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第三十七話 買い物

 装備を揃え直す買い物に浅草寺まで来ていた。浅草寺になったのは美鈴の提案で、普段利用することのない中級ダンジョンのショップだ。


「ごめんね。小春のこと」

「別に怒ってないよ。美鈴にも友達関係があるだろうし」


 浅草寺の雷門の前には、ダンジョンの入り口が5つ口を開いており、それは浅草寺ダンジョンが中級ダンジョンであることを示していた。観光客の姿は、5年前と同じくたくさん見えて、外国人の姿も多かった。


 お土産物の屋台の甘い匂いがして、俺はジャガイモをふかして甘辛く味付けし、串で刺したものを購入すると美鈴と分け合った。


「はあ、祐太とデートだと思ったのに」

「で、デート? これデートなの?」

「私今日は祐太とデートだと思って昨日の夜寝れないぐらい楽しみだったんだ」

「デート……」


 そうかデートか。一生縁の無い言葉だと思っていたのにこれはデートか。


「い、いや、そもそもなんで買い物の事なんて榊さんに言っちゃったの?」

「だって、彼氏自慢してるのに馬鹿にしてくるから、なんか腹たってきちゃって……、つい余計なことまで言いすぎちゃって。気がついたらデートの話までしちゃって……。あ、もちろんエヴィーのこととか南雲さんとか穂積たちのことは言ってないよ」


 今の中学生の興味と言えばネットと異性と探索者。この三つである。その中でも一番の関心ごとは探索者で、Dランに行けば探索者になれる。探索者になってレベル3になればそこら辺の大人よりもすごいと言われる。


 そんなところにダンジョンショップで買い物するなんて言えば、ついてきたいと言うのが当たり前だ。いやだからこそ根掘り葉掘り聞きまくられて言わざるを得なくなっちゃったのか。


 美鈴がジャガイモの最後の一口を食べる。唇にタレがついているのをぺろりと舐めていた。


「小春のこと今からでも断る?」


 そう言ってくる。かなりこっちに気を使ってくれている。


「終わったらキスしてくれるなら頑張る」


 俺はそんなことを言っていた。美鈴の言葉にすっかり気分が良くなっていた。


「するする。いつでもするよ。今する?」

「今はいい。皆見てて恥ずかしいから」

「あー、恥ずかしがるなんてひどいー。私はいくらでも見せていいのに」


 ぎゅうっと強く腕を組んできた。本当にあの桐山美鈴と付き合ってるんだと思えるだけで気分が良かった。だから今回は我慢することにした。それでも探索者の前に出るのになんの警戒もしないほど馬鹿にはもうなれなかった。


 俺は天変の指輪で元の冴えない中学生に戻り、美鈴は元に戻っても魅力値が高すぎるので、そこからまだマイナスして、桐山美鈴だとギリギリ分かる魅力30ほどの顔になってもらった。美鈴の顔が滅多にいない美少女からよくいる美少女になった。


「俺はこの顔だとまた馬鹿にされるんだろうな」

「いいの。祐太は祐太だもん。私その顔も大好きだよ。後でいっぱいチューしようね。もちろんその顔のまま」


 美鈴がそう言ってくれたからほかの誰に馬鹿にされても別にいいかと思った。


 観光地として元々人気だった浅草寺は、ダンジョンに人が慣れてくるほどに人通りが戻ってきて、今はすっかり元の賑わいだ。だから人混みに紛れることができる浅草寺が一番良かった。その辺は美鈴もちゃんと考えてのことだったのだろう。


「号外! 号外!」


 30代半ばほどの男が声を張り上げている姿に目を向けた。一枚だけの新聞を、大量に手に積み上げていた。


【雷神死亡】


  号外にはデカデカとそんな文字が印刷されていた。


「うわー、やっぱり雷神様が負けたか」

「龍神が負けるわけないよ」

「ダンジョンから出てきたら戦争が起きてて、びっくりしたけど、ちょっとほっとした。これで横浜も住みやすくなるのかな」


 美鈴が新聞の号外を受け取って読んでいた。俺もその内容に目を走らせる。一般市民に1万人以上の死傷者を出した【横浜龍雷事変】が終結したというもので、結果は龍神の勝利。昨日の正午に蘇生薬で復活した雷神様が、龍神様に詫びを入れる形で決着したそうだ。


