第三十二話 打ち上げ
「ふう、外出るとやっぱり寒いわね」
「本当」
ダンジョンショップで着替えを済ませ、指輪で姿を40代の夫婦に変えた二人に違和感を覚えながらも甲府の道路へと出る。しばらく歩いていき、離れたところで待っていたリムジンに3人で乗った。
「「「お疲れ様!」」」
デビットさんたちが運転してくれているリムジンの中で、用意されていた泡の出る飲み物で乾杯をした。探索者になると毒耐性が強くなる。それでもビールが胃の中に入ってくると酩酊感を覚えて苦いなと思った。
「祐太、私たち15歳でこんなの飲んでいいのかな?」
「駄目だろうね。飲んじゃったけど」
「二人とも今日ぐらいいいじゃない。運転するわけじゃないんだし」
「そりゃそうだけどさ」
と、言いながらもずっと暑いサバンナを駆け回っていて、美鈴も初めてビールを飲んだのは大人になれたような気がして嬉しいようだ。どんどんと飲み物が進んでいた。リムジンの車内はかなり広くて、片側がシートになっている。
そして目の前がカウンターのようになっていて、自由に飲食ができるようになっていた。この車内だけが別世界のようである。改めてエヴィーの金持ちぶりがよくわかる。アメリカでトップモデルはそんなに儲かるのか。
「ね、二人ともこのまま帰らずに、私のホテルの部屋に来ない? 階段を見つけたお祝いにデビットたちにパーティーの準備させるわ。朝まで飲んで今日はふかふかのベッドに3人で寝ましょうよ」
エヴィーからの提案だった。
それは今まで子供の世界で生きてきた俺と美鈴にとっては、とても魅力的な提案で、何よりもまだ俺も美鈴も家には連絡入れてなかった。だから、帰らなければいけないわけでもなかった。ただそんなことをしたらエヴィーに肉体的に何かされないかと男なのに心配になった。
「楽しそうね。祐太、そうしようよ」
「う、うん、そうだね」
美鈴も乗り気だった。飲んだことのないアルコールで、オープンな気持ちになってるようだ。それは俺も同じで家で待っている伊万里には悪かったが、エヴィーの部屋にお邪魔することにした。到着するとそこは一目で高級ホテルだと分かった。
入り口からして重厚感のある木材で設えられていて、床はフカフカの絨毯だった。英語だろうとなんだろうときっと見事な受け答えをしてくれるであろうコンシェルジュ。まだ両親の仲が良かった小さい頃にこういうホテルに泊まったことがあるなと思い出した。
そんなホテルの中にあってもデビットさん達が黒服で横に着くと、目立ってる。あの冴えない感じの日本人夫婦と子供役の俺はどこかに連行されるのかという感じだった。通されたのは、南雲さんが泊まっていたところぐらい高級感のある部屋だ。
ソファーがいくつもあり、キングサイズのベッドが続き部屋にドンと二つある。50畳ぐらい有るんじゃ無いかと思われる広い部屋に一人で泊まって、どうするのだろうと貧乏性の俺には思えた。
「もう姿を戻してくれていいぞ。ホテル側と給仕は俺たちがする契約をしている」
「そうなのね」
デビットさんの言葉を聞いて美鈴とエヴィーが姿を戻した。ダンジョンの中は無法地帯だから、何をされたところで文句が言えない。しかしダンジョン付近でもないのに警戒しなければいけないのか。
3人で話し合った結果、しなければいけないということになった。まず、エヴィーが日本でダンジョンに入っていることを特定の人間以外には隠している。当初はそこまで警戒してなかったが、日本でも起きるダンジョンでの揉め事を見て考えを改めたのだ。
俺たちまでそうしなければいけないのかどうかだが、ある程度レベルが上がるまでは警戒しすぎて損をすることはない。俺たちは人の欲望渦巻くダンジョンというものが、分かってくればくるほどそう考えるようになった。
「しかし、よくこの短期間で2階層の階段を見つけられたな」
デビットさんは感心しているようだった。金髪でマッチョ。黒服サングラスのデビットさんはいかにもタフなアメリカ人といった感じで、そんな人間から見てもすごいのかと思えた。
「あなた達も日本で探索者をやり直してみたら? アメリカとはダンジョンの中がだいぶ違うわよ。まず銃を持ってるゴブリンがほとんどいないわ」
それでも命がけだが、俺たちよりもよほど強そうなデビットさん達の方が、ダンジョンに向いてるように思えた。
