第六章最終話 Side迦具夜、レガ
Side迦具夜
《よかったの?》
カインが飛び去って行くのを見ていた。レガとの約束は聞いていたから、このまま逃がしてしまっていいのか一応確かめる。その辺に不備のある祐太ちゃんではないと思う。それでも相手が悪神なだけに心配だ。
《ああ、レガには連絡した。『それでも構わない』と言ってたよ》
《そう。正直以外だわ。ユグドラシルの悪神は随分と優しいのね》
《大八洲国だと違うの?》
《全く違うわ。大八洲国の悪神はそもそも話が通じないのばっかりよ》
交渉に応じて交渉を楽しむ。それは大八洲国の悪神を知るものからすると特異に見える。これが八岐大蛇とかなら、『その姿を見て生きている貴族も神も素戔嗚様だけ』と言われているほどだ。大八洲国は他の悪神も似たり寄ったりである。
凶暴で、話が通じないのが悪神。それに比べてレガは優しい。それは祐太ちゃんが『ダンジョンを壊す存在』と言っていたことと何か関係があるのか。いや、まあ、そんなこと祐太ちゃんはしないと信じてる。
そもそもそんな状況になることが想像できない。
《そうなんだ。まあとにかく一番大変なことがなんとかなって良かったよ》
《そうね。カインとの最後のぶつかり合いの瞬間、もうダメかと思った。それでも、祐太ちゃんと死ぬならいいかとも思った。まあ、二人で生きてるなら尚のこといいわ》
《俺もさ。本当に終わったって思ったよ》
《祐太ちゃん。あまり長く融合するべきじゃないわ。弁財天たちの所に帰りましょう》
《ああ》
《ねえ。私が生き延びる方法をいろいろ考えたのだけどね。蒼羅様の中でだけでも【呪怨】を私たち三人がかりで抑えれば、私の寿命が縮むのも最小限ですむと思うの。どうかしら?》
好きな男が生きててほしいと願うなら、それにできる限り努力する。それも悪くない。私はそう思い始めていた。
《いいや、そんなの無理だ》
《え?》
はっきり否定するとは思わずちょっと傷つく。こんなことで傷つくなんて繊細だ。祐太ちゃんの行動の一つ一つが私を繊細にさせる。
《迦具夜》
祐太ちゃんはそう言って、どうしてか海上で融合が解かれた。私と祐太ちゃんが二人に別れ、【焔竜・華】を装備した彼が目の前にいた。
「どうして解くの?」
融合している方が速く帰れるのにどうして融合を解いた。私と一刻も早く離れたかった? どうしてか嫌われていないかと心配する。ただ、魂のつながりから冷たい感情が伝わって来ない。むしろ私を心配している感情。
それでいて彼がずっと何かを考えていた。それを"今するべきだ"と考えている。伝わってくる。そのことに胸が騒ぐ。
「どうしたの?」
「俺さ。信長と少しだけ交戦した時に思ったんだ。こいつ千代さんや迦具夜よりも強いって。多分カインよりも強いんじゃないかって感じた。それでそんなやつがさ。三種の神器を全て手に入れられないで俺たちに独占される。こんな事態になるほど間抜けじゃないと思った。迦具夜はどう思う?」
「それは……そうでしょうね」
言いたいことはわかる。私の予想でもここまで戦力差をつけても三種の神器を二つこちらが取れて、一つは別の勢力に取られる。そしてその一つを手に入れるのは信長である。だから余計に私は自分の命は諦めていた。
