第八話 レベルアップ
「飲め」
南雲さんが、ポーションの瓶を差し出してくれた。いつの間にか隣にいるのは心臓に悪いのでやめてほしいです。
「ポーション……でもお金が……」
「バカか。さっさと飲め。死ぬぞ」
きっと俺では代金を支払うことができないほどの価値がありそうなポーションだ。だってあのダンジョンショップで買ったポーションと違って、淡く輝いてる。これ1000万したやつじゃないのか?でも、放置すると間違いなく死ぬ。
頭をペコリと下げて、その瓶をあおった。腹部が光って矢が勝手に抜けていき、そして傷口がふさがっていく。
「はあはあ」
先ほどから息が上がってばかりだった。体も疲れるのだが、命のやり取りに何よりも心が疲れる。こんなことをまだまだ続けなければいけないのか。
「どうする。やめるか?」
俺の心を見透かしたように南雲さんが再び聞いてきた。
「や、やめません!」
しかしノータイムで答えた。ここでおめおめと逃げるぐらいならば、いっそ死んだ方がマシだ。
「そうかよ。ほら、これ食え」
南雲さんが、アイテムボックスの黒い空間から、チョコ菓子を出してきた。どこにでも売っているアーモンドチョコである。
「食べ物なら持ってます」
バックパックにすぐに食べられるおにぎりを入れていた。これ以上この人の世話になるばかりではいけない。自分の持ってる物は、自分で賄わなきゃいけない。
「バカ。今日ぐらいはいいんだよ。ほら食え。それともチョコ嫌いか? 俺は好きだぞ」
「俺も好きですけど」
「じゃあいいだろ。意地張るのは明日からにしとけ」
そう言われて正直ありがたいと思って受け取った。
アーモンドチョコは美味しくて、心が少し落ち着いた。距離があるとはいえゴブリンがその辺にいるので、立ったまま食べていたのだが、南雲さんが草原に腰を下ろした。
俺にも腰を下ろせとパンパンと隣の地面を叩いてくる。
「思ったよりハードだろ」
なんだかまだ腹が痛い気がして、お腹を庇いながら座った。
「正直なめてました。拳銃があれば、あとは楽勝みたいに考えてたんです。ちょっと前の自分を殴ってやりたいです」
「まあ実際、拳銃があれば楽なのは本当だ。それでレベルが上がるなら、1階層でのレベル上げは拳銃ですることだ。でもそれが出来ないからな。本当、結構厳しいよな」
俺の持っていたアーモンドチョコの箱から、南雲さんが一つとって自分の口の中に入れた。アーモンドの砕ける音がして美味しそうに食べる人だなと思った。
「厳しいだけに見返りも大きいんですよね。特にレベルアップはすごい って聞きました」
「そうだ。レベル10ぐらいになると拳銃持った相手とかでも楽勝になるぞ。知能や記憶力もよくなって覚えたことを忘れなくなる。それにな、そうなってくるとその他にも結構いいことが起きる」
「どんなことですか?」
「女がほっといても向こうから寄ってくる」
「そ、それ、本当ですか? 何かの幻じゃなくて?」
俺は虐められっ子の例に漏れず見た目も良くないし童貞だしモテない。妹の伊万里を除けばまともに女子と会話したこともない。モテるどころか蔑まれて見られることが多いぐらいで、モテるなんてこと想像もできなかった。
「最初はびっくりするぜ。あんなに見向きもしてこなかった女が、勝手に腰振って寄ってくるんだ。股なんて向こうが勝手に開いてくれる。どうぞ喜んでってもんだ。さらにレベルが上がって、高レベルになってくるとマジモンの大人の対応まで変わってきやがる」
「大人?」
「おうよ。明らかに俺より年上の偉そうなおっさんがペコペコしてくるんだ。正直、最初は戸惑ったぜ。俺自身は同じ人のつもりだったから、周りにとって何がこんなに違うのかって理解できなかった。今でもあんまよく分からんけどな」
「それって人間不信になりそうですね」
「だな。最初は周りの大人とか女がすごく醜く見えた。それでイラついて憂さ晴らしに綺麗な女を適当に抱いては捨てたりして、無茶苦茶してたな。『お願い捨てないで』とか言われても鬱陶しくてよ」
