第三十三話 Side美鈴④ガチャ運
「いいわね。ちゃんと先生に事情説明してくるのよ」
「わかってるってば」
「本当かしら。私もやっぱり一緒に行こうか?」
「それはいいって昨日言ったじゃん。大体、お母さんはもう電話で説明したんでしょ?」
久しぶりに着た学生服。昨日はすっかり寝てしまって、起きたら朝4時だった。12時間以上寝てたみたいだ。ポーションでかなり誤魔化してたけど、疲れてたんだなと思う。朝起きたらエヴィーが祐太に抱きついて隣のベッドで寝ていた。
酔っ払っていたと言い訳してたけど怪しいものである。祐太もそのまま寝ちゃってたみたいだし、まさかしてないだろうなと不安にもなった。でも聞けなかった。もやもやしたまま帰ってきたら、お母さんから『学校に行け』と言われた。
「クラスのみんなも、あなたのことをかなり心配してるみたいよ。探索者でやっていくことちゃんと説明するのよ」
「わかってるって」
「しかし、まあ10日ぐらいで、よく階段見つけられたわね。私なんてあんな広い空間の中で見つけようという気も起きなかったけど」
芽依お姉ちゃんが今日は家にいたみたいで、起きてくるとお母さんとの会話に割り込んでくる。ゆるふわの髪の毛にブラウスとカーディガン。下は何もつけてない。胸は私以上になくて痩せてて、それでも色気に満ちている。
きっといろいろ経験もあるんだろうな。私は初めて人を好きになって何をどうしていいのかよくわからなかったから、お姉ちゃんから何か教えてもらえないかなと思った。今度聞いてみよう。
「ね、美鈴。探索が順調なら、お姉ちゃんレベル10になるのを手伝ってほしいなあ」
「レベル10? ああ、手伝ってあげたい気持ちはあるけど……」
レベルの上がった家族が、ほかの家族のレベル上げを手伝ってあげる話はよく聞く。これからどうなっていくかも分からない世の中である。家族だってレベルが上がってないといつどんなことに巻き込まれるかわからない。
だからレベルの上がった家族はほかの家族のレベル上げを手伝う。もっともこのレベル上げを手伝うのもダンジョンの中では難易度が高いことで、かなり調べた上で祐太とエヴィーにも相談して慎重にやらなきゃいけない。
まあそれ以前に今の状況では無理だ。
「手伝ってあげたいのは山々だけどお姉ちゃん美人だし、ダンジョンには近づかない方がいいよ」
「ああ、日本も結構治安が悪かったりする?」
「悪いというか……私たちって探索者の世界では弱いもいいところなんだよね。アメリカのダンジョンもかなり危ないらしいけど日本のダンジョンだってだいぶ危ないところがあって、今の状況でお姉ちゃんの面倒は見れないかも」
「ちょっと美鈴、それって大丈夫なの?」
聞いていたお母さんが心配そうに尋ねてきた。
「う、うん。一緒に入ってる子が高レベル探索者の人に好かれてて、変装道具を融通してもらえたんだ。だから私もエヴィーも今は四十代の冴えない夫婦の姿になって、探索者の前ではいるの。だから、大丈夫だよ」
そうは言ってもどこまで南雲さんが私たちを守ってくれるのかはわからない。何よりもあっちだって私たち以上に大変な深層の探索があるはずだ。私たちの後ろについてまわって見守ってくれるわけじゃない。でもそれをお母さんに言っても仕方がなかった。
「それならいいけど……。本当に危ないことしないように頑張るのよ」
それだけは無理だけど頷いておいた。
「やっぱり探索者は大変ね。私も余計なこと言っちゃったわ。ごめん」
「ううん、仲間の子も私も今のあまりにも弱すぎる状態を何とか解消したいって思ってるし、それが何とかなったら手伝ってあげられると思うよ」
「レベル3があまりにも弱すぎるかー。私レベル2になるだけで結構苦労したんだけど、やっぱ探索者はやばいわね。あんな中で探索とか正直私には理解できないもの。美鈴もよく怖がらずにやってられるわ。無理しなくても怖ければやめてもいいのよ?」
「やめないよ。だってレベル500なんて超えた日にはすごいことになるらしいから。国のお偉いさんとかでもへへーって頭下げてくるらしいよ。誰でもそうなりたいからもう欲望がドロドローって渦巻いてる感じだけどね」
「その辺は日本の方が陰湿そうね」
「でも今の仲間と一緒ならレベル1000にはなれるつもりだよ」
「そりゃすごい。美鈴が転生者か。ふふ、そのときは美鈴に何かおごってもらうわ」
「う、うん。任せてよ」
私は自分のガチャ運を祐太とエヴィー以外には話していない。普通は探索者を諦めるガチャ運1。たとえ高レベル探索者になれたとしてもお金にはこまり続けるというガチャ運1。レベルが上がればガチャ運も少しは上がるらしいし、ご飯ぐらいおごれるお金はあるよね?
