第七十九話 ゴブリン軍
「うわー、すっごいいるよ」
美鈴がごくりと息をのんだ。
「本当、すごいな」
ゴブリンライダーの群れを一体だけ残して全滅させた。そうすると集落への連絡に戻った一体が、ゴブリン軍を呼び寄せる。連絡が来て、すぐに進軍してきたゴブリン軍の数は、ゴブリンが102体居る中隊規模。
小隊となる50体ずつをジェネラルが率いてきて、2隊に分かれてこちらを睨んでいた。サバンナから立ちのぼる陽炎の中、どこか現実感がなく、幻想から浮かび上がる異形の軍勢。近くをヌーの群れが移動していることが滑稽だ。
「こいつらに正面から挑めって話よね」
「そうだ。正面から挑んで打ち破れなかったら、ゴブリン大帝には挑まない方がいい。要はこいつら全部よりもゴブリン大帝一体の方が強いらしい」
ゴブリン軍を相手に集落で使ったような【溶岩】の魔法陣を使ったり、不意打ちばかりで戦うなんて方法はダメらしい。そんな戦法を使わなきゃいけない時点で、ゴブリン大帝に挑むのは間違っているそうだ。
何しろ【溶岩】の魔法陣をゴブリン大帝に食らわせるのは困難だし、そもそもあれは集団戦じゃないとあまり効果がない。不意打ちなんてものも、レベル16までの探索者のスキルではそもそも大帝に効果が見込めない。
じゃあどうやって勝つのかというと、勝てないのだ。いわゆる無理ゲーだ。その無理ゲーを無理ゲーじゃなくしてしまえることができて、高レベル探索者になれる可能性が出てくるらしい。
まだ3階層なのに意味不明の難易度だ。
米崎情報でレベル1000になれば半神になれるという話だが、人が神へと至る道は並大抵のことではないらしい。
「行くよ」
「「OK」」
俺はゆっくりと駆け出した。レベルアップで強化された体は、軽く走るだけでも普通の人間の全力疾走よりも速かった。彼我の距離500mからぐんぐん近づいていく。リーンも横に並んできた。
ソルジャー20体。メイジ20体。ライダー10体。そしてジェネラル。合計51体。それが2隊。最初、3階層に降りてきたときはレベル7で、こいつらに勝てるわけがないと思った。あれから倍のレベルになった。
「ユウタ。リーンと二人で徹底的に蹂躙して。ゴブリン達が私やミスズにかまってる暇がないぐらい圧倒的に」
ラーイに乗っているエヴィーが並んできた。
「私のリーンは強くなった。それをユウタにも分かってもらうわ」
「了解。俺が一番前に出るから、リーンはしっかりサポートしてくれ」
「わかってるわ。リーンはそれが一番得意よ。それがしたいとずっと思ってたら、リーンはああいう体になったのよ」
「それって、どういう意味?」
「来た。私は下がるわ」
最初にゴブリンライダーの矢がまっすぐこちらに向かってきた。
弓なりじゃない軌道。弾丸のような直線軌道。リーンのブルーバーが展開して、俺が避けなくても、全ての矢を弾いた。連続して、ライダー部隊が後ろに下がったエヴィーに狙いを定め、矢が放たれる。
「【水陣】」
エヴィーが魔法を唱えた。エヴィーと矢の間に水の膜ができた。弾丸のような矢を防ぎ切ってしまう。エヴィーの新しい魔法で、敵との間に自分の身長と同じほどの水の膜を作るのだ。
水の膜の強度はエヴィーの魔力に依存するらしい。ハンドガンよりも威力のあるゴブリンライダーの矢が、水の膜にあたっただけで砕け散った。ライダー部隊が今度はエヴィーから美鈴に向かっていく。
ライダー部隊の動きはまるでこちらを調べているみたいだ。
「なるほど威力偵察か」
その弓がしなり、美鈴に向けて次々矢が放たれた。しかし射程の長い美鈴との距離は離れすぎていた。美鈴はライダー部隊の攻撃をあっさりよける。お返しとばかりに放った美鈴の矢が次々とライダーの頭を射貫く。
不意打ちではないのにライダーを仕留めた。美鈴の顔が嬉しそうだ。
「【変色】」
美鈴にも新しいスキルが生えていた。矢自体がカメレオンのように、景色と同化して目視が出来なくなるスキル。一つのスキルが生えただけで、それまでできなかったことが急にできるようになる。それぐらい効果のあるスキルだ。
「よし、美鈴もいける」
虹カプセルが出なくても美鈴だってかなり厳しい条件でレベルアップしている。まだ戦力外になんてならない。美鈴に【変色】のスキルが生えてから、3階層でも安定してゴブリンを殺せるようになった。
集落の監視櫓から支援攻撃する時でも【変色】のスキルが破られることは滅多になかった。自分たちのレベル上げは間違ってなかった。自分たちは普通のパーティーよりも強い。
