第五十話 Sideエヴィー③
「リーン、ユウタから連絡来たわ」
「ユウタ。なに、言ってる?」
「ミスズのクエストが終わったって。休憩にしましょう」
美鈴にあんなこと言った手前、ちゃんとクエストがこなせるのか心配していたが無事に終わったようでホッとした。こちらの方はもうすでにクエストは終了していて、私は早速ラーイを召喚して戦闘にも参加させて召喚獣の特徴を確かめていた。
「あなたのおかげで捗るわ。ありがとう」
「がう」
召喚獣のラーイを無事に召喚できるようになった。
そして私はその召喚獣に騎乗している。ラーイは私が女のためか、メスの召喚獣で、姿は他のゴブリンライダーが騎乗しているライオンと同じだが、色が違った。ホワイトライオンで、毛並みがとても美しい白だった。
「人間の姿になれるのよね?」
「がう」
「戻ってみて」
リーンと違うところは姿を変えることができて、私がその背中から降りると人に戻った。戻ったと言うか変わったと言うか。白人よりもまだ白い肌をしていて、目の色は青色だった。今度は幼女ではなく、リーンよりもかなり大きい。
というか、私どころかデビットたちよりもまだ大きい。身長が2m。筋肉質だがスリムだった。職業柄、身長の高い女の人はたくさん見てきたけど、ここまで身長が高くて、これだけ出るところが出ていて、引き締まるところがひきしまり、それでいて筋肉が美しい女の人を見るのは初めてだ。
「リーンに続いて女か……」
「何か問題が?」
「問題はないのだけど」
私はラーイのステータスを開いた。
名前:ラーイ
種族:ホワイトライオン
レベル:5
職業:陸上騎乗型召喚モンスター
称号:エヴィー・ノヴァ・ティンバーレイクの召喚獣
HP:43 (人型22)
力:35(人型24)
素早さ:64(人型24)
防御:35(人型24)
器用:9(人型13)
知能:12
魅力:60
特殊能力:擬人化
装備:なし
全体的なステータスがかなりいい。魅力も何気にすごく高い。肉体美による加算も、大きいのかもしれない。ただしホワイトライオンの姿の場合、攻撃系の装備が何もつけられない。人型の時も召喚した時に着ていた白いボディスーツのようなものを身に纏っているだけである。
だからシックスパックに分かれた腹筋がよくわかる。触らせてもらったらカチカチだった。それでも人の姿になるとステータスが軒並み下がってしまう。だから戦力として考えた時、ホワイトライオンとして運用した方がいいようだ。
「あくまでも騎乗用の召喚獣なのね」
人間になったらボディスーツを着ているのに、ホワイトライオンの姿になると、手綱と鞍まで現れる。私がちょうど乗りやすいような位置に調整されていて、それならそれで、ライオンの姿のままでいてくれたらよかったのだが、人のステータスにはない特殊能力というステータスが追加されて、擬人化する。
しなくていいのに……リーンは見た目的にユウタのストライクゾーンに何も引っかかっていないみたいだった。しかし、ラーイは見た目的にかなりユウタのストライクゾーンに入りそうな気がした。
「ラーイ。あなた性欲はあるの?」
「当然あるぞ。良い男と巡り合って仲良く交わりたい思いが、本能としてある。リーンもそうであろう?」
「そう。でも召喚獣、子供できない」
「それは確かにそのようだな」
「それも本能で分かるの?」
ダンジョンの中にいるゴブリンもライオンも繁殖能力があるようだ。しかし私の召喚獣には繁殖能力がないらしい。それなのに性欲はある。とても不思議な存在だ。
「そうだな。本能的に自分たちの存在がどういうものか分かるのだ。召喚獣は主が生きている限りは、生き続ける。そして主が死ねば死ぬ。まあ敵に殺された場合も死ぬがな。そして、そういう存在だから、繁殖能力は必要ないのだ」
「そうなの……」
そのせいだろうか。私はリーンとラーイがものすごく大事に思える。それは母性に近いと思えた。しかし、その反面、ラーイのこの見た目には懸念事項があった。
「でも性欲があるなら男は欲しいわよね?」
「私たちは主が元になって創られる存在だ。だから、主に性欲がなければ私たちも性欲がない。主が性欲が強ければ私たちも強い。そして好きな人間も同じだ。リーンはまだそこまで知能が高くないから、うまく説明できないようだが、主が好きな人間を我々も好きになる。そういう存在なのだ」
「つまりあなたも?」
「ユウタが好きだな。ユウタ以外の男と仲良くなりたいとは思わん。ユウタとはまだ出逢ったこともないが、生まれた時からそう決まっている」
「じゃあ私がユウタを嫌いになれば、あなた達も嫌いになるの?」
「それ、違う」
これにはすぐにリーンが答えた。
