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第八十話 残敵掃討

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」


 ジェネラルが死んだ途端に怒り狂ったように、メイジ20体から20発の火の弾が飛んでくる。次々と降り注いでくる火の弾の中、俺は美鈴達の方に駆け出していた。


 足が重度の火傷で動きにくいなんてものではなかった。そのせいで、火の弾を躱し切ることができず喰らう。火傷がひどくなると足が治らなくなる。急いでポーションを取り出して飲んだ。


 火傷が急速に減少し、ジェネラルに折られた腕の骨がポーションの効果で正常な形になった。体の痛みも引いていく。それでも重傷を負いすぎた。完全には治り切らず、特に美火丸装備のない足が酷い。


「ギャ!」「ギャ!」

「ぐぅ、邪魔だ!」


 足を動かすたびに激痛が走る。でも、ジェネラルがいなくなったからって、見逃してくれるわけがなく、ソルジャーが二体前に回り込んできた。


「煩いんだよ!」


 ソルジャー二体が大剣を同時に振り下ろした。


「クソ!」


 よけるために横に大きくとんだ。二体どころか残りのソルジャーがどんどん群がってくる。


「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」


 そして、メイジはジェネラルの命令を再現している。ソルジャーがいても平気で火の弾を放ってきた。この戦法を美鈴たちのところでとられたら、まずい。けど、ポーションを飲んでもまだ体全体が痛い。


 いつものように動けない。追い付かれたソルジャーの首を落としても、その間にメイジの火の弾をまた喰らう。


「熱い! 痛い!」


 休みたい。止まりたい。しかしゴブリンがどんどん群がって、メイジはソルジャーごと俺を殺そうとしてくる。ジェネラルがいなくなったことで余計に自軍のダメージを気にしてない。


「そっちだって俺に殺されるんだぞ!!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」


 20発の火の弾が、再び躊躇なく放たれた。


「【石壁】!」


  とにかく防がなければいけなくて、石壁を作り出したが、ソルジャーがそれをすぐに壊した。火の弾を喰らって、せっかく回復した身体がまた燃え上がった。足の酷い火傷で意識が朦朧とする。


 視線を向けると美鈴たちがゴブリン軍に取り込まれていた。


 向こうはまだジェネラルが残っていた。指揮されて、次々にメイジの火の弾が放たれている。リーンが必死にジェネラルを倒そうとしているが、ジェネラルの体にブルーバーはかすり傷しかつけられない。


「【加速】!」


 【加速】を唱えると美火丸の装備がない足が千切れそうなほど痛い。それでも自分の体を慮っているひまはなかった。


「引き離す!」


 追ってきていたソルジャーとメイジは俺のスピードに追いつけなくなって、距離があく。逆に美鈴達との距離が縮まっていく。


 敵軍の最後尾に届いた。メイジが一番後ろにいた。メイジの頸から上を斬り飛ばした。しかしここでメイジの数を減らしたところで、それほど向こうのダメージにはならない。最後のジェネラルをさっさと殺さなきゃいけないのだ。


「合流優先!」


 美鈴たちのもとへと駆けつけようと膝を曲げてジャンプしようとする。


「……」


「……」


「うん?」


 だが動かない。足が曲げた状態で動かなくなった。なぜ動かないのかと見ると足の一部が炭化していた。やばい。放置したら足が治らなくなる。慌ててポーションを飲み干す。


 追いかけてくるソルジャー達に、追いつかれそうになりながらも今度は足を伸ばしたら、動いた。痛いのを我慢してジャンプすると美鈴たちのもとへと着地した。


「ユウタ!?」「向こうは!?」

「ジェネラル殺して置いてきた! ジェネラルを殺す! フォローを!」

「「OK」」


 俺が言葉にした瞬間、リーンが思いっきりジェネラルに腹を蹴り飛ばされて血を吐く。それでも【二連撃】を放つ大剣だけはブルーバーで受け止めていた。もはや向こうも女に対して容赦が無い。


 さすがにこの状況で女を生け捕りにするなんていう思考は、向こうも働かせていないようだ。まずジェネラルを殺すべきだと俺は美火丸を構えた。


「【蛇行三連撃】!」

「ゴア!」「【ギャ】」


 しかし、ジェネラルに『庇え』とでも命令されたのか【剛力】を唱えたソルジャーが体当たりしてきて、俺も地面を転がされる。すぐに体勢を整えて、そのソルジャーを斬り飛ばした。


