第四十二話 リスク
「【精緻一射】!」「【火弾】!」
美鈴が放った矢がゴブリンの兜の隙間から額に命中した。そしてエヴィーの魔法杖を使って放った魔法が、同じくゴブリンの頭を包んだ。まず2体。あれは確実に死んだ。俺とリーンはゴブリンに向かって一気に斬りかかった。
「【二連撃】!」
ゴブリンはライオンとの交尾のために腰の鎧を脱いでいた。その尻に向かって遠慮なくスキルを放った。ゴブリンの体が上半身と下半身で真っ二つに分かれた。心配でリーンを見ると俺と同じくゴブリンへの奇襲を成功させていた。
4体のゴブリンがこれで死んだ。
それでもライオンだけでも十分な脅威だった。俺はそのままライオンの首を切り落とした。リーンもハルバードで同じことをしていた。ゴブリン4体とライオン2体。 残りは健在なゴブリンライダー11騎、ライオンのみが2体。
「【精緻一射】!」「【火弾】!」「【石弾】!」
美鈴は弓の精度を高めるため100m離れていた距離を走って近づいてくる。
そうしながら矢を放った。乗り手のいなくなったライオンの脳天に命中した。さらにエヴィーと俺の魔法が同時に乗り手のいなくなった同じライオンへと命中してしまう。何をしてるんだ俺。同じやつを狙ってどうする。しっかり状況を見ろ。
「すまない、攻撃が被った!」
エヴィーに謝るがそんなことをしている場合でもなかった。
「【精緻一射】!」
ボーナスタイムはそこまでだった。美鈴が50mほどの距離で止まって、再び矢を放った。しかしゴブリンライダーが避けようと動き、かぶっている兜に矢が弾かれてしまう。
1階層のゴブリンならあれで確実に死んでいるはずなのに、向こうはまだ11騎いる状態で瞬く間に臨戦態勢を整えだした。再び美鈴が矢を放つが兜の部分にあたってまたはじかれた。
「美鈴! 頭にこだわらなくてもいい! 胴体でも何でも構わない!」
「わ、 わかった! 【精緻一射】!」
「ギャギャ!」
「「「「「「「「「「ギャー!!!!」」」」」 」」」」」
リーダー格のレッドゴブリンが鋭く声を出すと他の10騎が返事をする。それぞれの伴侶となるライオンに乗り込むと11騎が一気に動き出した。砂塵が舞う。動きが機敏で異常なほど速い。怯みそうになる。
11騎全てが駆け出した。美鈴の放った矢をあっさりとゴブリンライダーが躱してしまう。
とにかく数を減らさなければ、まともに戦えば負ける。
「【火弾】!」「【石弾】!」「【精緻一射】!」
気合を入れろ。美鈴もエヴィーもリーンも俺に従ってるんだ。ゴブリンライダーのゴブリンとライオンの瞳が、よくも仲間を殺したなと睨んでくる。俺は距離がゼロになる前に【石弾】を目の前まで来たゴブリンライダーに撃ち込んだ。
鎧を着ていない部分の腹を貫いてズルッとゴブリンの体が、ライオンの背中から崩れ落ちていく。自分の伴侶がやられたことに気づいたライオンが肉迫してくる。前足をあげてきた。目の前に来るとライオンはかなり巨大で恐ろしかった。
左手で受け止めていなす。すかさず俺は右手で【二連撃】を放った。ライオンの体に二筋の軌跡が走る。
「ぎゃぎゃ」
リーンが俺に何かを言いたそうに声をかけてくる。今のはわかった。焦るなと言ってるんだ。スキルも魔法も撃てる数は少ない。ライオンならば足を切り払えばよかっただけだ。
「【精緻一射】!」
さらに美鈴のスキルを使った矢が放たれた。その矢がゴブリンに切り払われてしまう。ゴブリンライダー2騎が美鈴に向かって走っていく。ライオンの速力が瞬く間に美鈴との距離をゼロにしていく。
「美鈴!」
「ぎゃーぎゃー」
俺が慌てて美鈴のフォローに回ろうとしたら、リーンに叫ばれた。また落ち着けと言われている気がした。今から追いかけてどうする。それぞれ危なくなったら20式小銃を使うと徹底している。
