第三十一話 第二回ガチャ
「見つかったの!? ユウタやったわね!」
2階層への階段が見つかったのはそれから更に2日してからだった。
あの日、俺は女の恐ろしさを知った。
特にダンジョン内での女の異性を求める気持ちを甘く見てはいけない。やはり人間は一対一で恋愛するのが一番良いと改めて思った。あの魅惑的な唇で迫られると抵抗する気が失せてしまう。
「え、エヴィー。連絡してからまだそんなに経ってないのに早いね」
「ふふ、ミスズが来る前にちょっとでも早くユウタに逢いたくて急いで来たの」
人数が多いのはエロ本の中だけで十分だった。ダンジョンから出たら南雲さんに相談してみよう。でも、あれほどよくしてくれた人にこんな情けないことで相談するのはどうかと思って悩んだ。どこまでもウジウジしている俺だった。
「本当に見つけられたのね。なんだか信じられない。アメリカにいるときは絶対に見つけられないと思ってたのに」
そして俺たちの目の前には2階層への階段があった。色々悩むこともあったが、ようやく階段を見つけられたことにほっとした。階段は聞いていた通り、地面から2m程盛り上がっていて、面積もかなりのものだった。
「1階層の階段なら、近くに来れば絶対わかるって聞いてたけど、なかなか見つからないしさ。見過ごしてないかってちょっと焦ったよ」
「改めてありがとう。ユウタ」
エヴィーが自然と抱きしめてくる。アメリカ人特有のものだと泊まり込む前なら思っただろうが、今になってみると最初から狙われていたのかと思った。最初にエヴィーと会ったあの日、家に帰って色々アメリカ人について調べてみた。
そうしたら、ハグからのキスは、いくらアメリカ人でも初対面の人間にはなかなかしないと書いてあったのだ。それなのに当たり前のようにエヴィーは、あの日俺の頬にキスをした。そして今も唇が俺と合わせられる。
「ちょ、エヴィー!」
慌てて俺はエヴィーの体を押し返した。最初に階段を見つけたのは俺で、その連絡をして15分ほどして、エヴィーが合流してきた。美鈴はかなり離れた位置にいたらしく、地図アプリを見るとまだ30分程は合流に掛かりそうなぐらい離れていた。
「まだ遠いわよ」
それをエヴィーにスマホで示して教えられた。
「それでもだ。ベタベタしない約束だろ」
とにかく俺は美鈴にバレるのが怖かったし、罪悪感もある。
積極的に迫られるとどうしても断れない自分の情けなさに泣きたくなるが、美鈴の知らないところでこそこそすることだけはしたくなかった。
「そりゃそうだけど、ちょっとぐらい私にも時間をくれないと拗ねてしまうわ。近づいてきたら離れるから、ね? 私はちゃんとミスズの前では控えてるでしょ」
「ぎゃ」
「あなたにはまだ早いって言ってるでしょ。と言うか、また呼んであげるから、もう還っていいわよ」
エヴィーがそう言うと、リーンの体が魔法陣の中へと消えていった。不満そうではあるが、主の命令は絶対なのかリーンはおとなしく還っていった。
「そういえばユウタと二人っきりは初めてじゃない?」
リーンが消えてみて、エヴィーと二人になったのが初めてだったと気づいた。いつも必ずリーンがそばにいたのだ。エヴィーがもう一度近づいてくると、腕を組んできた。
「これぐらいならいいでしょ?」
「……」
いいでしょも何も俺の優柔不断さをよく知っているだろう。だからって油断して素直になってしまうと、もっと激しいスキンシップを求められそうだった。
「ねえ、ガチャコイン何枚見つかった?」
「3枚」
「私は11枚ね。と言うか3枚は少なすぎでしょ。ちゃんと探してる?」
「なんか見過ごしちゃってる気がする」
「私も2、3枚は見過ごしてるかもって思ってるけど、本当探すの下手ね」
「美鈴はガチャコイン見つけるの得意なんだ」
「あら、私の前でその話をするの?」
「……」
「どうしたの?」
「あ、いや」
話をするのも何も、3番手でいいとか言ったじゃないか。そういうことに関しては全部美鈴に譲る約束ではなかったのか。そこを問い正すべきなのだろうが、それなのにエヴィーの綺麗な青い瞳で真っ直ぐ見つめられると、そんなことできなかった。