「私たちは創られた時点で主とは別の存在になってる。あくまでもベースが主だと言うだけのことだ。そこまで極端に主の思考に引っ張られない。特に我々は生まれた時からユウタが好きだ。それはある種運命的なものですらある。その相手を変えるというのはなかなか難しいだろうな」
「それはまた……」
「主。私はユウタと体を重ねてみてもいいか?」
私はラーイの姿を見た。白い髪の毛は短く切りそろえていて、驚くほどに白い肌をしている。白人というよりは別の存在だ。色が抜け落ちたみたいである。そして容姿は私から創られたというだけあって、綺麗だ。野性的な美しさは私でも見惚れる。
「悪いけどそれはダメ。ユウタは今でもかなりいっぱいいっぱいよ。これ以上、女の相手をしろなんて言ったら許容量を超えて私達から逃げ出しかねないわ」
なによりミスズは私と違って普通の独占欲を持っている。私だってそれはあるが、探索者をやっていく以上はミスズとイマリだけは割り切ろうと決めている。しかし、ミスズはなかなかそこまで割り切れないようだ。
それなのにラーイまで認めろなんて言ったらパーティ崩壊しかねない。だいたいこれから出てくる召喚獣が全部女だったらどうするんだ。そのたびに全部認めてたら、ユウタが過労で死んでしまう。
「どうしてもか?」
「どうしても」
「ならば仕方ない。今は諦めよう」
「仕方ない」
意外なことにその言葉にリーンも続いた。
「いいの?ほかの人間は無理なんでしょ?」
「私とリーンは主に縛られている。主の嫌がることはできない。何よりも主たちがレベル1000に到達すれば寿命は果てしない。永い命の中で主が許せると思う時を待つさ」
「待つ」
「そ、そう」
主の私よりも大人の意見を言われてちょっとショック。でもそうか。この子たちは私の中にある知識をほとんど持ってるんだ。レベル1000になれば1000年生きる。最近のダンジョン研究ではそう言われていた。
寿命はレベル500になるまで、そこまで劇的に変わらないそうだが、レベル500になって転生するとかなり伸びる。そしてレベル1000に到達するとまた劇的に変わる。おそらく12英傑は1000年生きる。そんな研究結果が発表されていた。
「主は無理をしなくていいと思うぞ。浮気の手伝い喜んでしよう」
「しようー」
「うっ、浮気……。ダ、ダンジョンで男を共有することは当たり前なんだから浮気じゃない!」
「そうか」「そうらしい」
「くっ、み、見てないところでするようにとか、ミスズを刺激しないようにとか、ちゃんと配慮しているの!行くわよ」
「了」「主。ユウタに選ばれなかったのに、しつこくして嫌われなくてよかったな」
「う、うるさい!」
つい先ほど生まれたばかりのラーイは、私がユウタに捨てられるんじゃないかとものすごく心配していたのをよくわかっているようだ。ラーイを元の獣の姿に戻すと、リーンとともに騎乗して駆け出し始めた。
レベル5のラーイは力強く地面を蹴って、地上最速のスピードといわれていた時速100kmの壁を悠々と突破した。
「これでどうかしら?」
ユウタの所まで10分もかからずに到着した。そしてラーイの紹介とかなり頭をひねって考えた逢い引きする手順をユウタに詳しく説明した。
「すごい。これならさすがに美鈴にバレないかも」
「でしょ?」
私がダンジョンの中でユウタに逢って愛し会おうとすると、どうしてもユウタの位置が一切動かなくなる。ミスズは当然のように私の行動には疑いを向けてるだろうし、地図アプリでユウタの位置情報が10分以上止まっているだけでも怪しまれるかもしれない。
しかし、ラーイがユウタのスマホを持って移動した場合どうだろうか?その場合、ユウタの位置情報は常に動き続けることになる。
「でも、ラーイが俺のスマホを持ってたら、美鈴から俺に電話かかってきた時はどうするの?」
「それも更にスマホをデビット達に購入させて届けてもらったから大丈夫。ミスズからのユウタへの電話はこの予備に自動的につながるようにしておいたわ。これなら毎日私と逢っても大丈夫だと思うの。嫌?」
「そんなことはないんだ。ただ、ミスズが気になって……ごめん」
真剣になって逢い引きする手順を考えた。それだけでも男は嫌がるだろうか?そんな懸念もあったが、それよりも、やはりミスズを悲しませたくないのが一番のようだ。それなら、ミスズにバレない方法さえ考えればいい。
当初はどう考えても難しいと思ったが、ラーイの召喚ができたことで状況が一気に好転した。9時頃に私と愛し合って、この階層では12時の昼食をとることも一人でするので、その時また愛し合う。そして嫌でなければ16時頃にまた愛してもらう。
「さ、さすがに多くない?」
