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第七十六話 真剣勝負

 この子なんか青いしリーンでいいんだよな? キラキラした目というか、昔親父が元義母にプレゼントしていたクリソベリルキャッツアイという宝石。まるでその宝石そのもののような目だ。


 額には巨大なブルーダイヤモンドのような第3の目が輝いている。体は流体金属のようなものがドンドン覆っていき完全な青になった。


「さすがユウタ。ジェネラルを一人で殺す。凄い」

「え? あ、まあ」


 格好つけたものの、勝てそうになかったから不意打ちして殺した。ちゃんと説明しようと思ったが、リーンの熱いまなざしを感じると言い出しにくくなった。なにより余裕をかましている暇はなかった。


「ゴア!!!」


 ジェネラルの横薙ぎの一発。抱えていたリーンをさらにぎゅっと抱きしめて、美火丸で受け止めた。それでも、衝撃を受け止めきれず、足元が地面をえぐりながら後ろへと下がる。その真後ろにマグマがあった。


 よく見るとリーンの両腕が変形して、俺がマグマに突っ込まないように支えてくれていた。


「すごいな……。じゃあリーンは美鈴たちだ」

「ミスズ?」


 美鈴たちはゴブリン達に周囲を囲まれて逃げ道を塞がれていた。まだ、あんなにいたのかというぐらいゴブリンがいる。ざっと数えて22体。ジェネラルがいることで、ゴブリンたちが集まってきたようだ。


「やばい! リーン行くね!」


 美鈴たちを囲むような陣形で、逃げ道を完全にふさいでいる。慌ててリーンが走り出した。


「リーン! 普通に戦えば数で負ける! ゴブリンをよく見て、マグマをうまく利用して戦え!」

「分かった!」

「ゴア!」


  喋っている間は攻撃しないなんていう優しさはジェネラルには無い。下から斬り上げられて体が宙に浮いた。


「リーン! 無茶してまた死にかけたらダメだよ!」

「分かった! 私はミスズと主を助けなきゃいけないから頑張ってユウタ!」


 生意気なことを言うようになった。それにしても、リーンがちゃんと自分のやるべき行動を理解して動いている。そのことに感動を覚える。種族進化ができたのだ。自分の両腕をスライムのように変化することができるんだろうか?


 イマイチ理解できない身体構造だ。


「さて、お前とはやっぱりちゃんと戦わなきゃダメか」


 美火丸を鞘の中にちゃんと収めた。ジェネラルが何か怒っているように吠えたが、言葉が理解できるわけもない。


「リーンにあんなこと言われたら、負けるわけにはいかない」


 全部を出し切らなきゃ、この目の前で怒っているジェネラルに勝てない。池本の時もあちらの方が強かった。でも事前に対策を取りまくったので、正直、楽勝だった。今回はそうではなく正面から格上に勝ちたかった。


 不意打ちばかりで地力がなければ、すぐに行き詰まるだけだ。ゴブリンジェネラルはかなりでかい。見上げないと目線も合わない。3mほどはある。リーンは種族進化したとはいえ、よくこんなでかいのと戦えていたものである。


 巨大なジェネラルに見下ろされると足が震える。こういうとき、いつも虐められていたことを思い出す。自分より強い相手には怖くて何もできなかった。池本を殺して、自分は何か変わることができたのか?


 やっぱり逃げようとしてる。だって足の震えが止まらない。その足がうっとうしくて、俺は自分の懐から短刀を出すと、自分の足を刺して地面に縫い付けてやった。


「よし、これで逃げ出したりしない」

「ゴガ?」


 意味がわからないというような顔をジェネラルがしている。


「まあ、これは俺のコンプレックスの問題なんだ。気にしないでくれ」


 俺は笑って言う。ここまで自分を追い詰めて、やっと笑う余裕ができた。


「ゴガ……」


 ジェネラルがこちらに歩いてくると俺にも貸せというように手を出してきた。俺はそれを見て短刀をマジックバッグから出して渡した。その手の位置が俺の顔ぐらいで本当にデカいと思った。


 短刀を受け取ると、ジェネラルも短刀を自分の足に刺してみせた。


「ゴガガ。ゴガ」


 そして大剣をこちらにまっすぐ向けてきた。それだけでかなりの圧だ。


「いいぞ。池本よりもお前の方がよっぽど分かってるじゃないか」


 ジェネラルが俺と本気で戦おうとしてるんだ。


「【剛力】【加速】」

「【ゴガ】」


 確かジェネラルは二つ特殊能力を持ってるはずだ。一つは【剛力】。間違いなく、今、唱えたはずだ。俺は居合抜きの構えになった。レベルが上がるほどに自分の体の動かし方が分かるようになってきた。