「頑張れ美鈴。我が家の未来は君の肩にかかってる」
「お、おう!」
「美鈴ならきっと高レベル探索者になれる!」
「お、おう!」
「美鈴すごい!」
「お、おう!」
「美鈴かわいい!」
「お、おう!」
「ふふ」
お姉ちゃんが笑ってる。なんだかすごく笑ってる。
「も、もう! 私で遊ばないでよ!」
「ま、まあ冗談よ。せいぜい例のお仲間くんに迷惑かけないように頑張りなさいよ」
「お、おう……」
相変わらず私のことをお見通しすぎてちょっと怖い芽依お姉ちゃんだ。
「そういえば美鈴あなたの仲間ってどんな子なの?」
お母さんが不意に尋ねてきた。
「え、えっと、それは……」
「そうだ。お母さんも美鈴がレベル200ぐらいになったらレベル3になるの手伝ってもらったら?」
「お、お母さんはいいわよ。刀振り回して生き物を殺すなんてとても無理だわ」
「でも、レベル3ぐらいでも更年期病とかかからなくなるらしいわよ。レベル3までならちゃんと指導する人がいれば日本ならそこまで危なくないと思うし」
「ほ、本当?」
「美鈴、早く行きなさい。遅れるわよ」
私は芽依お姉ちゃんにお母さんを任せて、お父さんが後ろの方で声をかけたそうにしているのを一瞥して家を出てきた。それにしてもあの朝、エヴィーが祐太に抱きついていたのは何なんだろう。やっぱり気になる。
「祐太は絶対に取られたくない。だからってエヴィーはパーティーに欠かせないし、意外に優しいところもあるし……いや、エヴィーって彼氏いたんじゃないの? 祐太に手なんか出さずに呼び寄せればいいのに……その人もダンジョンに入れば何も問題ないのに」
通い慣れた学校への道を歩きながら、まったくそちらの方には気持ちが向いてなかった。久しぶりに学校に行くからと前髪もきっちり揃えて、後ろでくくって、結構気合を入れたのに、違うことばっかり考えてた。
周りを歩いている同じ学生服を着た男子や女子が妙に子供に見えてしまう。自分は今あまりにも遠いところにいる気がした。同じところを歩いているのは祐太だけだ。
「美鈴!? うわ、美鈴だ!」
急に名前が呼ばれた。かなりの音量だったから振り向いた。同級生たちの姿が増え、学校が近づいてきていた。声をかけてきたのは、そばかすのある純朴な感じのお下げの髪型をした女子で、今のクラスで一番仲良くしている友達の榊小春だった。
「あ、小春おはよう」
「おはようじゃない! 美鈴、勝手にダンジョンに入ったって本当なの!?」
「はは、何言ってるのよ小春。ダンジョンは勝手に入るものでしょ。それにレベル3になったよ」
「う、嘘!? 本当に!? じゃあ美鈴って、もうヘビー級チャンピオンより強いの!?」
レベル3になるとヘビー級チャンピオンより強くなる。アメリカの実証番組があまりにも衝撃的で、レベル3になるとそう言われるのだ。
「それはどうか知らないけど、祐太は100m走で9秒切れたって言ってたな」
「ゆうた?……って、誰?」
小春が首をかしげながらも横に並んで歩き出した。ちらほらと見知った顔が目に入る。他の子達は声までかけてこなかったけど、2週間ぶりに学校に来た私のことを興味深げに見ているのがわかった。
「クラスメイトの六条祐太」
「六条って……、は?」
「小春は知ってるでしょ。六条祐太」
「いや、え? まさかあの六条?」
小春は何かすごく嫌な名前でも聞かされたみたいに、眉間にシワが寄った。私はあまり意識してなかったが、祐太がクラスで虐められていることを小春はよく知っているようだった。何しろ私に祐太の情報を虐めも含めて教えてくれたのはこの小春だ。
