第二百八十八話 召喚獣
目の前にカインの姿があり、筋肉質なのがよくわかる体をしていた。欧米人特有の彫りが深く冷たく整った顔。頭に少しだけドラゴンの名残のような羽。前に千代さん達と時計塔の近くで見たそのままの姿。
綺麗な金色の髪が腰まで伸び、手足は人間のもので、尻尾がある。そのカインに向かって迦具夜が持つ戒め精霊魔法を放った。
【水獄牢】
カインの周囲に水の塊が現れる。カインにヨーロッパへ逃げられたら面倒だ。迦具夜に完全に従う精霊を含んだ水を頚木とし、それがカインにまとわりつく。拘束力は大したことがない魔法。普通の人間ならこれだけで息ができなくて死ぬ。
しかしレベルの上がった探索者は、呼吸によるエネルギー補給を生命活動の名残として残しているだけで、必要だからしているわけではない。カインだってそれでは死なない。ただまとわりついた水の精霊が首輪を形成する。
そして常にまとわりついた鬱陶しい存在と化す。その位置はたとえどれほど離れても分かり、俺達はカインを見失うことがなくなる。これだけでかなりヨーロッパに逃げるのは難しくなる。
《まず成功だな》
《ええ、どうやらカインは本当に一人でいるみたいね》
そのことだけは違和感があった。どうしてカインはそうしたのだ。500年以上生きるレベル969の迦具夜はカインでも怖いはず。タイマンになれば負けるかもしれない相手である。それなのにこんなところで待っている。
自分が負けたらヨーロッパがどれほどまずいことになるか。それを最も心配しているはずのカインらしくない行動。
《とにかく私たちはこいつを殺すしかない》
《分かった。あと俺は今のところ迦具夜に侵食される気配はないが、そっちはしんどくないか?》
《大丈夫よ。以前と違って私の意識をかなり表に出しても、あなたを取り込んでしまわなくて済むみたい。祐太ちゃんが強くなったおかげで予定通り1時間は持ちそう》
俺のレベルが上がり、迦具夜も【呪怨】から解放されていることで、迦具夜は以前と違いかなり融合中でも自由に喋れる。おかげで迦具夜との【意思疎通】が出来る。以前よりも融合していること自体に無理を感じない。
素直に迦具夜の負担が減らせていることが嬉しい。
「六条祐太……本当にこの国にいたか。以前と同じく八洲の姫と融合しているのか。この水は何のつもりだ?」
「深い意味はない。ただ逃げられると困る。お前には日本のためにも、どうしてもここで死んでもらいたいから、逃がさないようにしただけだ」
「ほお、随分強気だな」
カインの尻尾がユグドラシルの根っこを叩いた。カインの転生先。それは最初は南雲さんと似ている【龍人】だったそうだ。そこからさらに【龍皇】になったのだと聞いていた。南雲さんとは二回目の転生は全く違ったらしい。
『俺は完全な龍になり、カインは龍でも人の形を残した』
直径が1㎞ありそうな根っこがカインの尻尾で叩かれただけで揺れた。カインは首輪をつけた状態でも特に慌てる様子もなく、平気で喋っている。【水獄牢】によって閉じ込めたが、首輪をつけているだけで行動制限はできない。
「お前たちは私が逃げると思っているのか?」
そう思われたことが腹立たしいようで眉間に皺がよる。
「そりゃ俺はあんたより強いからな」
迦具夜と融合したことで第三の目、額の瞳が開く。格上のはずのカインのステータスが見えた。召喚士のカインとでは、ステータス上の優位はこちらにある。横にいるヨルムンガンドもカインと同レベルになってる。
《勝てるか?》
《何もなければおそらく勝てるわ》
「ほざけ! そんな自信はすぐに砕いてくれる!」
カインの召喚陣が一気に四つ。それは次々に現れた。
【我が盟友・バハムート出でよ!】