「最低ですね」
「けっ、まあそんなことしてたら、あのクソババアにボコボコにされたんだけどな」
「南雲さんをボコボコ……すごいクソババアがいるんですね」
そもそも俺なんかじゃこの人がどこまですごい人なのかすら分らない。それでも転生できるというし、人類最強ランキングトップ1000には入っているはずである。
「あれは怖かった。『ちょっと躾がなってないようだね』って、ちんちんちょん切られたからな。おかげでエリクサー手に入れるまでちんちんなかったからな」
「うわあ」
聞いてるだけで寒気がした。
南雲さんもちんちんちょん切られたことを思い出したら恐ろしくなってきたのか震えていた。ダンジョンでは女だから強いとか弱いとかがない。高レベル探索者に男女の優劣はなく、女でも男より力が強いのだって山ほどいる。
「俺、クソババアって人にちんちんちょん切られたくないんで、絶対女遊びはしないようにします」
「でもやってみたら楽しいぞー、女の体は気持ちいいぞー」
「変なこと勧めないでくださいよ」
ニヤニヤしてくる南雲さんが、子供みたいだった。
でも本当に自由に生きてるんだなと思うと羨ましかった。そして自分も大変だけど今自由だと思った。少なくともあの学校の窮屈な束縛から解放されている。だから殺されそうになったのに気分が良かった。
「何か楽しいなあ」
「じゃ、次行くぞ」
10分よりは長めに南雲さんは休憩を取ってくれたが、切り替える時は淡々としていた。
立ち上がってお尻についた草を払うと、再びその姿が見えなくなる。数百m離れた場所でまたゴブリンが死んだ。残されたゴブリンはまた弓を持っていた。
「またゴブリンアーチャーか。これって飛び道具に慣れろって事だよな。でも矢を全然避けられる気がしないんだけど」
弓を避けるというのは、アニメや時代劇などでは見ることだが、達人でもなんでもない俺はそんなことできない。
そもそも太陽の光が強いこともあって矢自体が非常に見えにくかった。加えて高速で飛んでくるので、放たれた後にそれを目視するのが難しい。
だから射ったと思ったら俺はその場から体を動かして、別の位置に行く。距離が離れている状態ならこれでなんとか不恰好ながら避けられる。
しかし近づいたときはこれだと遅かった。そのために一発二発は必ず当たってしまう。
「グギャ……」
「そんな顔して、そんな声出すなよ」
腹に槍を突き刺したゴブリンが、情けない声を出して、自分が死ぬことを悟って崩れ落ちていく。
矢の一発とか二発ならば、首飾りが防いでくれた。しかし何度も当たってしまうと首飾りの耐久度を超えて、矢が俺に刺さる。
バリアがどれぐらいで壊れるのか、再び試したくない俺は、とにかく急いで近づいてゴブリンアーチャーを突き殺す。首飾りのおかげで、慣れてくるほどにゴブリンが弓矢を持っていてもあっさり倒せるようになった。
「あっさり倒せても嬉しいって思えないな」
ゴブリンの腹に刺した槍を引き抜く。
恨みがましくこちらを見ているゴブリンの死に顔が、何とも言えない罪悪感を起こさせる。こればかりは慣れそうもなかった。
それでも学校では何一つ夢中になれなかった俺は、夢中になっていることに、やりがいも感じる。その時だった。
【レベルアップのお知らせをいたします】
「声? 女の人?」
【あなたはゴブリン10体を倒しレベル2になりました】
頭の中に声が響いた。レベルアップの声である。
「レベルアップ?」
思わず自分の口から声が漏れた。レベルアップってこういう感じなのか? 頭の中に響いた声と同時に、体が白く輝いて、不思議な発光現象が起きた。
そうすると体が急激にカッと熱くなってくる。それが治ると、発光現象が消えて奇妙なほど体に筋肉がついていた。
体力が湧き上がっていく。今ならかなり重いものでも持ち上げられそうで、実際背負っていたバックパックと十字槍がやけに軽く感じた。