それよりも目の前にゴブリンライダーが迫っていた。すれ違いざまに斬りかかってくる。その刃が俺の籠手とぶつかり合う。あまりの力にこちらが体を飛ばされる。20式小銃を使いたい衝動に駆られる。
しかし、日本の第一世代の高レベル探索者達は、銃など持ってなかった。つまりこいつらとそんな保険などなしに戦ったのだ。ここでそんな弱気を起こして高レベル探索者なんかになれるものか。
「【レベルダウン】! 【レベルダウン】!」
美鈴が2回叫ぶ声が聞こえた。相手のレベルを1下げる魔法。エヴィーを目の端に捉える。【火弾】を放ってなんとかゴブリンライダー3騎を撃退している。
俺は起き上がると、ゴブリンライダーが斬り殺そうとしてくるのをライオンの足を切り飛ばしてかわした。地面に投げ出されたゴブリンは、それでも体勢を崩さなかった。素早く着地してそのまま俺に飛びかかってくる。
向こうの方が速い。力も強い。だが、体が大きいのはこちらだ。今度は体重差で受け止めることができた。
「【二連撃】!」
俺はゴブリンを下から切り上げた。見事に片方は受け止められてしまう。しかしもう一つ走った剣閃がゴブリンの腹を切り裂いた。もう一度スキルを唱えたくなるのを我慢して、素早くゴブリンの首を斬り飛ばした。
美鈴とエヴィーを見る。まだ無事だ。レベルダウンが通ったようで美鈴は十字槍を持ってなんとかゴブリンライダーを押し切れそうだった。エヴィーはゴブリンライダーを一騎処理することに成功していて、MPポーションを飲んでた。
俺もなんとか距離を置いてマジックバッグに入れているMPポーションを飲んだ。すかさず【石弾】を連続で放って、目の前まで来たゴブリンライダーを仕留める。そしてSPポーションも飲んだ。乗り手のいなくなったライオンと対峙し、リーンを見ると、ゴブリンの剣がその華奢に見える腕に刺さっている。
「ぎゃいっ」
え?
リーンの腕にゴブリンの剣が刺さっている。
盾が下に落ちていて、腕を貫通していた。リーンの馬鹿。俺の方ばっかり気にしてるからだ。
「リーン!」
助けるために駆け出した。
しかしそこに一騎ゴブリンライダーが、仲間の邪魔はさせないとばかりに割り込んだ。その間にリーンの腕から剣が引き抜かれて、とどめを刺そうとされていた。なんとか石弾を放とうとするが、割り込んできたゴブリンライダーがそれをさせてくれない。
エヴィーもライオンの力が強くて、体勢を崩して、腹を噛みつかれ、ライオンに仕留められそうな草食獣のような状態になってる。なんとかアーミーナイフを取り出そうとしていた。とてもリーンを助けに入れるとは思えない。
一瞬で戦況が変わっていた。
リーダーのレッドゴブリンが勝ったと確信したのか笑っていた。ゴブリンライダーは何の慈悲もなくリーンの首めがけて剣を振る。リーンの首を捉えた。このままじゃリーンの首が刎ね飛ばされる。ダメだ。それだけは絶対だめだ。
しかし、現実とはいつも非情だった。ゴブリンライダーの剣がゆっくりと進んでいくように見えた。リーンの華奢な首が1/3まで斬られる。リーンの首が刎ね飛ぶのを幻視した。その瞬間だった。不意に助けられる方法を閃いた。俺は叫んだ。
「エヴィー! リーンを引っ込めろ!」
「へ? しょ、【召喚解除】!」
多分エヴィーは状況の確認をせずにリーンを引っ込めた。リーンの姿が消えていた。無事だろうか? ギリギリ助けられたと思いたい。しかし、それに構う余裕はなかった。ゴブリンライダーの元気なのがまだ7騎いた。
ゴブリンが上から思いっきり切り殺そうとしてくる。受け止めるが、その力に腕がしびれる。なんだこいつ? さっきまでの敵より力が強い? 残っていたもう2騎がエヴィーに向かっていった。多分エヴィーはもう魔法がほとんど残ってないはずだ。
ライオンに腹を噛みつかれてもいたから、かなり血も流してしまったはずだ。焦るなと思いながら目の前のゴブリンライダーを仕留めるために【二連撃】を放った。
キン、キン!