ひときわ巨大な魔法陣からドラゴンが現れる。それが【龍皇】であるカインとまるで俺たちと同じように融合していく。巨大なドラゴンのような人。黒い体を持つそれは【水獄牢】の首輪など意味がないと言いたげに突き破った。
ただ精霊だけはまとわりついている。カインの位置だけは見失わない。その戒めだけで十分だ。
【我が愛馬・スヴァジルファリ!】
さらに同時に声が響き巨大な馬が現れる。その体も黒くバハムートと融合したカインがさらにスヴァジルファリとも融合するように1つになった。そうするとカインは龍人の姿からケンタウロスみたいな足を四本持つ姿に変わった。
エヴィーも自分自身を召喚獣によって強化していくが、カインの姿はその行き着いた先なのだろうか。そしてカインの自分自身への強化はそれにとどまらなかった。
【我が武器・レーヴァテイン!】
目が一つ浮かび上がる不気味な炎を浮かべる武器が現れた。四本の足を持つケンタウルス型の巨人。そこにさらに背中に翼を生やし、額に角を持つ。そしてその巨体に見合う大きさの剣が装備された。召喚はまだ止まらない。
【我が騎士・ゲオルギウス!】
俺と同じぐらいの人間サイズ。馬に乗った聖騎士が現れる。一度見たことがある姿だ。新たに現れたのはこの四体。ヨルムンガンドは元からいたから、合わせて五体。さらに変化が起こった。
巨大だったカインの体が縮んでいく。そしてゲオルギウスと同じぐらいの大きさになった。さらにヨルムンガンドもその体を縮小化させていき、何万㎞もありそうな巨体がカインと融合し、ラーイみたいな蛇の尻尾になった。
《全て合体した? それに小さくなった》
すべての召喚の声は同時に響き、融合が一瞬で終了した。
《巨体というのは良いようで悪いのよ。大きい分だけエネルギー効率が悪くなるし、無駄に支える力が必要になる。近藤みたいに巨体を平気で運用するのって何気に難しいのよ。だから縮小化した。おそらくあの大きさが一番戦いやすいのね》
《前は大きいままだったぞ》
《だとすれば今回は本気なのでしょう。それにカインのステータスが私達より上になったわ》
死神たちと一緒に現れた時、カインは召喚獣をこれほど出してなかったし、バハムートと融合はしていたが大きさも変えてなかった。カインとバハムートとスヴァジルファリとヨルムンガンドとレーヴァテイン。
五つの存在が一つになってる。
《召喚獣を自分の力として取り込む。優れた召喚士が本気で戦う時よく使う手段ね》
それに、
《まだいるな》
《ええ、まだいるわね》
千代さんの言葉を思い出す。
『カインの戦闘の要は、バハムートでもその他の召喚獣でもありません。気配を消し、その他全ての召喚獣の目となるサイギス。狼人間のこの召喚獣がカインにとって一番大事な召喚獣です』
サイギスという召喚獣は、カインの召喚獣として無名だった。しかしこの召喚獣。千代さんに言わせると一番厄介で、かなり捉えにくく、そして召喚獣全体と【視界共有】を行い敵対しているものを常に補足し続ける。
おまけに隙あらば気付かれずに相手を後ろからブスリと殺してしまう。それは厄介極まりなく、今回気配を消すと同時に気配を読むことも重要だとは言われていた。ただこれに関しては訓練はしていない。というのも迦具夜が得意なのだ。
だから迦具夜が俺に教えてくれたままに精霊魔法を唱えた。
【水読み精霊】
水分を含んでいない生き物はこの世に存在しない。水を含んでいる限り、千代さんレベルで自然と調和し、精霊すらもごまかしてしまうほど一体となっていなければ迦具夜からは隠れられない。サイギスの姿がぼんやりと浮かんだ。
今の俺よりも気配を隠すのが上手い。それでも場所がわかった。水の精霊がサイギスの中にもある。俺の後方に回り込んで、100mほど離れた場所にいた。このサイギスも入れて、カインの同時に出せる召喚獣はおそらく六体。
