第二百六十九話 シルバーガチャ
このガチャは重要だ。シルバーの専用装備がどこまで揃うのかで俺の強さが決まると言っても過言じゃない。しかもガチャ運8もあるのだ。運頼みとはいえ絶対に全て揃えなきゃいけない。俺はガチャコインを投入口に1枚入れた。
迦具夜のこと、伊万里のこと、どちらのことも考える。
どちらも対応しようと思えば思うほど、どれだけ強さがあっても足りないぐらいだ。ここまで強くなってもまだ傍観者で終わってしまいかねないほど周りのレベルが高い。シルバーが揃えば強くなる。でも足りない。
本来ならレベル800以上いるようなクエストだ。だからこそ力が欲しい。迦具夜との融合ができなくなったことで、最低条件が余計に上がっている。
「ゴールドガチャって遠いのか?」
思わずそんなことを聞いていた。メト達ですらまだ使っているという武器。それがあればさすがに攻撃力不足は何とかなる。
「無理よ。ゴールドガチャがある場所に行くにはシルバーエリアを出るしかないの。いくら祐太ちゃんが強くても、シルバーエリアを出ようと思えばレッドの大陸を支配するしかない。それには半年は必要よ。そもそも祐太ちゃんの場合、特殊ケースすぎてこのエリアの扱いがどうなるかも分からないし」
「でもシルバー級の武器でもルビー級相手に通用するかどうか……」
そうなのだ。シルバー級があっても織田や局長が現れたらそれで終わりだ。
「大丈夫よ祐太ちゃん」
そう思う俺の気持ちが迦具夜に伝わったようだった。
「ここに織田や近藤がいる可能性はかなり低いわ。何しろユグドラシルってブロンズエリアの中で大八洲国から一番遠い国と言ってもいいぐらいよ。超深層を移動する蒼羅様の動きを察知されていたならともかく、それは無理でしょうし、ここでの問題はユグドラシルの5、6番目の世界に何がいるかよ」
「織田や近藤がいない……」
局長のあの化け物のような強さを思い出す。迦具夜と融合したからどうにかなったが、することができない今だとこの状態でもまだ瞬殺される。それこそ一階層で南雲さんに殺された穂積のようなことになる。
そんなどうしようもない実力差がまだあるのではと思える。
「怖がっても仕方がないとはいえ、敵が強すぎて嫌になるな。とにかく現実的にまず強くなるしかないよな。それにはまずシルバー級専用装備全コンプリートからだな」
自分に言い聞かせた。俺はともかくまだガチャコインが200枚もあるのだ。しっかりとガチャのハンドルを握ると、シルバーガチャを回した。ガチャコン、ガチャコンとレバーが回っていき、そして最初に出てきたのは銀色のカプセルだ。
銀色か……。
ストーンの時ならまだ喜べたんだけどな。
今は微妙だな。
「ま、まあ、最初はこんなもんだよな!」
さすがにシルバーガチャである。いきなり当たりは引けなくて当たり前だ。そうは思うができれば出てほしかった。何しろ専用装備を全て揃えるのだ。最低でも当たりが10個いる。ブロンズの当たりがルビーカプセルだった。
今回は多分サファイアカプセルになるのだろう。そこから考えると銀色のカプセルは一番外れぐらいかもしれない。
「えっと専用装備が10個なのは変わらないんだよな?」
「そうよ」
「当たりが出てもそこから俺の専用装備が出る確率は1/3ぐらいだよな?」
「その条件も変わらないわ」
「つまりシルバーコイン200枚を入れて200回まわして、そのうちサファイアカプセルが30個ぐらい出てくれないと、シルバー級専用装備のコンプリートは難しい」
無理な気がしてきた……。
それなのに、
「うわー。もう"当たり"ましたね」
千代女様がそんなことを口にした。
「へ?」
「祐太ちゃんシルバーガチャからはね。出てくるカプセルが違うのよ」
「なんで?」
「文献によるとかなり昔、太古の神様がシルバーガチャなのにサファイアカプセルが当たりというのは分かりにくい。そんなクレームをダンジョン側につけたって話が残ってるわ」
「まあそれは確かに」
「だから銀ガチャからは当たりが銀カプセル。ブロンズ級のアイテムが出てくるのも銅カプセル。ストーン級のアイテムが出てくるのも今までなかった石カプセルに変更されてるの」
「ハズレは?」
「残りのハズレはいつも通り白カプセルよ」
そこは変わらないんだ。ということは美鈴は今頃白カプセルを大量生産してるのだろうか。失礼なことを考え今頃くしゃみをしてないかと思った。
「そういうの先に教えてくれよ。めちゃくちゃ重要じゃないか。つまりこれからはカプセルの材質とアイテムの等級が一緒なわけ?」