「死亡と言っても死なないんだね」

「それはそうだよ。これぐらいのレベルの人たちになるとよっぽどのことがない限り、蘇生薬をストックしてるから殺しても簡単には死なないよ。それにレベル900以上の雷神様が死んだりしたら日本にとっては損しかない。素行の問題はあるけど、外国からの侵略には対応してくれるし、日本の軍事力の一翼にはなってる人だし」

「蘇生薬かー。早く私たちも手に入れたいね」

「そうしたら美鈴が死ぬ心配をしなくてよくなる」

「私も祐太が死んじゃう心配しなくてよくなる」


 お互い見つめ合って人目があるから恥ずかしいと言ってたのに、軽くキスをした。


「へへー。それにしても今回の戦争の理由って分かってないんだってね。雷神様の素行があまりにも悪いから、龍神様が激怒して、森神様と横浜に乗り込んだとか書いてるけど、これってマスコミの想像でしょ?」


 美鈴は全然気づいてないんだな。まあそりゃそうか。俺だって昨日の電話がなかったら、何か関係してるのかなって思っただけだもんな。


「探索者同士の争いは被害が大きいわりに、結局、なんで争ってたのかってわからないことが多いよ。雷神様が何か言うとは思えないし、龍神様が喋ってくれない限りは、わからないままだろうね」

「めちゃくちゃ人が死んでるのに戦争の理由すら教えてくれないなんて、私ちょっと龍神様のそういうところは嫌いかも」

「……」


 雷神様は日本の素行の悪い探索者の元締めみたいな人間で、そういう人たちが法律によって裁かれそうになるといつも邪魔をする。


『探索者の自由を阻害するな』


 というのだ。そのせいで国が秘密裏にお金を積んで高レベル探索者に対処を依頼するぐらい悪いことをした探索者は、雷神様の傘下に入る。そうすると国からの刺客を雷神様が撃退してくれる。


 そうして雷神様は勢力を伸ばしていると噂されていた。しかし今回の龍神様の一件で、雷神様でも調子に乗ってると殺されるとわかった。


【龍神様が本気だったら、雷神様は蘇生薬を使わせてもらえず本当に死亡していたことだろう。一長一短の結果ではあるが、これでますます日本は平和になる】


 と号外では専門家がコメントしていた。


 いつも通りの探索者にすり寄ったコメントである。しかしその代償として1万人の一般人が戦争に巻き込まれ死傷した。全部が全部自分のせいだなんて思わないし、それこそ自惚れが過ぎると思うけど、やっぱちょっと来るな……。


「美鈴。榊さん、ダンジョンショップにいるんだよね?」


 俺はこの話題をこれ以上話したくなくて、今日の本題に戻った。


「そ。あ、居たよ。小春!って……」


 浅草寺のダンジョンショップは仲見世商店街を進んだ先にあった。以前はお寺が経営する幼稚園があった場所だ。しかし、ダンジョンの近くに幼稚園があるのは危ないので、幼稚園が移転し、その場所がそのままダンジョンショップになった。


 そしてそのショップの前に榊さんが立っていたのだが、


「っ!……」


 その横で並んでいる男子の姿が一瞬目に入っただけで息が詰まりかけた。


「よう。六条の君」


 俺がこの世の中で目にして一番不快な存在。池本がいた。ニヤニヤした顔をしている。今まで散々池本に対して尊厳を踏みにじられてきた毎日が頭の中に蘇った。


『六条の君ー。ちょっとは殴り返してこいよ! 面白くないだろ! ほらほら!』

『プロレス技かけるだけだって言ってるだろ! 何、嫌がってるんだよ! こら!』

『ほら、馬動け! 暴れるなって! ほら走れ!』


「な、なんで池本が……」


 一瞬美鈴が池本まで呼んだのかと考えた。しかしいくらなんでもありえない。鈍いところもある美鈴だが、無神経じゃない。そんなことをしたらどれだけ俺が嫌なのかぐらいはわかってるはずなのだ。


