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第二百六十四話 迦具夜 40~60日目

40~42日目

 日にちが経過していくほどにスキルについての理解が頭の中にどんどん入ってくる。そうするほどに青蛙と戦っても傷を負うことが少なくなり、俺は千代女様の中の中まで見た翌日、青蛙と戦っても24時間致命傷を避けることができた。


「成長してる……」


 自分でも驚いた。レベルが上がらなくなったのにそれでも着実に強くなってる。普通はそういうのはもっと何ヶ月、いや、何年もかけるものなのだろう。しかし迦具夜や弁財天。そして千代女様。


 その3人にサポートされる状況が普通ではなかった。彼女たちは俺を強くするためにその肉体すら使ってくれた。それは同時に俺がどんどん死ににくくなっているということだ。


 このパーティーの中で一番弱い俺が強くなっていくことは、何よりもこのパーティーにおいて重要だった。


「なんとか少しはお荷物感がなくなってきたな」


【水龍の導き】の中で迦具夜に言った。そんなことを言いながらも、実際のところ体はもう全部なくなっていた。俺の体は今全て精霊の力も使用した【義体】と呼べるものである。頭以外は全て消失してしまったのだ。


 というのも致命傷はなかったことに気を良くした俺は気が緩んだ。そして体を全部持っていかれた。その時の青蛙の反応が面白かった。やつはこれでやっと鬱陶しい蚊とんぼがいなくなったと思った後に、


「お前何ゲコ? そんな状態で何で生きてるゲコ……」


 首しかなくなったはずなのにすぐに体が再構成された。水と土で再構成していることは青蛙にも分かったことだろう。俺は心臓がなくなってもエネルギーを外から取り込むことで脳の活動が停止しないようにした。


 普通だとそれでは体が動かないし、【念動力】で動かすのはさすがに限界がある。だから俺は最後に迦具夜に精霊について教わった。からくり族を造る1つの方法として、精霊を使用する方法があるのだそうだ。



43日目

「千代女さん、嫌でしょうが私と交代しましょう。ここからは私の方が祐太ちゃんを強くできそうです」


 迦具夜は俺の体が頭以外消失してしまったのを見て、千代女様と交代してきたのだ。迦具夜がからくり族を造る際に使用する技術を応用して、俺が体の代用品として使用している土と水をこねくり回しただけのもの。


 それを【義体】と名付けて、


「祐太ちゃん。どうせならちゃんと自分の体を造りましょう」


 と言い出した。水や土の中にある精霊を義体に宿すことで、その体を動かす手助けをしてもらうのである。迦具夜はからくり族を造るのが上手なのだそうで、そういえば以前、俺そっくりの人形を造るとか言っていたことを思い出す。


 まず俺がよく使用するスキル【糸】


 迦具夜はその糸で神経の代わりにできると教えてくれた。糸に電気を流すことで神経接続として組み立てられるというのだ。水と土をこねくり回しただけの体のはずが、隅々までアウラの糸で1つにつながる。


 そして流された電気信号に反応して、水と土でできた体を動かしてくれるのが【精霊】である。



44日目

 首しかないはずの人間が変な体で【念動力】を使いたどたどしく動いていた。それが次に再開したら本物の体のようになめらかに動き出した。異様な姿に青蛙がドン引きしていた。


「水と土だけのはずゲコ。精霊が動かしてるゲコ?」


 青蛙は俺の後ろにいる3人の女性の姿を見たことがない。だから余計に戸惑っていた。疑似的に造り上げた体を、普通の体のように使い、あるいは自分の体の精度よりも上に設定して、リミッターを外し動いてみせる。


 その結果、体が壊れた。しかしそうしたところで再構成してしまえばいいだけだ。そしてそこにまたアウラの糸と、迦具夜とのつながりで得た精霊が手助けをしてくれて体を一瞬で再構成させる。



45日目

「青蛙も、ちょっと祐太ちゃんに怯えていたわね」


 迦具夜に膝枕をされた状態で、【水龍の導き】にて休んでいた。体はすでに破壊されたから、膝枕といっても頭しかないのだ。つまり今迦具夜は斬首されたみたいになっている俺の頭を膝に乗っけている。


