第五話 Side南雲
米陸軍の装備に身を固めた気弱そうな少年が試着室に入っていくのを、体のだるさに顔をしかめながら見つめる。先ほどまでダンジョンにいてうまくいかなかったこともありかなりイラついていた。
それなのに俺様はなぜこんな親切をあんなどこにでも居そうなガキにしてやっているんだろう。
はっきり言ってあのクソ女の言うとおり、適当に高い装備を買わせて、ダンジョンに放り込んでしまえば、考えなしの子供などそのうち勝手に諦める。その後のことなど知ったこっちゃない。直接止めたわけじゃないんだからダンジョンに嫌われる心配もない。
「なんかすげーデジャブだ」
「ずいぶん親切じゃないか南雲の坊ちゃん」
声をかけられてぼーっとした顔のままそちらを見た。
「なんだ。クソババアか。年寄りは朝が早いな」
長い耳をしたどこの外国人モデルかというぐらい若くて綺麗でそれでいてめちゃくちゃ胸のでかい女、エルフと呼ばれる種族そっくりの姿をしたクソババアが立っていた。
「クソをつけるんじゃないよ。汚いね」
「ふん、クソババアはクソババアだろ」
「昔は『おばあちゃん。おばあちゃん』って言って寄ってきてくれたのに、いつからこんなに可愛くなくなったのかね。私にもあの坊やぐらい親切にしてほしいもんだよ」
「俺はいつでも親切だよ」
「あんなにダンジョンに向いてなさそうな子。どうせ無理だと思うけどね」
自分もそう思っていたが人に言われるとムッとした。
「現実を知って諦めるならそれまで。それでも命をかけるっていう酔狂なやつなら、やればいいじゃねえか」
「ふん、あんたも15の頃だったね。学校で虐められてるってダンジョンに逃げ込んだの」
「あの頃は俺も若かった。というか、なんかあいつ俺と似てね?」
「やめとくれ。5年したら、あの子もあんたみたいになるのかと思うとゾッとするよ」
「俺も5年したらクソババアがこんな美人になってゾッとしたよ」
「憎まれ口を。わかってるだろうけど助けすぎるんじゃないよ。それだけは守るんだよ」
「わーってる。婆さんは相変わらずだな」
「ふん、年寄りとはそういうもんだよ」
「年寄り……」
目の前の作り物めいたほど綺麗な女を見て年寄りという言葉を考えた。
「それにしても可愛い女の子をあんなに脅すなんてひどい男だ」
「昔を思い出すとムカついた。悪いとは思ってない」
「ふふ、じゃあ、私が慰めてこようかね」
クソババアはそれだけ言うと、最初から見てやがったのか、あのクソ女を慰めにトイレの方へと歩いていった。姿だけ見ていると間違いなくこの世のものとは思えないほど綺麗な女だ。
「慰めに行くというより襲いに行ったな」
小さく笑いが漏れた。しばらくすると髪が乱れて真っ赤な顔になった女と、つやつやした顔をした女が2人並んでトイレから出てきた。それと同時くらいにあの子供が試着室から出てくるのが見えた。





