで私の弱みを狙ってくるつもりだわ」
「弱みだって口に出して言っちゃってるじゃん」
「……」
「とにかく見て撃ってよ。ある程度、当たる方向に撃てば、あいつら馬鹿だから勝手によってくるみたいだし。ほら、頑張って。目と口も拭いて、そんなにみっともない顔しない。綺麗な顔が台無しだよ」
ミスズに涙を拭き取られ、嘔吐した汚れも拭いてもらう。ゾンビは火が苦手である。しかし、明るさには憧れる。そのため火魔法を使うと、自分の方から当たりにくるのだ。
だから火魔法を使えば、殺すのは簡単だ。
しかし、火魔法を使った後はすぐに場所移動することも忘れてはいけなかった。怠ると、明るさに憧れるゾンビにいつの間にか大量に囲まれて、そのまま押し潰されそうになるのだ。
昨日はそれを体験して、危うく死にかけて、ラーイがその包囲を上から逃げてくれたのだ。私は恐ろしくてただただラーイにしがみついていた。
「すうはああ」
ミスズにも励まされ、何度目かになる深呼吸をする。私は目をしっかり開け、ハイエナの群れを見た。
「【火矢陣】!」
火の矢が五本飛んでいく。魔力の上昇と共に【火矢陣】も五本の矢になった。今度こそ正確に狙うコースだった。その火の攻撃を明かりに憧れるように、ゾンビはまともに受けてしまう。
そうすると体を燃やしながら、それでも、まるで喜んでいるように、火だるまになりながら向かってくる。急速に皮膚がただれて心臓が露出していた。
「ミスズ。後は任せられる?」
四階層が終われば外に出るが、間違いなく当分の間、ゾンビが夢にも現実の心霊現象にも出てくるに違いない。
「オッケー。よく頑張った。後は、もう抱きついていいからさ」
「そうさせてもらうわ」
これ以上言葉にする気力もなくて、しっかりとミスズを後ろから抱きしめる。何気にこれがユウタだったら最高だったのにとちょっと失礼な事も思った。
ミスズが露出した心臓に向かって矢を放つ。次々と矢がハイエナを射貫く。それを私が見ることはなかった。でも、ラーイが見た情報を教えてくれた。
「ミスズ」
「……」
ミスズからの返事がない。後ろからのゾンビの声がやはり大きくなっている気がした。
「ミ、ミスズ!」
「何よ」
ミスズが一瞬返事が遅れただけで動揺してしまう。抱きついているこのミスズの体が、ひょっとするとゾンビ化しているんじゃないかと一瞬思ってしまった。
「もういない?」
「もういないけど、またすぐ現れるよ」
「私、もうずっと目を閉じてようかしら」
「むしろそっちの方が怖いと思うんだけど……。エヴィー、こういうの本当に苦手なんだね。まあ、とにかく今は居ないから目を開けてよ。それとあんまりぎゅっとされると、なんかこう変な気分になるから、ほどほどにしてね」
「変な気分?」
「いろいろあるの」
「そう、ごめんなさいね」
ミスズはレベルが上がったせいで、【探索】の魔法の有効時間もかなり伸びたそうだ。だから常に【暗視】に加えて【探索】も唱えている。ミスズは、私とは比較にならないくらい周りの様子がよく見えているはずだった。
「ミスズ」
「何?」
「どう? 階段見つかった?」
「そんなすぐに見つかるわけないじゃん。近くにはないな」
「早く見つけてよ」
どうやらミスズはこれっぽっちもゾンビが恐くないようだった。だから私はつい甘えてしまった。
「わがまま言わない。置いてくわよ」
「……ごめんなさい。全面的に私が悪かったわ」
「ぷっ。エヴィーって可愛いとこあるんだね」
「馬鹿にしてる?」
「してないよ。本当のことだもん。そんなにお化けとか苦手なの?」
まだ強がろうかと思ったが、この期に及んで強がったところで仕方がない。
「ええ、正直、苦手よ」
「ふーん。エヴィーが怖いんだから、リーンとラーイもこういうのは怖いの?」