 それでもソルジャーが向かってこようとするのをエヴィーが【水陣】で防いでくれる。リーンもブルーバーでソルジャーの足を斬る。他の敵は仲間に任せ、俺は思いっきり地面を踏みしめた。


 応戦してきたジェネラルが自分に【剛力】をかけて【二連撃】を放った。俺も【蛇行三連撃】を放つ。メイジが火の弾を放ってくる。しかしジェネラルを巻き込むことを恐れて二発しか来てない。


 俺は斬撃でジェネラルの攻撃を受け止めた。


 火の弾のダメージは、


「エヴィー!」

「な!? バカ! 【水陣】!」


 すんでのところでエヴィーが魔法で火の弾を防いでくれる。水蒸気が大量に発生してお互いの視界を奪う中、俺の【蛇行三連撃】の残りの斬撃が最後のジェネラルの首を捉えた。


「終わりだ」


 水蒸気が晴れるとジェネラルの首が転がっていた。ジェネラルが正真正銘全員死んだ。ゴブリン軍は一瞬動きを止める。


 しかし、


「「「「「「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」」」」」」」」


 残りのゴブリン達が一斉に叫んだ。


「みんな! 残敵掃討!」

「「「了解!」」」「がう!」


 ジェネラルがいなくなったゴブリン達は統率を失う。それにより、リーンとエヴィーが協力してメイジとソルジャーの数を減らし、弓が近距離過ぎて使えない美鈴が、槍でライダーに応戦していた。


「【二連槍】!」


 美鈴がスキルを放つ。美鈴は近距離になってしまった時に、槍で自分の身を守ることが多い。そのせいか、槍のスキルが一つだけ生えていた。二連撃の槍版で、同時に二回の突きを放つ。


 おかげでゴブリンライダーの相手だけならなんとかなっていた。


「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」「【ギャ】!」

「【水陣】!」「【石壁】!」


 お決まりの絨毯爆撃。それでもジェネラルがいなかったら怖くない。誰を狙うべきかが決まっていないから、火の弾がバラけた。指揮官のいない軍隊。


「ずいぶん単調だな!」


 ソルジャーが俺とエヴィーの【石壁】と【水陣】を破ろうとしてくるが、リーンと美鈴が阻んだ。リーンはソルジャーを、美鈴がまだ殺しきれないライダーを防護壁の隙間から攻撃するのだ。


「五人で固まれ!」


 きっちり固まって、死角がないようにした。ジェネラルが三体も居れば、こっちが五人で固まったところで突き崩されただろうが、今はもういない。


「これは勝てそうだよね?」

「油断しない!」

「わ、分かってる」


 美鈴が極度の緊張状態が続いていた事に気が抜けた声を漏らした。エヴィーがたしなめる。ゴブリン軍の残敵は確実にその数を減らしていった。それでも逃げるということを知らないやつらだった。


 完全に負け戦だとわかっているはずなのに、それでもがむしゃらに向かってくる。まるでジェネラルの弔い合戦とでもいうように誰も命を惜しまない。そうされると、こっちもダメージを負ってしまう。


 最後まで倒し切ったとき、美鈴もエヴィーも俺もリーンもラーイもあまりの疲労で地面に倒れ込んだ。


「つ、強いー」


 美鈴が足を深く切られていたようで、ポーションを飲んでいた。


「ぷはー。一応正面から倒すことはできたけど、死ぬかと思ったー」

「いろいろ反省も多いわね。前衛トップのユウタとは離れない方が良かったかも」

「というよりジェネラルの作戦で、無理矢理祐太と離されたって感じがしたけど」


 エヴィーはラーイが必死に守ったのか一番ダメージが少なかった。でも、その分、ラーイが深手を負っていて、ライオンの姿で地面に寝そべり辛そうだった。今はエヴィーがポーションを飲ませてあげていた。


「ラーイ、大丈夫か?」

「がう」


 俺が心配してラーイを覗き込むと、ラーイも俺を気にして、俺の火傷した足を舐めてきた。


「いつっ。はは」


 ラーイは俺こそちゃんと治せと言ってくれてるのだとわかった。そう。1000万のポーションで足が治りきらないのだ。特に炭化してしまった部分が1000万のポーションではどうにもならないみたいだった。


