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第二百六十話 Side迦具夜 8~14日目

Side迦具夜


【水龍の導き】8日目


 祐太様が喜んでいる。嬉しい……。


 クミカ。あなたはそう考えるのね。私は弁財天と祐太ちゃんの男女の交わりを喜びと共に見つめる。クミカは私の中に取り込まれて消えた。脳の中におけるデータ量も処理能力も私の方が圧倒的に高い。


 だから融合してしまうとクミカという存在は、自我を保てずに崩壊してしまう。それでも取り込んだ私の中にその魂の情報は全て残っている。クミカを更生していたクリスティーナという少女。そして魂のみのミカエラ。


 クリスティーナの自分を消してしまいたいという思いが、ミカエラの魂と交わったことで、ミカエラの魂をかなりの部分で自分の性格に取り込むこととなり、彼女たちはクミカという存在の中で奇跡的なほど両立していた。


 その合わせて40年ほどの経験と生き方。


 それが今度は私の魂の中に情報として残る。


 私はその情報をゆっくりと確認していた。


 クリスティーナは全てを持っていたのに全てから見放された少女。そして半年にも渡るゴブリンからの屈辱の日々を祐太ちゃんから救われ、それでもまたアンナという親友に嫌われていたと知り、再び精神が不安定になった。


 もう一人のミカエラは三人の友達が裏切り崩壊した少女。南雲という男についていけばよかったものを、三人の自己保身に走る思いにうまく誘導されて、両親を殺され精神的に弱ったところにつけ込まれ、言うがままに動いた。


 そして私は2人とは違う。私の愛は歪んでる。男を殺してしまうほど試そうとする愛。乗り越えて私からの愛を勝ち取り五体満足にいるのは祐太ちゃんだけだ。他は全員失敗した。500年もの間そんなことを繰り返した歪みまくった女。


 私とクリスティーナとミカエラ。


 私たち三人の中に共通した認識は唯一。あのどうしようもない苦しみから愛を教えてくれたのが祐太ちゃんだったということ。今ならわかる。私の愛は愛ではなく歪み。普通なら報われることなどないほどの歪んだ妄執。


 それが祐太ちゃんを知って私の愛に対する歪みが修復された。


 だから、祐太ちゃん……。


「いいんですか?」


 千代女さんが聞いてきた。【機密保持】を使っている。今日に至るまで私たちは完全に、弁財天の行為を傍観していた。【水龍の導き】の内部はむせ返るような男女の営みによる匂いに包まれている。


「何が?」

「あなたにとって大事な人が、友人に全て取られますよ。嫌じゃないんですか?」


 そう聞いた時は何のことを言われているのか理解できなかった。私にとって何か嫌なことが起きただろうかと考える。祐太ちゃんが喜び、そして祐太ちゃんに全てを捧げる女がまた1人できた。それは何と素晴らしいの。


 この考え方はクミカのものを採用している。クミカの考えは私にものすごく馴染む。私のハードルを超えるものは500年も現れなかったけど、私はそれを超えたらその男に何もかも与える。そういう女だったんだと今気づく。


 だが、日本生まれの千代女さんが違和感を抱いてるようだ。つまり祐太ちゃんも違和感を抱く懸念がある。それは問題だ。できれば祐太ちゃんに喜ばれたい。私はクリスティーナとミカエラの人格を脳内で再現した。


《どう思う? 彼女の意見に賛同した方がいいかしら?》

《必要ないわ。そんなこと気にする人じゃなかったし》

《あの、私の過去の経験なんですが——》


 どうやら一般常識はクリスティーナに聞くのが良さそうね。


 そうか。


 この考え方は日本ではずいぶん異端なのね。クミカも同じ考えだからいいのかと思ったけど、クリスティーナの王女だった頃の経験で考えると、今もまだ存在しているスオムスエルヴィ王国では、王族でも一夫一婦制だという。


「千代女さん。それが嫌なら最初に止めてるわ。彼を好きな女が増える。それはとてもいいことだわ」


 祐太ちゃんを偉大な存在にしたい。誰よりもきっともっと、クミカはそうすることで自分自身を慰めていた。そして私もそうすることで、500年かけて現れた想い人を、今までの自分の証明としたい。


 だからこれでいいの。


 祐太ちゃん。私がもっと幸せにしてあげる。あなたが子供時代に受けられなかった愛情の全ては、私が全て与えてあげる。そしてこの世の全ても与えてあげる。ああ、祐太ちゃん。私こそがあなたを幸せにするの……。