「え?」
【二連撃】が2回とも受け止められた。
「ギャアアアアアアッ!!!」
俺の二連撃を受け止めたゴブリンライダーは、ライオンの手綱を引っ張って、俺に再び向かってくる。二連撃がゴブリンライダーには効かない? さっきまで効いてただろ? いや、よく見ろ。
周りの個体よりも立派なやつだ。赤い甲冑。群れを率いているレッドゴブリンがいつのまにか目の前にいた。レベル8だ。背中に嫌なものが流れる。向こう側では残りのゴブリンライダー4騎が弓を構えていた。俺に向かってではなく美鈴に一斉に放とうとしている。
2騎のゴブリンライダーがもうそこまでエヴィーに迫っていた。エヴィーはライオンに先ほどまで腹を噛まれていた。なんとかアーミーナイフを取り出してライオンの首に突き刺してトドメをさしていたが、魔法衣の布を突き破られて腹から血が流れてふらついていた。
とてももう2騎のゴブリンライダーの相手を出来るとは思えなかった。エヴィーもこれ以上は無理と判断して20式小銃を構えようとしているが、ゴブリンライダーの剣戟に体を吹き飛ばされていた。腹から血を流したまま地面を転がってる。
「ギャー!!」
目の前のレッドゴブリンに集中できていなかった俺に、レッドゴブリンがまるでふざけているのかとでも言いたげに叫んできた。こっちを見ろと言ってる。
「うるさいんだよこのボケ!」
俺は迷わなかった。
「【二連撃】! 【二連撃】! 【二連撃】! 【二連撃】!」
スキルを受け止められるなら、受け止められないほど放つ。残ったSPを全部注ぎ込んで、連続でスキルを放つ。右腕が悲鳴を上げて、千切れそうなほど痛い。それでも関係なかった。いくらレベル8でも4連続で【二連撃】を受け止めきれるわけがない。
「死ね!」
レッドゴブリンの体が切り刻まれた。残ったライオンに【石弾】でとどめをさす。エヴィーに向かっていこうとするゴブリンライダーを追いかけた。20式小銃を抜く。だがまた遅い。リーンの時のように間に合わない距離。しかし、
「【精緻一射】!」
鋭く矢が飛んできた。ライオンの体に突き刺さる。美鈴の援護射撃だ。ゴブリンだと受け止められる可能性があるからライオンに放ったんだ。ライオンの動きが鈍った。さらに矢を放って、美鈴がもう一体のライオンの胴体を射抜く。地面に着地した2体のゴブリンが体勢を崩している間に俺が斬り伏せた。
美鈴の腹に矢が刺さっていた。かなり苦しそうだ。先ほど一斉に放たれた矢を食らってしまったみたいだ。その時点でもう無理だと判断したのだろう。自分の方に向かってきたゴブリンライダーは20式小銃で撃ち殺していた。
俺もここまでだと判断した。20式小銃を抜く。そうすると一気にゴブリンライダー達の数が減っていく。何よりもリーンに一刻も早くポーションを飲ませなきゃいけない。
ズンズンズン!