「ダンジョン前で偶然会って、今は一緒に入ってる。もう一人外国人の女の子でエマっていう子もいるんだよ。お姉ちゃんの知り合いなの。3月になると祐太の妹が4人目で入ってくるんだ。この時期にパーティー仲間が4人揃うってすごくない?」
その一人がアメリカのスーパーモデル。エヴィー・ノヴァ・ティンバーレイクであることは秘密である。3人で話し合って、悪目立ちするのを避けるためにエヴィーの名前は伏せることになった。
「ご、ごめん。ちょっと情報量が多すぎて理解できなかった。まず聞いときたいんだけど、美鈴、Dランに通うんじゃなかったの? 私、合格発表の時にあなたがいなくて結構ショックだったんだけど」
「へ? あ、ごめん! すっかり忘れてた! 私合格してた?」
小春とは武蔵野ダンジョン高校を一緒に受験して、お互いほぼ100%合格しただろうと話し合っていた。だから合格発表は二人で見に行こうと約束したのだ。しかし、合格発表の日、私はダンジョンの階段探しの真っ最中で、そんなことすっかり忘れていた。
「Dランの受験だよ。多分合格してるわよ」
Dランの合格率はほぼ100%である。ダンジョンに入りたがるものを邪魔しないという建前で政府はその方針を取っている。そして来年になるとついにDランからの卒業生が大量に出てくる。合格率100%でありながら、卒業率は1割にも満たない。
それでも卒業できるであろう生徒は日本だけで3万人ほどいるらしい。今のところ卒業生の平均レベルは30と言われており、知能と体力が格段に上がることから、まだ1年以上先なのにかなりの企業から注目を集めているそうだ。
「そうなんだ。お母さん何も言ってなかったけどな。どっちでもいいからかな」
「どっちでもって、美鈴、まさかそのまま探索者になる気?」
小春は正気なのかとこっちを見てくる。小春はいきなりダンジョンに入るほどの無茶はしないが、ダンジョンに関しては私より詳しい。ひょっとすると祐太よりも詳しいんじゃないかと思う。何しろ私のダンジョン知識は小春から得たものが多かった。
「うん、Dランには行かないよ」
「大事なことなのにそんな簡単に決めるの? 野良で探索者なんてするより、Dランを卒業した方が絶対に将来だって安定するのよ?」
「これでも結構考えて決めたよ」
「でも、そんなの普通じゃないよ。親だって絶対認めないでしょ?」
「小春。親にも話して納得してもらえたの。私は祐太とエヴ、いや、エマ。それと祐太の妹の伊万里ちゃんと探索者になる。2階層の階段も昨日見つけられたから、3日後にはまたダンジョンに泊まり込む予定だよ」
「はあ?」
小春があっけにとられた顔をしている。あまりに虚を突かれた言葉だったのか、あんぐり口を開けていた。
「美鈴、あなた頭おかしくなったんじゃない? ダンジョンがどんな場所かわかってないの? しかも六条祐太って、あの六条でしょう? そういえば美鈴、2週間も学校に来なくなる前に私に六条のこと聞いてきたわね」
「あ、うん。あの情報は役に立ったよ。私は正直、祐太のことって同じクラスメイトだけど、あんまり印象になかったから……。これ、祐太には内緒ね。嫌われちゃう」
「いや嫌われたってどうでもいいでしょ。言っちゃ悪いけど美鈴と六条じゃレベルが違うわ」
「どういう意味?」
「あんな頼りなさそうな男子とパーティー仲間? おまけに聞く限りハーレムパーティーじゃない。美鈴、六条に弱みでも握られたの?」
「それ、祐太に失礼すぎる。いくら小春でも怒るよ。私が祐太にパーティー仲間にしてもらったんだから」
「はあ!? それこそ何の冗談よ!」
