第七十八話 仲直り
俺は米崎との会話が終わったその日の夜。エヴィーと二人で喋っていた。
「本当、毎日カンカン照りで嫌になるわね」
「4階層に行けば太陽が恋しくなるよ」
「そうらしいわね」
太陽がこちらの気分も関係なく、大地を照らし続けている。サバンナでエヴィーと2人で座っていた。集落をほぼ全滅させた地域だ。大帝が今の時点で出てきたら困るので完璧な全滅はさせてないけど、かなり安全ではある地域だった。
それでも念のために隣のアカシアの木の下でラーイとリーンも見張ってくれていた。相変わらずの多様な動物たちが暑さにめげる事もなく、地球のサバンナと同じように動いていた。でもさすがに暑いのか水場で象が水浴びをしている。
エヴィーとあの日から2人で会話するのは初めてだった。
「ユウタ」
「何?」
「私、あなたとヨネザキとの話を見てて思った。私がレベル1000になるには、やっぱりこの男が必要だって。正直に言うとね。最初のヨネザキの話も私はよく意味が分からなかった。ミスズと同じよ。ヨネザキのこと『ちゃんと最初から最後まで説明しろ。この馬鹿』って思った。ああいうもったいぶった人間大嫌いよ」
「そうなんだ」
「私はミスズに負けたくない。だから必死に知ってるふりしてたわ」
「そんなものだよ。俺だって学校の勉強が全然わからなかったから、知ってるふりするのが大変だった。今の俺がダンジョンのことが分かるのは、ずっとそのことしか考えてこなかったからだと思う。ほら、野球選手とかでも、学校の勉強は全然でも、野球のことだけはものすごく分かってるじゃないか。一芸に秀でてるってだけのことだと思うんだ」
「相変わらずね」
何か面白かったのか、エヴィーが笑ってくれたことに俺はほっとした。あの日からずっとエヴィーは元気がなかった。
『ユウタはきっと私がいてもいなくても、どちらでもいいのにね』
自分はどうしてあの言葉を強く否定できなかったのだろう。
「俺は自分で言うのもなんだけど、そんなに人間的にできてないし、いい男じゃないと思うよ」
「知ってる。あなたのことなら私かなり分かるつもりよ。惚れさせるだけ惚れさせて愛してはくれない『女の敵だ』って最近思う時あるもの」
「だ、だろうね」
「ランウェイを華々しく歩く。それが私の生きている意味だって思ってた。それに必要ないものはすべて削ぎ落として生きてきた。でも日本に来て、あなたを見て、最初はミスズへの対抗心みたいなもので好きになった。それから酷い扱いをたくさん受けたのに、どうしてか嫌いになれなかった」
「それはステータスを見て?」
「意地悪なこと聞くのね。でも……それがないといえば嘘になるわね。ユウタのステータスは一目見ればわかるぐらい、ダンジョンに好かれてることがわかるステータスだもの」
「そうなんだよな……」
俺もそれに気付きながら気づかない振りで今まで来た。でもレベル10を超えて、顔があまりにも良くなって、気付かないなんてこと出来なくなった。
「俺はエヴィーが綺麗すぎて正直怖い。俺みたいな紛い物じゃなくて、最初見た時からずっと妖精以上に綺麗だって思ってる。だからエヴィーがなぜ俺をそこまで好いてくれてるのかもよく理解できなかった」
「そう……」
エヴィーは俺に触れようとはしなかった。
「ユウタ。私は自分でも思った以上に恋愛に関しては普通の女の子よ。もっと器用に立ち回れると思ったのに、それも全然だった」
「器用どころか何も考えずガンガン来るから本当に困ったよ」
「そ、そう?」
「うん」
「ねえ」
「何?」
「話しかけてくれて良かったわ。少しだけだけど、気持ちが楽になった」
「そっか」
エヴィーが俺と手を少しだけ触れさせた。そしてすぐに離れると立ち上がった。
「見張りに戻るわ。ユウタも寝て良いわよ」
エヴィーが、リーンとラーイの所に歩いて行く。俺も立ち上がった。寝る前に自分の顔を鏡で見た。本当に驚くほど綺麗な顔だった。こんな綺麗な顔になって、何を俺はしてるんだろう。