「そういうこと。それに伴って銀カプセルはシルバーカプセル。銅カプセルはブロンズカプセル。石カプセルはストーンカプセル。白カプセルは相変わらず白カプセルと呼ぶのが普通になるわ」
「じゃあこれって……」
「当たりね」
「すごいですね祐太ちゃん。本当にここから当たりのカプセルってなかなか出てこないんですよ。私なんて何度涙を呑んだことか」
「マジか……」
何だか一気に肩の力が抜けた。どうやら俺のガチャ運最強は相変わらずのようだ。そのことが分かって俺は床に膝をついた。なんだかこの1回を回すのにどっと疲れた。
「開けてみる」
シルバー級のアイテムが入ってる銀カプセル。ややこしい名称を是正するためにシルバーカプセルと呼ばれるようになったそれを手に取る。なんだかストーンガチャで出てくる銀カプセルより、高級感がある気がする。
「カプセルが高級になった気がする。なんか意匠が凝ってるような。ほら、この辺!」
「全部一緒よ」
「そうなんだ。と、とにかく開けるな!」
回すよりもまずその気持ちの方が先になって、俺はカプセルに触れてパカッと開けた。そうするといつも通り光を放って、おもちゃサイズだった中身が巨大化した。ショックで壊れたりはしないだろうが一応気をつけて下に毛布を敷いた。
その上にパサッと落ちる物体。一振りの刀が現れた。柄部分に竜の紋様が描かれている。
「これ、俺の専用武器だよな?」
マジかよ。やっぱりガチャは俺のために贔屓されてるのでは? そう思えたが、ガチャに偶然はなく、仕掛けもない。ただただ冷たい確率論が支配するだけだ。つまり俺の引きが強かっただけなのだろう。
「俺のシルバー級の武器。ここからでも1/3のはずなのにいきなり出てくれたんだよな……」
手に握ってみる。竜の紋様がある武器。それはまるで伝説の武器のように存在感があった。
「シルバーってこんなにすごいのか」
一振りすればそれは大海を分かつような力を感じる。焔将だとかなり加減して力を込めないと壊れてしまいそうな気がした。でも、これは違う。ゴールド級になった俺の力でもしっかりと持ちこたえてくれる。そんな手応えがある。
ステータスを確認してみた。そうするとシンプルな名前が表示された。
シルバー級【焔竜・華の刀】
とある。抜いてみると美火丸から続く赤い刀身だった。そしてやはり炎属性なのか炎が刀身に揺らめいていた。俺だと触っても全く熱くない。力強い波動を感じる。この刀があるだけで俺は間違いなく強くなる。そう感じられるのだ。
「これからよろしくな」
《かしこまりました。主様》
はっきりと返事があって驚く。
《お初にお目にかかります。私は炎の中より生まれし焔竜・華。ほとんどの記憶をなくしておりますが、そのことだけはよく覚えております。どうぞ華とお呼びください》
「しゃべった」
「そうね。シルバーにもなるとかなり意識がはっきりしてるわよ。魂の力が強いの。だから1つでもかなり強力よ。これぐらいの装備になってくると、弱い探索者だと専用装備に振り回されるなんてこともよく起きるわ。まあ逆に祐太ちゃんだと強いから完全に服従してくるでしょうけど」
「そうなんだ」
《主様はどうやら私と縁が深いようです。ならばこれより全力で尽くさせてもらいます》
「うん。よろしく」
力のイメージが頭に浮かんでくる。【竜火斬り】。最初にその装備スキルが頭に浮かんだ。かなり使い勝手の良いスキルだとわかる。これからしっかり役立ってもらおうと俺は鞘に収めた。
「よし、じゃあもっと回すな」
俺は気分が高まる。この調子なら今回でまた全部揃うかもしれない。そんな期待が大きくなる。さすがにシルバーガチャはそう簡単に行かないかもしれない。それでも華が俺の武器になっただけでもかなり強力だ。
力強く感じてガチャを回した。次に出てきたのはブロンズカプセルでその次がストーンカプセルだった。そこからさらに回すと10度目にまたシルバーカプセルが出てきた。10回回してみてシルバーガチャの出目が少し理解できた。
感覚的に、ガチャ運8でも、ガチャ運6で回すブロンズガチャより、シルバーガチャの方が当たりを出す確率が減ったと感じる。前のガチャは本当にもっと壊れてるんじゃないかと思うほど当たりばかり出てきたのだ。
「全部揃うか微妙か」
回してみて、経験上全てのシルバー級専用装備を揃えるのは難しいと思える。
「なあ迦具夜。全部シルバー級が揃ったバフってどれぐらい?」