小春は何を怒っているのか声を張り上げた。あまりにはっきり声を張り上げるので、周囲を歩いている同級生まで何事かとこっちを見ていた。
「何怒ってるの? むしろ怒りたいのは私なんだけど」
「だって六条って、いつも池本に殴られてる六条でしょ? よりにもよってクラスで一番情けない男子じゃない。それが美鈴のパーティー仲間なんてありえないでしょ。他の男子が知ったら、絶対六条ボコられるよ」
「祐太をボコボコにするの? 小春こそ本気で言ってる?」
私はかなりカチンときて小春を睨んだ。
「な、何よ。そんな綺麗な顔で睨まないでよ。なんか、美鈴、怖いぐらい綺麗になってない? あ、いや、もちろん私はそんなことしないわよ。でも男子たちはするでしょ」
「そんなの絶対無理」
「なんでよ? 六条でしょ?」
「私より祐太のほうが強いのにどうやって殴るのよ。私でも、もうクラスの男子に向かってこられても負けるとは思えないよ」
「ろ、六条までレベル3なの?」
「そりゃそうでしょ。私より先にレベルアップしたのは祐太だよ。レベル3になるの手伝ってもらったのは私だし」
「六条が美鈴を手伝ってあげた……」
小春はとても信じられないようだった。それぐらいクラスでの祐太は冴えてなかったのだろう。私に至っては、いることすらあまり意識してなかったので偉そうなことは言えない。返す返すも昔の私はバカだった。
祐太が虐めにあってるのも知らなかったし、意識もしてなかった。その頃にもっとちゃんとしてたら、祐太と今よりもっと仲良くなれてたのに。そうすればエヴィーの入る隙間なんてどこにもなかったのに。
「祐太はすごいんだよ。6体のゴブリンの群れ、一人で殲滅しちゃうんだから」
「んん……なんだか私の中にある六条と美鈴の中にある六条が別人のような気がする」
「同じよ。クラスに六条祐太は一人しかいないでしょ」
「本当にそんなことできるの?」
「簡単にやっちゃうよ。うちのパーティーで一番強いのは祐太だし」
「じゃあガチャ運は?」
「ガチャ運が一番良いのも祐太なんだよ」
「3とか?」
「そんなの平均値じゃない。ガ、いや、そんなのどうでもいいでしょ」
危ない危ない余計なことを言ってしまうところだった。ガチャ運4でもかなりすごいという話なのに、5なんて言ったらどうなるか分かりきっていた。でも小春はとにかくダンジョンについては詳しい。そして、ものすごく興味を持つのだ。
「……ま、まさかガチャ運4?」
「そ、そんなにあるわけないじゃない。レベル3だよ」
「でも、平均値じゃないみたいなこと言ったじゃない。4なんでしょ? ね? もし、それが本当なら六条勝ち組じゃない!」
小春は私よりダンジョンについて遥かに詳しい。その小春が胡散臭そうにしていた雰囲気を一変させて、途端に興味を持ったようだった。私は何も答えなかったがそれで確信してしまったようだ。
「なんだそういうことか! それを先に言ってよ! もう本当に美鈴が催眠術にでもかけられてるんじゃないかと心配したじゃない! いいなあ。4D3ならそれだけでもレベル100は超えられるって言われてるのよ。それなら私も六条ハーレムに入れてよ」
なんだろうこの態度の急変は。確かにガチャ運が高いことはすごいことかもしれないけど、あんなに馬鹿にしていた相手に対してそこまで急に態度変える? どうにも小春が嘘くさく見えた。
「どうしたの小春? さっきから変じゃない?」
「美鈴こそ、そういうこと先に言ってよ。なんだ。六条について行くのってガチャ目的でしょ?」
それを聞いて言わなきゃ良かったと思った。なんだか絡んでこられたような嫌な気分になる。私は何か小春を怒らせることをしただろうか?