 達人のようなことだってできる。人間の壁をどんどんと超えていくレベルアップ。様になった居合の構えを取っていた。


「行くぞ」

「グアアアア!」


 向こうから、大剣を振り下ろしてきた。真正面から受け止めようとしてくれるなんて、本当に正直な奴だ。人間を殺しさえしなければ嫌いじゃない。


「【二連撃】!」

「【ガア】!」


 お互い二つの剣閃が走った。ジェネラルが使えるもう一つの特殊能力も【二連撃】。腕が二本になったような不思議な感覚。大剣と二度ぶつかり合う。強大な体で、上から思いっきり打ちおろされる。


 腕が折れるんじゃないかというほどシビれた。押し込まれたのは俺だ。美火丸の刃がこぼれる。


「悪いな美火丸。まだまだ打ち合うから、しっかり最後まで折れずに持ってくれよ」


 何度も俺の美火丸とジェネラルの大剣が交錯する。ビビって余計な動きなどすれば殺される。俺は力で負けて一歩下がった。小刀を突き刺した足が裂ける。強い。本当に強い。虐められていたあの日が脳裏に蘇る。


『六条の君。なんだよ。ビビってるのかよ』


 本当に鬱陶しい池本。死んでも俺の頭に残り続ける。俺は怯えてなんていない。あの日のように弱気になっていたらもう死んでる。


『嘘つけ! お前の本性はビビリの泣き虫野郎だ!』


 お前は黙れ! ずっと死んでおけ!


 大剣と美火丸がぶつかり合って、その余りの威力に地面に足が食い込んでいく。虐められる事にあんなにビクビクしてたのに、化け物と正面からぶつかり合えてる。こいつは池本と違って正々堂々と闘おうとしてきた。


 正面からくる相手は、正面から勝ちたい。感情がそう言ってる。


 不意打ちを楽しんでしまう俺と、正面から戦いたがる俺と、どちらも俺だ。


「【土壁】!」


 相手との間に土の壁が現れた。レベル10でもう一つ現れた新しい魔法だ。それをあっさり向こうが砕いてくる。さらに【石弾】を5連続で放つ。 全て、大剣で叩き潰してくる。今までの敵なら一瞬で決着がついたのに、それができない。


 お前でこれなら、大帝はどれだけ強いんだ?


「負ける」


 でも勝ちたい。このやり方で勝ちたい。どんどん神経が研ぎ澄まされていく。


 美火丸を振る。


 ジェネラルの大剣に受け止められる。


 寸前、刀を返した。


 強引に軌道を変えて、蛇のように振った。そうすると少しだけジェネラルの頬に美火丸が掠って、美火丸の熱でジェネラルの頬が焦げた。ジェネラルが動揺した。


「【二連撃】!」

「【ガア】!」


 俺は自然と体が動いた。同じことを【二連撃】ですればいいじゃないかと思った。結果、俺が振り抜いた美火丸の軌道が蛇のようにうねった。ジェネラルの鎧の隙間を縫うように太い腕の根元を斬り上げて、腕が飛んだ。


【二連撃】のもう一つの斬撃で、大剣を受け止めた。それでも勢いを殺しきれず体が吹き飛ばされる。地面を何度も転がった。慌てて起きあがった。攻撃がすぐにくると思って構える。


「ゴア……」


 弱々しいうなり声。見るとジェネラルの腕がなくなって、その根本が美火丸の熱で燃えていた。


「すまない。お前は強かったよ」


 腕がなくなったのだ。今までの経験上、ゴブリンはこれぐらいの傷を負うともう戦えなくなる。それでもトドメは刺さねばいけない。


「ゴガ! ゴガアアアア!」


 ジェネラルが叫んだ。俺がトドメを刺そうとしたらメイジに命令を出したのがわかった。


「みっともないことをするじゃないか。でも無駄だ」

「そう! 終わり!」


 リーンが最後のメイジを殺しているのが見えた。命令を出すべきメイジが既に死んでいた。本当に強くなったな。ゴブリン達はマグマとリーンの青い流体金属の不規則な動きについていけてなかった。


 美鈴とエヴィーはその間に魔法と弓で支援し、集落のゴブリンが目に見えて減っている。ジェネラルの指示がなければ、そこら中にマグマがあふれる特殊な環境下でゴブリン達は集団行動をできていなかった。


 俺は間を置くことはしなかった。俺は【二連撃】のスキルの途中で無理矢理、美火丸の軌道を変える。美火丸が蛇のような軌跡を描く。ジェネラルも【二連撃】で対応しようとするが、その、隙間を掻い潜るように振り抜いた。