そして弁財天に託す気でいた。月夜見様に【呪怨】の解呪を頼み込むことも考えたが、どう考えてもあの方は、私は助けても祐太ちゃんは助けない。最終的には一番嫌だが命を対価にでもして翠聖に頼むしかない。
でもこの子はそれも気づいてた。私の思考パターンを知ってる。彼はその選択も嫌がってる。それも感じてた。お互いの感情が伝わりすぎる。嘘などつけない。
「迦具夜。【呪怨】と離れてみてあと何年ぐらい生きられそうだ?」
「……このまま離れてたらおそらくほぼ10年は生きられると思うわ」
私が狙いではない【呪怨】の影響は離れると極端なほど減る。もともと私が死ににくい体を持ってることもあり、私は元の寿命まで伸びそうな気配だ。
「でも私の中に【呪怨】を戻さないわけにいかないでしょ。蒼羅様の中なら敵も襲ってこないけど、外に出れば襲ってくるわ。そんな状況で三人がかりで【呪怨】を抑えてるわけにはいかない」
「だから、俺はそれをどうにかできないか尋ねたんだよ」
「それはレガに?」
「そうだ」
やっぱりそんなことを聞いてた。どうして私の命にこだわるのだ。いやそういう子だと知ってるから好きになったんだ。私を心から思ってくれてるから好きになったんだ。そうじゃなきゃここまで好きになどならなかった。
「レガに迦具夜が【呪怨】から解放される方法はないかって。そうしたらレガが言ってたんだ。『【呪怨】の目的はヌシだ。ヌシがこの世界にいなければ【呪怨】は目的を失う。それでもなかなか消えないだろうが10年もあれば、その役目を果たさないまま消えてしまうだろう』って」
「何を言ってるの? それだと祐太ちゃんが死ななきゃいけなくなるでしょ。そんなの認められないわ」
それこそ死神の思うツボではないか。でも何か違う。祐太ちゃんは死のうとはしてない。でも何か私の気づかないことを考えてる。それが何なのかが見えない。何か隠してのはいるのはずっと分かってた。
それなのに、それが見えないままだから不安だった。
「迦具夜。必ず帰ってくるから心配しないでくれ」
「どこかに行くの?」
「ああ行く」
「なら私も一緒にそこに行くわ」
「ごめん。無理なんだ。行けるのは自分だけらしい。だから俺が消えたらすぐに弁財天と千代さんのところに帰って、【呪怨】を解放するように言ってくれ。【呪怨】は"目的"が存在しなくなるとその場で動かなくなるらしい。誰かに死ぬような影響を与えることもなくなるそうだ」
「祐太ちゃん待って。あなたがいなくなるって事? 私はそんなの嫌よ。それに伊万里さんをどうするの? 放置していいの?」
「それだけは悩みの種なんだけどさ。でも色ろんなことが、きっとこうした方がうまくいくって思えるんだ。伊万里は帰ってきたら何とかするよ」
「でも嫌!」
わかるのだ。本当にこれが一番いいのだと彼は考えてる。彼がそう思うならそれは本当だ。でもいなくなるのは嫌だ。【呪怨】を自然浄化させるのに10年? どうして10年も離れなきゃいけないんだ。
「こんな方法しか思いつかなくてさ。いや、これも俺が考えたことじゃないんだけどさ。正直ちょっと自分でも憂鬱だ。俺10年もいない間にみんなに忘れられないかな」
祐太ちゃんはマジックバッグから、シルバーガチャで出てきた魔法書を出した。それはなんてことのない火の魔法について書かれた書物のはずなのに、ページを開くと空間が揺れた。海上なのにミシッと歪んだ音がする。
時空間に直接触れた?