「ごめん」
俺はなぜ謝ってる。
「まあいいけどね」
俺とくっついたまま機嫌が良さそうなエヴィー。エヴィーと隠れて恋人のような関係のまま、美鈴ともそうなってる。伊万里に何と言えばいいのか。まさかモテることがこんなに辛いとは、イケメンに嫉妬していた自分を殴ってやりたいと思った。
「ガチャ! ガチャ! ガチャ!」
美鈴はガチャゾーンに来てルンルン気分のようだ。
無事、美鈴とも合流できて、2階層の階段から降りるのは次にダンジョンに入ったときにして、その足でガチャゾーンに行くことになった。
「ミスズ、本当にユウタに渡すのは3枚だけで良いの? まあ私は全部自分で回すつもりだけど、あなたガチャ運1でしょ?」
大抵の探索者パーティーはガチャを引くときは、ガチャ運がいい人にかなり多く任せてしまう。何しろその方が絶対に儲けが良いからだ。ただエヴィーのように資金力が桁違いの人間は、お金を気にする必要がないので全部自分で回してもよかった。
「だ、だって、私のガチャ運1だよ。専用装備を出そうと思ったら一枚でも多く引かないと、絶対いいの出てこないもん。ガチャ運1だと虹色カプセルだって出る可能性があるらしいし、もしもそれが出たら私がみんなを助けられるし」
「虹色カプセルなんて宝くじより引き当てるのが難しいって言うわよ。まあどうしてもと言うならいいけど、ガチャ運がないと本当に意味ないものばかり出てくるのよ」
「そ、それでも挑戦し続ける。それこそ探索者の醍醐味だもの」
「んん、まあそれもそうか……。あまりいいのは出てこないと思うけど頑張ってね」
ちなみに美鈴はガチャコインを19枚見つけていた。他の人が見落としたものまで見つけたようで、相変わらずのそのセンサーには敬服するばかりである。そして俺たちのガチャコインは最初に3人で探索していた時の分も合わせて、35枚になった。
「1枚で10回、回せるから350回か」
「230回私は回せるから、ガチャ運1でも、さすがに1個ぐらい良いのが出るでしょう」
「美鈴、それフラグだよ。と言うか、さらっと自分の分全部とみんなで見つけた分まで美鈴が回そうとしてるよね? ほら全部自分で回しちゃわないように俺が預かっとくから3枚出して」
「ぶう」
「旗がどうかしたの?」
うまく翻訳機が訳せなかったようで、エヴィーが首をかしげる。美鈴と顔を見合わせて思わず笑ってしまった。そして最初にまず美鈴からガチャを引く。3枚俺に渡したので、160回、ガチャをひたすら回し続けるのだ。
「ガチャの神様いいのが出ますように! いいのが出ますように! 虹色来い! 虹色来い!」
「ガチャは確率論よ。願ったって一緒よ」
「エヴィー煩い! とりゃああ!」
ガチャコン、ガチャコン、ガチャコン、ガチャコン、ガチャコン、ガチャコン。鳴る度にすべて白いカプセルばかりがコロコロコロコロコロコロコロコロ、延々と出てくる。しかしそれだけかと思われたが、
「おお!」
何と銀のカプセルが出てきた。
「ヤッタアアアアアアアアアアアア! キャア!」
美鈴が狂喜乱舞している。気のせいか、レベルアップした時よりはるかに喜んでる。それでもそれからはガチャコン、ガチャコン、ガチャコン、ガチャコン言う度に。白いカプセルコロコロコロコロコロコロコロコロ。しかし、
「銀色だ!」
「う、嘘!? ミスズ2回目よ! あなたガチャに何か変な細工をしたでしょ!?」
「してないよ。普段の行いが良いからですー。この調子で虹色でろ!」
すっかり上機嫌の美鈴はその後、銀色をもう一回出した。
回した全ての内訳は、
「やった! いいのが出た!」
「ふ、ふん、ガチャ運1にしてはなかなかいいのが出たじゃない。銀色のカプセルが3つで100万円のポーションが一つ。無銘の弓が一つ。無銘の短刀が一つ。銅色のカプセルが2つで弓矢10本セットが二つ。【レベルブースト】の魔法陣が1枚。まあ後は112回食べ物が出てきて、残りは日用品とか文房具とかばっかりだけどね。ミスズ、次は私だからどいて」