そう思いかけて、サバンナにジェネラルの叫び声が轟いた。
「ゴアアアァッ!!!」
ジェネラルが叫んだ瞬間。アカシアの木が恐怖するように震え、ライダー部隊の動きが変化した。ライダー部隊は俺とエヴィーを無視した。全てが美鈴の所へと走っていく。
「ゴア」
ジェネラルが再び指示した。
今度はゴブリン軍本隊が二つに分かれた。ジェネラルに率いられたソルジャー部隊とメイジ部隊が、少し後ろからついてきていたエヴィーのもとへと駆け出した。当然、エヴィーはそれを避けようと離れる。
「何をする気だ?」
エヴィーを離しても俺とリーンがいる時点で戦略的には問題ない。ラーイのスピードがあるから、歩兵部隊ならエヴィーは楽に逃げることができる。それに美鈴だって今更ライダー部隊に負けたりしない。
【変色】と【精緻二射】があるし、ライダー部隊が美鈴のもとに到着する頃には狩り尽くせる。実際、美鈴の元へと一直線に走っていくライダー部隊の数がみるみる減っていく。
「指示ミスをしてる? うん? あんなところにヌーの群れが居たか?」
いつの間にか、最初に見たヌーの群れが、美鈴の後ろの方まで来ていた。
「がう!」
エヴィーは何かラーイに言われる。そうするとエヴィーはゴブリン軍の歩兵部隊から逃げていたのに、急に方向転換して美鈴の元へと走り出した。
「ゴアガアア!」
ジェネラルがもう一度叫んだのと同時だった。ライダー部隊20体が追加で草原の中から急に現れた。そいつらも美鈴の方へと一直線に向かっていく。美鈴とライダー部隊の距離が10mもない。
「へえ、面白いことをするな。ヌーの群れに隠れて近づいたのか?」
まるで人間の軍隊を相手にしているみたいだ。エヴィーが駆け付けようとしてくれてるが、エヴィーを追いかけていたジェネラルが率いる歩兵部隊が、更に後詰めに入ろうとしていた。
「あれは無理だな。エヴィー! 【移動召喚】だ!」
今度は俺が叫んだ。散々やってきたことだからエヴィーが聞こえた瞬間に理解する。リーンの姿が俺の横から消えた。そしてエヴィーの元に出現した。エヴィーの顔が面白くなさそうだ。
『ユウタはいつも自分が危なくなる作戦をとりすぎよ!』
『エヴィーの言うとおりだよ。うちは祐太が死んだらその時点で終わりなんだから、もっとみんなで支え合わないと』
そう言っていた美鈴が先ほどまでかなり離れた位置にいたはずのリーンが、エヴィーとともに目の前にいて驚いていた。
「主にミスズ、青レ〇ジャーリーンが助けに来た! ユウタがそっち! リーンはこっち!」
リーンはもうハルバートの形にこだわってなかった。効率よく首を狩れるなら、剣でもナイフでも、そして糸のような形でもいいようだった。
「はは、凄いよリーン」
リーンが最初のライダーの首を剣で刎ねたと同時に、乗っているライオンの首をブルーバーが糸のように巻き付いて締め上げて落としてしまう。美鈴とエヴィーの二人がこちらに頷いた。こちらは大丈夫だと言ってる。
『祐太、私が足手まといになるほど弱いと思う? もっと私を信じて。そうじゃなきゃ祐太だけがどんどん強くなるわ』
「これ以上は信じるしかない」
俺の方にもジェネラルに率いられた歩兵部隊が向かってきた。
「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」
メイジの火の弾が飛んで、合間を縫って、俺の周囲をソルジャーが囲む。火の弾とほとんど同時に斬撃を繰り出してきた。火の弾を躱しながらもソルジャー一体の片腕を落とし、完全に囲まれる前に【加速】を唱えて下がる。
しかし、すでに後ろに別のソルジャーが控えていて、上から斬り下ろしてきた。左右からも攻めてきて、足が止まった瞬間。
火の弾がメイジ部隊20体分、20発。
「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」
「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」
「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」
「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」
打ち込まれた。
絨毯爆撃をするように空が炎に包まれる。ジェネラルの指示の元、メイジはソルジャーもろとも俺を殺すつもりか?