9日目


「祐太君。好き。愛してる」


 弁財天が我慢できなくなって口にしていた。私は心の中で歓喜していた。これで弁財天はきっと祐太ちゃんが言えば私ですら裏切る。だって満たされない何百年の時間よりも、体が燃え上がるような想いの方が大事よね。


 あまりにもうまくいったから嬉しくて笑っちゃいそう。


「すごい顔してますよ」

「あら、いけない」


 千代女さんが私に言ってきたから、私は喜びの表情を慌てて元に戻した。まあ弁財天と祐太ちゃんは2人の甘い世界に入ってるから、こっちなんて見ることはないでしょうけど。


「ひょっとして友達を生贄にしました?」

「言葉が悪いわ。弁財天は、今、幸せなのよ。何百年も求め続けていたものを見つけた。祐太ちゃんならきっと弁財天の期待を裏切らないわ。だから私は祐太ちゃんに弁財天を与えてあげたの。他にも10人ぐらい男で満たされない貴族の女が私の下にいるわ。全員祐太ちゃんのものにしてあげましょう。彼女たちもきっとそれを喜ぶわ」

「そういう考え方、私には理解しにくいな」

「まああなたは日本出身ですものね。大八洲はそれがたとえ男であれ女であれ、素晴らしい一人に大多数が奉仕する。その考え方はポピュラーよ」


 神がいるのである。そしてそれが絶対的な支配者なのだ。神の機嫌を損ねることができない大八洲では、むしろこの考え方の方が普通だ。私は少なくともそう思ってる。


「私は大八洲でも迦具夜さんの考えは異端だと思いますけどね」

「そうかしら」

「ええ、こう見えて私結構ダンジョンでは古株ですから、分かります」

「そういえば、そうだったわね」

「それにしても困りました。これが二ヶ月続くんでしょうか」


 千代女さんが内腿をこすり合わせた。どうも二人に当てられているようだ。


「私こう見えてくノ一の修行で、一通りのエッチなことには慣れてるんですけどね。でもさすがにあそこまでの超絶美男子と美女が交わり続けているのを見るのは初めてです。魔法の練習も結局エッチなことに繋がってるし」

「きつい?」

「そうですね」


 千代女さんはかなり困ってるようだった。



10日目


「祐太君。どう?」

「かなり理解できたよ」


 ふしだらなことをしながらも、弁財天は真面目なところは真面目だった。魔法の授業は順調に進み、祐太ちゃんはどんどんと吸収していく。地球の一般人だと自分の感覚を相手に伝える方法はないが、私たちは違う。


 感覚をそのままダイレクトに【意思疎通】で伝えることができる。だから祐太ちゃんのようにダンジョンに好かれているものは、伝える側が全てを教えてしまうぐらい相手を気に入っていれば、恐ろしいほどのペースで経験を吸収していく。


 祐太ちゃんは弁財天のかなりの魔法の叡智を自分のものとして取り込んだ。まだ完全ではないが、祐太ちゃんはこれでもうかなり強い。私はミカエラの能力【鑑定眼】を使う。


レベル:261→293


 順調にレベルが上がってるわ。ゴールド級の魔法も新たに1つ生えてる。祐太ちゃんは私と融合した影響で、分離してからもレベルが上がった状態になっていた。私の力を上げたわけじゃない。私と融合したことで彼の器が広がったのだ。


 そこからさらに弁財天からの肌を重ね合わせての訓練。祐太ちゃんは弁財天と【意思疎通】を行いながら肌を合わせた。そうすると非常にレベルが上がりやすくなる。何よりもここは水龍神蒼羅様の中である。


 エネルギーに満ち溢れた蒼羅様の中では非常にレベルが上がりやすい。魔法の訓練も桁違いに効率が良くなり、そこに祐太ちゃんのダンジョンに異常なほど好かれるという部分が合わさる。そうすると、こういうことが起きる。


 期待はしていたけど予想以上ね……。


「祐太ちゃん、すごいですね」


 千代女さんはかなり興味深そうに口にした。弁財天の魔法技術を恐ろしいほどのペースで吸収していく。その様子に疼くようだ。


「そうね」

「今までと魔力の運用がかなり変わった。効率的に洗練されて器も大きくされてる。このやり方が成功するんだ」

「貴族の女がよほど気に入った男にすることよ。でも、祐太ちゃんほど顕著に強さが変わっていく男はなかなかいないわ。レベル900を超えている弁財天とレベル250だった祐太ちゃんとでは器が違うもの。ここまで違うと理解できずに余計に弱くなったりするの」