 なかなか斬新な状態である。


「自分でもこれで生きてることにビビってるよ。本人がビビるんだから相手は余計にビビる。でも、やってることはあいつと一緒だ。向こうは蒼羅様のエネルギー密度が濃い空間の中で【超速再生】を無限に使い、俺はそのエネルギーを利用して義体を無限に再構成させ続けている」

「いいえ、祐太ちゃんの【義体】の方が【超速再生】よりも上よ。その能力が開花すれば、もっといろんな用途があるわ」

「そうか?」

「ええ、きっともっと応用できる。青蛙もかなり本気であなたが鬱陶しいと思い始めてるわよ」

「そうか。ようやく敵だと思われるようになったのか。でもそれだとあいつどこかに行っちゃったりしないかな」


 それだけが心配だった。本来、青蛙は蒼羅様の体内で生息しているわけではない。それこそブロンズエリアの広大な海の中を自由に泳ぎ回っている存在だ。伊万里達も青蛙とは遭遇したことがあるという話を聞いていた。


 伊万里……伊万里は今どうしているだろう。


 油断してふっと伊万里のことを思い出しただけで、そのことを考え込みそうになり頭を振った。


 ともかく大八洲国にまだ近いと言える海にいた青蛙が、ユグドラシルにかなり近づいた海にいるのだ。相当な範囲をうろついているのだろう。それなら途中で広大な海原に飛び出してしまわないか。


 もしそうなればこの海を探し回るのは実質不可能だ。


「大丈夫よ。モンスターにだってプライドがあるもの。どう考えてもエネルギー量が圧倒的に低い祐太ちゃん相手に逃げるなんて、モンスターにとってもかなりの屈辱よ。それに蒼羅様の体内で戦うということは、蒼羅様の中で生まれた他のモンスターも見てるわ。逃げれば沽券に関わるわ」

「ダンジョンの中は、モンスターまでそんな考え方をするのか……」


 人間みたいであり、それが面白くも思えた。


「じゃあ今日も詳しく教えてあげるわね」


 俺の頭の部分だけが体から外れ、そして迦具夜の胸に抱かれた。これでより迦具夜との波長を合わせることができる。迦具夜がからくり族を造る時の神経のつなぎ方、外部からのエネルギーを効率よく義体に循環させる器官の創造。


 そして俺の【義体】の心臓パーツとして1つ大事なものをくれた。茜色の心臓のような形をした宝石。その中心部が光を放っていた。それは暖かくてとても力強い波動を感じ、どこか太陽の光のようにも思えた。


「何だか太陽みたいな石だな」

「その通り。これは【太陽石】というものよ。ルビー級のアイテムで人間と変わらないレベルのからくり族を創造する時に核として使用するものなの。これを使うとからくり族でもルビー級になれる成功例もあるほど密度の高いエネルギーが生成できるわ」

「大事なものじゃないのか? これ、多分、仙桃よりも高級品だろう?」


 仙桃を使わない為の代替えとして義体を造っているのに、それ以上に高級なものを使っていたら何をしているのかわからない。


「ええ、そうね。確かにこれは仙桃よりもはるかに手に入れるのが難しいものよ。でも祐太ちゃんの試みはあなたが強くなるための最適解だと思うわ。その技術は、一時的な借り物の体を造るだけじゃない。本当にもっと使えるわ。祐太ちゃんも自分で他の利用目的を考えてるんでしょ?」


 期待されるように見られた。あなたならばもっと先を見ているでしょう。それを全く疑っていない目だった。


「それはまあ……」

「じゃあ使ってくれていいわ」


 迦具夜が俺の頭を抱えながら微笑む。その日はずっと迦具夜と俺の義体の造り方を考え続けた。俺はずっと迦具夜に頭だけ抱えられた状態で、自分の体を、本来の自分の体より強く構成していく。


 頭さえ残っていれば自分の命を保つことができるようになった。それは大きいが、それでもまだ青蛙との差は大きい。やはり一度に与えられるダメージの総量に開きがあるままだった。


 そしてもっと根本的な問題がある。300mを超える巨体なのに青蛙の方が速く動くのだ。局長でもそうだったがルビー級になると大きいから遅いということがない。本来なら巨体を維持するだけでも莫大なエネルギーがいる。


 それが動くとなれば水の抵抗から何からもろに受ける。そのはずなのに、まるで抵抗などないように動く。青蛙がこちらを敵とも思っていないならまだ攻撃も当たったのだが、最近青蛙も俺を敵だと思うようになった。