「多くない。美鈴は寝てる間ずっとじゃない。私は30分ぐらいだもの。ユウタが嫌なら良いけど……いいでしょ?」
「なんだかバチが当たりそうな。そんなに俺なんかとキスばっかりしたいの?」
「え、ええ、ダメ?」
「ダメというか……」
「ユウタ、それで折れてやってくれ。これでもユウタに捨てられないかと相当ビクビクしてるんだ。不安だからこんな無茶を言い出す」
「ラ、ラーイ!」
「安心しろ主。美鈴にはバレないように私とリーンが全力を尽くす。ユウタ、いいな?」
「まあ、そりゃエヴィーと一緒にいられるのは長いほうがいいけどさ」
「では、隠蔽工作のことは私とリーンに任せてくれ」
そう言ってラーイはホワイトライオンに戻ると、ユウタのスマホを預かって、駆け出し始めた。とはいえ、ラーイが本気で走るとユウタよりはるかに速くなってしまう。それだとユウタでないと言ってるようなものなので、彼女にしてはゆっくりと駆け出した。
リーンはすでに私のスマホを持って、浮気のアリバイ作りのために別行動をしてくれていた。
1日3回で1回は30分。レベル上げと階段探しだってしなきゃいけないからそれ以上は無理。
この少しの時間だけ召喚獣に私はバカなお願いをしていた。
バカなお願いをした私はマジックバッグからシートを取り出して、草原に敷いた。この辺をテリトリーにしているゴブリンライダーは、ユウタが殲滅したところで、300mほど先で屍になっている。炎天下の中ゆっくりとユウタにもたれかかった。
「もっとずっとこうしていたい」
「……俺もだ」
「本当?ユウタはちゃんとけじめをつけて、私を振ったのに、すがりついてる。しつこい女だって思うでしょ?」
「俺は……自分で思ってたよりもいい加減な男だったんだなって思ってる。俺の中でエヴィーのことがだんだんと大きくなってるんだ。今エヴィーとこうしていられることがとても嬉しいと感じている」
「本当?」
「エヴィー。バカな俺を許してくれるか?」
「ううん、しつこい私がいけないの」
私を捨て切れなかったことで、ユウタは少し変わったような気がする。今まではハーレムはダメと考えていたように見えたが、少なくともユウタはハーレムにしたいと考えだしているように見えた。
「ユウタ。もしかしたらの話なのだけど、ミスズが納得してハーレムになるとしたら、嫌じゃない?」
「……嫌じゃないよ。というか、バチが当たりそうだけど、できればそうしたいと思ってる」
やっぱりユウタの心はかなりそっちに向いているようだった。何しろユウタは真剣にレベル1000を目指している。そのために一番必要なのは信用できる仲間だ。そして今まで見てきたユウタの性格からいって、それは女が望ましいと思う。
ユウタが好きで、ユウタのためなら死ぬことだってできるぐらいの女がユウタの周りに侍る。そしてその4人でレベル1000を目指すのだ。
「イマリが私やミスズと別れてほしいと言ってきたらユウタはどうするの?」
「分からない。正直俺は美鈴もだけどエヴィーとも一緒にいたいんだ」
私はユウタを引き寄せて草むらに敷いたシートに寝そべる。
「ねえ、イマリのことがあるからダンジョンから出ると、私と逢うのはやめておいたほうがいいと思うの」
「それは……そうだね」
残念そうな顔をしてくれた。それがとても嬉しかった。それでもあのイマリからミスズにかかってきた電話は私にとっても痛恨の出来事だった。あれで危うくユウタに捨てられる直前まで行ってしまった。
あのことを思い出すだけで、いまだに体が震えてくる。ユウタがまさかあんなことを言うとは夢にも思わなかった。正直、自分が選ばれると傲慢にも信じていた。少なくともアメリカで私は常に選ばれて生きてきた。選ばれなかった事は初めてだった。
「私はあなたが好き。だからここで本当に抱かれたい」
「それって……」
「ええ、ちゃんとしてほしいの。無理?」
「……」
ユウタが答えずにいた。
とても答えにくそうにしている。
その表情をつい最近私は見た。
『どっちを好きかと言われたら俺は美鈴が好きだ』
ユウタの口が何かを言おうとして開きかけた。
『どっちを好きかと言われたら俺は美鈴が好きだ』
「ご、ごめんなさい。無理なお願いをしたわ。でも最後でいいからちゃんと私のこと見ててね?」
「……」
ユウタにまたキスをした。少し期待した。ミスズもイマリも忘れて自分としてくれるんじゃないかと。それでもこれで今はいいのだ。私が目指しているのはレベル1000で、ユウタに愛されることじゃない。
だから愛されたいなどと思わなくていい。そうだ。それよりも、ユウタのためのパーティーづくりを本当に手伝ってあげよう。そうすればもう二度と私は、この人から必要ないなんて言われることはないはずだ。