『お前はなんか12英傑にも結構絡まれそうな気がするから、俺が知ってることは全部教えておいてやるよ』
南雲さんはそう言って、だいたいの12英傑の情報は教えてくれた。
『カインは召喚獣12体と言っているが、あいつが全ての召喚獣を戦いの場で出したのは見たことがない。全部一気に戦わせるのは、召喚士として消費が激しすぎるんだろう。召喚獣っていうのはいざ戦場に出すと召喚士からかなりエネルギーを奪うからな』
その言葉は本当のようだ。すでに出ているヨルムンガンドとおそらくサイギス。同時に喚べるのは12体のうちの半分。つまりそれだけカインは召喚士として未熟。南雲さんが言っていた最強の召喚獣ビヒモスも出ていなかった。
南雲さんの見立てでは、
『ビヒモスはおそらく一体しか出せない。それぐらいビヒモスは強いからこそ消費が激しい』
強すぎて一体しか出せない。この場合、本体のカインが弱点になりすぎるので、ビヒモスの運用は今のカインでは実際のところ難しそうだとも話してくれていた。六体を召喚したことですらかなり疲れが見えた。
ありえないほど強い召喚獣を所有しているカイン。召喚獣が強すぎて召喚士が追いつかない。カインは不釣り合いな召喚獣を持っている。それがどうしてかは知らない。
「今なら俺はお前に勝てる」
「六条祐太、もうこの私に勝ったつもりか? お前を殺すにはこれで十分だ。一刻も早くレヴィアタンを苦しみから解放してやるためにも死ね」
レヴィアタン……そういえば……。
《確かめられるか?》
《おそらく行けるわ》
ふとレヴィアタンと聞いて思い当たったことがあった。迦具夜に確認すると"見方"を教えてくれた。それで第三の瞳のある額に集中した。カインのステータスの"今の状態"が見えた。
そうするとカインの召喚中の召喚獣が、六体ではなく七体召喚していると出ていた。
【ステータス異常:レヴィアタン召喚】
《レヴィアタンを出していることになってる》
《そうね。引っ込めることができないのね》
《レヴィアタンを死神に捕らえられて戻せないわけか》
死神にレヴィアタンを奪われた時点で、カインも死神からの"呪い"を受けている。カインは召喚獣一体のエネルギーを無駄に取られ続けている。だから余計に【呪怨】となったレヴィアタウンを開放したい。
《だから余計に俺にこだわる?》
《正解じゃないかしら。祐太ちゃんが生きてる限りレヴィアタンは【呪怨】から解放されないわ》
カインが動いた。レーヴァテインがまっすぐに俺に突っ込まれてくる。それを【竜国】で受け止めた。耳障りな音が響く。同時に全ての召喚獣も動き出した。サイギスが静かに近づいて来ようとしている。
カインのしっぽとなっている巨蛇が大口を開けて横から襲いかかってきた。俺は急いで【転移】によって逃げる。その動きを嗅ぎつけて聖騎士ゲオルギウスは、俺が現れた場所に斬りつけてきた。
その瞬間、狼人間のサイギスも襲ってこようとしている。
【斬り裂け・レーヴァテイン!!】
カインが炎の斬撃を一気に十筋、放ってきた。それによってサイギスの気配がわからなくなる。気配を読むのが一番難しいのは戦いの最中である。地面を切り裂きながらこちらに進んでくるレーヴァテインの炎をまとった斬撃。
その衝撃による空気の乱れで精霊も混乱する。正確なサイギスの場所を俺に伝えるのが困難になっている。ヨルムンガンドがそのまま伸びて俺の方に向かってきた。
《祐太ちゃん! 【自然化】! こっちも消えないと手数は向こうの方が多いわ!》
迦具夜に言われて、カイン達の同時攻撃に紛れて千代さんに教えてもらった【自然化】を最大限に唱える。ヨルムンガンドの牙による攻撃、カインによる斬撃、ゲオルギウスの上から斬り下ろし、さらに紛れてサイギスの攻撃。
全てが重なった場所に粉塵が巻き起こる。
「やったか?」