「ここまでやるのか」
仲間意識があり。仲間が殺されたら怒る。しかし、人間を殺す時には、仲間を犠牲にしてでも殺しにくる。死ぬことに対する恐怖がないと言われるモンスター。引こうと思っても、後ろはすでに回り込まれている。
止まらずに前へと突き進んだ。向かってくる火の弾すべて同時に当たったら死ぬ。目の前のソルジャーを切り裂く。しかし左右にもソルジャーがいる。
「【蛇行撃】!」
【蛇行三連撃】を放てるが、SP節約。蛇のように軌跡を変化させた斬撃が、左のソルジャーの大剣の一撃を交わしながら、鎧の隙間に食い込み、腹を切り裂く。腸があふれ出た。右のソルジャーにも【蛇行撃】を放つ。しかし、
「ゴア」
また何かジェネラルが指示した。
「ギャ」
急に右のソルジャーが俺に腕を斬られながら抱きついてくる。
「は!?」
なぜ抱きつこうとする? 同性愛者!? いや、降り注ごうとする火の弾。そうか。これを一緒に食らえって事か! 抱きつかれたら終わり。俺は抱きつかれる前にソルジャーのもう一本の腕も斬り落とした。
そのさらに左側から次の奴が抱きつこうとしてきて、そいつの首も斬りおとした。
そして放たれていた空を覆うような火の弾20発。
「【石壁】!」
自分の体を覆うように壁を発生させた。【石壁】はソルジャークラスの打撃には耐えられないが、メイジの火の弾には強い。耐えきれる。
「よし」と確信した。
業火が俺の周りに居るソルジャーごと全てを炎の海に沈めていく。石壁に守られた俺はそれでも無事。死ぬのはお前たちの仲間だけだと思った。
「ゴア」
また、ジェネラルが何かわからない言葉で指示を出した。そうすると、
「【ギャ】」
その言葉の響きは何度も聞いたことがあるからわかる。おそらくスキル【剛力】を唱えた。
「まさか」
外側が見えない俺は不安にとらわれる。何か強烈な衝撃が石壁に激突したのがわかった。耐えられない石壁が脆く破壊された。
「嘘!?」
瞬間、一気に火と熱が石壁の中に入り込んでくる。体中が焼ける痛み。痛いなんてもんじゃない。熱いなんてもんじゃない。体中が燃え上がったソルジャーが目の前にいた。火だるまになりながら抱きついてきた。
「ギャアアアアア!」
「そんな抱擁はいらん!」
俺は体が焼ける痛みに耐えながらソルジャーを脳天から切り裂いた。中にいても追い詰められるだけだと石壁から出ると、
「ゴア!」
「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」
「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」
「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」
「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」「【ギャ】」
すぐに火の弾の第二陣が飛んできた。全部着弾するまで一秒もない。次は俺が【石壁】を唱えてもすぐに破壊するというように、ソルジャー達が俺を襲って来るやつと外側にいるやつらと二段構えになっていた。
「はは」
死ぬことを恐れず、一糸乱れず動いてくる。あまりのことに変な笑いが漏れた。完全状態のゴブリン軍。ジェネラルに指揮されるだけでこれほど厄介か。この状況で【石壁】を唱えたところで却って危険だ。
「進むしかない!」
まだ動ける。それが不思議だった。俺もソルジャーと一緒に燃え上がっていてもおかしくなかったのに燃え上がってない。考えてる暇はなかった。一瞬でも止まれば丸焦げになって終わりだ。だから止まらなかった。