エヴィーと話していたことを考えると、なんとなく遠慮して、その日は美鈴とちょっと離れて寝た。
数日が経過した。
エヴィーとちゃんと仲直りできないまま、明日になれば、今まで避けてきたゴブリン軍と初めて正面から戦うつもりだった。ゴブリン軍と正面から衝突して、打ち破ることができれば、その次に、その地域のゴブリン集落を全滅させる。
集落にいるゴブリンの全滅。それがゴブリン大帝出現のキーになる。
つまり明日はゴブリン大帝との決戦になる。
レベルは全員14。3階層のクエストでSをとる方法は、米崎の言う通り低レベルクリアだという噂が有力だ。レベル15ならA、レベル16ならクエスト報酬がもらえるだけ。以前、南雲さんにも確認した。
『俺たちの時は、レベル限界とかいう言葉自体が理解されてなかった。ただ、このレベルになったら大丈夫なんじゃね? ぐらいの感覚でやってた。ゲームと一緒だ。データなんていちいち見ないだろ? あとひとつレベルが上がったら多分あの敵倒せるな。そんな感覚だ』
『そんなもんですか?』
『そんなもんだよ。だからあんまりレベルとか覚えてないんだよ。ただ、1~10階層のクエストの中で3階層のクエストだけは印象に残ってる。まあラストは普通に喋りやがるしな。それにあれは純粋に強かった』
南雲さんがモンスターを強いと言ったのは初めて見た。
でも俺は、
『なんだよその目』
『いや、南雲さんがいろいろ教えてくれるの嬉しいなって』
そんな話をしながらも南雲さんとしゃべるのが楽しかった。南雲さんは何故か顔を真っ赤にして照れているのが面白かった。ダンジョンから出たらまた喋りに行こうと思った。
どうせ女性関係では何の参考にもならない人だけど、聞いてほしいことがたくさんあった。南雲さんは米崎のことを知っているんだろうか。俺がやったことを言えば怒られるだろうか?
米崎のことは仲間に引っ張り込むべきかどうか悩んだ。でも米崎がこの3階層にいつまでもいることから類推して、米崎の心に気づいた時。俺はかなり自分達が詰んでると思った。
何しろ米崎の目的が俺の考えている通りだったら、米崎はどんな方法を使ってでも俺たちを見逃さないからだ。美鈴もエヴィーも平均値をはるかに超えて綺麗だし、俺も3階層ではありえないほど専用装備を揃えていた。
俺が米崎ならどんな方法を使っても絡めとるカモネギだ。ダンジョンで度々経験する退路がどこにも無い状態。その可能性に気付いた時、俺は逃げられない相手から逃げようと考えるよりも毒を喰らわば皿までと思った。
あの知能を仲間にできればと思った。現状、階層攻略の手伝いはしてもらえない。20階層に行くまではきちんと仲間になることもない。それでも、 20階層まで米崎は俺たちに何もしてこないはずだ。
あとはあちらもわかっている。
俺達が同レベルになった時、殺し合いになるのか、本当の仲間になるのか。それはまだ決まっていないと。今は勝てないから俺たちは米崎に余計なことを言わないだけ。その程度の信頼関係。
きっと米崎はそれを分かった上でも笑ってた。本当にやりにくい人だ。20階層にたどり着いたとき、あの人との関係がどうなるのか俺にはまだ想像がついてなかった。
「祐太さ、できるだけ黙ってようと思ってたんだけどエヴィーとどうなってるの?」
黙って静観するつもりだった様子の美鈴も気になってきたか。
俺はいまだにエヴィーとあまり口を聞いていなかった。
「どうもなってないよ」
「ならいいんだけどさ」
美鈴が俺を見た。カンカン照りのままだが時間的には夜の2時。今はエヴィーが寝ていて、俺と美鈴が起きて、見張りをしている。
「なんかその割には微妙な空気に見えるんだけど。私、なんか余計なこと言っちゃった?」
「美鈴は関係ない。いや関係あるけど、美鈴のせいじゃない」
「……私。エヴィーのこと少しは許さなきゃいけないと思ってたんだけど、余計なお世話だった?」