ミスズがラーイに聞くと、私がギャーギャー騒いでいる間も黙って、女二人を乗せて走り続けてくれているラーイが【意思疎通】で返事をしてきた。
『いや、私はちょっと苦手というぐらいだな。だが、リーンはかなり苦手らしい。先程からユウタと二人でかなり怯えてると伝えてきてるな。まあユウタがいるから大丈夫だろうが』
「あらら、祐太も苦手なの『おーい、祐太。大丈夫?』」
『超気持ち悪い!』
ユウタから私の方まで意思疎通が届いた。
『い、いけそう?』
私も同じ気持ちだったから、とても理解できて返事をした。
『なんとか頑張る!』
『それって大丈夫なの?』
『まあ、ユウタとリーンはごり押しでもどうとでもなる』
ラーイが冷静に言う。ラーイは気丈に振る舞ってくれてる。召喚獣は主の性格をかなり引き継いでいる。多分、私がこれだけ怖いのだから、ラーイも本当は怖いはずだ。
「ふふ、エヴィー達にも苦手はあるんだ」
「私が怖がっている時に笑うとかミスズは妹みたいね」
「妹?」
「私の妹は、いつも強気でいる私がこういうのを見ると、キャーキャー叫び出すのが面白いらしいわ。よくからかわれたものよ」
「気持ちが分からなくもない。妹さんって元気なの?」
以前、ゴブリンに父親を殺された話をしたことがあるせいか、ミスズが心配げに聞いてきた。
「腹が立つぐらいピンピンしてるわ。まあアメリカじゃ元気だからって安心できないけどね」
「そっか。なんだか外は大変だよね」
「日本が平和すぎるのよ」
「確かに。それにしても、色々分かればわかるほど探索者って諦められないわー」
ミスズが何を言いたいのか理解できた。探索者は力だ。それが探索者をすればするほど嫌というほどよくわかってくるのだ。何しろレベルが低いものはレベルが高いものに対してあまりにも無力だ。
「なんでゾンビがそんなに怖いの?」
「昔から霊感が強くて、嫌なものをよく見るのよ」
「ふうん。正直、私はお化けって怖いって思ったことがないんだよね。逆に面白いって思っちゃうっていうか」
「ミスズって変」
「と、エヴィー。ライオンが群れで歩いてる」
ミスズが敵の接近を知らせる。【暗視】での視界は100mほど先まで見ることができた。私は泣き言は言ってられないと頑張って見る。ライオンのゾンビはまるで生きていたころを焦がれるようにサバンナの夜を歩いていた。
一匹の雄の周りに雌がたくさんいた。私たちみたいだ。自分の召喚獣にライオンのメスがいるからなのか寂しく見えた。こちらと目が合う。皮膚が腐って爛れた顔が急激に変わっていく。生者を憎むように歪むのだ。
唸り、声をあげ、一斉に群がってきた。
「【水陣】」
水の壁があらわれる。今の魔力だと結構大きい壁を造ることができた。それで私たちの周りを守る。ラーイが下がって、敵との距離を開けようとする。私は【水陣】の上から【火矢陣】を放つ。
ゾンビはまたもや自分から火魔法に当たりにきて燃えだした。そうすると死にはしないが、極端に動きが悪くなる。それでも火だるまになりながら歩いてくる姿は異様だった。
私はついついいつもよりも多く魔法を使ってしまう。ライオンのゾンビを焼いた仕上げに、ミスズの矢が心臓を貫いた。それでも一体はミスズの弾幕を抜いて向かってきた。しかし、ラーイが体で防いだ。
相手は雄のライオンだった。それよりも一回りはレベルアップにともない大きくなったラーイが、容赦なく前足を振り上げ、振り下ろす。ライオンが地面に押しつぶされた。更にラーイが心臓を踏み抜く。
止まることなくラーイが再び駆けた。階段探索を急がなければいけないからだ。ずっと私たちを乗せて走りっぱなしのラーイが心配だった。体力はポーションで回復させられるとはいえ、もう二日目を過ぎて、三日目に突入していた。