拳銃よりもかなり重い音が響いた。ゴブリンもライオンも全てが20式小銃の5.56ミリ弾の前に沈黙した。俺は美鈴が自分でポーションを出して飲んでいるのを確認すると、急いでエヴィーに近づいた。エヴィーは自分でポーションを出すのも辛いようだった。
俺がマジックパックから1000万のポーションを取り出してエヴィーの口へと入れる。飲み込んでいくとしばらくしてかなり楽になったようだった。
「あ、あの子にも飲ませてあげないと死んじゃうわ」
まだふらついていたが、MPポーションを飲んで、エヴィーが再びリーンを召喚する。召喚元に帰っても回復するわけではないのかリーンは意識がなく、ぐったりしていた。首が中ほどまで切れてしまっている。
「ユウタ、リーンの首がちゃんとくっつくように押さえてあげて」
「わ、わかった」
リーンの頭を持つと。しっかりと位置がずれないように固定した。エヴィーが回復ポーションを飲ませる。生きてたらこれで回復する。死んでたら回復ポーションでは回復しない。リーンの体は温かかったから生きてると信じた。
リーンの身体が青白く輝く。よかった。回復の光。これが出るということは生きてるということだ。1000万のポーション一本で回復しきらずに、もう一本飲ませた。いくらでも飲んでくれたらいいと思った。
「大丈夫かリーン?」
「ぎゃ……」
リーンの幼い口から声が漏れた。
「よ、よかった……」
「ユウタ、やっぱり命がけだったわね」
俺も10万円のポーションを取り出して飲んでおいた。SPとMPも満タンにする。美鈴とエヴィーも同じように回復して、みんな全快状態に戻った。
「やっぱり1階層のゴブリンとは桁違いに強いね」
「このまま3階層まではゴブリンばっかりだったよね」
「ああ、3階層ではゴブリン集落があるらしいよ」
「まだ行くこともできない3階層より、2階層よ。ひとつの群れを倒すだけですごい出費だわ」
「確かに。エヴィーとリーンで1000万3本。美鈴で100万円のポーション1本。俺が10万円ポーション。SP、MPの回復で7本使っちゃったから3200万円ぐらい使ってるな」
「それでもギリギリ勝てたって感じだったわ」
「と言うか20式小銃使っちゃったからな。今の俺たちの実力だと16騎はきつかったか」
「次はどうする?」
4人で草原の中に座り込んで一旦休憩していた。2階層ではゴブリンライダーたちの縄張り意識が強く、そんなにすぐには他のゴブリンライダーがやってくることはないと言われていた。
一つの群れを倒すとそのエリアに1日は他のゴブリンライダーが入ってくることはないと言われており、なんなら全員で寝ても大丈夫とすら言われていた。しかし1階層でゴブリンに散々不意打ちされていた身としては、なかなかそこまで大胆にはなれない。
「難しいところね」
「クエスト達成がかかってるしね」
「今の感じだと3人ともレベル5になるまでに新しくスキルか魔法が生えなかったら、一人でこの群れを倒すのは難しそうだ」
リーンの調子が戻ってきたようで、俺の横にちょこんと座った。死にかけたというのに気にもしてない様子だった。抱っこして膝の上に乗せてやると機嫌が良さそうにしていた。
「私はそう考えると正直このままがいい気がする。リスクを背負わないとスキルと魔法は生えにくいし」
「そうだけど……。アリストのバリアがあっさり破られたのよ。リーンはもうちょっと召喚解除が遅れたら死んでたし、私はお腹をライオンに噛みつかれた。継続ダメージを受けると、アリストはかなり脆かったわ」
「リーンはアリストをどんな感じで抜かれたの?」
リーンの言葉はわからないのだが俺は尋ねた。
「ぎゃぎゃ」
「ゴブリンライダーに3回切りつけられただけで破れたって言ってるわ。せめて20式小銃で先にゴブリンライダーの群れを10騎にしてしまわない? それだけでもかなり楽になるでしょ」
エヴィーが冷静なことを言う。アメリカで散々苦労したせいか、エヴィーはかなり慎重に事を進めたいようだった。