 ジェネラルの太い首をとらえ刎ね飛ばした。


【スキルの習得をお知らせします】


 レベルアップのときに聞こえてくる女の人の声が急に聞こえる。スキルの習得。クエストを達成したわけでもない。レベルアップもしていない。なのに、そんなものがあるのか? 俺は首をかしげた。


【六条祐太は【蛇行二連撃】を自分自身で習得した事をお知らせします。習得ボーナス。【蛇行三連撃】への昇華を承認します】


 習得ボーナス。そんなものがあるのか? 『自分自身で習得した』と今女の人の声が言った。ダンジョンから与えられるスキルではなく、自分でスキルと呼べるものを実現させると、ボーナスをもらえるということか?


【三連撃】は聞いたことがある。レベル20ぐらいになると習得できるスキル。できない人も多いらしいが、剣関連ジョブの人たちは結構生えることが多いと言われるスキルだ。


 だが、【蛇行三連撃】は聞いたことがなかった。


 ともかく、


「疲れた」


 強いやつだった。次からはもっと圧倒的に勝てるといいんだけど、ギリギリだ。歩こうとして足が猛烈に痛い。足を見ると完全に裂けていて、我ながらこんな状態でよく戦っていたなとポーションを取り出して飲む。


「足を自分で刺して逃げないようにするとか」


 本当、漫画の影響を受けすぎだな。ジェネラルが俺の提案に乗ってこなかったら普通に殺されていたよ。でも意外といい提案だったかもしれない。あの体格で自由に動かれたら、【蛇行二連撃】でも当たらなかったかもしれない。


「まあなんか乗って来そうな気がしたんだけどさ」


 そんなことを呑気に考えながらも俺は美鈴たちの方を見た。先ほど見た時にはゴブリンをリーンがドンドン殺していたから気分は楽だ。実際、ゴブリン達はジェネラルが死んだ事で動揺し、さらに数が減っていた。


 ソルジャー7体。ライダー3体。メイジはもういない。この短時間で22体からそこまで減っていた。


「これなら手伝わない方がいいよな」


 戦況は俺の見る限りこちらに有利だ。美火丸を鞘に収める。【溶岩】のマグマでゴブリン達は戦いづらそうだ。だが、リーンと美鈴たちはうまくマグマを利用できてる。特にリーンの動きがいい。


 今まで自分のパワーに振り回されていたが、今は自分のパワーを使いこなしている。


 ゴブリン達はリーンが一番厄介だと、囲んで逃げ道を塞ぐ。数の論理で押し込もうとするのだが、リーンの青い流体金属が、いつの間にか足元に忍び寄って、転がされ、斬られる。そして美鈴やエヴィーに撃ち殺される。


 リーンは伸びる両腕が自在に変形している。ソルジャーの大剣ぐらいなら、ぶつかりあっても斬れない流体金属。それが自在に動いて敵を不意打ちする。


「美鈴……」


 それでいて美鈴が心配だった。不意打ちでなければほとんど当たらない矢。誰かに補助してもらわないと決まらない攻撃。今まではリーンがそこまで強くなかったから、美鈴がそれでも充分な活躍だと思えた。


 しかし、もし一人なら、一体のソルジャーにも勝てないのでは、と思える火力しか出てない。それがここから見ているとよくわかった。


「美鈴の虹カプセル」


 何とか早く出てくれないだろうか。それは美鈴自身が一番思っていることだろうが、そんなことを考えている。その間にも決着がつきそうになっていた。




 俺たちはゴブリン集落をほとんど全滅まで追い込んだ。集落を完全に全滅させるとゴブリン大帝が出てくる。だから数体生き残らせた。それから四つの集落で同じことをした。俺とリーンとエヴィーとラーイはレベル12。美鈴はレベル11。


 4人がレベル12になっただけで、ゴブリン集落で【溶岩】の魔法陣を使わず戦えるようになる。かなり強いパーティーになったと言って良いと思う。俺はガチャ運がめちゃくちゃいいので、専用装備のバフがかなりつく。


 そしてエヴィーも強くなった。リーンが倒したモンスターの経験値はエヴィーにも加算されるようだ。だからエヴィーもどんどん強くなるし、新たに【召喚移動】という魔法も覚えていた。