「ユウタ。あなたの火傷が一番ひどいわ。これで治して」


 そういってエヴィーが出してきたのは、薄い緑色の瓶に入ったものだった。


「それは?」

「中級ポーションよ。念のためにこれも10本買っておいたの」

「うわー、その、ありがと。これ高いだろ?」


 中級ポーションはブロンズガチャから出てくるもので、5000万する。市場に出てくるのはこのポーションのもうワンランク上のポーションまでだ。


 ポーションは普通であれば、絶対に探索者が手放さないので、市場には出回らない。だが、1億までのポーションは【万年樹の木森】が量産することが出来る。そのおかげでポーションは高価ではあるが、市場に出回る。


「私たちはこれからもっと強い奴に挑むのよ。5000万ぐらいなんだっていうのよ。これで無理なら1億円のポーションだって五本買ってあるわ」

「エ、エヴィー。すごいね」

「エリクサーを用意してみせたあなたに言われてもね」


 エヴィーが肩をすくめた。それでも5000万有れば、かなり高級な家が一軒建つ。そう思ったが、ここでそんなことを話し合っても仕方がない。俺は中級ボーションを飲んだ。そうすると体が薄い緑色に発光する。


「どう?」

「大丈夫?」

「ああ、大丈夫……」


 一応、体の各部分を動かして確かめてみる。全速力で走って、ジャンプして、美火丸を振る。【蛇行三連撃】も【加速】と【剛力】を使用した上で使ってみる。アカシアの木を切ってみると、見事に切断して断面が燃えた。


「いけそうね」

「あ、ああ」

「良かった」


 エヴィーもだけど、美鈴も後ろで安堵してくれていた。


「それとリーン、お手柄よ。あなたがしっかりジェネラルに耐えてくれたおかげで、なんとかなったわ」

「リーン強かったよ」

「さすがリーン」


 俺たち3人に褒められてドヤ顔になっているリーンが可愛かった。リーンはジェネラルに勝てなかったから、先ほどまで難しい顔をしていたのだ。


「ユウタ。リーンにご褒美」


 ハイブルーになっても以前のリーンと同じように、気軽に抱きついてくる。リーンは素肌のままのような見た目になってる。そしていろいろ成長している。だから気持ちいい。リーンに密着されてムラッとして動揺した。


「それに比べて私は……」


 美鈴は暗かった。【変色】のスキルで矢は当たるようになったのだが、後方からの支援役なのに、支援攻撃が殆どできなかった。


「ミスズ。槍でライダーを殺してくれただけでもかなり助かったわよ」


 エヴィーが言う。


「でも肝心の弓がこれじゃ……」

「俺もエヴィーも美鈴の事はフォローすると決めてる。大体、不意打ちじゃないと全く殺せなかったときより、弓もかなり良くなったんだから元気出さないと」


 更に俺も言った。


「私、虹が出るまでやっぱりお荷物だし」

「ミスズ、自分のことをお荷物とか言わない。仲間でしょ?」


 エヴィーがもう一度言った。


「エヴィー……」


 俺のことで美鈴はかなりエヴィーに譲った。美鈴は俺とエヴィーがエッチなことをすることを許してから、今日の朝になっても文句を言わなかった。そのことでかなり2人の関係が改善していた。


「あとは、この地域の集落に残っているゴブリンを、今度こそ一匹残らず始末するだけよ」

「そうしたら、ゴブリン大帝が出てくるっていう話だよね」

「ゴブリン大帝はゴブリン軍全員より強いんだよな」


 これ以上強いというのは一体どれほどの強さなのだろうか。本当に俺たちで対処できるのか。思わず3人で黙り込んでしまった。


「と、とにかく一旦休憩しようか? さすがに疲れたよ」


 俺たちは死骸がたくさんある場所から離れて、地面に座り込んだ。そしてガチャの白カプセルから出てくるペットボトルの水を取り出すと、自分たちにかかっている血を洗い流し、汚れなども落としていく。


 カプセルから出てくる水は2ℓのものが10本セットで入っている。ガチャから出てくるものとしてはかなり安い。それでも、その保存性の高さから1本1000円で売られている。それを平気で汚れを落とすためだけに使っている。