俺は聞いてみた。ブロンズの専用装備を全て揃えたバフは780もあった。ストーリーが解放されると大抵更に上がるので、1000になるということも考えられた。それがシルバー級になるともっとすごいのだろうか。
「2500以上と言われてるわ。その装備によって違うから一概には言えないけど、私は+2800あったわね」
「2800……。えげつないな」
改めて時間をかけてでも回しに来てよかったと思う。あるとないとじゃ俺の強さが確かに倍ぐらい変わってしまう。特に今の状態のように俺の強さについてこれる武器が何もないならなおさらだ。
「弁財天はどれぐらいだった?」
「私は+2700ね」
「お姉ちゃんは?」
千代女様も聞いて欲しそうな顔をしていたので聞いた。
「お姉ちゃんも+2800です。装備があるとないとじゃ全く違いますよ。これがゴールドとかルビーになるともっとすごい違いが出てきます」
「そうだよね」
やばい。やはりどうしても全部揃えたい気持ちになってくる。
「華、全部出てきてくれよ」
《申し訳ありませぬ。こればかりは主様次第です》
「祐太君もなんとか揃えばいいのだけど、シルバーぐらいから全て揃うとかなり強力な特殊効果が出るのよ」
「ううん」
そう聞くとやはり何としてでも全て出したいと思った。ともかくまず全て回してしまおうとガチャに手をかける。さらに100回回してみた。先ほどと合わせて合計で110回。体感的に10回に1回、いや、それよりは少ない8回に1回ぐらいの確率でシルバーカプセルが出てきている。
ガチャ運8でシルバーガチャは1D8といったところだろうか。6のままだったらどれくらいだったんだろう。
「迦具夜でシルバーの時ガチャ運いくつだったんだ?」
「確か5だったと思う。かなり昔すぎて忘れかけてるけど。まあその時の私はレベル350以下だったわけだけど。懐かしいわ」
「それでどれぐらいの確率になるんだ?」
俺のしょっぱなのガチャ運だ。迦具夜の話では、迦具夜はガチャ運がかなり良い方なのだ。
「1D30と言われてるわね。30の目のサイコロに1つ当たりがある。そんな感じよ。そこからさらに専用装備が出る確率が1/3だから、私は確率的に考えるとガチャコインが900枚でやっと専用装備を揃えられるって感じね」
「はあ、シルバー級の間にそこまでガチャコインって手に入るのか?」
「まず無理よ。シルバー級の間にシルバー級装備を全て揃えるのはかなり難しいわ。私でも揃えたのはゴールド級の時だったもの。シルバーの時に手に入れられたガチャコインは500枚ぐらい。シルバー級の時に専用装備が揃ったのは6個ね」
「500枚もすごいな」
それなのに俺はシルバーガチャコインが手に入ったのは200枚で、おまけに今はもうゴールド級である。何だかいろいろ飛ばしすぎなのだ。
「まあ祐太ちゃんとはかけた時間が違いすぎるからね。さすがの私も祐太ちゃんみたいに通り過ぎるみたいにシルバーエリアが終わったわけじゃないから」
「というか通り過ぎるのがおかしいんだよ。俺にとってのシルバーエリアが、ガチャを回しに来ただけになってるしさ」
こんなに早く通り過ぎなくても、正直今いるこのシルバーエリアで、ゆっくり探索したかった。今なら榊が言った言葉の意味もわかる。俺だって探索者が大好きなのだ。この世界を味わい尽くしたい。
そして同じレベルの仲間ともっとワイワイ言いながらダンジョンの中を楽しむ予定だった。それなのに味わいつくす前に何かに追われるようにどんどんと強くなってしまう。弱いままでいることが許されない。
何よりもルルティエラという存在は、俺をこの世界に長居させたくないようにも感じられた。
「もうちょっとゆっくりしたかったな」
「ごめんね」
迦具夜が謝る。
「あ、いや、違うんだ。自分で選んだことだ。後悔はしてない」
それでも少し後ろ向きになったのは伝わった。魂のつながりで嘘をつけないのも不便だなと思う。
「本当に?」
「本当だ。それにお前がいなかったら俺はメトに襲われた時に即死してる。だから感謝してる。それにお前だけじゃない。俺だって寿命が半年なんだ。一緒の運命になるかもしれないのにごめんなんて言うなよ」
「そういえばそうだったわね」
迦具夜が俺の後ろに歩いてきた。何かするのかと思った。前なら逃げたかもしれないが今は別にそれでいいと思った。考えていたら後ろからギュッとしてくる。ふわりといい匂いがした。
「迦具夜」
「はーい」
「ガチャが回しにくい」
「たまにはいいでしょ」