「お、レベルアップか。初めては結構驚くだろ」
南雲さんが近づいてきて声をかけてくれた。
「これ、本当にレベルアップしたんですか? まだゴブリン10体目ですよ? 南雲さんに手伝ってもらったのに」
レベルアップは状況によって全く違う。
例えば探索者を雇って金持ちが、瀕死まで追い詰めたゴブリンに最後の一撃だけを与える。この方法だとどれだけゴブリンを倒してもレベルアップしないそうだ。
その辺は拳銃と似ているが、こちらの事実は拳銃と違って広く知られているし、中3の学校の授業でも教えられる。
だから俺は南雲さんに手伝ってもらっている状況でのレベルアップは、いくら一対一の状況にしてもらっても、できないのではないかと心配していた。
「俺に手伝われてるって言っても状況的には結構厳しいはずだぞ」
「厳しいのは厳しいですけど……」
ダンジョンで一番厳しいことは本当に死んだり、治らない傷を負うことだ。でも南雲さんがいるおかげで自分はその心配をほとんどしてなかった。ポーションを貰ってからは特にこの人の優しさに甘えているのも感じた。
「ま、上がったんだから素直に喜べ。ステータスを見てみろ。見方は分かるな?」
「【ステータスオープン】ですね」
言葉と同時だった。俺の目の前にフッと画面が現れ、そこに俺が理解できる言葉で、俺のステータス画面が現れた。
名前:六条祐太
種族:人間
レベル:1→2
職業:探索者
称号:新人
HP:10→15
MP:0→10
SP:0→13
力:11→16
素早さ:10→15
防御:10→15
器用:10→13
魔力:0→12
知能:10→14
魅力:8→16
ガチャ運:5
装備:ブロンズ級【アリスト】(バリア値100)
魔法:ストーン級【石弾】(MP4)
スキル:ストーン級【二連撃】(SP3)
「これがステータス……。なんだか初めて見ると感動しますね」
ダンジョンでのステータスの見方は中学校の義務教育に加えられている。
身分を明らかにする証明書としても利用され、よほどのダンジョン嫌いでない限り、たいていの大人はこのステータスだけは欲しくて、ダンジョンに入ってすぐに出るということをしている。
何しろこのステータス。
追加したければ年齢や住所も表示でき、カスタマイズすることも可能だ。つまり本人が見せたい項目だけを人に見せることができる。ただし嘘の表示をすることは高レベル探索者でもできないらしく、もっとも信用される証明書にもなるのだ。
「見てもいいか?」
「あ、はい。どうぞ」
普通、カスタマイズしていないステータスを見るのはマナー違反もいいところである。
しかし俺の場合レベル2であり、隠すようなことがないし、隠さなきゃいけないとしたら南雲さんからもらった装備品のことだが、それを南雲さんに隠したら馬鹿である。
「ふむふむ。お前ガチャ運えぐいな。レベル2で5とか初めて見たぞ」
「ああ、俺って何か昔からくじ運だけはいいんですよ」
「マジかよ。俺は最初2だったから羨ましいぞ。後は普通か。いや、魔法とスキルが出たのか。どっちも出るのは運がいいな」
ガチャ運とはガチャを引いた時の当たりが出る確率である。数字が上であるほどガチャ運が高いことになり、大抵の人は最初3である。
俺はどういうわけかあんなに学校で虐められてたのに、正月のおみくじだけは大吉を引いてたし、ゲームのガチャなどもレジェンドクラスのキャラが当たることが多かった。
「この石弾とか二連撃って有名ですけど、使い勝手どうですかね?」
「この魔力だと石弾は射程10m以内なら、お前が買おうとしていた9mmの弾丸と大体一緒ぐらいの威力かな。二連撃の方は、槍でも刀でもどっちでもいいから、1回振ると2回振ったことになる優れものだ。当たりさえすればゴブリンならまず間違いなく即死してくれる。お前、もう1回ゴブリンをちゃんと刺してたから、それで生えたんじゃないか?」
「そういうのって関係あるんですか?」