「らしいな。俺たちも日本に来てその情報は得ている。エヴィーの言ってることも少しは考えたがな。やはり無理だと二人で結論をつけた」
「どうして?」
「言っただろ。最初に安全を優先しすぎてレベル10で魔法もスキルも生えてないんだ。俺達がダンジョンに入った頃はまだ情報不足でな。愚かな話だが、拳銃をいつまでも許さない日本の政府が国民を見殺しにしてるって笑ったもんだ」
「皮肉なものね」
「その通りだ。まさかそれが正解だなんて思いもしなかった。アメリカじゃ強くて自分に自信のある奴ほど、拳銃を一度は持ったことがある。俺はゴブリンを全部拳銃で撃ち殺したし、近接戦闘なんて思いつきもしなかった。結果、3階層でもう限界だ」
細マッチョという感じのマークさんも後ろで忌々しそうな顔をしていた。エヴィーの言葉に不快感を示しているというより、ダンジョンのことを思い出したくもないようだ。
「良ければだけど、どうしてそれほど無理と思うのか、詳しく聞かせてくれない?」
エヴィーは参考のためにというように尋ねた。
「間抜けすぎてあまり話したくないんだがな」
「どうしても嫌ならいいけど、私たちが死なないために教えてほしいわ」
「ふ、まあエヴィーたちが死なないためになら喋るよ」
「ありがとう」
「結構前のことだ。その頃、まだアメリカのダンジョンは誰も入れない状態で、俺たちはレベルアップを夢見て、軍隊をやめてメキシコに渡った。最初は順調にゴブリンを拳銃で撃ち殺してたよ。こんな弱いモンスターがモンスターかよって思ったさ。でも……」
デビットさんは血が出るほど握りこぶしを作った。
「レベル7になっても2階層のモンスターを近接戦闘で倒せなかった。知ってるとは思うが2階層ではレベルが7までしか上がらない。それなのに2階層のモンスターが倒せない。銃を使えばいけるが、俺たちももうこの頃には銃では何かダメだって気付き始めてた。だから焦ったよ」
「やっぱりそれほどステータスって大事?」
ダンジョンに入っていればその大事さはよくわかるが、下の階層に降りられなくなるほどなのかは、ネットで調べても憶測のような情報が多すぎて、よく分かってなかった。すると今度はマークさんが答えてくれた。
「大事どころじゃないぜ。ダンジョンじゃステータスが命だ。3階層に降りる奴らは2階層のモンスターが集団できても近接戦闘で倒せるやつらだ。もちろん一人でな。女だろうと年寄りだろうとステータスがあればできる。男だろうがマッチョだろうがステータスがなきゃ無理だ」
「私にできてもあなた達にはできない?」
「できないな。俺たちが1階層から2階層に降りようって時、たとえゴブリンどもが拳銃を持ってなくても、集団で向かってこられて一人で勝てる自信はなかった。人間ならいけるさ。5、6人ぐらいならどうとでもできる技術は持ってる。だがあいつらは恐怖心もなく刃物を持って必死になって俺たちを殺しに来る。そんなの相手に多対一なんてやりたくもない」
「まあ確かに。何なのかしらねあの殺意は」
「エヴィー達から見たら、俺らの筋肉が強く見えるかもしれないが、ダンジョンの中だと、筋肉が役に立つのはレベル2までだ。それ以降はステータスがすべてだ」
「笑えるよなデビット。俺たちはそれでも2階層でゴブリンを銃で殺してイキがってたんだぜ?」
「それでもレベルは上がるのよね?」
エヴィーが聞いた。
「上がるには上がる。まあステータスが銃を使わなかった場合と比べたら半分ほどの上り幅らしいがな。おまけにスキルも魔法も何も無い」
「2階層のモンスターをまともに倒せない状態で3階層に行ってみればわかるぜ。『たかがモンスターだろ』ってどれだけ思っても勝てないんだよ。それでステータスを上げるためには、銃を使ってばっかじゃダメなのかもって気づいた。日本の情報も徐々に入ってきてたしな。それで仲間と相談して近接戦闘に切り替えることにしたんだが、これが最大の過ちだった」
「拳銃使ってモンスターに苦労してる奴らが、近接戦闘なんかできるわけがない。見事にこっちが狩られる側だ。命からがら逃げ帰るのは地獄だったよ」
「エヴィー。死にたくなければ回復手段は潤沢に持っていけよ。俺たちはあの広い空間で金まで尽きてたからな。一番安いポーションですら持ってなかった」
「よく生きて帰ってこれましたね」
俺は思わず口にしていた。1階層を探索してみて思ったのだ。ダンジョンはめちゃくちゃ広い。気が遠くなるほど広いのだ。ダンジョンが現れた初期の頃だと便利な地図アプリなんてものもないだろうし、その状態で物資が尽きたら、本当に死んでしまう。