46日目

「その攻撃がやばいゲコ。お前急に強くなってきすぎゲコ。戦うの面倒だからお前が逃げるゲコ。我輩追いかけないゲコ」


 一度だけだが腕一本を根元から削り取った。そのことで青蛙が俺の攻撃に当たるのを嫌がるようになった。そして俺から逃げろと言ってくる。間違いない。こいつまだ俺に殺されることになるとは微塵も思ってない。



47~50日目

「本気で動かれるとマジで当たらん」


 今日は弁財天が俺の頭を抱えて相談に乗ってくれる。つまり魔法の時間なのだ。それにしてもどうもこの頭だけのスタイルに慣れてきてしまったことに異常性を感じる。


 しかし、敵の攻撃が実質頭さえ守ればどうにかなるというのが、便利すぎる。結果として青蛙を殺すまで、頭しかなくていいんじゃないかと思ってしまっていた。弁財天は久しぶりに2人きりになれて嬉しそうだ。


「祐太君。翠聖様から与えていただいたシルバー級の魔法。【飛行】と【転移】。この2つをしっかりと頭の中で私と共有させましょう。さらにこれに【異界化】を加えるの。今日は1日それをしましょう」


 頭の中を弁財天と共有してイメージし、どうすれば青蛙の速度に追いつくことができるのか。そして【異界化】をできるだけ効率よく使い消費を少なくする。というよりも俺の魔力では【異界化】は使うのに無理がある。


《お松が使っていたものの方がいいわ》

《あれか。なんかすり抜けるやつだよな》

《ええ、今の祐太君なら、私にかなり魔力の器を広げられてるから、その頃のお松より魔力が上のはず。この状態だと【異界反応】はかなり長く使えるわ》


 だから黒桜が使用していた【異界反応】の方が使い勝手がいい。その使い方を何度も弁財天と共有して考察していく。レベルの高いスキルや魔法ほどただ持っているだけでは意味がなくなってくる。


 魔法式は複雑になり、それに伴うエネルギーの使用量も莫大になる。運用を間違えば体が腐るのは散々経験した。だからこそ使い方のイメージが大事になるのだ。どうやってその現象が起きているのか頭で理解しなければいけない。


 でなければその威力は1/10以下にもなりうる。


「祐太君」


 俺が自分の義体に体をくっつけて少しだけ休憩していた。弁財天が横からしなだれかかってきていた。


「なんだ?」

「こういうの楽しいわね。頭の中を共有して一緒に考えて魔法を組み立てていくの。あなたがたまに突拍子もないことを言うから、それを参考にしたりするのもいいわ。エッチなことも好きだけどこういうのも好き」

「弁財天……は男性経験ぐらい豊富にありそうだけどな」


 様付けをして何度も呼びそうになったが、そのたびに呼び捨てがいいと言われた。今でも呼びそうになるがそうすると逆に嫌がられるので、呼び捨てにすることも徐々に慣れてきた。


「私も400年以上生きているのだけどね。全然こんな経験がないの。本当に何百年もの間、愛することも愛されることも知らずに生きてきたのだと思うわ」


 弁財天がそんなことを言ってくる。迦具夜のそばにいるのは問題のある女性たちが多かったという。普通にはうまくいかなかった女たちだ。迦具夜はともかく弁財天の女としての問題点が俺にはよくわからない。


 それでも男と楽しくやり取りする。そういうのもあまりなかったらしい。だから今の時間をとても喜んでくれているようだ。弁財天が俺の中に入り込み、俺が弁財天の中に入り込み、2人の共同作業で魔法をより効率よくしていく。


 俺たち2人はそれに夢中になった。


《魔法はね。常に効率よく効率よく組み立てるの。なんならそのために1つ常に魔法の効率化を考え続ける演算領域を祐太君の中で作り上げるといいわ。私は自分の中でそれを【魔法領域】と呼んでるの。魔法使いは大抵これを多かれ少なかれ持っているものよ》

《魔法について常に考え続ける領域か……》

《そうよ。処理能力が上がれば上がるほど、祐太君の魔法領域を増やしていく。そうすることであなたは常に強くなり続けるの》

《そういう発想はなかったな》


 それはスキルや精霊についても言えることだ。将棋が上手くなるために無限に対局を続けるAIとどこか似ている。そうすることでいつのまにかAIは人を超えた。それを俺は魔法とスキルと精霊全てで作り上げればもっと効率よく強くなれる。