「結構ある。石弾もお前が多分、銃に未練があるから生えたんじゃないか。それにモンスターを殺す時にお前死にかけただろ。そんなことがあったりするとレベルアップする時にスキルとか魔法も出やすいな。わかってると思うがわざと死にかけても意味ないぞ」
「死にかける?」
そんなことがあったか?と俺は首をかしげた。
「アホ。言っとくが俺がいなかったら、お前、アーチャーの矢で死んでたぞ」
「そ、そういえばそうでしたね」
あまりにあっさり助かったので、そこまでの危機感が残らなかった。でもよく考えたら相当やばかった。南雲さんが高そうなポーションくれてなかったら、確実に死んでた。
「あ、あの、ポーションの代金なんですけど……。できれば出世払いで……」
「アホか。槍と首飾りの時も言ったが、やったものに金なんて取らねえよ。気持ちよくもらっとけ。ほら、これもやる」
そう言って南雲さんがアイテムボックスから先ほどと同じ物と思われるポーションを取り出した。青色に輝いていて、高そうだった。
「だ、駄目ですよ! こういうのダメだって学校で教えてもらいましたよ!?」
ダンジョン内で死にかけた時、近くに探索者がいてその人達に助けてもらった場合、何があってもその料金は支払わなければいけない。
それが探索者としての最低限のマナーだと言われている。
ダンジョン内ではルールなんてないから、踏み倒してもいいが、踏み倒したら相手に殺されても仕方がないと思えと学校で散々教えられたことだ。
「そんなもん知らん。俺はやりたい奴にやりたいものをやる。ちょっとお前のこと気に入ったからやる。それだけだ。受け取れ」
「いやダメです」
「じゃあ受け取らずに死んだらどうする? その時このポーション貰っときゃ良かったって後悔するか? そんで、俺は、お前にポーションやっときゃ良かったって後悔させるか?」
「……」
これは駄目だ。いくらなんでもこの人に甘えすぎだ。しかしゴブリンでこれだけ苦労したのだ。きっとこれから何回死にかけるかわからないし。死んだら終わりだ。
「槍とか首飾りも含めてお金はいつか払います」
「やると言ったらやる。金なんて払ってきたら、お前のその頭を張り飛ばすからな」
「それは困ります。南雲さんに張り飛ばされたら俺の頭がなくなっちゃいます。お金払う時は張り飛ばさないでください」
「けっ。意外と頑固だな。まあいい、勝手にしろ。じゃあ次はレベルアップもしたことだし2体同時に相手するぞ。今までと全然違うから気合入れろよ」
いよいよこれからゴブリンを2体同時に相手するんだ。大変なことだが魔法とかスキルを覚えたので、早く試したい気持ちもある。
ポーションとか首飾りとか全部入れたらすごい借金だけど、とりあえずそれは考えないことにした。
「……ちっ、面倒だな」
「面倒?……何見てるんですか?」
南雲さんが草原の彼方の方向を見て、どうしてか難しい顔で舌打ちした。
「何ですか? 面倒なゴブリンガンナーでもいますか?」
「お前だと見えないか。他の人間が入ってきた。あれは、穂積達か。なんで1階層なんかに……間違えて入ってきた訳じゃなさそうだな」
「他の人間が入ってくるなんて当たり前でしょ?」
ダンジョンは一人の独占物じゃないのだ。しかし南雲さんはだんだん焦った顔になってくる。この人がこんな顔をするとはとんでもなく強い人でも入ってきたのか? 俺も草原の彼方に目を向ける。
「あ、俺もちょっと見えますよ。人……かな?」
と、陽炎の浮かぶ草原の奥から探索者の姿が見えた。しかし俺には遠すぎてゴブリンではなく人間なのかと思えるぐらいにしか見えなかった。
「あの人達なんか面倒なんですか?」
「穂積って奴らだ。元は大学のサークル仲間の4人組。就職したものの4人とも全然仕事になじまなかったらしい。それで脱サラして探索者パーティを組んだらしいんだがな……。探索者になったのに容姿が全く良くならなかった」
「全く?」