「分かってくれるかユウタ。あの時のことは思い出したくもない。3階層から1階層の入り口に戻ってくるまで200km以上もモンスターどもが殺しに来る中を戻らなきゃいけないんだ。一人、二人と仲間が死んだ。オリバーとベンジャミン。仲間を二人見殺しにした。二人は生きたままゴブリンに食われた」
「ようやく帰ってきたと思っても悲しむ暇もなかったぜ。なにせ大怪我して帰ってきたってのに、金がなくて病院にも入れなくてよ。ボスに拾われてなかったら死んでたな」
「それはもう二度と入りたくないでしょうね」
エヴィーも二人の話を聞いて、どうしてデビットたちがそれほどダンジョンに入りたがらないのか、よく理解できたようだ。
「やっぱり日本に来て正解だったわ」
俺たちの打ち上げパーティーの用意をして、デビットたちは自分の部屋に帰っていった。俺達がダンジョンに入っている間はデビット達は休んで、出てきている間は24時間対応する契約になっているそうだ。
「私もアメリカのダンジョンに出てくるゴブリンの拳銃にはほとほと手を焼いてたし、あのままアメリカにいても先はなかったわね」
「エヴィーなら、お金の力で何とかならなかったの?」
「デビット達みたいな事にならないために私がいくらかけたと思う?」
「い、1億ぐらい?」
「いいえ、10億よ。アリスト予備で10個用意したわ。それだけで3億よ。拳銃で撃たれても即死じゃない限り死なないように1000万円のポーションを何本買っていったか。 1億円するポーションだって用意したわ。それでも腕をもぎ取られた仲間のためにエリクサーを買うことすらできなかったのよ」
「エリクサーって買おうと思ったらそんなに高いの?」
ほとんど都市伝説みたいな回復薬である。エリクサーがどういう扱いを受けているのかはネットでもあまり情報がなかった。
「そもそも市場にはないのよ。あらゆる手を使って調べたけど、結局見つからずじまいね。万が一市場に出ても、私以上の金持ちが、100億円以上で買い取ってしまうって話よ。さすがにそんなの買えないわ」
「100億円……」
ダンジョン関連のアイテムは本当にバグってるんだなと改めて思わされた。
エリクサー。
それはどんな怪我だろうと、どんな病気だろうと一瞬で治してしまう回復薬。それがあれば命をもう一つストックできるようなものだ。お金があれば欲しいだろう。
「エリクサーが欲しかったら自分で手に入れるしかない。そしてそれには、頼りになるパーティー仲間が必要だわ。近接戦闘で頼りになるユウタ。遠距離攻撃をしてくれるミスズ。あなた達が私には必要だった」
「そうなの?」
「そうよ。ミスズ、だから死ぬようなことだけはしないでね」
エヴィーは美鈴が自分だけ、探索の時に100万円のポーションを使ってしまったことを気にしてると思ったのかフォローしていた。優しいところのある少女だ。これで異性関係が肉食系でなければ最高なのだが。
俺たちは打ち上げパーティーの前に着替えて、美鈴はタンクトップに短パンを履いただけで、エヴィーに至っては黒いキャミソールを着ているだけだった。ソファーはたくさんあるのに、2人は当たり前のように俺の両隣に座った。
美鈴がぎゅっと俺の方にくっついてきた。
「み、美鈴?」
「私ね。もうわかったんだ。祐太がいないと嫌。祐太が大好き。だって一人で探索してる間祐太のことばっかり考えてたもん」
「……」
「祐太は私のことどう思うの?」
切れ長の瞳で心の中まで覗いてこられているようだ。間違いなく美鈴からはっきりと好意を向けられた。答えが自分の中で見つからなかった。美鈴の気持ちに答えたら、伊万里はどうするんだ。俺にとってどちらが重いのか自分でも分からなかった。
「ごめん俺は……答えが出せない」
以前ならば考えられないほど幸せな状況。何よりも好きだった少女に告白されている。それは思ったよりもドラマチックでもなく、あっさりしたものだった。とても嬉しいのに答えられない。どうしていいのか自分でもわからなかった。
「祐太」
美鈴が俺の体にさらにすり寄ってくる。
「私悪い子だね。祐太には好きな人がいるんだよね。ごめんね。好きになっちゃった」
好きだった子からそんなことを言われて、ずっとこうしていたかった。しかし、
ぎゅっ!