 付き合った男が何度もダメになった弁財天は、同じことを他の男にも何度もしたことがある。ダメな状態から少しでも回復させようとしたのだ。でもどれもこれも余計に弱くなるだけだった。弁財天がこうして強くなったのは初めてだ。


 だからこそ余計に弁財天は嬉しくて祐太ちゃんに夢中になっている。


「分かります。私も、こんなやり方しても相手が強くなったりすることなんて、一度もありませんでした。むしろ【意思疎通】なんかで私の感覚を相手に伝えれば、相手は私にできて自分ができないという劣等感に苛まれるだけでした」

「やったことあるの?」

「弟に何度か。でも弟は強くならなかった」

「それって弁財天と同じこと?」

「はい。ほぼ一緒ですね。違うことといえば相手が嫌がっていたことでしょうか。弟は訓練嫌いでしたから」


 どう返せばいいのか私でも一瞬悩んだ。


「千代女さん、弟が好きだったの?」

「はい。大好きでしたよ。私は何でもできましたから、私の目から見てびっくりするほど弱かった弟を少しでも強くしてあげようと思った。そのために何でもしてあげたのに、弟は私から逃げた。里抜けするのは重罪だから追っ手がかかって大変でした。まあそれ自体は皆殺しにしたから問題ないんですけど、それでも弟は私を怖がるだけでした」

「それは不思議……いえ、まあ怖がるでしょうね」


 私も理解できなかったが、クリスティーナの再現した人格が理解できるようだった。


「そのようですね。追っ手を皆殺しにして血だらけになった私を見て弟はガクガク震えてるだけでした。それ以来弟の顔を見てない。風の噂では何でもない村の娘と結婚して、お爺ちゃんになって、もう死んでるそうです」

「そう……」

「祐太ちゃん……どこまで強くなるんだろう」


 千代女さんが祐太ちゃんをずっと見ていた。


「ひょっとして私より強くなれるの」



11日目


「祐太君。今日はちょっと趣旨を変えましょう」

「何をするんですか?」

「以前、迦具夜と融合して【異界】を使いこなしていたでしょう。それでも、今はもう使えなくなってるはずよ」

「ああ、はい。どうしても【異界】がどういうものだったのか理解できないんです。迦具夜と離れた瞬間から理解できなくなった」

「だから今日はそれについてどういうものか理解できるように頑張ってみましょう」


 弁財天が口にした。それを見ていた千代女さんが、


「いくらなんでも無茶です」

「そうね」


 それは本来ならシルバー級の人間に教えるべきものではなかった。教えること自体がそもそも【禁止事項】に抵触して教えられない。ルビー級でも最上位になるとその【禁止事項】がかなり解かれるが、それでも教えたところで意味がない。


 シルバー級の人間ではどの道使えないからだ。


「まあ大丈夫。もし何かあっても仙桃はかなりあるしね」


 実際のところは無限にあるわけではない。私の手持ちは後13個だった。五郎左衆であれほどの危険を犯しても、1度に手に入れることができたのは52個で、五郎左衆が雑に使ったこともありかなり数を減らしてしまった。


 それでも祐太ちゃんの為なら使うことに迷いはないが、無駄になることならさすがに止めるべきか。弁財天は祐太ちゃんが教えた分だけ吸収していくから、教えるレベルが上がりすぎている。


 あまりに上がると危険なのだが……いや、仙桃にはまだ余裕がある。もう少し様子を見るか。


「教えてもらえるんですか?」


 祐太ちゃんの表情が輝く。一緒に連れてくるのを弁財天にして良かった。性格的にも穏やかだし、予想通り祐太ちゃんとの相性もいいようだ。


「ええ、ただ、シルバーだとかなり消耗が激しくなるから、【異界】はもし使えたとしても使っちゃだめよ。なんとなくそれはわかるでしょ?」

「はい。多分一度使うと動けなくなるぐらい消耗する」

「そうよ。過剰な力は体を壊すことになるから、そのことはよく理解しておいて」


 そう言うと弁財天は【異界】の説明を始めた。



12日目


「隣り合う世界か。難しい」

「そう。私の魔力を使っていいから、何度も試してね」


 結局、弁財天は、祐太ちゃんから試してみたいと言われて、その要望を断りきれなかった。弁財天は体の全てをくっつけて、祐太ちゃんに自分の理解を伝えようとする。それでも【異界】の理解は難しい。