「ああそれでちょっと拗ねちまって……あんま評判は良くない奴らだ」
「評判良くない相手なのに詳しいんですね」
「すごく嫌な予感がする。ゴブリンがそんなに増えてるわけでもないのに、1階層なんかで何してる?」
俺もよくよく目を凝らしてそちらを見ていた。でもやはり遠すぎて何をしているのかわからない。人間らしきものが動いていることがわかるぐらいだ。
「うわあ。嫌なもん見ちまったなぁ。ダンジョンの中で殺す気か?」
「こ、殺す!? え? そんな恐ろしい話なんですか!?」
「そりゃ今の時期にこんな1階層で用もないのにいる人間なんて碌なもんじゃねえよ。お前、俺のそばに寄れ。認識阻害かけるから。俺はともかくお前は見つかったら殺されるぞ」
俺は南雲さんのそばに慌ててひっついた。南雲さんが【隠れ蓑】と呟くのと同時に、自分の存在が希薄になったような気がした。
「た、助けないんですか?」
「何を?」
「いや、だって、あの人達、人殺しをしようとしてるんですよね?」
なんだかひとりの人間が地面に倒されたことだけは分かった。本当に殺されるんだろうか? 不安と焦燥に駆られる。
それなのに南雲さんはそのまま動かなかった。
かなりイライラしたような顔で様子を見守っている。俺が助けられるわけがなく、南雲さんを見るがまだ動く気配がない。この人やっぱりそんなに強くないのか? あっちのほうが遥かに強いのか?
それならそれでさっさと離れた方がいいのにそれもしない。
「あっ」
そうしている間に、人影が見えなくなった。どうやらダンジョンから出ていったみたいだ。
「やりやがったなー。かわいそうに」
ふっと南雲さんが俺の手をつないで次の瞬間。目の前に血を流して横たわる女の人がいた。転移したのか? この人やっぱり転移できるのか? いやそれより女の人がかなりひどい状況だ。
「完璧に死んじまってるか。生きてりゃ助けてやれたのに……くそっ」
南雲さんが生きてるかどうかを確かめていた。
「なんでこうなるかな……」
「なんで助けなかったんですか?」
「ううん、助けようと思えば助けるのは簡単だったんだが……。まあダンジョンにはいろいろあるんだ。あいつらが戻ってきたら面倒だし今日は帰るぞ」
南雲さんに手を握られた。そして次の瞬間、視界がぼやけた。めまいを覚える。先ほどまでとまた違う感触のする足場にいることが分かった。
ぼやけた視界がはっきりとして、すごく高級そうな家具と内装の部屋にいた。
「こ、ここは?」
「俺の部屋だ。池袋ダンジョンショップの上の階だと言えばわかるか?」
「あ、ええ」
部屋の中を見回す。女の人が一人ベッドの上に寝ていた。
「ちょっ」
豪勢なキングサイズのベッドに寝ていた。服も着ずに寝ている。はだけた布団から艶めかしいお尻が見えて、俺は慌てて視線をそらした。
高そうな絵画が飾られた室内。30畳ほどある部屋の床にはふかふかの絨毯が敷かれていて、ソファーに南雲さんが腰を下ろした。
「最後のはとびきりに刺激が強かったな。ダンジョンはたまにああいうのがあるから、弱いうちは見ないふりしとけよ。強くなったら助けるなりなんなり頑張ってみろ」
「あんなのがよくあるんですか?」
さすがにしょっちゅうあるのなら心がくじけそうだ。
「結構あるぞ。俺も助けてやったことあるんだけど、とにかくダンジョンの中は法律が適用されないからよ。 助けたら助けたで、その後がすげえ面倒臭いんだよ。後々加害者につけまわされても、警察には突き出せないし、加害者だからって殺すわけにもいかないしよ」
「………」
「ま、あんま考えすぎるな。どのみち弱いうちは助けようとしても100%お前が殺されてお陀仏だ。あと、結構血だらけだぞ。風呂入ってこい」
南雲さんに言われて自分の体を見た。自分の赤い血とゴブリンの緑の血がかなり付着していた。つい先ほど人間が人間を殺す場面を見てしまっただけに、血に汚れた体が、おぞましく思えた。