「いつっ!」
あまりの痛さに飛び跳ねた。これからものすごくいいところだったのに、エヴィーに太ももを思いっきりつねられた。
「どうしたの?」
「あ、いや、はは」
「私もいるってことを忘れてほしくないわね」
「あ、エヴィーまだいたんだね」
「そりゃいますよ。私の部屋ですから。と言うか仲間外れは勘弁してほしいわ。同じパーティーでしょ」
「そうでした。でも、エヴィーもありがとう」
「どういたしまして」
ついでのように言われたのが納得いかないようだ。エヴィーははっきりと3番目でいいと俺に言った。それなのに嫉妬しているみたいだった。エヴィーがいまいち俺には分からなくて、テーブルの上のピザを手に取り口に運んだ。
本当は駄目なのだろうけど、デビットさん達も止めなかったから、ビールも胃の中へと流し込んだ。これで車の中から4本目になる。まだ特に酔っ払ってくる気配もなかった。
「アルコールって初めて飲んだけど、こんな感じなんだ」
美鈴から告白してくれたのに曖昧なことになり、俺は初めてのアルコールでも酔っ払う気分にもなれなかった。酔っ払ってしまえば楽になれるのに……。俺も好きだと大声で叫んでしまえば楽になれるのに……。
「ワインも飲んでみる? おいしいのがあるわよ」
「未成年なのにいいのかな」
「アメリカだと大丈夫らの?」
美鈴がお酒が回ってきているようで舌足らずな声を出す。やはり探索者でも酔うのか。アルコールについてちゃんと調べたことがないからよく知らなかった。おかげで俺がエヴィーにくっつかれていることも気にならないようだ。
「以前は日本より厳しかったわよ。飲酒年齢は21歳から。でもね。法律が変わってレベル3になると15歳で成人と認められるし、お酒を飲んでもいいことになったの。危なくてみんなダンジョンに入りたがらないから、ちょっとでも入るようにしたいのね。以前とは逆にね」
「日本とは違うんだ。日本だとレベルアップしてもそんな法律ないもんな」
「あら? 日本だって探索者だと飲酒ぐらいじゃ罰せられなくなったそうよ。デビットに調べてもらったから多分間違いないわ。だけど……」
「だけど、何?」
話が止まったので俺はエヴィーを見た。外国人特有の彫りの深い顔で、大きな瞳がこちらを捉えていた。吸い込まれていきそうだった。美鈴の温もりが右腕に無かったらきっとキスをしてしまっていたと思う。
「寝てるわよ彼女」
「うん?」
横を見ると俺の腕にしっかりとしがみついたまま美鈴が寝息を立てていた。
「本当だ」
「気疲れも相当だったんでしょうね。平気そうにしてても、100万円のポーションを2回も使うような怪我をしたんだものね」
「美鈴が死んでなくて本当に良かった」
俺はもし美鈴が死んでいたらと思うだけで心が冷えた。エヴィーに許可をもらって、キングサイズのベッドを使わせてもらうことにした。美鈴を寝かせて布団をかける。寝顔にキスでもするべきなのだろうか? 結局何もしないですごすごとソファーに戻った。
探索で階段が見つかったのは午前中で、俺はそれほど眠くなかった。 時間的には正午頃。まだお腹も空いていたのでピザも食べたくて、手を伸ばした。
「そのままよろしく行っちゃうのかと思った」
「そんな度胸、俺にあるわけがないよ」
「もったいない。絶対喜んでOKしてくれるわよ」
「そうだといいんだけど」
エヴィーが改めて俺の横に座って、もたれかかってきた。エヴィーからじっと顔を見られた。キャミソールの隙間からエヴィーの胸の谷間が見えた。触っても怒られないんだろうか。
綺麗な青色の瞳が何を言っているのか分かった。顔が近づいてくる。
「え、エヴィー。こういうのはやっぱりやめないか?」
「ユウタ、気にしすぎよ。レベル1000になるためにもっと私を利用すればいいの。私はその期待に応えてあげる。お金だってあなたにならいくらでもあげる」
「そういうことじゃなくて。そういうのが嫌なんだよ」
「私はそういうのが大好きよ」
エヴィーから唇が重ねられた。
「明日の予定どうするの?」
美鈴が見ていないところでは当たり前のようにエヴィーとキスをしながら会話した。エヴィーは俺の自惚れでなければ、好いた相手とそばにいてキスをしているのが好きなようだった。
「はあ」