 召喚士のもとに召喚獣が一瞬で戻れる魔法だ。おかげでエヴィーは強くなったリーンを存分に使うことができた。そして美鈴は俺たちに強さで置いていかれた。


「……私、虹カプセルが出ないとやっぱりダメだよね?」


 今回の戦いで本人が一番自覚したようだ。


「そんなことないよ。出なくても美鈴は美鈴だ」

「ユウタ。ミスズが言いたいのはそういう事じゃないと思うわよ。私もリーンが強くなってくれてなければ、ユウタの強さに置いて行かれそうになってた。ダンジョンは階層ごとにユウタの専用装備を二つずつ許可してくれているみたいじゃない。つまりユウタは4階層で専用装備を五つつけられるって事でしょ? そうなればバフは+30ぐらいになるわ。5階層で七つになったら、バフは+50を超えるかもしれない。専用装備のスキルだって多分まだ出てくるはずよ」

「それは……」


 俺が言葉に詰まると美鈴が口を開いた。


「私ね。最近思うんだ。祐太が一人でダンジョンに入ってたら、ひょっとすると専用装備の制限なんてなかったんじゃないかって。もしそうだとしたら、普通以下な私はただ祐太の足を引っ張ってるだけじゃないかって」

「いやいや、美鈴そんなことないよ。俺は美鈴と一緒じゃないとダンジョンに入りたくない。だからそんな仮定の話をしないでほしい」

「でも」

「しないでほしいと言ってるだろ?」


 まっすぐ美鈴の顔を見つめるとその綺麗な顔が目の中に飛び込んでくる。それなのに美鈴はなぜか照れたようにうつむいた。なんだかいい雰囲気になった。そのまま少しの間美鈴を慰めた。


「エヴィー、もうそろそろ」


 それが終わると口にした。


「わかってる」


 面白くなさそうな声でエヴィーが言う。ラーイとリーンを帰還させた。なぜかといえば、米崎が『後で会いにくる』みたいなことを言っていたからだ。少なくともモンスター大好き男にリーン達を見られる危険は犯したくなかった。


「祐太。米崎の宿題分かったの?」


 美鈴が聞いてくる。


「1階層の意図の話だよね?」

「うん」

「美鈴はわかった?」

「わかるわけないじゃん。難しいことは祐太に全部任せるって言ってたでしょ」

「呆れた。少しは自分で考えなさいよ」


 エヴィーがどうして私より美鈴なんだと言いたそうにこっちを見ている。


「もちろん私だって一応考えたけど、そんなものがあるとは思ったこともなかったし、考えてる暇もなかったし。エヴィーは分かったの?」

「……」


 エヴィーが黙った。今回はエヴィーも分からなかったようだ。


「そもそもそんなものあるのかしら?」

「あると思うよ」


 今、エヴィーと話すのはとても緊張するが、それでも俺は自分が考えたことを口にすることにした。


「じゃあ何?」


 エヴィーがすごく綺麗な青い瞳でこちらを睨んでる。怒っているのがわかる。でもそれには答えなかった。戦闘に関しては平気になったのに、どうしてこういうことになると弱気になるのか自分でも不思議だ。


「「……」」


 エヴィーの綺麗な瞳がずっと俺をとらえてきて、俺は必死に視線を逸らした。


「ちょっとピリピリしないでよ」


  さすがに美鈴が口を挟んだ。


「放っておいてよ。あなたはユウタに可愛がってもらえてるからいいわよ」

「あのね、私だって悩みはあるんだから、一人だけ悩んでるみたいな顔しないでよ」

「……」

「エヴィー。いくら祐太が可愛がってくれても、虹カプセルが出なかったら、私はあなたたちについていけなくなるんだよ。実際、エヴィーの召喚獣たちが助けてくれなかったら、私はもうここで既に役立たずだったかもしれない」

「……」

「エヴィー。だから私はあなたにありがとうって思ってるよ」

「何か立て込んでいるようだね」


 ふ、と今まで誰も居なかったはずなのにそれはいた。白衣を着た腰の曲がった男が横に座っていた。


「よ、米崎!?」


 まるで最初から話の輪の中に居たみたいに座っていた。


「「きゃ、きゃあああああああああ!!!」」


 2人が同時に叫んだ。俺も同じように叫びたかったが、我慢した。


「君たち失礼だね。痴漢が出たみたいに叫ばないでくれるかな」


 2人とも口をパクパクとさせた。きっと痴漢の方がマシだと言いたいんだろうが、米崎にそんなことを言わないだけの理性が働いたらしい。

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― 新着の感想 ―
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そりゃいきなり真横近くいたら驚くわな
[一言] 早くもレベルに差が出てしまったな。これなら十二英傑のPTメンバーがレベル900にも到達していないというのにも頷ける たぶんレベル600あたりから十二英傑クラスの才能を持つ者にはレベルで追い…
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