「エヴィー、一枚だけ一枚だけでいいからガチャコインちょうだい! 次は虹色が出る気がする!」
「あげるわけないでしょ。次は私だからよく見ときなさい。絶対にミスズには負けないんだから!」
エヴィーの言葉が何か別の意味もはらんでいる気がしてハラハラした。そしてエヴィーがいつもの強気で居られたのもここまでだった。
ガチャコン、ガチャコン、ガチャコン、ガチャコン、ガチャ、コンガチャ、コンガチャ、コンガチャ、コンガチャコンガチャ、コンガチャコンがちゃ困。その度に白いカプセル、ころころころころころころころころ、ころころころころころころころころころころ。コロコロ。
「こ、コレ! 壊れてる!? 絶対壊れてるわ! どうして私の方が白ばっかり出るのよ! ミスズは1で! 私は2なのよ!? おかしいでしょう?!? ガチャは完全に確率で出てくるものじゃないの!?」
「ぷぷぷぷ、白ばっかり白ばっかり」
「美鈴、人のこと笑っちゃだめだよ」
「そうだね、笑っちゃダメだね。どんなに白いカプセルばっかり出てきても、人のこと笑っちゃダメだよね。ほんと笑っちゃダメだよね」
「じょ、上等よ! きっと、もうすぐ当たりが出るわよ!」
ガチャコンガチャコンガチャコンガチャコンガチャコンガチャコン白いカプセルころころころころころころころころころころころころころころころころころころ。
「……」
「あ、あの、笑ったの冗談だから。冗談だからね」
「ど、銅色が出た! ユウタ、見て! 銅色が出たわ!」
「よ、よかったねエヴィー! これからきっと銀色だって出てくるよ!」
「そうよね! 私頑張る! ミスズになんて絶対に負けないから見てて!」
思わずエヴィーが美鈴の前なのに堂々と思い切り抱きしめてくる。その横で美鈴は勝手にエヴィーの銅色のカプセルを開けた。
「うわー凄いねエヴィー。金属バットが出てきたよ。銅色だと価値は1万円ぐらいって言うよね。これで1万円ぐらいなのかな??」
「「……」」
空気が凍りついた。逃げたい。煽るんじゃない美鈴。エヴィーのファイティングスピリッツに火をつけるんじゃない。とにかくこの場から逃げたい。110回にわたり、エヴィーがガチャを引いた結果は、
「ぷぷ! 66回も食べ物でたね! これは誰が食べるんですか?」
「く、こんなはずじゃないのよ!」
「43回日用品ばっかり出たね! これはどうやって使うのかな?」
「み、ミスズより、どうして私の方が悪くなるのよ!」
ガチャ運2と1だとダイスロールと呼ばれるものが、かなり確率的に違ってくる。ガチャは完全に確率で出てくる。だからガチャ運2の人が1の人に負けるなんてこと普通は起きない。でも起きてる。俺は美鈴のガチャに対する執念がそうさせたのかと思った。
「エヴィーは銅色のカプセルが1つだけ。それがこの金属バット。頑張ってゴブリンをこれで殴ってねー」
「ユウタ、ミスズを見返すためにガチャコイン1枚ちょうだい! それで絶対金色を出してみせるから!」
「あげないよ。あ、ポーション出てきたよ」
そして俺がガチャを回した。あっさりとポーションが出てきた。
「100万円のかな。あんまりよくないな」
「く、これだからガチャ運良いやつは」
「ミスズ、どうしてあなたがゴミクズのようなガチャ運で自分で全部まわしたがるのか分かった気がするわ」
「そうでしょ。そうでしょ。ところで今のは嫌味かな? 嫌味なのかな? 私よりガチャ運がいいのに金属バットしか出なかった人に言われたくないなー」
二人がなんだか言い合いを始めた。この喧嘩が、そんなに遠くない将来、別の意味で起きるのではないかと金玉が縮んだ。ちんちんちょん切られませんように。そんなことを祈りながらガチャを回した結果は、
「あ、呆れたわ」
「これが格差社会」
「金色は5個で1000万円のポーションが2本。美火丸っていう俺専用装備の刀が1本。美火丸の胴鎧が一つ。SPの果実が一つ。銀色が4個で100万円のポーションが1本。【土爆】の魔法陣が2つ。無銘の短刀が一つ。銅色が10個で【石弾】の魔法陣が4つ。10万円のポーションが3本。MP回復ポーションが二つ。SP回復ポーションが一つ」