【加速】を切らさないように気をつけて、【蛇行撃】を放ちまくった。次々にソルジャーを屍へと変えていく。
火の玉が着弾する。
すべて食らうことはなかったが、3発はマトモにあたった。自分の肉が焼けただれる痛みは強烈だった。やはり食らってはいる。いや、すぐに消えてる? その原因を見るとまるで火を吸収するように美火丸の胴鎧と籠手に集まっていた。
そうか。美火丸。お前か。美火丸は火への耐性がここまで強いか。それでも美火丸の防具はクエスト条件の胴鎧と籠手しか装備していない。防ぎきれない炎で体が動きを鈍らせる。
「ゴア」
ジェネラルの指示の声。この声の度に追い詰められている俺は身構えた。
「次は何をする気だ」
しかし攻撃がこなかった。
「?」
それどころか俺を取り囲んでいたソルジャーたちが後ろに下がった。諦めた? 今の攻撃を4、5回続けられるだけで、かなり死ぬ確率が高かった。美火丸の胴鎧と、籠手を装備するおかげで、なんとか致命傷を免れただけだ。
体中が熱い、痛い。特に美火丸のない足は火傷が酷い。今のうちにポーションが飲めないかと隙を窺うが、無理だとすぐに悟った。ジェネラルが2体。俺の目の前に歩み出てきた。
体高3mの巨体が見下ろしてきた。次はこの2体が相手をしてくれるのか?
「でも、良かった。美鈴たちのところにジェネラルは行ってなかったのか」
それでも俺は安堵した。こちらに二体のジェネラルがいるということは、向こうのゴブリン軍は誰にも指揮されていないということだ。
「いや」
自分でそう考えて、違和感を感じた。さっき美鈴の方に向かった軍にもジェネラルはいたはずだ。ここまで全力で俺たちを殺しに来る奴らだ。誰にも指揮されていない部隊を動かす。そんなことをするわけもない。
俺が振り向くと美鈴たちの方にもジェネラルがいた。一際大きい体だからよくわかった。
「【ゴア】」「【ゴア】」
俺が目をそらした一瞬で、ジェネラルたちは俺との距離をゼロにした。同時に二連撃を放ってくる。
俺は大きく後ろに飛んで避けた。
「ジェネラルが三体?」
ジェネラルは必ずしも二体ではない。その地域によって三体いる場合もある。人間をさらって数を増やしていたりするともっと多いケースもある。
「どちらかのジェネラルが、俺たちに見つからないように隠れてたのか? お前らそんなことまでするの?」
火傷で動きを悪くする。数の暴力で追い詰める。そして俺が充分にダメージを負ったと判断した時点で、ジェネラル二体が前に出て俺を殺す。
「なるほど。必要ないのに仲間を犠牲にしたりはしないわけか」
情もなくソルジャーが死んでも俺を殺すのかと思った。しかし、情があるらしい。
「本当お前らなんなんだ? どこから来たんだ?」
「ゴア」
何か言ってきているジェネラルは楽しそうだった。こちらが面白いように自分の考えた作戦にハマってくれたから楽しいようだ。
「笑いたければ笑えよ。でもワザとこうしたんだって負け惜しみじゃなく言っておくぞ。お前らのボスと俺たちが戦えるかどうか、確かめっ!?」
「【ゴア】!」
ジェネラルは俺が全部しゃべり切るのを悠長に待ってはいなかった。斬り込んでくる。一撃目をなんとか後ろに避けた。その俺の避けた着地点に、もう一体のジェネラルが大剣を構えて待っていた。
「【ゴア】!」
スキルを唱えながら、こちらへと大剣を振り下ろしてきた。体が火傷のダメージで痛かった。だからこそ絶好の狙い時である俺に向かってジェネラルは【二連撃】のスキルを唱えるのも忘れない。
その【二連撃】を受け止めても、次の【二連撃】が飛んでくる。同時に放たれると避けきれずに腹が切れた。ジェネラルは止まらない。嵐のように、そして3mを超える体格を生かした強力で次々と攻撃を放ってくる。
美鈴たちは無事か?