その間一睡もせずに走り続けているラーイは、相当眠いはずだった。
「エヴィー」
「何?」
「火魔法の使用頻度半分にしよう」
「……」
「聞いてる?」
「まずいの?」
「まずいね。ラーイの継続スピードは時速150キロぐらいでしょ?」
「ええ」
「チーターのゾンビはそれに追いつけるみたい。ラーイ、今時速200ぐらい出してるでしょ?」
ミスズの言いたいことが理解できた。
先ほどから妙なほど後ろから聞こえてくる呻き声が大きかった。私の火魔法にゾンビは自分から当たってくる。しかし、あまりにも使いすぎるせいで、足の速いゾンビが、私の火魔法を目印に群れをなして追いかけてきているのだ。
『おそらく』
「どれぐらいで限界くる?」
『ポーションが有る限りは駆け続けられる。だが、10分ほど前からミスズに一分に一本飲ませてもらっている。これ以上極端にポーションを消費するわけにもいかないだろう』
「くっそっ、嫌になるわ」
舌打ちした。ダンジョンは自分の苦手なものを呑気に怖がることも許してくれないらしい。怖がっている間に死んでしまう。そのことを思い知らされている。私は自分の中で気持ちを切り替えていく。
「すうはああ」
苦手なものを苦手として、仲間に頼っておけば何とかしてもらえるかと少しだけ思ってしまった。
「そんなことが許されるわけないわね。いいわ。ミスズ。何体ぐらい追いかけてきてるの?」
私はしっかりと目を開いた。見たくないものを見たくないと甘えられる環境ではない。そんな甘っちょろい場所には居ないと改めて思い出した。
「チーター100体ぐらいかな? さっきから急に増えた」
「事前にはこういう情報はなかったわよね?」
三階層まではこういうモンスターの予測不能な動きは、ある程度ネットに情報があったのだ。しかし、モンスターがどうやって襲ってくるのか? その詳しい情報は四階層からはなかった。
「うん。自分たちで戦って確かめていくしかないんじゃないかな」
不思議なものだ。先ほどまでの震えがどこかに飛んでいた。余裕があるから怖いと思っていたのか。余裕がないと怖いとすら思ってられない。
父親が死んだ時に涙も出なかったことを思い出した。ダンジョン崩壊したばかりのアメリカでは、泣いている暇すら無かった。
「どうやらそのようね。ラーイ、逃げられる?」
『無理だ。実は先ほどからチーターのゾンビに追われている気配は感じていた。しかし、その度に引き離していたのだ。だが、引き離しただけで、ずっと追いかけられていたらしい』
「そう」
ラーイが私にその連絡を入れなかったのは、私が余計に怖がると思ったからか。
「ハハ、ちょっと怖がってる間に随分追い詰められていて、なかなか笑えるわ」
「エヴィー、二人でなんとかするよ」
「ユウタは呼ばない?」
「呼ばない。ここで呼んだら終わりだし、呼ぶ必要もない」
ミスズだけがS判定を逃した三階層のクエスト。それをミスズが一番覚えている。ここでユウタを呼べばなんとかしてくれるだろう。しかしS判定は厳しくなるし、ミスズも二度とあんなことにはなりたくないだろう。
「ラーイ。もう一度確認するけど、逃げ切るのは無理なのね?」
『一時のことならば可能だ。だが、追いかけられ続けて余計に数が増えるだけだ。一度気づいた生者の匂いをあいつらはいつまでも追い続けるらしい』
「ミスズ、何か思いついてるの?」
「考えてたんだけど、エヴィーと位置を交代して、私がやるのが一番いいと思う」
ミスズの作戦はラーイが100mまで追いかけてくるゾンビとの距離を近づけること。そこからミスズが矢を放ちまくる。一本でも矢を受けたゾンビは、ラーイを追いかけるスピードが出せなくなるはずだ。
「OK。それで行きましょう」