「それは……わからない」
「はあ……2人を見てると毎日息が詰まりそうなんだけど」
「……面目ない」
「私は別にいいんだけどね。エヴィーが……いや、この件に私が構うことをエヴィーは余計に嫌がるのかな」
美鈴なりにパーティー内の人間関係を真剣に悩んでいるようだ。
「祐太。エヴィーってさ。日本のCMに出てたことあるよね?」
「いつ?」
「あの子、覚えてる? ものすごく可愛い女の子でさ、外国人が出ていた飴のCM。ものすごく美味しそうに見えたあの飴の子」
言われて思い出の中に残っているものが一つだけあった。とても有名な昔のCM。セピア色の思い出の中。子供心で外国人の女の子ってみんなこんなに可愛いのかと思ったのが、印象に残っている。
「あれエヴィーなの?」
「そうだよ」
「俺、あのCM見ててさ。白人は全部可愛い女の子ばっかりなんだって思ってたよ」
「そりゃ誰でも思うよね。あの顔だもん」
「でも全部じゃなかった。白人にもブスもいればデブもいて、そしてあのCMに出てた女の子が特別だったんだって分かった」
「ずっと綺麗で、ずっとトップモデル。お姉ちゃんが言ってた。『あの子に好かれている上に3股なんてあんたの彼氏君、冗談抜きでファンに殺されるわ』って」
「はは」
そんな子を相手に俺は何をしているんだろう。
「エヴィーはすごいよね。子供の頃がいくら可愛くても、大人になったら崩れるとか、よくあるのにさ。背も高くて胸も結構大きくてオマケに顔が超綺麗」
「美鈴。その女の子が目の前にいてさ。例えばテレビから出てきて、俺のことが『好き』って言ってきたらさ。現実感ある?」
「ない。未だにエヴィーがパーティー仲間にいることが不思議な感じがする」
「キスするとさ。なんかこう俺なんかで大丈夫かっていつも思うんだ。あ、いや、ごめん」
「もういいよ。それぐらい知ってるし」
「……」
「祐太。実際、エヴィーは目の前にいるじゃない。それを祐太は見てあげるべきだと思うな。というか、なんで私はエヴィーのためにこんなこと言ってるんだ?」
美鈴もちょっと変だ。自分の彼氏を絶対に人に与えるなんて無理だ。と思っていたみたいなのに最近の美鈴を見てると、まるでエヴィーの応援をしてるみたいだ。
「エヴィーに関しては全面的に許してくれるのか?」
「だってさ、エヴィーに対してもうなんというか生死を共にしている仲間っていうの? 今更一人だけ仲間外れとか無理じゃん?」
「ああ、うん」
そう言われても俺はどう答えていいのかわからなかった。
「祐太」
「何?」
「私はエヴィーのことが正直、ものすごく複雑。だって綺麗だもん。一つ許したら何もかもを持って行っちゃいそうな気がするもん。でもパーティーからエヴィーがいなくなるのは嫌だなって思う。私がエヴィーのことを嫌がり続けるせいで、エヴィーがアメリカに帰っちゃったりしたらそれも嫌」
「それは……」
「祐太はさ。色々言ってるけど、結局、エヴィーのこと大好きなんだよ。でも綺麗な女の子からたくさん好きだーって言われて、どうしていいか分かんなくなってるだけなんだよ」
「そうかな?」
「私にもまだ好きだとはちゃんと言ってくれてないし」
そういえば美鈴のことも好きだと言えてなかった。言えたのは伊万里だけだった。じゃあ今から言うのかと思った。
「俺は美鈴のこと」
「ついでみたいに言わなくていいから。ちゃんと気持ちが固まったら言ってくれればいいよ」
「あ、ああ」
「エヴィーにさ、キスしてごめんだけしといたら。それ以上のことは私も知らない」
美鈴にそんなことを言われてしまうとは、よほど俺はバカをしてるんだ。それでも俺が動かずにいると、お尻をパンと叩かれた。
「こいつ私のこと超好きなんだなーって最近結構自信あるんだ。だからいいよ」
「そ、そっか」
今のままでゴブリン大帝と戦うのはよくない気がした。ゴブリン大帝にレベル14で挑んだ場合の死亡率はネットの話だと100%だ。実現不可能だと言ってる。多分。低レベルで燻る人たちの情報だと、それが一番多い意見なのだ。