「油断されるな。何かおかしい」
聖騎士ゲオルギウスの方が戦いの経験が豊富なのか、カインの前で守るように位置取った。サイギスがこの戦いにおけるカインたちの瞳となっているはず。しかし、今この瞬間、サイギスの方が俺を見失ったはず。
サイギスが見えなければ全員が俺を見れない。
わずかに焦りが伝わってくる。
【水読み精霊】は常時発動型。精霊によってサイギスの場所がわかった。サイギスをつぶせば、カインは目を失う。だからこそ最初に【自然化】でごまかすべきはサイギス。こいつが居なければ少し劣るものが目の代わりをする。
俺を見る精度を落とす。カインは俺が気配を隠すのが得意という千代さんが居るからこそ持つことができた能力を知らない。千代さんと俺の関係など知るわけもない。俺を見失った瞬間、サイギスが必死に俺を探している。
俺がここまで気配を消せると思っていないから余計に焦る。サイギスを知ってる俺は、焦ることがない。
「サイギス、逃げろ!」
俺が完全に気配を消してサイギスに近づこうとしたのに、カインが叫ぶ。サイギスは瞬間悩むが、すぐにこちらの狙いに気づいたのだろう。狼人間と俺が10mほどの距離まで近づいていたのに、慌てて離れようとする。
しかし、それでも遅い。
迦具夜との融合で水の精霊の声をダイレクトに聞ける今、この上、速度が増している俺は、サイギスの首に【竜国】が届いた。
《【竜国】さっさと決めてしまうぞ!》
《《はい!》》
「ゲオルギウス!」
剣と剣がぶつかり合う耳障りの音が響いた。聖騎士が寸前で俺の剣を受け止めた。カインは召喚獣の位置の移動を一瞬で行えるらしい。サイギスを仕留めそこねた。だがほんの一瞬とはいえ、ゲオルギウスと俺が一対一の状況になる。
《ゲオルギウスはサポート役でしょう。メイン盾にするのは強化しまくってる自分じゃないとね》
《選択ミスだぞカイン》
単体戦力では、こちらの方がかなり上だ。遠慮はしなかった。またそんな余裕もない。青蛙討伐により手に入れたルビー級スキル。華ならばきっと全力では放てなかったスキル。しかし今ならば全力を込められる。
【竜国】に力を集中していく。そうするとスキルに反応して【竜国】の水色と赤の綺麗な刀身に黒い炎がまとわりつく。
《お前も結構面倒だ。死ね》
俺は殺意を剥き出しにした。カインが気づくよりも速く動く。
ゲオルギウスも剣に力を込めていく。
【黒焔竜刃!】
【蒼天覇光斬!】
聖騎士ゲオルギウスとぶつかり合っていた【竜国】から黒炎が溢れ出る。黒炎は自然の反応ではない。ダンジョンの中における特別な色を持った力。それはとてつもない熱量を持ち、そして消えることのない地獄の業火。
ゲオルギウスの剣も光をまとった。眩しくなるほどの光で黒炎を打ち消そうとする。スキルだけのレベルなら向こうの方が上。第三の瞳がそう伝えてくる。【蒼天覇光斬】はサファイア級。しかし、迦具夜が俺のスキルを完全にサポートする。
《死んでもらう!》
黒炎が刀身に集中して、黒い刃になる。迦具夜のエネルギーの制御能力はゲオルギウスの上を行く。光る剣ごとバターのように斬れていく。そのままゲオルギウスの体を斬り裂いた。その斬れ味は、とどまることを知らなかった。
ユグドラシルの1㎞の太さがある根っこをまるごと斬り裂いた。それでもまだ勢いが止まらずはるか離れた大地に大きな傷跡が刻まれる。ゲオルギウスが黒炎に包まれ、あまりの熱さに悶え苦しむ。
完全に別れた胴体からさらに黒炎がゲオルギウスの体を燃やしていく。ここまでゲオルギウスが現れてから0.00001秒のかかっていない。カインが俺を後ろから襲いかかってくる。すぐに振り向いた。レーヴァテインを受け止める。