「私はそれは反対。安全策をとってレベル上げの質が悪かったら、クエストが達成できなくなるよ」
「だからって死んだら終わりでしょ」
「そうだけどさ。私の【二点矢】は絶対必要なんだもん」
「私だってラーイはできれば欲しいわ」
「じゃあこのままでいいじゃん」
「危なすぎるって言ってるの。ねえ、ユウタは私の意見をどう思う? 美鈴より私の方でいいわよね?」
「祐太、私の方でいいよね?」
「う、うん……」
確かにゴブリンライダーの頭数を遠くから減らせば、今のこのパーティーならかなり安全に倒せそうだ。しかし俺はといえば、どちらの意見に賛成かといえば美鈴だった。
「俺は美鈴の意見でいいと思う。一度戦ってみてかなりコツは分かった。多分、次はそこまで苦戦しないと思うよ」
「そ、そう?」
美鈴の意見に賛成するとエヴィーは不満そうに見てくる。
「俺たちにはスキルと魔法がある。次は前以上にそれを活かしてみようと思うんだ」
「どうやって?」
「美鈴の【精緻一射】だけど、もっと連射できるよね?」
「うん。でも、いくらスキルがあっても、連射だとちゃんと当たらなくなると思う。【精緻一射】は私が狙っている場所から3mぐらいなら、外れても誘導性があるんだけど、それ以上離れると明後日の方向に飛んでいくの」
「それでいいと思うんだ。エヴィーも【火弾】をあと何発か撃てたと思う。俺の石弾もだ。だから3人でもっと弾幕を張るっていうのはどうかな?」
「精度を無視するの?」
「当たるようには頑張るけど、無視していいと思う」
「MPとSPは切れたらどうするの? あいつらすぐに迫ってきて、ほとんどMPポーションも飲む暇がなかったわよ。さっき私がライオンに噛み付かれたのだってMPポーションを飲もうとした時なのよ」
「遠くの美鈴は自分で飲めば良いし、俺とエヴィーはリーンに切れたら飲ませてもらったらいいじゃないか」
「私のリーンをサポート役にしろってこと?」
「う、うん」
「エヴィー仕方ないわよ。どのみちスキルと魔法がないリーンは近接戦闘かなり危ないってことが分かったし」
俺と美鈴の言葉にリーンは残念そうな顔になった。しかし召喚獣の特性なのか、あれほどの戦いの中でも、リーンは一番冷静だった。サポート役に徹してもらえば、活躍できる場が充分にあった。
「それと美鈴は今回近づいてきていたけど、遠距離攻撃の方が得意なんだから近づいて戦おうとはしないでほしい。正確に狙うことにこだわらなくていい。もっと遠距離で戦うんだ。一番離れている美鈴が、一番冷静に対処できる。あの場で20式小銃を自分の判断で使ってくれたのが本当に助かった。だからそうしてほしい」
「祐太……。わかった。正直近づいて戦わないとステータスが悪くならないかと心配だったの。でも私は弓兵なんだもんね。ちゃんと遠距離に徹して弾幕を張るようにするよ」
本当言えば、近くの人間が指揮するよりは、遠く離れている美鈴がやるほうがいいと思う。実際、戦いの場が一番よく見えるのは美鈴だ。でも、美鈴だとエヴィーが嫌がりそうだしな。
「あと、俺とエヴィーで攻撃が被ることがあったよね」
「ええ」
「魔法やスキルの無駄遣いになるし、せめて最初の弾幕時点ではかぶらないように気をつけよう」
「分かったわ」
「とにかくやってみる。無理ならまた考えるでいいと思う」
「「OK」」
「リーンも良い?」
「ぎゃ」
3人とも納得してくれたようだった。ともかく開幕時にどれだけ火力をぶつけられるかにこの作戦はかかってる。
「ぎゃ」
ゴブリンライダーの探索を開始し、最初に見つけたのはリーンだった。リーンは雄のゴブリン達とちがい目が良いようだ。まだ1kmほどあると思われるが、指し示す方向を見るとゴブリンライダー達がいた。
「ここからは姿勢を低くして隠れて行こう」
「「了解」」「ぎゃ」
俺たちは草原の中に隠れるように体勢を低くした。ゴブリンライダーをよく見た。どうやら食事中のようだ。狩られてしまったシマウマの死体が火あぶりで焼かれている。ゴブリンがそれを切り分けて、ライオンにも与えていた。