「ガチャ運は関係ないけど……ガチャ運が高いってそんなにすごい?」
「そりゃすごいわよ。例えばほとんどの人は最初ガチャ運3だけど4D4で、出た目の4桁があらかじめ決められた数字全てと一緒なら最低100万円以上で売買されるダンジョンアイテムが入っている金色カプセルが出てくるもの」
「ごめん。今の言葉、全然意味わからないんだけど、そもそも『D』が何のことなの?」
「Dはダイスの頭文字を取ってD。ダイスっていうのはサイコロのこと。つまり4D4だと4つのサイコロで、そのサイコロは4面体ってこと」
「ああ、だから4D4なのか。4面体のサイコロが4つあるって事ね」
「で、それを振るわけ」
「ほおほお」
小春の態度は癇にさわるが、ガチャについてはものすごく興味があった 。
「例えばガチャ運3だと4D4で、4面体のサイコロを4つガチャが裏で自動的に振ってると言われてるの」
「ガチャがサイコロ振るの?」
「確率的に金色カプセルが出てくることから、それで間違いないって言われてるわね。最近わかったところだけどね」
「確率で出てくるとは聞いてたけど正確な数字までわかってるんだ」
「そうね」
「詳しく聞いてもいい?」
どうしても私はガチャについては興味が尽きないのでさらに聞いた。
「ジャンボ宝くじみたいに4413とあらかじめ決められた当選番号があるとするでしょう。ガチャ運3の人は4面体のサイコロを4つ振って、この4と4と1と3が出ないと金色カプセルが出ないわけ。おまけにサイコロの順番は決まってるの。1番目と決められたサイコロが4。2番目のサイコロが4。3番目のサイコロが1。4番目のサイコロは3じゃなかったら金色カプセルじゃないわ」
「それって厳しすぎない? ガチャ運1の人なんて大当たり絶対出ないじゃん」
「ガチャ運1?」
「あ、いや、仮にガチャ運1だとしたらダイスロールってどうなるのかなあって」
「ガチャ運1なんて探索者やらないでしょ?」
「そ、それでもやったらどうなるのかなぁって」
「そんなにガチャ運悪くて探索者やってたのってほとんどいないからよくわかんないけど、田中の話だと金色は出ないわ。虹色は宝くじみたいな確率で出てくるらしいけど……10階層までに一度だけ出たって話だから……4D7か8ぐらい……かな? まあ田中が宝くじを当てられた豪運の持ち主だったってことならもっと悪いかもしれないけど」
「そんなの絶対に虹色なんて出ないじゃない!」
「絶対って事はないわよ。4D7で2401回ガチャを回したら虹色カプセル一回は出る確率よ。 4D8だと4096回ね」
「が、ガチャコイン240枚いるってこと? もしも8なら410枚?」
「1~10階層のトータルで1人200~400枚ぐらい出るものらしいわよ。まあガチャ運1の人なんて100万人に1人ぐらいだから大丈夫よ。ほとんどガチャ運3でダイスは4D4。296回に1回は金色カプセルが出るわ。ガチャコイン30枚で金色って感じね。まあそれで金色が出たとしても専用装備が出てくる確率がまた1/3ぐらいらしいから、ガチャ運3でも専用装備って揃えるのが本当に大変らしいけど」
私はそれを聞いて目眩を覚えた。ということは私は100万人に1人のガチャ運ゴミクズ女ということになる。
「足を引っ張ってごめんね祐太」
「何か言った?」
「ううん、何でもない。って、ガチャ運4とかだとダイスはどうなるの? 4D3?」
「正解。 81回に1回金ね」
「ガチャ運2は?」
「4D5ね」
ということはガチャ運5は4D2。2面体のサイコロを4個振ってだから、16回に1回は金……祐太……。というか私だけなんで1個飛ばして4D7になるんだ。それどころか4D8だったら……。
「ものすごい格差。絶望したわ」
「何でよ。六条が4なら美鈴めちゃくちゃいいパーティー仲間じゃん。ちなみに下3桁が揃ったら銀色で10万円以上ぐらいのものが出てくるの。下2桁が揃ったら銅色ね」
「な、なるほど」
しかし私よくこの間のガチャで銀色3回も出したな。そう考えたら虹色も意外と無理じゃないのか。10階層までに1回でも出てくれたら、それでいいわけだよね。いやでも虹色は絶対売りには出せないし、このあいだ銀色でたのだってほとんど奇跡じゃない。