美鈴もエヴィーもラーイもリーンも気になる。リーンはまだジェネラルに一度も勝ったことがなかった。リーンの動きは変則的で、ジェネラルを翻弄できる。でも、かなり軽い。
ジェネラルに致命傷を負わせる攻撃ができない。だから俺以上に追い詰められていないのか心配だった。でも、向こうを見る暇もない。
「くそ!」
『100%不可能』
大帝のクエストがそう言われる意味が嫌というほどよくわかった。大帝がこいつら全てよりもまだ強いというのなら、どんな強さなのか想像もつかなかった。
「【ゴア】!」
俺が早くこいつらを殺して美鈴たちを助けに行かないと。でもうまく二体で連携されて、攻撃が出来なかった。一体ずつならなんとかできる。でも二体相手だとどうしても防戦一方になってしまう。
「一体だけなら……」
なんとかそういう状況に出来ないだろうか? 考えた。二体を一体に。二体を一体に。難しい問題だ。二体いるジェネラルが一体になるわけがない。でも考える。俺は考え……そして閃いた。
「腕! 落ちるなよ!」
自分の腕に念じた。ジェネラルが【二連撃】を放ってくる。先ほどメイジに焼かれた腕。美火丸の籠手が守ってくれてたからまだ動く。その腕を持ち上げて、マジックバッグから、純粋に防御力を重視した、分厚い鉄の盾を構えた。
「火傷のせいで腕痛い! 腕もげる!」
自分の痛さをごまかすように叫んだ。万が一の時のための防具類としてくに丸さんが紹介していた、ただの分厚い鉄の板に取っ手をつけたもの。
『これが意外と役に立つ。もしマジックバッグを持っていたら、装備枠は取られるけど、持っておいて損はない』
正直、ここまでなんの役にも立たなかった。鉄の板に持ち手がついているだけの武骨な盾。その盾で俺は同時に二体が【二連撃】を放つ瞬間に受け止めた。ジェネラルの【剛力】に腕の骨がゴキリと嫌な音を出した。
「折れた!」
腕がジェネラル二体の力に負けて変な方向に曲がってる。曲がっちゃいけない方向に曲がってる。おまけにジェネラルの大剣が分厚い鉄の板ですら斬り裂いて、腕が半分切れた。それでも止まった。
ジェネラル二体の大剣が、分厚い鉄の盾を最後まで斬り裂くことができず止まった。俺は盾から手を離した。ジェネラルはお互いに大剣を引き戻そうとして、引っ張り合う形になってしまう。
ジェネラルの大剣は威力がありすぎて鉄の板を斬り裂いた。でも、完全に斬り裂きはしなかった。鉄の板を通じて、ジェネラル二体が一体になった。予想外の事態にジェネラルは一瞬動きが止まる。それでも、すぐに体勢を整えるだろう。
だが、隙だ。
ジェネラル二体はすぐにまずいと気づく。
「「ゴアアアア!」」
叫んで火の弾をメイジに撃つことを命じたようだった。そして自分も強引に鉄の板を引き裂いて、大剣を引き戻した。
「【蛇行三連撃】!」
俺は横薙ぎの一発を放った。ジェネラルは俺の太刀筋の一つも受け止めることができない。ジェネラルのでかい頭が三つに分かれた。もう一体のジェネラルが、俺の腕を落としきれなかったことを悔やむような顔をした。
大事な仲間が殺された。怒っている。大剣を引いて、そして向かってくる。でも、もうジェネラルが一体なら苦戦などしない。メイジの火の弾もさすがにジェネラルごと殺すわけには行かないのだろう。一発飛んできただけだ。
簡単に避けられた。
「ゴア……」
負けるとわかったのかジェネラルの顔が悔しそうだ。
もう一度【蛇行三連撃】を放つ。【二連撃】で応戦しようとするが、二つの斬撃で丁寧に受け止めると、残った斬撃がジェネラルの体を切り裂いた。