その他は俺も食べ物とかだった。しかしガチャの結果としては破格に良い。深い階層のガチャを引こうと思ったら、ガチャ運5でも足りないらしいが、ストーンガチャではこれで十分だ。そしてガチャにはその人によって専用装備がある。
専用装備にはその人だけの名称があり、俺の場合はどうやら美火丸というらしい。専用装備はそろえば揃うほどバフがつく。今はまだ無理だが、希少素材が出たときは、合成というものまでできるという話だから、本当にゲームみたいだ。
この専用装備は、その人がガチャを回さなければ絶対出てこない。これがガチャ運が無い人でもガチャを回さなければいけない理由にもなる。専用装備は全部で10種類あり、揃うほどバフ(ステータス強化)が付く。
しかし、専用装備は金色カプセルからしか出てこなくて、その出てくる確率の低さから揃えられる人はほとんどおらず、大抵は無銘装備を合成して専用装備並にするらしい。ただし無銘装備はどれだけ合成してもバフがつかない。
MPとSP回復ポーションについては初めて出たが、巷での需要がないので、通常のポーションのようにレアリティよりも価値が高くなるということはなかった。
「美火丸か……どういう意味だろう?」
「ストーンガチャの専用装備は全部ファンタジー世界の人の名前らしいわ。全ての装備をそろえるとその人のストーリーがわかるようになるらしいわよ」
「なんで俺の装備に美って名前がついてるんだろ」
「そりゃ」「ねえ」
美鈴とエヴィーがこんな時だけ顔を見合わせて頷いている。
「そんなことより、つけてみてよ。バフがどんなものなのか見たいわ」
「私もそれは見てみたい」
2人に促されて俺はガチャゾーンで、上半身の服を脱ぐと、美鈴とエヴィーの視線が気になりながら胴鎧を装着した。胴鎧も刀も両方とも、赤が基調になる。刀は刀身まで赤く、鎧も同じだ。
鎧の方は腐女子ゲームに出てくる戦国もののスマートな鎧で、見た目もかなりカッコよかった。
「いいなあ、かっこいいなー」
「本当ね。私もはやく出てくれないかしら。一つは出てくれると思ったのに」
「祐太、ステータス早く見ようよ」
「了解」
2人の女子がやたら俺のことを気にしてくれることにムズがゆさを感じながら、俺は自分も楽しみでステータスを開いた。
名前:六条祐太
レベル:2→3
職業:探索者
種族:人間
称号:新人
HP:15→20
MP:10→14
SP:13→18
力:16→19(+10)
素早さ:15→19(+10)
防御:15→20(+10)
器用:13→15(+10)
魔力:12→14
知能:14→16
魅力:16→24
ガチャ運:5
装備:ストーン級【美火丸の胴鎧】
ストーン級【美火丸の炎刀】
ブロンズ級【アリスト】(バリア値100)
シルバー級【マジックバッグ】(200kg)
魔法:ストーン級【石弾】(MP4)
装備スキル:未承諾ストーン級【炎流惨】(SP18)
スキル:ストーン級【二連撃】(SP3)
「二つ揃っただけでステータスに+10が四つもついてるじゃない。やっぱり専用装備はすごいわね」
「ガチャ運3の人で最初の専用装備が出るのが3階層以降だっていうからね。それより装備スキルが出てる。二つ揃っただけで出てくるんだ」
「えんりゅうざん? 未承諾って何のこと?」
「レベルが足りないんだと思う。SP18も消費するような技は今のステータスじゃ撃てないんだよ。それにステータスが上がり過ぎてる。これはあまり良くないかもしれない」
「なんで?」
「拳銃とはちょっと違うんだけど、あんまり良すぎるステータスになるとダンジョン側から何らかの制限を受けるらしいんだ」
「ガチャから出たものなのにそんなのあるの?」
エヴィーは不思議そうに聞いてきた。ダンジョン側から個人に対しての制限がかかることは滅多にないから広く知られていることではなかった。
「ダンジョンは本当によく見てるって言われてる。最初の頃はダンジョンには結構バグが多かったって言われてるんだ。でも、それを探索者が見つけると、その見つけた翌日には修正が入ってるそうだよ。その修正が入る基準が誰でもできることだって言われてる。その条件なら誰がやってもできること。あくびしながらレベル上げができるぐらいになったら、やばいって考えたほうがいいらしいね」