「榊さんか?」


 榊さんが池本を呼んだ? そんなことがあり得るだろうか? 榊さんだって俺が池本に虐められていたことは知ってるはずだ。


「おい! さっさとこいや!」

「ゆ、祐太はここで待ってて! 私もう小春に帰るように言ってくる!」


 そう言って美鈴が俺の腕から離れて、そちらへと走って行こうとした。しかし俺はその手首を掴んだ。


「な、何? あの、言っておくけど私は池本なんか呼んでないし、口も利いてないの。信じてくれるよね? 祐太……お、怒らないで、ごめん」


 美鈴が慌てていた。必死になって俺に嫌われる要因になる池本を遠ざけたいようだった。美鈴が必死に俺に嫌われないでおこうとしている。きっと今の俺はすごい怒っている表情になっているんだろう。


「いや…………ごめん。俺はどうも池本を見るだけで腹が立ってしまうんだ。心配させるような雰囲気を出して悪かった。それに美鈴を疑ってないよ。でも、池本と喋ってる美鈴は見たくない」

「帰るように言うだけだよ」

「それでも嫌なんだ。美鈴は後ろにいてくれ。俺が帰るように言う。多分池本が榊さんに無理やりついてきたとかだろう」


 池本の姿を見た瞬間。ただでさえ戦争のことで胸がざわついていたのに、一瞬許容量を超えた。それでも、美鈴の様子を見て、最悪な気分が少しは静まった。彼女が分かってくれているならいい。他の全員が裏切っても彼女さえ裏切ってないならいいのだ。


「それにしても、相変わらず嫌な顔だな」


 池本のニヤニヤした顔がこちらを捉えた。近づきたくもなかった。


「早く来いっつってんだろうが!!! 六条の君!」

「そんなに大きな声を出すなよ。目立つだろ。それで、なんで池本がいるんだ?」


 近づいていき俺ははっきりと不快な気持ちを言葉にのせた。


「『なんで池本がいるんだ?』だってよ。はは、聞いたか榊? 馬鹿みたいに調子に乗ってるぞこいつ!なんだよ。桐山といいことでもできて、強くなったつもりか?」

「ごめんね美鈴」


 ありふれた挑発の言葉でも池本が言うと俺の心にグリグリと刺さって抉ってきた。こうしてずっと馬鹿にされ続けてきたのだ。こうしてずっと尊厳を踏みにじられてきたのだ。


「小春、私に謝らずに祐太に謝ってよ」

「美鈴、俺が喋るから」

「『俺が喋るから』だと!? はあ!? なんでお前が桐山に命令してるんだよ!」


 池本がこちらに迫ってきた。


「おい、このボケ! お前どうせ桐山に変な薬っ! って、何、蹴ってるんだよ榊!」

「うるさい死ね馬鹿! 余計なこと言わなくていいでしょ! ごめん。美鈴。池本がどうしてもついてきたいって言うからさ」

「ごめんじゃないよ小春」

「榊さんは池本が俺に何してたかよく知ってるだろ。今すぐ帰ってもらってくれないか」


 俺は直接池本とは喋らなかった。元々池本の事を何度も殺してやりたいと思うほど恨んでいたのだ。それができる力が今はある。だからこそ下手に喋ると本当に殺したくなりそうだった。


「でも、池本ももうここまでついてきちゃってるし、さすがに帰れはひどくない? それに男子が六条だけっていうのも変でしょ?」

「俺だけだと何が変なんだよ」

「そんなの決まってるじゃない。ただでさえ釣り合わない二人だって言ってるの。私まで女子が入ったら六条浮きまくりでしょ?」

「うん? あーそういうことか」


 一瞬、何を言われたのか理解が追い付かなかった。しかし理解が追いつくと納得はいった。榊さんの中で俺はまだ虐められっ子の六条の君のままなのだ。そんな人間と学年一の美少女桐山美鈴が並んで歩いている。それだけでも変だ。