高レベルでそんな細かい情報を外に発信している人はいなかった。理由は南雲さんの話を聞けば分かる。高レベルの人たちの言うことは世間のダンジョンでの常識と違いすぎて、信じられる人はほとんどいないんだろう。
勉強の世界でも、スポーツの世界でも、俺が難しいと思ったことを簡単にできるやつらがいる。低レベルの人たちの目から見たら、100%死ぬことも高レベルになれる人たちにとっては100%じゃない。
俺が探索者の中で、どちら側の人間なのか、明日はっきりする。
正直怖いし逃げ出したい。
そこまで自分の価値を全力で試すことに息詰まる思いがあった。
ここで逃げたらどうなるんだろう。
いやそれなら死んだほうがマシか。
それでも俺は色恋で悩んでる。美鈴は【探索】と口にした。そうするだけで。美鈴の見張りをする能力は段違いに上がる。リーンとラーイも寝ているが、美鈴一人で充分見張りができる状態になった。
「早く行ってきてください」
「う、うん。美鈴、俺とエヴィーの会話聞かないでほしいんだけど」
「……」
美鈴が何も答えなかった。これ以上言うとナチュラルに地雷を踏み抜きそうな気がしたのでやめておいた。俺は自分の心に問いかけてみて、やはりエヴィーのことが、美鈴の言うとおり好きなんだろうと思った。
寝ているエヴィーがすぐそばにいて、美鈴は少し離れた距離で、向こうを向いたままだった。でもきっと【探索】を唱えたからこれからする会話は丸聞こえだ。
「エヴィー、エヴィー」
「う、うん? 何? ユウタ?」
寝ぼけた顔で起きてくる。そんなエヴィーが可愛かった。
「あの、俺、いろいろごめん」
「……ユウタ。少しだけ待って。頭が起きてないわ」
エヴィーがそう言うので俺は少し待った。常にランウェイを歩いて、人から注目され、称賛され生きてきたエヴィー。そんなエヴィーにずっと曖昧な態度を取り続けている。好きなのか、嫌いなのかもはっきりさせない。
「いいわ。それで何?」
「謝ろうかと思って」
「何を?」
「色々」
「色々?」
「……」
俺はどうやって言葉を続けていいのかわからずに黙り込んでしまった。
「ユウタ。私、前はこういうときユウタを無理やり襲うようなことをしても平気だった。でも、今はそういうことをして嫌われたくないと思ってる」
「そ、そうなんだ」
「ええ、ミスズは……ふあ、起きてるわね」
エヴィーは欠伸をしながら美鈴を探して、10m以上離れているが、それでも起きてサバンナに立って見張りをしていることを見つけた。俺も美鈴を見る。美鈴がピクリと動いたのがわかった。こちらが気になって仕方ないようだった。
「いつも見せつけられている仕返し」
エヴィーがくっついてきた。結局くっつくんじゃないか。でも、俺たちが2階層から出て、今までエヴィーとくっ付くのは初めてだった。久しぶりにエヴィーの体温が伝わり、柔らかい感触も感じた。俺はそれだけで動揺してる。
「ね、ミスズはいいの?」
「大丈夫。ちゃんと言って聞かせたから」
ちゃんと言って聞かせられた気もするが、それは言わなかった。美鈴がこちらのことに気づいている状態。別の意味でドキドキしてしまう。
「私……意地を張ってごめんなさい」
「俺の方こそごめん」
絶対に誰一人として、エヴィーの顔を見て、綺麗じゃないとは言わないだろうというぐらいエヴィーの顔は綺麗だ。だから俺はまるで吸い寄せられるようにピンク色の唇にまず『ごめん』と言ってキスをした。
エヴィーが嬉しそうに俺の体を抱きしめてくる。俺の体とエヴィーの体、どちらにも隙間がないぐらい密着した。お互いの心臓の音が聞こえるようだった。ずっとこうしていたかった。
「ユウタ。私の体の中にあなたが満たされていくわ」
「俺も俺の中にエヴィーが満たされていくよ」
もう頭の中から完全に美鈴のことが消えてきた。