「本当?」
「噂だから確証はないけど、称号が新人の時点だと、いくらストーンガチャでも金色が一度のガチャで5個も出たなんて聞いたことない。まあガチャ運5でチートだとか、あんまり甘く考えない方がいいとは思う」
「そっかー。まあ、裕太にどんどん置いていかれることにならないのは良かったけど、圧倒的に強い裕太も見てみたかったな」
「はは。2階層前に一つだけでも専用装備があるだけでもかなり強くなるって言われてるよ」
「そっか」
なんだか美鈴は本当にうらやましそうだった。それは自分に対しての焦りがあるようにも見えた。
「それで、これは美鈴が俺に渡したガチャコイン3枚分の見返りだよ」
俺はそう言って美鈴にSPの果実を渡した。回復薬と違い、果実は基礎ステータスを上げてくれるものである。
「い、いいの? これ、金色から出てきたら絶対に探索者は自分で食べるって聞くよ。それにこんないいものもらっても、私1割の報酬払えないよ」
美鈴が言っているのはガチャ代行に対するマージンである。ガチャ運の悪い人はガチャ運のいい人にガチャを回してもらう。その収益の見返りは大抵1割といわれていた。
「そうよ。金持ちが1億で売ってくれって言っても探索者は売らないって話よ」
ストーンガチャから出てくる金色はレアリティで言えば100万円ぐらいだと言われている。しかし探索者が手放さないものほど価値がバグる。
果実がストーンガチャから出てくることは知られているが、金色自体が普通のガチャ運だとなかなか出せないし、そうしてやっと出した果実を売ってしまうほどもったいないことはなかった。そして誰も売らないから市場価値の実際の値段も知られてなかった。
「いいんだ。2人に言っておきたいんだけど、俺のガチャ運は良すぎる。その反面、仲間になってくれた美鈴もエヴィーもかなりガチャ運が悪い」
「「うっ」」
「多分、それは俺のガチャ運の良さで2人を補って、とダンジョンが言ってるんだと思うんだ。だからガチャ代行をしたとしても報酬を2人から受けとるつもりはない。今回ガチャを引いてみて思ったけど、俺なら金カプセルがかなり出る。だから、それでこれから2人の足りない分のステータスを補っていきたい。特にレアジョブじゃない美鈴は俺に置いていかれたくないだろ?」
「う、うん。正直それがすごく気になってた」
「俺のステータスは専用装備で充分補える。だから果実が出たら美鈴とエヴィーに渡していこうと思ってる」
「祐太……」
「ユウタ、それで本当にいいの?」
「構わない。パーティー全員の底上げができなかったらどのみちどこかで詰むだけだ」
どんなに戦闘センスに恵まれ、どんなにダンジョンに好かれていたとしても一人でダンジョンには入れない。だから1人だけがやたらと強いパーティーは長続きしないと言われていた。
「その……祐太。ありがとう」
「私も正直ユウタがそう言ってくれてホッとしたわ。今回のガチャの結果を見る限り私も金色はかなり出しにくいみたい。というか、私もユウタにコインを渡しておくべきだったわ。まだストーンガチャだから、私の資金力ならどうとでも補えると思ったのに……まさか果実がそんなに簡単に出るとは思わなかった。かなり出にくいって話なのに……」
美鈴はかなり迷っていたが、結局受け取り、SPの果実を食べた。その結果、美鈴のSPは4伸びた。お礼に抱きつかれて、頬っぺたにキスをされた。充分な報酬だと思った。
俺は大量の食べ物と文房具や日用品に目を向ける。
それらは不思議なことに、ガチャから出てきてもカプセルに入っていれば小さいサイズのままだった。この特性があるおかげで、ガチャから出てくる食料が、ダンジョン探索での食料として使用される。
そしてこれが探索者が長くダンジョンの中に入り続けても問題がない原因である。ガチャから大体の食事や日用品が出てくる。実力さえあればダンジョンの中に住んでも特に問題がない。高レベル探索者だともっと下の階層で住んでしまっている人もいるそうだ。