まさか……。
「待って。落ち着いて。せめて大八洲国に帰るべきよ。もしかしたら三種の神器が全て揃ってるかもしれないわ。そうすれば私が神になって【呪怨】を」
「無理だろ?」
私が『【呪怨】を浄化してしまう』と言おうとした。しかし、祐太ちゃんはそれを否定した。
「カインを見て思ったんだ。レベル1000を超えたからっていきなり凄まじいパワーアップをするわけじゃない。そこからさらに真性の神に至るために長い長い修行がいる。その修行を積んでいる翠聖様ならきっと【呪怨】でも簡単に浄化できる。でも迦具夜はレベル1000を超えたからってそんなことできないよ」
「誰から聞いたの?」
レガだ。余計なことを。それでもなんとか神になれば【呪怨】を抑え込める。それに私の寿命を半分ぐらい犠牲にしたらおそらく消せると踏んでいた。しかしそれを彼が望むかといえば望まない。だから言わずに黙っておいたのに。
空間から時空間へと歪みがどんどんと大きくなっている。どうしてだ。近づけない。嫌だ。やめてよ。どうしてそんなことするの。
「私なんて死んでもいいでしょう!」
「本当にさ。伊万里のこともあるのに迦具夜の為にここまでしたくなるとは思わなかった。お前は悪い女だ」
「こんな感情があるの…………あなたも私もお互いを助けたいだけ……」
「そのためにこれが一番いいことだって思う」
悪い人だ。他にもたくさん待っている女がいるくせに、その人たちの方が好きでしょうに……、きっと好きな中でも一番好きじゃない私のためにこんなことをする。
「祐太ちゃんはそれでいいの?」
「ああ、美鈴とエヴィー、それに玲香達やマークさん達にもうまく言い訳しておいてくれ」
祐太ちゃんが言霊を唱え出す。やはり禁止事項に入っているのだ。私でも聞いてはいけない禁止事項。祐太ちゃんの言霊がなんと言っているのか聞こえなかった。ただ、この感覚……これは以前も感じたことがあるもの。
祐太ちゃんは何か本来、触れてはいけないものに触れようとしてる。
空間が歪む。時間が歪む。止めなきゃと思う。
私は手を伸ばした。それなのに、
「迦具夜。時間はあるんだ。焦らずに信長を倒す方法を考えて桃源郷の神になるんだぞ。そうじゃないと10年後に会えなくなる。また必ず会おう」
祐太ちゃんの姿が消えた。同時にふっと何かが現れた。ゴルフボールぐらいの何か。
「【呪怨】!?」
私の体をずっと蝕んでいたもの。弁財天たちが封じていたはずなのにどうやって現れた。【呪怨】が目玉を浮かべて周囲を見渡す。私を見てきた。そのことだけで心臓が捕まれるような苦しみがよみがえる。
またこの呪いを受ける。祐太ちゃんのためならできることでも、かなり気が進まないことには間違いなかった。それでも彼の行動に間違いがなかったと証明するように【呪怨】はすぐに私から目を離した。
「ろろっろくっじょうじょっ……いいっいなっどこにもいなっ」
この世の終わりのような地獄の底から聞こえてきたような薄気味悪い声を出してくる。こんな声があるのこと言うほど寒気のする声。そして強い呪いに満ちていたものが目標を失い何がどうなったかを理解していなかった。
私ですら正確には分からなかった。いくらレヴィアタンの知能があるとはいえ、呪いの塊などというものになり、誰かを恨むことに思考が縛られている状態である。おまけにクミカの【心換帳】で本来その考えも消えているはず。
それでもそれが生きる目標そのものだった【呪怨】は恨みを残した。だが頭が正常に働いていないせいで、ここから何を判断すべきか答えを出せないでいる。
「レガの言葉が本当か……悪神のくせに本当のことを言うのね」
たとえここに死神が来たとしても祐太ちゃんがこの世に存在しない状態では、どうしようもないはず。腹の立つ事実だけどレガは正しいようだ。祐太ちゃんがいなければ解決したこと。そしてそのための最適解を彼は選んだ。
「祐太ちゃん……本当、私に信長に勝てなんて言うのね」
私は今まで厳しいことを散々男に要求してきた。その過程で死んだのものもかなり多い。その私が好きになった人から、最も難しい要求を突きつけられた。できなければもう会えない。
「私に無茶な要求をされた男たちはこんな気分だったのかしら」
私がどうすべきか考えていると急に頭の中に大声が響いた。
《迦具夜! 迦具夜!》
弁財天の声だった。ひどく慌てた【意思疎通】である。でも私には何を慌ててるのかよく分かった。
《迦具夜、祐太君とすぐに逃げて! ごめんなさい【呪怨】が急に消えたの! あなたたちの方に向かったのだと思う! すぐに行くから逃げて! お願い! 祐太君を守って!》
必死に弁財天が連絡していた。かなり焦っている。私は自分の感情を抑えた。彼が自分でちゃんと決めて行動した。
「しっかりしなきゃね。祐太ちゃん必ずまた会いましょう」