 何しろそれは人が5次元を理解するのと似ているからだ。縦横高さ時間、さらにもう1つ。自分たちが触れ合えないはずのもう一つの方向。言葉ではそれは、


『どこでもないどこか』


 としか言いようがない。だが確かに存在するもう一つの方向。そんなものを理解するとなれば難しいに決まっていた。それでも私と融合していればできる。それは私の理解が伝わるからだ。


 実際に使うことができた記憶は確かに祐太ちゃんの中に残っているはず。それでも私から離れた途端に理解できなくなる。それほど理解しにくいのだ。自分でそれが何かわからない限りは無理なのだ。


「弁財天様。もう少し魔力を大量にもらっていいですか?」

「いいけど祐太ちゃん気をつけてね。器以上にあまり過剰に魔力があると、体がもろくなるわよ。慌てずにゆっくり。ね?」

「……分かりました」


 そう言っておきながら祐太ちゃんは何度か魔力の受け渡しを失敗して、腕がポロっと落ちたりしていた。その横で千代女さんは、祐太ちゃんの手伝いをしたそうな顔になっていた。



13日目


「千代女さん。あなたも手伝いたければ手伝えばいいのに、彼が強くなるのは別に私の得だけじゃないわ。あなたたち日本側にとってもとても利益になるはずよ」

「そういうわけにも行きません。祐太ちゃんにとって弁財天さんから教えてもらうデータ量はかなり大きいでしょう。祐太ちゃんの処理能力からいっても、これ以上、一気に詰め込んだらパンクすると思います」

「……」


 どうやら千代女さんは祐太ちゃんに教えたい気持ちはもうマックスになっているようだ。それでも今はまずい。そう考えているだけのようだ。何しろ祐太ちゃんは今ひどい状態だ。


《本当に止血だけでいいの?》


 弁財天は祐太ちゃんが心配で、どうしてこんなことになったのかと後悔が顔に浮かんでいる。


《ああ、仙桃は大事なものだ。むやみやたらと使いまくるもんじゃない。最後に1個食べれば十分だ》


 祐太ちゃんは喉が潰れて自分で喋ることができなくなっていた。片方の腕も落ちたままだ。もう片方もかなり魔力を過剰に摂取しすぎて腐食している。顔も見れたもんじゃなくなっていた。


 あの綺麗な顔が完全に腐った果物のようになっている。


 どうしても【異界】の理解をすることができない。


 当然のことだ。貴族になれるほどの才能があるものでも、異界はルビー級で理解するのだ。それを祐太ちゃんのレベルで理解するのがもともと無理なのだ。それでも何とかして理解しようとしていた。自分でわかってるんだ。


 神の座の争奪戦。それは本来なら祐太ちゃんのレベルではあまりにも足手まといになる。それを何とかしたいと思ってる。そしてなんとかするには【異界】の理解しかないと思っているようだ。


 弁財天とエッチなことに逃げながらも、彼は自分の責任を忘れられずにいた。


 日本を巻き込んだのだ。向こうのトップも理解した上でのこと。それでも、この程度できなくてどうすると思っているようだ。だから何かしらの【異界】へのヒントを求め続けている。


【異界】を開くには大量の魔力がいる。


 おそらく彼の勘なのだろう。そしてそれは正解だ。最低でもルビー級の魔力がいる。それをなしにできるとすれば、よほど長生きして経験を積むしかない。どの道こんな期間でできるわけのないこと。


 まあさすがにもう諦めるわよね。


 そう思った。でも弁財天がどれだけ治療を提案しても、祐太ちゃんは拒否した。


《余計なことをしないでくれ。全てがなくなっていく。俺の中の余計なものが全て……そうしたら何か見えそうな気がする》

《でも……》

《まだ死にはしないから大丈夫。自分でわかるんだ。もう少しだって。弁財天様。もっと一気に魔力をください》

《他人行儀に言わないで。様もつけなくていい》

《なら、弁財天。頼むよ》

《いくら何でも死んでしまうわ。魂に傷がつくかもしれない。そうしたら蘇生役でもちゃんと蘇らないわ。やっぱりもう治すわ》

《弁財天。そんなことをしたら俺はもう二度とあなたと口をきかない》

《……》

《俺はここまでのことをしてしまった。だから強くなる責任がある。違うか?》


 それから何度も弁財天から魔力が過剰に供給された。受け渡される魔力が多すぎてうまく扱いきれず、体に歪みが何度も生じた。口から血を吐いたのは10回以上。腕は両腕ともなくなってる。両足も使いものにならなくなっている。