《私の魔法領域の組み方はこんな感じ》

《見ていいの?》


 何百年もかけて作り上げた弁財天にとっての宝ではないのか。


《いいの。むしろ見て欲しいわ。ねえ、人に見せるのは初めてよ》


 弁財天が何百年とかけて作り上げた魔法領域。弁財天にとっては自分の裸を見せるよりも、誰にも見せることがないはずだったもの。弁財天が持っている魔法に関するあらゆる技術、知識が複雑で入り組んでいる。


 俺はそれに触れただけで頭がショートしそうになる。まるでパズルのようだ。決して本人以外にはわからないもの。他人が触れたところで読み解くことはできない。それがはっきりとわかる。


《やっぱり難しいな。俺じゃあ理解できない》

《データ量も計算式の複雑さも祐太君と私じゃ比べ物にならないもの。だからゆっくりと理解できるところまで解いていくわ。ほらこの魔法陣はね》


 難解な数式のような魔法陣が頭の中で次々と浮かび上がっていく。エネルギーの効率化。どうすれば迦具夜たちのような爆発的なスピードが出せるのか。転移をより遠くにするための空間との関係性。


 裏側の世界、もう一つの方向。


【異界化】の下位互換【異界反応】を黒桜以上に使いこなせるように。それをずっと弁財天と2人で考え続ける。弁財天が何とか俺に理解できるようにと導いてくれる。昔はあんなに勉強が嫌いだった。


 でも今はそれが理解できていくことが楽しくて仕方なかった。あまりに楽しくてどうして俺は勉強が嫌いだったんだろうと思えるぐらいだった。


《苦しくても楽しい。弁財天のおかげだ》

《いいえ、祐太君のおかげよ》

《どこが?》

《迦具夜が誰にも思われない何百年の命よりも、今のこの瞬間の方が楽しいと言ってたわ。私もそう思う。だから祐太君のおかげ》


 弁財天から感謝の思いが伝わってくる。そしてはっきりと愛おしいという思いも伝わってくる。美鈴に伊万里にエヴィーに玲香、さらに今回で3人。シャルティーと切江も数に入れるとすれば、9人。


 榊はよくわからないが、ここまで来ると自分でも呆れてしまう。それでもそれぞれに真剣なつもりだった。何よりも強くなる。この件だけは何があっても失敗できない。失敗したら日本が消滅しかねない。


 絶対に失敗しないためならばあらゆる方法を尽くす。


 きっとこれほどの高レベル探索者の女性と関係を持てば、美鈴たちはかなり嫌がる。それでももう止まれない。弁財天から流れ込んでくる無数の情報を頭の中に叩き込む。そして俺はどんどんと強くなっていくのを感じる。


 そんな楽しい日を何日も過ごした。



51~60日目

 迦具夜の寿命がかなり切迫してきている。魂がつながっているせいで、それがわかる。ひょっとすると6ヶ月もたないかもしれない。そんな風に思えてくる。そのことを苦しく感じる。


《安心して祐太ちゃん。私にもしものことがあっても弁財天が引き継いでくれるわ。あの子も祐太ちゃんとの繋がりでレベルアップしてきてる。きっと私の代わりに桃源郷の神になってくれる》

《俺との修行で弁財天がレベルアップするのか?》

《ええ、するわ。あの子はもうあれ以上レベルを上げるつもりがなかったのよ。神の座なんて全く狙ってなかったし、私の下でいるのが気楽だと思ってた。それがここに来て精力的に基礎をもう一度整理し直して組み立て直し、今までレベルアップせずに放置していた部分を上げていってる。蒼羅様の体内という環境下で余計にそれが早くなってる》

《迦具夜が死んで弁財天が変わりをするのか?》

《ええ、あの子にもまだ言ってないことよ。でも祐太ちゃんは私と繋がってるからごまかせないもの。ちゃんと言っておくわ》


 迦具夜はレヴィアタンの【呪怨】を全て自分の方で受け止めた。それでも俺の方に漏れて、そこから俺の寿命が削れた。しかし今は完全に自分の水の精霊の力を使い【呪怨】を覆い尽くした。