弁財天と千代女様は静かだった。この3人は誰かが俺と仲良くしてると、後の2人は黙ってる。そういう暗黙の了解を持っているようだった。弁財天と千代女様はシルバーカプセル以外を開けていってくれて、名前だけ書き出して、俺のマジックバッグに整理してくれていた。
その姿が美鈴とエヴィーみたいだった。美鈴たちと会いたい。伊万里にも何があったのか聞きたい。でも今のこの3人といるのも心地よかった。姉代わりにも母親代わりにもなってくれる。そして恋人にもなってくれる。
甘えさせてもらえることで今の心の負担がどれほど助けられているかわからなかった。
「まあいいけど。なあ」
「なーに?」
「俺本当に頑張るからさ。2人で生き延びような」
「そうね。そうなればいいわね」
俺の手が止まっていた。結局、迦具夜にだけは手を出さないままである。どういうわけか迦具夜が密着してきてもそういう雰囲気にならない。クミカからの影響だろうか。考えてもわからない。
俺はガチャを再び回し始めた。そのまま誰も喋らないまま迦具夜に後ろから抱きしめられたまま、最後まで回してしまう。残り1個だった。ガチャコンガチャコンと回すと最後にブロンズカプセルが出てくる。そうしてガチャが終わった。
同時に迦具夜が背中から離れたことが残念だった。
「……祐太君。白カプセルゼロだったわよ」
ふと弁財天が口にした。
「え……」
「こんなことあるんですね。ガチャ運が良すぎて白が出る確率がなくなっちゃったんじゃないでしょうか」
千代女様が呆れた顔をしている。
「内訳はシルバーカプセル24個」
「まさに大勝利です」
「ブロンズカプセルが101個」
「もはや意味不明です」
「残り75個がストーンカプセルだったわ」
つまり俺は今回のシルバーガチャで、最低でもストーンガチャにおける金カプセルが出たのだ。そしてそれよりもはるかに多くブロンズガチャにおけるルビーカプセルが出たのだ。確かにこれはもはや意味不明である。
「千代女さんの言葉通りハズレはなし。まあブロンズもストーンもシルバーガチャでは出やすくなるものだけど、それでも普通は白カプセルが一番多いのだけど。ふふ、こんなにガチャ運のおかしな子がいるのね。私も初めて聞いたわ」
弁財天は面白そうに笑った。
「あとは専用装備が全て揃ってるか。専用アイテムもあるか。この2つが結構重要ですよ」
そして千代女様が一番重要なことを口にした。シルバーガチャの当たりは24個出ている。そしてここからさらに俺の専用装備が出てきてくれる確率は1/3。全てのシルバー級装備が揃う確率は低いと言わざるを得ない。
《主様ガンバ。なんだか私の魂の片割れがかなりの数その中にある気がしますよ。全部揃ってるのでは?》
そんな嬉しいことを華が言ってくれた。
「はいこれ。祐太君」
弁財天が俺のステータスに送ってきた。ステータス画面にはメモ帳部分も搭載されていて、詳しくシルバーアイテム以外の内訳が記載されていた。それによれば食べなきゃいけない果実が52個ある。大変ではある。
だがこれで各種ステータスをかなり底上げできる。ストーンとブロンズの専用装備は既に揃ってるから問題ないし、今回出たこの大量のブロンズカプセルとストーンカプセルは全て現金化してもいいぐらいだ。
「これって全部売ったらいくらぐらいになるんだ?」
迦具夜に聞いてみた。月城家は商売も手広くやっていることで有名だと何度か聞いたことがある。ブロンズエリアで最初に出会った買取商も月城家だったはずだ。だからそういうのは得意そうに思えた。
「大八洲国の買取価格で考えても、私の方でうまく捌けば200億貨ぐらいで買い取ってもいいぐらいよ」
「日本だとこれを全部売るなら1500億ぐらいの価値がありますね」
「さすが私の旦那様。豪快なガチャだわ」
とは迦具夜が口にした。まあ褒められてもルルティエラから与えられた運である。それを誇る気はなかった。ただありがたく受け取るのみである。そして俺は一番重要なこと。シルバーカプセルに手をかけた。
今日の19日は、
【ダンジョンが現れて5年、15歳でダンジョンに挑むことにした。】
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今からだと想像できない小春の姿が見れるので必見です!
またついに本格的にあの男も出てきます。
よければ書店で是非手に取って読んでみてください!
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