「まあまだ1階層がようやく終わっただけのガチャだしね。そんなに焦らなくていいと思うよ。とにかく俺はガチャから出てきた結果はすべて共有財産でいいと思う」
「ガチャ運5のあなたがそう言うなら私から文句はないわ。でも、なにで揉めることになるかわからないのがダンジョンよ。ちゃんとあなたがガチャから出した結果を収支としてはまとめておく。それだけはしておきましょう」
「う、うん。わかった」
お金持ちなのに経済観念がしっかりしているエヴィーがいてくれてありがたい。いや、経済観念がしっかりしているから、お金持ちなのか。俺はなんでもいいよと甘くしてしまいがちなので、エヴィーの言うとおりにした。
今出てきたポーションは補充する用に回せるものは回した。結果として換金できるアイテムがほとんどなかった。全部必要な物しか出てきてこなかった。
「あのエヴィー。 5000万円の返済なんだけど」
「いいわよ。もともと返してほしいと思っているお金じゃないしね。それに2階層で手に入るガチャコインはかなり多いって話だし」
最後に自分たちのアイテムが残りどれだけなのかを確認した。100万円のものが2本、なくなっていた。美鈴が1人で階段探しをしているとき、怪我をして使ったそうだ。
それと10万円のポーションは全員で怪我や疲れを回復させるため36本使ったので、なくなった分の補充が560万円必要であった。
その他にも食料代など諸々を入れると、今回の泊まり込みでは600万円ほどの出費になった。この遠征費については今回の俺も含めたガチャ結果から、出すことになった。
まあ要は1000万のポーションを一本売ることにしたのだ。
「売れないものが多かったのは残念だけど、自分たちに必要なものが出てきたのだと考えれば、パーティー強化には充分繋がった。今回のガチャも全部アイテムを売ってたら1億以上になるわ。ユウタなら、次のガチャで大幅黒字間違いなしね」
「ガチャ運って大抵の人【3】でしょ。最低でも2だとか言うのになんで私だけこんなに低いかな」
「仕方ないわね。ガチャ運だけは悪い人はいつまでも悪いままだって言うから」
「ガチャ運がいい人に生まれたかった」
「まだユウタが破格に良いだけマシよ。パーティー全部が悪い時は泊まり込みなんてしたら、1日の疲れを癒す10万円のポーションを飲むなんて絶対無理らしいわよ。ご飯だってガチャから出てきた食料は保存がきくから結構高く売れるし、それを売って、安い食料をダンジョンで食べるのも当たり前。と言うか、1階層なんかで、収入があっただけすごいのよ。ストーンガチャの間はほとんど収入がないって話だしね」
「私のガチャ運……」
「ミスズはとにかくもっと裕太にコインを回しなさいよ。あなた普通だったら借金で探索できないところよ。宝くじ並みに出ない虹色カプセルなんて狙ってないで、祐太に出してもらった果実でステータスを補うことも考えてみたら?」
「うぅ……考えてみる」
「本当?」
ガチャ運5あるおかげで専用装備が簡単に揃えられそうな俺と、レアジョブの召喚士が出ているから、かなり戦力的にこれから期待できるエヴィー。
一方で、美鈴の弓兵ジョブは別に珍しくもなんともないし、ガチャ運も低い。ガチャ運が低くレアジョブでもなかった人は基本的に探索者をすぐに諦めると言われていた。どうやったところで専用装備が揃えられないからだ。
2ならまだ果実で補える。でも美鈴は1だ。虹色どころか金色だってほとんど出てこない。専用装備が出てこないことを考えると果実で補える分を超えている。それでも高レベル探索者になった人も居る。虹色カプセルを出した田中だ。
『自分、金色カプセルは出したことがないんですよ。でもうちの仲間は変わっててね。それでも、俺にガチャを回させてくれたんですよ』
俺は田中の一度だけあったインタビューを思い出す。俺ももちろんガチャを回したいから回す。でも美鈴の分は美鈴が回す。そのほうがいいかもしれないと思い始めていた。