メスのライオンは、焼いた肉をうまそうに食べている。ゴブリンとライオンの夫婦だというが、関係は良好なようだ。
「祐太、なんか普通に生活してる」
「同情はしないよ」
「わかってる。どの道仲良くできない間柄だしね」
「ユウタ、今度のは面倒そうね」
「そうだね。交尾もしてないし、ちゃんと見張りに立ってる奴もいる」
「ユウタ」「祐太」
な、なぜ、2人とも俺ばかり呼ぶんだ。なんか怖い。いや、それより、先ほどのゴブリンたちには見張りがいなかった。しかし今回はゴブリンライダーが2騎見張りに立っている。あれに見つからないように近づくには一苦労しそうだ。
「全部で17騎。ユウタ、結構な数よ」
エヴィーが数えて報告してくる。
「うん、100mぐらいの範囲に広がっているな」
ゴブリンライダーは機動力が命である。前のゴブリンライダーがそれを活かしきれてなかったが、今回はそれを全力で活かしてきそうな配置だ。
「どうするユウタ? あんまり遠い位置にいるのは20式小銃で減らす?」
やはり考えた通りには行きにくい。魔法の射程は俺で10m、エヴィーでも15mである。弾幕を張ると言っても、俺とエヴィーには限界がある。100mの範囲で広がられたらかなりやりにくかった。
「美鈴。【精緻一射】で狙える最大射程ってどれぐらいだっけ?」
「そんなに風があるわけじゃないから200mはいけると思う。確実に頭に当てるなら100mだけど」
弓の射程というのは意外と長い。それでもおそらくレベルアップしてない人は、どんな達人だろうと100mの距離であっても脳天を撃ち抜くことはできない。レベル3の美鈴とそのスキル、買い換えた100万円する弓のおかげである。
探索者でなければ絶対に引くことができない剛弓。それを使うと、美鈴の矢はほとんど真っすぐ飛ぶ。20式小銃よりは威力が低いが拳銃よりは威力がある。これにエヴィーの魔法とリーンのサポート。俺はいろんな事態を考えて結論をつけた。
「美鈴も見張りまで50mのところまで近づこう。見張りまで100mだと一番集団でいる食事しているゴブリンライダー達と150mぐらい距離ができてしまう。それじゃあ当たらない。美鈴は時間が来たら【精緻一射】で、その場で8発撃ち尽くしてくれ。俺たちも近づいて魔法でできるだけゴブリンライダーのゴブリンの数を減らす。ライオンは後で倒していい」
「ライオンも結構強いわよ」
腹を噛みちぎられそうになったエヴィーが発言した。
「もちろん侮るわけじゃないんだ。エヴィーの火弾なら両方合わせて狙ってくれていい」
「それだとちゃんとトドメがさせない可能性があるけど……」
「うん。とにかく元気に動き回れるゴブリンライダーの数をできるだけ減らしたいんだ。開戦と同時にゴブリンライダーを10騎まで減らしたいところだね。まず美鈴はSPポーションをいくら飲んでくれてもいいから、その場で【精緻一射】で打ちまくってくれ。それでエヴィーがあいつらを焼く」
「「了解」」
「じゃあ行こうか」
俺たちは全員でまず先ほどと同じく時刻を決めて、一斉攻撃をする段取りをして、美鈴以外は3人で近づいていく。
「それにしても……」
思わず愚痴りたくなった。やはり見張りがいるというのは先程と全然違った。
「気付くなよ」
新調した鎧の音が気になりながらも近づいていき、取り決めていた通りの時間に魔法を放つ。美鈴が矢を放つのも見えた。結果かなり上手くいった。ゴブリンの無力化にまでは至らなかったが、【精緻一射】がゴブリンの腹に突き刺さり、動きを鈍らせた。
しかしそれでもミスする時はあり、なんのダメージも受けていないゴブリンライダーが10騎以上残ることは結構あった。そこから美鈴にゴブリンからの矢がお返しとばかりに飛んできて、鎧のない部分に命中してしまうこともあった。
何より失敗した時に、20式小銃を取り出すのに時間がかかって、殺されかけたこともあった。それでも俺たちは徐々にゴブリンライダーの動きを掴んでいき、トライアル&エラーで作戦の精度を高めていき、計6回の戦闘を繰り返した。