祐太ちゃんがよくしていたから私も自分の頬を叩いて気合を入れた。これから弁財天たちに説明して大八洲国に帰り、三種の神器がどれぐらい揃ってるかを確かめる。多分完全には揃ってない。
そして揃ってなかったらとりあえず日本の延命措置として【千年郷】を貸し出す。そこから10年以内に三種の神器を全て揃える。祐太ちゃんが帰ってくるのは多分10年後。
ちゃんと揃えてサファイア級にならなければ、私は本来の寿命通りあの子が帰ってきた時にはもう死んでる。それが一番最悪。信長を何としてでも倒さなければ……。
《迦具夜! もうすぐ着くわ!》
私は一度深呼吸した。そして落ち着いて弁財天に返事をした。
《弁財天。カインは排除できたし、【呪怨】も心配ないわ。とりあえずここまで来てちょうだい。千代女さんにも大事な話があるの》
私はともかく待つことにした。彼が帰ってくる日を待つことにした。
「祐太ちゃん……絶対にこの争いに勝ってみせるわ。日本だって絶対に私が負けさせはしない。だからちゃんと帰ってきてね。いえ、あなたはきっと未来にもう居るのでしょう。私も必ずそこに行くから」
Sideレガ
「ふむ。にわかには信じられんだが、確かに時空が歪んでいる。ルルティエラ様は何をお考えか。与えられる限りをあの少年に与えている……やはりロキの言葉が正しいのか」
海の上。八洲の姫である二人と異国のくノ一。三人の姿が海の龍神の中に入ったのを確認し、ワシはその場に来た。自分で判断することができなくなった【呪怨】がとどまった場所だ。哀れな存在がいる。苦しみが今も続いてる。
「ろろっろくじょうっ……どこっどっどこだ」
「このままでは10年以上続きそうだな……ふん、六条、帰ってきてもこいつがいたらヌシはどんな顔をする」
それでもなんとかしてしまうだろうか。
「楽しみだ」
ヌシもワシの弱い部分をついたのだ。約束が違うと言ってきたらなんて言ってやろうか。苦しみもがく【呪怨】を放置した。今回は色々面白かった。しかしカインという男。思った以上に強かった。全ては埒外の召喚獣を持っていたから。
「ヌシもヌシで何を考えてあんな化け物どもを融通したのか」
そう口にしてワシは後ろを振り向いた。
「私はいつも自分が楽しいことを考えてるよ」
その顔に嘲笑を浮かべる。赤い髪の男ロキ。その後ろにいたアフロディーテは首に鎖を繋がれていた。
「ヌシは相変わらず悪趣味だな」
「余計なことをしてくれた罰だ。しばらく調教しないとな」
真性の神をこのように扱う。この男どこまで力を蓄えているのか。まだ若いというのに、あるいはワシのいるステージすらもすでに超えているのか。この男が六条にこだわる。実に楽しいことだ。
「お願いもう苦しいの。殺してくれていいから終わりにして」
首に鎖をつけられ、目隠しをされ、手も縛られて、愛と美の神である面影などどこにもない哀れな女。ユグドラシルの神々はアフロディーテがこういう状態になっていることに気づいてもいない。こんな状態を隠せる。
虚言神ロキの怖いところだ。この男が口にする言葉は、何が本当で、何が嘘なのかワシですら分からない。生まれ落ちてからまたたくまに神に至ったロキ。神から悪神に堕ち、それからこの辺りは様変わりした。
この男の仕業であっという間にあらゆる国が壊れていく。それはワシですら見ていたら怖いほどだ。
ワシは情けないアフロディーテに口にした。
「アフロディーテ。お前は自分が死にたがるのはいいが、捕らえられた自分の子はどうするのだ?」
「それはもう解放してあげてほしい……」
「同情を請うだけとはずいぶんと落ちぶれたのう。神とて元は人か。どうしようもない存在はどうしようもない。ヌシは面白くないな」
今のワシの興味はやはりユグドラシルの神には向かない。さて10年後。あの子供はまた私を楽しませてくれるのか。ともかくここにいても仕方がなさそうだ。時空が歪んでいることが少し気になるが、もう行くか。
「おや?」
瞬間、ロキが首をかしげ、口の端を釣り上げた。ゾッとする笑いだ。何かあったかと気配を探る。そうするとすぐに何かが来るのを感じた。まるで世界の特異点が現れたような力場の歪み。時空が歪むよりもまだ大きく歪む感覚。
「おお!」
ワシはすぐに気づいた。"あの方"だ。ああ、今日はついている。久しぶりにお逢いできる。
「もう行くの?」
フッとあの方は現れて全身に鳥肌が立つ。この感覚。この気配。ワシとロキ、そしてアフロディーテも海の上で頭を垂れた。光を放つ女神。あまりにも力を持ちすぎて人は近づくことすらできない。ワシでも畏れを感じる。
「レガ、ロキ」
声をかけられると心がとろけそうなほど幸せだった。
「あまり彼をいじめないで」
「彼とは六条祐太で間違いないでしょうか?」
「間違いない」
「おお」
思わず体が感動に打ち震えた。
"ルルティエラ様"がそんなことを言うなんて!