 さらにそこに榊さんが加われば余計に変だと言いたいわけか。榊さんの自分への評価はともかく、俺の評価には納得がいった。でもかなりムカつく。この女まで殴りたくなってきた。よく考えたらこの女も相当ムカつくんだよ。


「六条、理解できた?」

「う、うん。ちょっと、いや、かなり引っかかるけど、確かに池本もここまで来てるし、買い物を見る間だけなら居たらいいよ。でもこれだけは約束してくれ」

「何?」

「探索者は何かと面倒な人が多いんだ。だから俺たちはここでお金だけ払って後でダンジョンアイテムを郵送してもらうんだ。それに俺と美鈴が探索者だってこともあまり他の探索者に知られたくない。だからそういう感じのことは喋らないでほしいんだ」

「はあ? お前何ビビってんの? 馬鹿じゃねえの? いっちょまえに用心深くなって、プロの探索者気取りかよ」

「いいでしょ池本。分かったわ。中では探索者の話をしない。それでいいのよね?」

「六条の君。これが終わったらダンジョン行こうぜ」


 と、池本が何かわけのわからないことを言ってきた。


「は? ダンジョン?」

「そうだよ」

「意味が分からない。なんでダンジョンに行くんだよ」

「お前こそ何言ってるんだよ。レベル3になったんだろ。俺らにもどれだけ強くなったか見せてくれよ。六条の君の強いところ見てみたくてついてきたんだぜ」


 言葉の全てにバカにした意味が込められている。『どうせお前なんて大したことないんだろ』と言いたいんだ。それなのに強いところを見たいとか笑わせてくれる。


「池本。お前が俺のこと馬鹿にするのは分かるよ。実際俺は冴えない男だ。2週間前まで学校でお前に何をされても何もしなかった。家で悔しがってただけだ。でも、お前にも死んだら泣くやつがいるんだろ」

「は? お前、頭ボケてるのか? 何の話してるんだ?」

「ダンジョンをバカにしてると死ぬぞって言いたいだけだよ。実際俺は最初死にかけた。助かったのは本当に運が良かっただけだ」

「『運が良かっただけだ』だってよ! 何かっこつけてるんだ! このボケ!」


 池本が俺の足を蹴ってきた。痛くもなんともなかった。だから怖くもなんともなかった。ゴブリンはもっと全力で人を殺しに来る。日本刀を思いっきり振り抜いてくる。あいつらはいつも全力で人を殺す気だ。


 そう考えると池本は優しい。少なくとも俺の方が弱かったのに殺す気はなかった。そうだ。こいつは優しいんだ。おかげで俺はあんな危ない場所に一人で入ろうとして、そして美鈴と仲良くなることができた。


「どうせ俺はボケだよ。池本、いいよ。勝手についてきたいだけついてこいよ。美鈴。買い物はちゃんとしよう。明後日からもうダンジョンだよ」

「う、うん、でもいいの?」

「いいよもう。なんか会話すら面倒だ。こっちが反応しなければ、そのうち飽きて帰るだろ」

「祐太がいいならいいけど」


 何か言いたげな美鈴の手を引っ張って俺たちはショップの中に入った。あれほど怖いと思ってきた池本はこんなもんだったのか。以前は蹴られると痛くて嫌だなと思っていたけど、本当は大して痛くもなんともなかったのか。


 じゃあ自分は何をあんなに怖がって、学生時代をこのアホに壊されたのだろう。急激にバカバカしくなった。


「なんだあいつ? まあ懲らしめてやるのは後でいいか、榊! ちょっとダンジョン見に行こうぜ!」

「え? まあいいけど。ごめん美鈴。あいつほっとくと危ないから様子見てくる」

「うん、わかった。小春。分かってると思うけどダンジョンに入ったらダメだからね。本当に丸腰なんかで入ったら死ぬから気をつけてね」

「わかってるって」


 これから買い物だというところで、それを見に来たはずなのにいったい何をしに来たのか、榊さんと池本がダンジョンの方へ行ってしまった。まあ観光気分でダンジョンの入り口に行ったのだろう。