 とても高いガチャの水だが店頭に並べば一瞬で売り切れる。他の白カプセルでも同じだ。災害時の備えとしてこれほど便利なものはないからだ。


「ペットボトルの水でも1000円だもんな。さっきなんて1000万のポーション飲んで、5000万のポーションも飲んだよな」

「もったいないよねー」


 美鈴がいたずら心を起こした。後ろから抱きついてくる。さっきまで服を脱いで体の汚れを落としていた美鈴である。どういう状態の美鈴が抱きついてきているか分かって緊張した。そういうときじゃないのに興奮状態になる。


「ミスズ。そういうのは全部終わってからにしなさい。これで終わりじゃないんだから今は戦いに集中する時よ」

「はーい」


 エヴィーに注意されて美鈴はあっさり離れた。もったいない気もするが、今は集中が乱れる方が怖かった。


「それにしても美火丸が……」


 俺はかなり傷んでいる装備を見た。美鈴たちは控えの装備に変えるだろうが、俺はバフがあるから美火丸の炎刀と胴鎧と籠手はそういうことができない。特に籠手がひどくて、中程まで深く傷が入っていた。


「ジェネラルの【二連撃】で骨が折れてしまった時のやつだよな。ごめんな。まだまだ俺が弱いから、お前に頼っちゃうな」


 美火丸は数日すると綺麗に治ってしまう。だから本来であれば治るまで待ちたいところだ。だが、一日経てば、またゴブリン軍が復活(リポップ)してしまう。そうなると、そいつらを殺してから、またゴブリン集落を全滅させてという繰り返しになる。


 もちろん1度目よりも2度目の方がうまくやれるだろう。でも、それをやったら、その間にレベル15になりかねない。そうなれば、S判定をもらうことができなくなる。だからこのままゴブリン集落へと乗り込み、戦うしかない。


「本当、こんな状態でゴブリン軍より強い奴に挑むとか」


 このクエストが達成不可能と言われるはずである。


「祐太ー。何食べる?」


 俺が自分の装備を見つめて難しく考えていると、美鈴たちは自分たちの体と装備を綺麗に整え終わったようで、昼食の用意を始めていた。


「カツ丼」

「そればっかり。他の物も食べなさい。栄養が偏りすぎ。か、彼女として看過できません。はい。チンジャオロースとご飯」


 美鈴が渡してきた。ラーイのライオン形態の背中に乗ってリーンが見張りをしていた。


「ええー、別にレベルが上がってるんだから、同じものばっかり食べても栄養が偏る心配しなくていいと思うんだけど」


 何しろレベルアップしている探索者は病気や肥満とは無縁の存在になるのだ。


「それでももうカツ丼はありません。祐太が全部食べちゃったから。私が祐太のことを思って100個ぐらいだしてあげたのに一人でばくばく食べちゃったじゃない」

「そうだった?」


  白カプセルから出てくるカツ丼は衣がサクサクでめちゃくちゃうまい。でも100個も有っただろうか?


「私。ラーメン」

「エヴィーもそればっかり」

「い、いいでしょ」

「じゃあ私は暑いし冷や麦にしとくか」

「リーンは何でもいい」

「がう」


 ラーイもなんでもいいみたいだった。俺たちはその場でご飯も済ませてしまった。トイレも終わらせる。リーン達と見張りを交代して、一時間ほど休憩してから集落に向かおうという話になった。