はあ、誰も仲間にしたがらないわけだ。虹色が出ること以外は何のメリットもないんだもん……。それだってどうせダンジョン規制がかかってかなりの使用制限が入るだろうし……。
「ガチャ運はステータスの中で一番不公平と言われてるわ。最初からいいやつはいいけど、悪いやつはずっと悪い。レベル100ごとに上がる機会があるって言われてるんだけど、これもガチャ運が高い人ほど上がりやすい」
「小春。もう私のライフはゼロになりそう」
それにしても、エヴィーもかなり悪いな。おまけに虹色が出る確率も無いとするとひょっとしてガチャ運2って一番ガチャ運が悪いんじゃ……。エヴィーにもう少し優しくしてあげようかな……。いやいや、あんな金髪グラマラス超美人に優しくしたら一瞬で祐太を奪われる。
何よりもエヴィーはレアジョブの召喚士がある。12英傑にもたしか召喚士がいたはずだ。【円卓の軍勢カイン】。カインが一言召喚獣に『潰せ』と言えば国だろうが何だろうが更地になるって話だ。
「ガチャ運4は10万人に1人ぐらいしかいないんだから、レベル3で4なんて言ったら、低レベル探索者とかなら、意地でも仲間にしたがるわよ」
「でも、そんなことしなくてもマージン払ったら、ガチャ運がいい人にガチャ回してもらえるんじゃないの?」
「残念。ガチャは同じパーティーの人間が、ダンジョン内で見つけたコイン以外では引けない仕組みなの。以前はいけたんだけど美鈴の言ってるやり方が横行してダンジョン規制がかかってデバッグが入っちゃったのよね。だから、別パーティーの人が見つけたコインは、ガチャ運がいい人でも、なぜか回せない。そうなってるの」
「厳しいね」
「ま、ガチャ運4の男なんていたら、誰だってその男とダンジョンに入るわ」
「小春。さっきから引っかかってくる物言いはやめて。私は祐太に何回もダンジョンの中で助けられた。小春がどんなイメージを持ってるか知らないけど、私は祐太のおかげで今生きてると思ってる。だから馬鹿にするようなこと言わないで。大体、実際にダンジョンに入ってみればわかるよ。ガチャ運なんてどれだけあっても、死ぬときは死ぬんだから」
「そりゃまあそうでしょうよ」
小春がダンジョンに詳しいのは本当だ。だからそれぐらいはわかってるはずなのだ。
「でもなんで美鈴ばっかり……」
「うん?」
「六条ってひょっとして格好よくなってたりする? 急に顔がイケメンになってきたりとか……美鈴知ってる? 魅力のステータスには面白い特徴があってね。レベル10まで等分の値で上がっていくの」
「へ、へー」
「それでね。本当にダンジョンに好かれてる人。高レベル探索者になれるような人ってこれが等分に7とか8上がっていくんだって」
「べ、別に祐太はそんなに全然カッコ良くなってないよ」
「ふーん」
小春が黙ってしまった。何か怒っているようにも見えたがその理由がよく分からなかった。私が無茶したから怒ってるのか? それとももっと別のこと……。それにしても小春でもこの様子である。今の中学生はダンジョンに興味津々だった。
ニュースでも毎日のように華々しい高レベル探索者の活躍が報道される。いざ日本に危ないことがあれば出てくるのは高レベル探索者で、その人たちがまるでヒーローみたいに解決してくれる。戦争だって自衛隊は何の役にも立たなくて高レベル探索者じゃなきゃ何もできない。
大人たちはそれを危ぶむけども私たちはそれに憧れる。私は本当にそんなところまで行けるんだろうか。私はあの日ダンジョンでステータスを見た時に正直がっくりした。ガチャ運1。おまけにレベルアップして出てきてくれた魔法もスキルも平凡と言われる弓兵ジョブ。
さすがにこれはダメだなと思った。それでも裕太は優しくて、私が探索者として終わっていると分かっているはずなのに、何も言わずに仲間としてやっていってくれてる。本当にDランに行かなくて良かったと思う。もし行ってたらパーティー仲間すら見つけられなかった。
祐太……。
足を引っ張ってごめんね。
私ね。本当にあなたのこと好きなんだよ……。
顔なんて格好よくならなかったとしても本当に好きになったんだよ……。
だから私を信じて……。
きっとエヴィーよりもあなたを助けられるようになるから……。