「祐太。あの二人本当に追い返さなくていい?」 

「いいよ。正直、今でも池本が目の前に来たらもっとビビるのかと思ってた。でも全然怖くなかった。そのことに自分でも驚いてるんだ。むしろゴブリンの方が怖いなって思う。でもゴブリンを殺せたのに、どうして池本は殴り返すことができなかったのかな」

「祐太……」

「こんなこと美鈴に話しても仕方ないのに……」


 ファンタジーそのものの姿をした人たちが、ダンジョンショップの中にちらほらといた。観光客の姿も多かった。外国に比べてもダンジョン探索が進んでいる日本は、ダンジョンショップの中も珍しい品物がたくさんある。


 10億を超える価値のあるガチャから出てきたネックレス。存在しないと言われていた架空の金属オリハルコン。ヒヒイロカネ。ミスリル。観光地なだけあってそれらの珍しいものを見たがって、観光客がそれなりにいた。


「うわー。相変わらずショップの中は高級品だらけだね。奥は入らないほうがよさそうだけど、あんなにいいものばっかり置いてて、よく盗られないよね」

「ここに盗みに入るバカがいたら見てみたいよ」

「まあそっか。探索者の収入源に手なんて出したら地の果てまで殺しに来られるもんね。と、それより、どれにしようかなー」


 階段探索で美鈴の装備面に不安があったので、俺も含めて装備を更新しようと思っていた。しかし自分がガチャを回して出したアイテムではない場合、サイズがなかなか難しい。肩当てと小手と脛当て、そして胸当て、それぞれがガチャを引いた人ぴったりのサイズで出てくる。


 だから美鈴の場合、きっとほかの探索者より胸が小さいから、スカスカのはずだ。いやペチャパイの人も結構いるか。俺たちは観光客の姿も多いストーンガチャから出たものを試着できるコーナーでまず着てみることにした。


「祐太。これ、どうかな?」

「いいんじゃない? 試着したら見せてよ。俺も隣で試着してるから」

「何を言うかな。祐太、そこからじゃわからないから入って。一緒でいいじゃない」

「いや、ちょっと」


 試着室に引っ張り込まれる。下着姿になった美鈴はいくつかの鎧を着ては俺に見せていた。どうにも目のやり場に困るが、これで後々動き回るのだ。サイズ間違いがあれば、装備を良くしたのに逆に動きが悪くなってしまう。


「祐太が全部触って確かめて。私の胸とかお尻に隙間がないかどうかも全部。小春たちもいないんだし大事なことでしょ?」


 何言ってるのこの子? エヴィーといい、節度をちゃんと守らないと、そのうち本当に子どもができてしまうぞ。そうしたら探索者だってできなくなるのだ。まったくもってけしからん。本当にけしからん。それにしても、小さいな。


 美鈴ってAカップなんだな。え? Bなの? もっとちゃんと触って確かめろ? サイズ確認って幸せだな。俺は美鈴としっかりとサイズ確認をした。


「これが一番いいかな」


 それにしてもあの二人、揃っていなくなるとか、あれだろうか。ひょっとしてデキてるのか。まあそれならそれで勝手によろしくやってくれ。こっちも助かる。まさかダンジョンに入るほど馬鹿じゃあるまい。そう思って、それ以上意識を向けるのはやめた。


「なんか小春、全然来なかったね」


 自分の買い物に夢中になっていた美鈴も、あまりに榊さんが姿を見せないので、気にしだした。


「榊さん、ダンジョンに入ってたりして」

「まさか。小春は祐太ぐらいダンジョンに詳しいんだよ。それがどれだけ無茶なことかぐらい分かってるし、装備もなしにそんなバカするわけないよ」

「そりゃそっか」


 だが俺と同じぐらいの詳しさならダンジョンに入ってもおかしくない。どれだけテレビやネットで調べてもダンジョンの実際の怖さは入ってみないと分からない。だから無茶をする人間はいくらでも無茶をする。