 本来ならばこんなバカな訓練はする必要がない。それでも何かが見えるようになっている気がする。徐々にないはずの方向。見えないはずの世界。それを見ようとしている。


 祐太ちゃん……。



14日目


 祐太ちゃんの姿が消えた。驚いた。理解してしまった。もう一つの方向。隣り合う世界。人が行くはずのない場所。あちら側を。


《できたの?》


 弁財天ですら驚いて目を瞬いていた。


《なんとか。先生が優秀だと助かります》


 祐太ちゃんはもう目も見えなくなっていた。声を聞く能力もなくなってる。あの綺麗な顔が潰れたのだ。それでも仙桃を食べようとはしなかった。最後に1つ。ユグドラシルに到着してから食べればいいと思っているようだ。


 そして祐太ちゃんの狂気にも似た訓練は正解だったのだと私は思う。目も耳も鼻も全て使用することができなくなり、体さえもかなりの部分が腐り果てた。そうして感覚だけが異常なほど研ぎ澄まされた。


《じゃあもういいわよね。祐太君、仙桃を食べましょう》

《いえ、このままの方が多分うまくいきます。もう一度【異界化】を唱えてみます。弁財天様、魔力をもらえますか?》

《ダメ。あとまた喋り方が戻ってる》

《弁財天。頼む》

《いや、これ以上は何があってもあげない。ちゃんと体を治しなさい。そうじゃないと泣くわ。というかもう何回か泣いてるわ。いい加減にして》


 そしてそれは強制だった。弁財天は祐太ちゃんの意思を無視して、直接胃の中に仙桃を転移させた。祐太ちゃんの意思を何においても優先させようと思っている私も、祐太ちゃんの体が復活していくのを見てほっとしていた。


「ああ……」


 恨みがましく祐太ちゃんは弁財天を見た。


「だって……死ぬかと思ったんだもの」


 祐太ちゃんからそういう顔をされると弱い。弁財天は涙ぐんでいた。


「そんなにひどい状態だった?」

「ええ、本当に危険だったわ。祐太君、何でも簡単に治せると思わないで。それに忘れてはだめ。どんな人間も生き返らなくなることだってあるの」

「……」

「祐太君。あなたは私をこんな気持ちにさせたのよ。なんだってしてあげるから、死ぬなら私と一緒に死んで。置いていかれたくないの」


 弁財天は再び綺麗な彼の姿になったその美しすぎる体を抱きしめると、離れるのが嫌だというように抱きしめた。二人の世界が出来上がる。これは長くなりそうだ。祐太ちゃんが弁財天のお尻を掴んで持ち上げる。


 祐太ちゃんがその気だとわかると弁財天は喜んで足を開いた。それからどれぐらい時間が経ったのか。弁財天が祐太ちゃんを離そうとしなかった。何度も何度も祐太ちゃんが元気であることを確かめるようにひたすら繰り返した。


 そして私は見逃さなかった。


 祐太ちゃんの熱い塊を自分の中にあるものと結合させた。弁財天。失うのが怖いのね。いいわ。見逃してあげる。もし万が一何かがあった時は、あなたのそれで祐太ちゃんの意思を何としてでも成就させてあげて。


 だからあなたは一緒に死んだらダメよ。


 私は自分が生き残る自信がないの。【呪怨】が私の中で完全に消えない。私は多分ダメな気がする。もし私がダメになったらあなたが私の代わりをするの。代わりにあなたが神になりなさい。あなたならギリギリなれるから。


 だから弁財天。私と祐太ちゃんが死んでも必ず生き残ってね。そして万が一にも祐太ちゃんを殺す存在が現れたら、そいつを必ず殺してちょうだい。


 私はそんなことを考えた。


 つい自分の考えに没頭していた。


「うん。弁財天さん私と交代してください」


 千代女さんがそう言った。

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― 新着の感想 ―
まさかお姉ちゃんまで堕とすとはなぁ カグヤもいいキャラになったしクミカのこともあるから、もしものことになっても引き継いでほしいな 最初に孕ますのが弁天様とは 普通は浮気どころの話じゃなくなりそうだけど…
体がボロボロになっても探究するストイックなところ大好きだわ もう皆好きすぎてやばい 経緯とかふっとぶ そしてお姉ちゃんのターン!
そんな方法でレベルアップするとはw そしていよいよ千代女お姉ちゃんがエッチに参戦!
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