ミスズはどうにかできる自信があるのだ。それなら心配いらないかとホッとする。すぐに行動に移すことにして、ラーイが速度を緩める。私は前でしっかりとラーイの手綱を握った。
前の敵は私が【火炎弾】で弱らせ、ラーイが踏み潰す。火魔法を使っちゃダメなわけじゃない。ただ単に、追いつけるほど速い種類のゾンビを、ちゃんと仕留めてこなかったのが悪かっただけだ。
ユウタにも一応【意思疎通】で注意しておいた。
『ふーん、こっちはそんな様子無いけどな』
『やっぱり火魔法を使わないからかしら?』
ユウタの方にはそんな様子はないらしい。ゾンビは火魔法が弱点なのに、火魔法を使うと寄ってくる。死者の群れは、自分達の体が壊れるまで平気で追いかけ続けてくるのだろう。これって結構な罠だと思う。
とにかくミスズに代わって私が前に行くんだから、階段も見落とさないようにしなきゃいけない。ラーイにもしっかり確認するようにお願いした。ミスズが後ろで矢を放つ音を聞きながら、眼をそむけたくなる姿を見続ける。
そして、ラーイが走る線上の敵だけ【火炎弾】で焼く。最初から落ち着いて、こうすればミスズに迷惑かけずにすんだ。これに私がラーイにポーションを上げるのを繰り返す。更に30分が過ぎた頃だった。
「──ふう、エヴィーが立ち直ってくれてよかった。これで最後!」
スパンッと数百以上の矢を放つ小気味のいい音がした。その最後の音が響く。無事に片付けることができたようだ。
「よかった。ミスズ。迷惑かけて悪かったわ」
三階層でラストの相手をするよりはこの階層は簡単だという。その情報だけは嘘じゃ無かったようだ。
「まあ、ちょうどいいレベル上げにはなったよ。それにこんなに遠慮なくばかばか矢を放てるのも、エヴィーが用意してくれてるおかげだしね」
マジックバッグを私個人で買い足して、ラーイに持たせていた。そしてその中にミスズの矢は一万本入っていた。私は消耗品が万が一にも切れることがないように徹底的に用意していた。
「それでもよ」
さすがにラーイが疲れたので、止まって休憩した。
『──主。もう十分だ。急ごう』
しかし、一分もしないうちにラーイが立ち上がった。無理しているのは分かる。とはいえ、ここで止まっていて、ゾンビがまた群がって来たら何をしているのか分からない。私とミスズは再びラーイに乗り込むと走り出した。
「ミスズ。色々ありがとう」
「何が?」
「私が馬鹿みたいに怖がっても嫌がらずに付き合ってくれてるでしょ。ユウタのことでもかなり譲ってくれたし」
「いいの。それにエヴィーが怖がるから、私は逆に落ち着けたよ。大体、この階層を私一人で回らなきゃいけなくなってたら、さすがにホラーに強い私でも泣いちゃうよ」
ミスズは私が気にしないようにしゃべってくれる。もし虹カプセルが出なくてもミスズとこうしてパーティーでいたいと思った。
「ここが終わったら多分、イマリの誕生日ね」
「伊万里ちゃん、この階層一人で大丈夫なのかな? レベル上げはともかく、クエストが大変そう」
「さあ……。ユウタはとにかく一日でも早く、ダンジョンを攻略していきたいみたいだから、そうなる方法をとるのよね」
「祐太って意外とその辺は待ってはくれないよね」
ユウタは仲間がついてこれるように努力はする。しかし、最終的についてこれないのなら置いていく。そこで本当に立ち止まったりはしない気がするのだ。
「最初は私の方が祐太を置いてくぐらい、やれるつもりだったんだけどな」
「そうなの?」
「今は必死に追いかけてるけどね。伊万里ちゃん。どんな子だろ」
ミスズに『泥棒猫』という電話をしてきた事以外は一切接点のない少女。私は声も聞いたことがない。私はラーイの大きな背中の上で、イマリの姿を思い描いた。