「私はあなたを本当に愛してる。このままあなたに私のすべてが奪われてもなんの後悔もない。ユウタは私を愛してる?」
「ああ、愛してる」
「ほ、本当に?」
「ほ、本当だよ」
俺はまだその言葉を美鈴に言っていない。
言った直後に、美鈴の後ろ姿が目に入る。ギュッと握り拳を作ったのがわかった。これはまずい。心臓がドキドキする。なんだか久しぶりにエヴィーとくっつくことができて、テンションが上がり過ぎてしまった。
「嬉しい」
エヴィーが再び唇を合わせてきて、貪るように求めてくる。俺は自分の視線の先。美鈴が気になる。せっかくエヴィーと仲直りしようというのに今度は美鈴を怒らせたのではないか。
「あの、ユウタ」
しかし、エヴィーもテンションが上がっているのか、陶然とした顔でこちらを見てくる。
「何かな? 」
「ユウタといつもキスまででしょ? ミスズとはもっと先まで行ったんでしょ?」
「あ、ああ、そうだね」
「私ももうちょっと先まで行きたいわ。私の綺麗な体。まだどんな男にも触らせた事がない体よ。好きにしてくれていいから……ね?」
「それは……」
まずい。このまま進んだら絶対に今度は美鈴の地雷を踏み抜く。考えろ。考えろ。米崎と話している時以上に必死になっている自分。ああ、何かいい案は思いつかないのか。
「エ、エヴィー、俺は美鈴が好きだ。大好きだ。そ、それでもいいか!?」
「ええ、いいわ。美鈴の次が私。わかってるわ」
でもエヴィーは動揺していなかった。むしろ地面に寝てこちらを引き寄せてくる。寝るためにシートと天幕だけがある空間。助けを求めるように横を向くと寝ているはずのリーンと目が合う。
リーンの目はしっかり開いてる。この続きをかなり期待しているようだ。子供の教育上よろしくないものを見せてしまった親のような気分になった。
「リーン。ラーイ。0歳児には早いわ。目を閉じなさい」
エヴィーが言う。ラーイも起きてたのか。召喚獣はエヴィーに命令された言葉は絶対従わなければいけないらしく不満そうに頬を膨らませて、目を閉じた。エヴィーがくすりと笑う。
服が乱れていて、かなりエッチだった。一瞬美鈴を見てしまう。何も言って来そうになかった。
「気が散りすぎよ。こっちを見て」
エヴィーに顔を捕まれて、向きを戻された。
「ごめん」
「ううん、いいの。今の私はとっても幸せだから何でも許せるの。でも、もう一度『愛してる』って言って」
「あ、愛してる」
もうここまで言えば何度言っても一緒だろう。美鈴にもちゃんと後で言うことにした。
「私も愛してる。だから、あなたを追いかけているつもりで、私がアメリカに行っちゃってできなかったこと、全部して」
「それだと寝られなくなるけどいいの?」
「もちろん」
ここまで来たのだ。もう後には引けない。というか、引きたくない。しかし、その前にエヴィーに言いそびれていたことがもうひとつあった。
「言いそびれていたけどエヴィー」
「なーに?」
エヴィーがかなり妖艶な声を出した。
「俺、エリクサーを手に入れたよ」
「へ?」
「入手ルートは秘密なんだけど、手に入れたんだ。ただ、これをエヴィーの友達に使うのは勘弁してほしい。現状、これ以上のエリクサーは俺たちじゃ絶対手に入らない。このエリクサーはパーティー仲間にもしものことがあった時に取っておきたいんだ」
「……あなたは私を驚かせるために生まれてきたような人だわ。それに、それは、今言うべきことじゃないと思う」
「ごめん。今日はやめる?」
とりあえず仲直りはできたと思っていいだろう。ものすごくもったいないけどやめると言われたらそれはそれで助かる。
「ダメ。そんなことしたら次の機会はいつになるかわからないもの。エリクサーのことは納得する。私自身が手に入れたものじゃないんだもの。ユウタが私たちのために取っておきたいと言うなら、そうして当然よ。それとねユウタ」
「うん?」
「大好き」
美鈴が怒っている気がして、ものすごく怖い。でも。俺はエヴィーと一線を越えた。