 それでもなお【呪怨】が完全に消滅しない。本来の目的である俺が死んでないからだ。あともう少しのところで力が及ばず、クミカの【心換帳(しんかんちょう)】が合わさっても消しきることができなかった。


【呪怨】


 改めてカインの召喚獣というものがどれほど強い存在だったのかと思う。神獣とでも呼ぶべき存在が全て呪いのためだけに消費された。あともう少しで消せたのに消えない。それがずっと迦具夜の体を蝕んでる。


《大丈夫。不安がらないで。神になった弁財天ならここまで弱らせたのだもの。【呪怨】は完全に消滅させることができるはずよ》

《……》


 自分の仲間を皆殺しにしようとした女に、死んでほしくないと思ってる。それは本来なら異常な考えだと思う。でもできれば生きていてほしい。


《これも天罰よ。散々、悪いことをして生きてきたからね。今さら死にたくないとは言わないわ。それにいいこともあるわ。私が死ねば、私の底に沈んで存在できなくなっていたクミカの意識が再び表にきっと出てくる。あの綺麗で何の罪も犯していないクリスティーナ。それがやはりあなたの傍にいるべきなのよ》


 見ていてわかる。【呪怨】が少しずつ迦具夜の水の守りを食い破ろうとしている。どれだけ時間をかけてもいい。【呪怨】はそれしか考えていないのだ。完全に消滅させない限り【呪怨】の侵蝕は永遠に続く。


《なんとか延命できないか?》

《難しいわね。それにもう祐太ちゃんと……》


 そこで言い淀んだ。自分ができないことが分かっている。誰よりも本人が一番わかっている。俺との【融合】がもうできなくなっているのだ。これ以上融合すれば弱い俺はすぐに死んでしまう。


 迦具夜の中でどんどんとエネルギーが消費されていくのがわかる。巨大な海のようにすら感じる迦具夜のエネルギーが【呪怨】の侵蝕を抑えるためだけに消費されていく。蒼羅様の中にいてもそれは変わらないようだった。


《あなたとのつながりを徐々に離していく方がいいわ。今のうちにできるだけ教えるから聞いて》


 精霊について教えられた。迦具夜が終わって行こうとしている。それに対して俺はできることが思いつかない。自分が何もできないことは本当に何もできない。どうしてこう俺はヒーローのようになれないのだろう。


《ダンジョンに入ってさ》

《ええ》

《中学生の頃と違って、無理すればどうにかなる。そういうことも多かったけどどうにもならないことは本当にどうにもならなくて、そのたびに悔しいと思う》

《私は意外と今楽しんでるわよ。だってこの胸は今もドキドキしてる。愛してるわ》

《うん……》


 自分からもそう言い返せばいいのに、やはりその言葉は出ない。それでも迦具夜は精霊というものを教えてくれた。


《祐太ちゃん。精霊はね。このダンジョンの運行システムみたいなもの。水がちゃんと循環するように、世界は水に人格を与えているの。小さな単位になればなるほどその人格は薄いもの。大きくなればなるほどその人格はしっかりしてくる。それらと繋がり仲良くすれば精霊が応えて、スキルや魔法とはまた違う力を発揮できるの。その義体を造るのにもとても便利でしょ》

《米崎が喜びそうな知識だ》

《ふふ、確かにあの男は喜びそうね》


 この状況でも笑う。迦具夜にとって本当に今の時間が楽しくて仕方なくて、今の一瞬のために生きてきた。そんな考えを持ってる。


《祐太ちゃんは私とつながったから水の精霊との相性はかなり良くなったわ。そしてもともと炎とは相性がいい、その次が土ね。最後が風。炎≧水>土>風という感じね。闇と光もあるのだけど、それはもう少しレベルが上がってからにした方がいいわ。どちらの精霊も気性が荒いから》


 迦具夜が俺に全てを注ぎ込もうとしてくる。それは自分がなくなった後、俺の中に自分を残しておこうとしているみたいだった。

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― 新着の感想 ―
ううう。。。
あれほど憎らしかったかぐやの死の予感をこんなに切なくできるのは素直にすごい
レベル500パートになってから迦具夜の株が上がり続けて、とうとう迦具夜に死んでほしくない、神に成って生き延びて欲しい、ついでに裕太からも愛してると言われて欲しい、と思う様になった。 思考を分けるのは…
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