「こんな綺麗な女とキスしてため息をつくなんてひどいわ。泣いてしまいそう」
「今日から三日休んでまたダンジョンっていうのが一番いいと思ってる」
エヴィーが俺にまたがってくると正面から抱きしめてきた。
「まあ妥当なところね。あなたの3日間の休みの詳細を私に教えてくれないかしら?」
「明日は多分、伊万里とだ。ちょうど土曜日だし」
「ああ、一番のライバルさんね。次の日は?」
「み、美鈴と買い物に行く。2階層に行く前にもう一度装備を考えた方がいいと思うんだ。正直100万円のポーションを2回も使ってたのがショックだったし」
「それなら私は明日と明後日、モデルの仕事を入れてもらうわ。3日目は空いてるのだけど」
エヴィーはいつでもキスができるほどの距離のまましゃべっていた。さらにぎゅっとそばに寄ってきた。
「そ、それは良かったね」
俺はなんとかごまかそうとした。だが3日目の予定がすぐに思いつかなかった。ゆっくり家で寝ているとか言ったら怒るだろうか。
「からかってる?」
「からかってないよ。3日目はゆっくり家で寝ようと思って」
「いいじゃない。2階層でも美鈴と仲良くするんでしょ? 私と2人きりになる時はないじゃない。ユウタ。私のことは考えてくれないの? その日だけ付き合ってくれたらダンジョンの中では我慢するから」
「本当に?」
「本当よ。嘘ついたことある?」
「それは……」
常に美鈴よりは控えて、一番にはなりたがらないと言っていたはずだ。しかし、先ほど、美鈴と俺がものすごくうまくいきそうになったの邪魔しなかった?
「ないけど」
しかしそれを口に出せない俺だった。というか、ここまでされるがままになっておいて、そんなこと言えた義理ではなかった。
「でしょ? ね、3日目は私と過ごすの。映画に行きましょう。お互い指輪を使って全く別の男と女になればいいの。そうしたら二人だけの秘密にできるわ」
「そこまでしたらもう完全に浮気じゃないか」
「ミスズとだってそうでしょ? 本当に好きなのはイマリ。違う?」
「それは……」
いっそ、そうだと認めてしまえば楽になるのだろうか。そして美鈴とエヴィーとは縁を切る。でもその後どうするんだ。伊万里と二人で本気で探索者をするのは難しい。レベル1000を諦めてせこい小銭を稼いで生きていくのか。
それは嫌だ。
ダンジョンとは何なのだ?
レベルが上がった先には何がある?
人が転生するとはどういうものなのだ?
人でありながら人を超えてみたい。
特級ダンジョンの一番下。
そこで見る光景とはどんなものなのか?
俺はそれが知りたい。
知りたいのだ。
それには絶対エヴィーが必要だ。
なぜか自分の予感が激しくそう告げていた。
「ユウタ。私もあなたのこと大好きよ。愛してる。だから私の装備も一緒に見て」
「……3日目はエヴィーと一緒にいるよ」
「ふふ、大好きよユウタ」
もう1度唇がエヴィーから重ねられてきた。この大好きは美鈴の言葉とはきっと違う意味だと俺は信じたかった。浮気なんて絶対に縁のない言葉だと思っていたのにどんどん深みにはまっていく。
「3日目の朝の6時に違う男になって、青いマフラーをしてホテルのロビーに来てちょうだい。そうね。私は違う女になってブラウンのコートを着てサングラスをかけておくから声をかけて。どんな姿になるかはお互い秘密」
「なんでそんな早くに?」
「1分でも長く一緒にいましょうよ」
金髪で青い瞳をしていて、身長も高くて、出るとこも出ている。そしてエッチだ。そんな美少女がこんなふうに、酔っ払って俺みたいな男にくっついてくる。だんだんと会話が途切れてきて、そんな時だった。
「……」
エヴィーも目を閉じていて、俺にもたれかかったまま寝ていた。俺はエヴィーを持ち上げるとベッドに運んで、美鈴の横に寝かせた。ベッドはキングサイズが2つあった。2人には悪いが、俺は一人でベッドを使わせてもらうことにした。
2人の美少女が眠るすぐそばで、それを見ながら目を閉じる。そうするとすぐに睡魔が襲ってきた。
「全く。アメリカなら私は100回は襲われてるわよ」
夢の中でそんな声が聞こえた気がした。そして手に滑らかな肌触りを感じて、心地の良い温もりに包まれた。俺はそれを引き寄せてゆっくりと眠った。