「でも池本もいるしな」

「絶対祐太に絡んできて、そのうち祐太に半殺しにされろって思ってたんだけど……」


 そんなことを思ってたのか。美鈴も池本の態度に怒っていてくれたのかと思うとそれだけで幸せだ。そしてそう考えると伊万里のことを思い出してしまう。


 伊万里……今頃、学校だよな。美鈴のことが好きだと思いながらも昨日だって伊万里と一緒のベッドで寝た。南雲さんはあんなこと言ってたけど、あんな考えに到達したら色々終わってる。おまけに明日はエヴィーと買い物……。


「流されるまま流されてるよな……」


 気持ち良さに流され、女の勢いに流され、考えていたら、


「ちょ、ちょっと美鈴、大変!」


 ダンジョンショップの自動扉が開いて、榊さんが駆け込んできた。また3人の少女のことで悩みそうになっていた俺は、思考を引き戻された。


「小春どうしたの?と言うか見かけないと思ったらまだダンジョン見に行ってたの? 池本は?」

「あいつ、ダンジョンに入っちゃったみたい!」

「はえ?」


 観光客やファンタジーの姿をした探索者の人たちが、何事かと視線を寄せてきた。


「おいおい、ダンジョン、入っちゃったって言ってるよ」

「うわー、初心者だろう?」

「魔の10匹超えられるかな~」

「今時珍しいやつもいたもんだな」


 と、探索者の人たちの声が聞こえた。そして、ここまでは平和な会話だったのにこの後がひどかった。


「感心感心。みんなDラン行くから、おもちゃにできる新人がいなくてつまらなかったのよね」

「前にやってる最中にダンジョンペットくんの腕引きちぎちゃってさ。ちゃんと治してあげたのに怖がって一緒に入ってくれないの」


 ダンジョンペットとは、主に女性の探索者が、ダンジョンの中に愛玩ペットとして連れていく男のことである。代わりにレベル上げを手伝ってあげたりして、同意のもとで連れていくのだが、色々と黒い話が山のようにある存在だ。


「あれはかわいそうだったね。おしっこどころか大きい方まで出てたよ」

「そっかー。もう三ヶ月もそういうことできてないんだ」


 南雲さんの話では、今のダンジョンに入る探索者の中には、初心者はいない。だから今いるのは、ほとんどがDランができる前にダンジョンに入りだした人達で、ダンジョンに入ることに何の怖さも抱いていない人達だ。


 そしてそういう人たちは今新人に飢えている。南雲さんから色々言われたこともあり、俺は今まで見なかった探索者の裏サイトも見るようになった。とにかく今の新人は悲惨なのだという。入ってもすぐにベテランの食い物にされる。


 食い物にされた新人の写真が堂々と裏サイトでは公開されていた。自分は本当に運が良かっただけなんだとそれを見てつくづく思った。


「なるほど。榊さん、池本はダンジョンに入りたかったんだな。装備はちゃんとつけて行ったの?」

「そんな様子なかったけど……」


 一緒にダンジョンの前まで行ったんじゃないのか? 榊さんの言葉は曖昧だった。


「まさか装備もなしで入ったの?」

「う、うん。そうみたい」


 池本はバカなんだろうか? いや俺と違ってあいつの学校の成績はそこまで悪くなかった。きっと俺より頭はいいはずなのだが、じゃあ、なぜそんなことをしたんだ?


「小春、池本ってバカなの? ちょっと足りない子なの?」

「ち、違う! とにかく早く連れ戻さないと池本が死んじゃうよ!」

「榊さん、池本はせめて拳銃ぐらいは持っていったの?」

「六条! もう! そんなことよりお願い! 池本のことダンジョンに助けに行って!」


 必死にしゃべる榊さんの巨乳が揺れていた。伊万里とどっちが大きいだろう? いや、これだけ大きいと伊万里より大きいかもしれない。伊万里より、大きいおっぱいってすごいな。触ったら怒られるんだろうか?


 考えていたら視線に気付かれたのか美鈴にお尻を抓られた。

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― 新着の感想 ―
> あんな考えに到達したら色々終わってる すでに終わってるから大丈夫だ。
L3になって引き締まった身体と結構イケメンになってるはずなのになぜ池本たちは気づかない? いや、作者が気づかなかくてそういう描写を描かなかっただけ?
池本終わったな
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