ヨルムンガンドも遅いかかってきて俺は【転移】で逃げた。戦い続けてもよかったが多分ゲオルギウスは死ぬ。その瞬間ぐらいは待ってやろうと思った。俺がいなくなって慌ててカインがゲオルギウスに駆け寄った。
ヨルムンガンドが俺を警戒し続けてこちらを睨んだ。
「大丈夫か!?」「カイン様、この身に触ってはいけません!」
黒炎に触れそうになるカインを苦しみながらゲオルギウスが言った。
「この炎はまずい。触ればカイン様とて無事ではすみません。ぐう」
「少し耐えろよ」
カインはゲオルギウスに向かってレーヴァテインを振るう。燃えている分の肉を全て削り取ってしまおうということだろう。そのレーヴァテインの斬撃を俺が邪魔してしまう。【竜国】で受け止めたのだ。
「貴様!」
「自分の部下を切ろうなんてひどい上司だ」
「助けるのだ! 邪魔をするな!」
「そうはいかないエリクサーの一本や二本は持ってるんだろう。せっかく削った戦力がすぐに復活なんて悪夢だからな」
「カイン様。こやつも本気であなたを殺しに来てます。私に構っていたら本当にあなたが殺されてしまう。私を召喚元に返してください。なんとか死なないように耐えてみせます」
「……」
俺はゲオルギウスを助けさせるつもりはない。カインは俺に阻まれてその顔がゆがんだ。サイギスも助けたそうにしていたが、そんな行動をとれば間違いなくサイギスを殺すつもりでいた。
この状況で目である自分が死ぬ意味をサイギスは正確に理解しているようで、近づいてこない。ヨルムンガンドは主が死なないようにこちらに牽制を忘れない。
「……必ず後で助ける。死ぬなよ」
カインはいつも召喚獣に対しても冷静になってしまう。
「油断なさらぬよう。彼はあなたの今まで敵対してきた中でも最も厄介な敵です」
ゲオルギウスが【召喚解除】されて完全に姿を消した。
「ゲオルギウスがあんな言葉を言うとはな。……恐ろしい子供だ。ダンジョンに入ってまだ一年ほどだろう。それで私と対等とは悪夢だな。六条祐太、どうやらもうレベル400らしいな」
どこから聞いた情報だろう。アフロディーテだろうか。
「そうだとしたらなんだ?」
「こんなところで死神と意見が合うのは腹立たしいが、やはり貴様だけは殺しておかねばいけない。レベル400になっているだけなら良かった。しかし八洲の姫がそこまで献身を見せるとは……」
「あんただって助けてくれている女がいるんだろう」
「まあ確かにな。だが彼女は俺にどこまで気を許しているのやら。融合などしてくれるはずもない。それは全てを許した相手にのみする行為だ。まあそもそも水の精霊でもなければ融合などできないが」
「詳しいんだな」
「私も自分の召喚獣となら融合できるからな。まあともかくお前の異常な成長スピードは、世界のバランスを崩すように思えるほどおかしい。六条祐太はそう……死ぬべきだ」
カインはそういう意味で言ってないのか。レガの言葉が思い出される。俺が『ダンジョンを壊す』その可能性があるのだという。いつか自分は本当に世界の邪魔者になるのか。
「それでも、生きる権利は主張させてくれ」
「当然だ。生物とは等しく自分こそが生きたいものだ。それに不思議と私はお前には怒っていない。むしろ腹が立つといえば死神の顔だ。あの骸骨だけはどうしても許せん。あの時の自分の選択は今でも間違いだった気がする。レヴィアタンがまだ苦しんでいるのが私には伝わってくる」
馬の下半身を生やしているカインは2m50cmはありそうだった。近づいてきて俺を見下ろしながら言ってくる。そして召喚陣がまた出てきた。
「出でよ」
【呪いの体・スキュラ】
上半身は綺麗な女で、下半身が六体の狼になっている女が現れた。奇妙な姿形をしている。ゲオルギウスの代わりなのだろう。
「スキュラ、相手は強いぞ」
「了解しておりますカイン様」
俺の姿が再び自然の中に溶け込んだ。