「ミスズ。少しユウタと2人でしゃべりたいの。構わない?」


 食事が終わってから、エヴィーが言ってきた。


「いいよ。というか、私の許可取らなくていい」

「……そう。ありがとう」


 エヴィーが優しく美鈴にハグして頬にキスする。


「な、なにをっ、変な気分になるからやめてよっ」


 わかる。エヴィーの美しさで近づかれるといくら女同士でも、緊張するだろうな。


「どんな気分?」

「いや……。どんな気分でもいいでしょ!」

「ふふ、ミスズ。今度東京を案内してくれない?」

「私が?」

「今までせっかくパーティー仲間の女同士なのに何もして来なかったでしょ。ようやくちょっとユウタを分け合えるようになったんだから、嫌?」

「べ、別にいいけど」

「本当?」

「うん。2人で行くの?」

「ええ」


 そんなやりとりがあってから、美鈴が俺とエヴィーが話すために離れると、リーン達も離れた。


「エヴィー、なんの用事?」


 俺が聞いた。


「好きだって言ってくれたこと。寝起きすぎて、いまいち自信がもてないの。夢だと思ってしまった。でも、目が覚めて、自分の体を見て、夢じゃなかったんだって思った」

「あ、ああ」


 確かに寝起きの一発目が異性からの告白では、白昼夢でも見ているのかという気分になるだろう。


「その……ごめん」

「正直、ユウタとああいうことができるのは時間がかかると思ってた。ユウタは私が好き? ちゃんとそう信じていいのね?」

「い、いいよ。俺はエヴィーが好きだ。愛してる」


 あっさりそう言った。ここでいつも曖昧な態度を取ってきたのが余計なパーティー内での揉め事の元になったのだ。自分の中で迷いがないかどうか確かめる。俺は目の前の美しくて、可愛くて、ドジなところもある。


 それでいて傷つきやすいところもある。そういうエヴィーがちゃんと好きなんだと思えた。俺からエヴィーに近づいてその体をしっかりと抱き締める。どこを触ってもエヴィーは怒ることなく、むしろ上気した顔でこちらを見つめてきた。


「ユウタ。私、本当に本気にするわよ。あなたがそっけなくしたってもう諦めないから」

「構わない。そんなことするつもりもないし」

「そっか。それならいいわ」


 もう少しでキスしそうなところでエヴィーが俺から離れた。戦いを前にそれ以上何かをしようという気は無いようだった。


「いいわよ、美鈴」


 あっさり終わると、次はあなたでしょっというような顔をしていた。


「エヴィー。私は後でいいよ。今回のクエストが全部終わって4階層も攻略しちゃって外に出てから。エヴィーのついでみたいになりたくないし」

「いいの?」

「いいの。それより東京のどこに行きたい? 伊万里ちゃんのレベル上げの間、結構時間あるから、かなり付き合えるよ」


 美鈴は今俺と二人で喋る気はないようだ。エヴィーと話し始めた。美鈴とエヴィーが仲良くなってくれたのが一番ホッとした。今まで俺のことがあるせいで仲良くしたくてもできなかったみたいなものだ。


「この2人が俺を好き……」


 学校での自分の扱いを思い出す度にこれは何かの夢ではないかと思った。それでもこれは夢ではなくて現実で、美鈴とエヴィー、そして伊万里は同時に俺を好きでいてくれる。


「まず浅草寺に行きたい」

「ええ、あそこダンジョン有るよ。危なくない?」

「変装すれば大丈夫よ。今度は美鈴が女で私が男よ」


 美鈴がエヴィーの東京案内をする。この二人で街中なんて歩いて大丈夫なんだろうか? エヴィーが綺麗なのは言うまでもないが、美鈴だって魅力67である。顔で売っている芸能人でも50はなかなか超えないと言われているのだ。


 美鈴も規格外に綺麗だ。変装はするみたいだが、心配だ。俺も一緒に連れて行ってくれない? というか一緒に行きたい。『一緒に行きたい』と口にしたいけど、せっかくあの2人が仲良くなったのに、邪魔してどうする。


 ガールズトークが終わるのをおとなしく待って、それからゴブリン大帝のクエストについて話した。


 といっても大帝のクエストは、ほとんど情報がなかった。挑めば死ぬとも言われているクエストで、実際に挑戦した人がかなり死んでいるので、情報がない。ただ、


【加速】【剛力】【咆哮】


 この三つのスキルを持っていることだけは確かなようだった。




「じゃあ行きますか」

「ええ」「うん」


 これ以上は未練になる。俺たちは一時間キッカリで休憩をやめた。そしてゴブリン集落を殲滅しに行くことにした。今度こそ一体残らず殲滅する。ゴブリン軍を倒したことで主力の居なくなった集落の殲滅など簡単なことだろう。


 ゴブリン大帝との殺し合いが始まるのだ。

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― 新着の感想 ―
米崎がどっかで見てるはず
うーん、戦闘シーンでスキルと魔法以外まともに描写されてないからイマイチ主人公たちの技術力がイメージ出来ない 大帝がパワーファイターなことを考えると「技術」と「知恵」と「勇気」で正面から倒せってことだよ…
[良い点] 夜の営み? 昼間しかしてない気がするが…?
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