何かを要求されたことなどこれほど生きてきたのに初めてだ。たかが人のためにこんな風に自らが実際に動いている様子を見たのは初めてだ。やはり六条のために現れたのか……。聞きたい。しかしあまりにも俗な詮索はできぬ。
「お、おまかせを。このレガ。ルルティエラ様のお望みとあらばこの全身全霊を持って六条祐太を助けましょう」
「その必要はない」
「そ、そうですか」
あらゆる手段を使って助けてやるものを。だが、必要ないと言われればそれまでだった。
「ロキ。私が嫌い?」
ルルティエラ様が不意にロキにそんなことを口にした。それだけでロキの体が消えかけたのがわかる。不遜なロキ。ルルティエラ様から言われて下を向いていながら口が笑っていた。
「いえ、そのようなことは」
「嘘はダメ」
「……」
「私はこの時空の歪みを修復していく。お前たちはもう行っていいよ」
だからと言ってロキを追求するわけでもないようだった。そしてこの方は六条に与えた子供にはすぎた力を修復してあげている。それほど気になるのか。あの子供……。
「良いのですか?」
ロキが顔を上げてルルティエラ様をまっすぐ見た。
「うん。いいよ。お前はお前のままに生きればいい」
「ではそのように」
ロキの姿がふっと消えた。縛られたアフロディーテの姿も消えていた。
「ロキめ、何と不遜なやつ! ワシが今すぐ殺してまいりましょう!」
「レガ。あの子はあれでいいの」
ルルティエラ様は時空がゆがんだ部分に触れた。そして調律していく。ゆがんだ部分が修復され、元の空間へと戻っていく。その見事さにワシは感動した。ずっとおそばにいたいと思うがそれはかなわぬこと。
「お前も可哀想にね」
そして【呪怨】に触れた。
「役目は終わったよ。もう帰っておいで」
【呪怨】からすうっと抜け落ちていくように瘴気が消えていく。そうすると1つの綺麗な白い玉に変化した。それがあちらの世界へと渡っていくのが見えた。
「介入してよろしかったので?」
「もうあれはここにいるだけだから良かったの。長く苦しむ必要はない」
「お優しいお言葉です」
ルルティエラ様は嘘をつかれた。あれは確かに10年以上長生きしそうだった。そしてまた六条を狙うはずだった。それを助けてしまわれた。平等から逸脱した行為。機械神が怒らないのだろうか。
それとも怒ってもいいからしたのだろうか。ああ聞きたい。この方の全てを知りたい。
「レガ」
「はい」
「お前もお前のままに生きてね」
そう言葉をかけられてワシの心は幸せに満ちた。ルルティエラ様の姿が消える。叶わぬとは分かっているが、できるならば一生をあの方のそばで生きたいと心から思う。
「次は10年後か……」
その時、確実に何か起きる。ロキの言うように本当にダンジョンが壊れるのか。それとも別の何かが起きるのか。どちらに転ぼうとも楽しみだ。ルルティエラ様は自由に生きていいと言った。
「ならば……」





