第二百五十七話 襲撃
巨大化した局長からの攻撃は質量的に、受け止められたことが理解できない威力だ。人よりもはるかに速く動く巨大な熊人。俺はそれに対抗するため迦具夜と融合し、それと同時に俺と迦具夜の専用装備も融合していく。
迦具夜の【国水】と俺の【焔将】が融合し、ルビー級装備【焔国】とでも呼ぶべき存在が再び生み出される。それは水色の綺麗な炎をまとう刀だった。巨大刀の圧倒的な質量とぶつかり合い止めて見せる。
しかし、一度受け止めたからといって、攻撃が止むわけではない。質量的にどうしてそんな速度で動けるのか理解できなかった。攻撃をよけようとするのだが、躱した場所に巨大刀が驚くほど速く向かってくる。
「六条! なぜ大人しくシルバーエリアに向かわなかった! お前にとっては何の関係もない戦いだ!」
近藤局長の声が大気を震わせた。普通の人間なら声だけで消し飛びそうだった。
「ちょっと大八洲国の神の座にも興味がわいたんですよ!」
魂を見られ、寿命がばれて遅滞戦闘で俺たちの行動が邪魔され続ければ、部が悪くなる。迦具夜はそのことがばれないように魂を見えにくくしているようだ。それでも、死霊系を極めた貴族が出てくると隠せない。
そのことは迦具夜から聞かされていた。一度ばれればその情報が瞬く間に広まってしまう。それだけは避けたかった。ただいくら貴族でも普段は人の魂のことなど気にもしていない。見たところで仕方がないからだ。
だから普通に戦う分にはごまかせば分からないはず。巨大刀が振り下ろされるたびに地面まで砕け、大気が分断され、真空ができる。これが貴族同士の戦い。俺がその勢いに圧倒されていると千代女様が声をかけてきた。
《祐太ちゃん、この男はまともに戦ってはダメ》
《でも逃げる方法がない!》
メト達と戦った時のように大八洲国に逃げれば勝ちというわけにはいかない。この人は地の果てまで追いかけてくる。
《お姉ちゃんがなんとかしてあげるから逃げるのよ》
《逃げられるんですか?》
《お姉ちゃんに任せなさい》
《じゃあお姉ちゃん! よろしくお願いします!》
《あ、でも、少しだけ待ってね。こいつから逃げるのは準備がいるの》
《なんとか頑張ります!》
そんなことを千代女様と話している途中だった。
「誰かと喋っているのか! 俺も混ぜろや!」
局長の巨大刀が光り、
【真光百斬撃!】
上下左右あらゆる方向から光をまとい強大な刀による攻撃が向かってくる。本当に100回攻撃してきている。俺もできるがサイズを考えろ。この迦具夜と融合した女性の体でも、この人の攻撃を一度でも食らえば大ダメージは避けられない。
俺は今の体で何ができるのかと迦具夜に問いかける。迦具夜は声をかけてこない。融合している瞬間は迦具夜が自分を完全に抑えないと俺を飲み込んでしまうからだ。
『融合しないでお前だけで戦った方が強いんじゃないのか?』
そう聞いたこともある。
『祐太ちゃん。炎の系統はね。とても攻撃に向いてるの。それに蜘蛛の系統も持ってるでしょ。それらを全て駆使すれば、祐太ちゃんと融合した方が私だけの時よりも強いわ』
本当だろうかと思ったが、魂が融合している迦具夜を疑うだけ無意味だ。水のように炎が揺らめき、炎のように水が燃え上がる。不思議な現象。だがそれが起きている。そして実体化していく。
【焔水共滅!】
水の中の分子が圧縮され、核から凄まじい熱量が放出される。局長からの全ての攻撃を受け止める。今の俺の【焔国】は触れただけでも、あらゆるものを蒸発させる熱量を秘めていた。同時に100撃、巨大刀と、【焔国】がぶつかり合う。
その余波で大地が砕け、轟音が空間を振動させる。これほどのぶつかり合いでも局長は頬に少しだけやけどをした。それだけだ。
「ほお、お前の攻撃の方が強かったか」
「え?」
「お前には傷一つないぞ。面白い。魂を融合させているのか? 何だか見えにくくなっているな。この姿で少しでも競り負けたのは久方ぶりだぞ」
巨大な熊人が凶悪に笑った。浅葱色の服に少し血がついていた。すでに誰かを殺してきたか?
「戦いたくないんですけど」
「何を言うのだ六条。月城迦具夜という極上の貴族女をたらしこんで、それだけの強さを手に入れたのだろうが。戦うことをどうして嫌がる。そのためにその処女だった女を抱いてやったのではないのか? あと10年で死ぬ女を満足させてやったのだろう!」
「それはそうなんですけどね」
全然違うのだが外からはそう見えるのか。ということはひょっとして今俺って大八洲国で死ぬほど評判悪いのでは? いや、この国の価値基準だとそれでもセーフか?
「ならば逃げるな! 逃げ腰が透けて見えるぞ!」
戦いとしては五分だ。迦具夜はやはりただものではない。こんな俺を融合しただけでここまで引き上げてる。まだまだできることがあるのだと伝わってくる。そもそもミカエラの能力を全く使ってない。
というかあいつの能力は高度すぎてそこまで手が回らない。そもそも俺と迦具夜が融合していられる時間は短い。融合が解けたところで迦具夜は戦えるが、そうなると俺というお荷物を抱えることになる。
それに迦具夜単独で局長が相手だと防戦一方になるらしい。戦いはする。負けはしない。でも、その間に俺という弱点を突かれれば、迦具夜は何としてでも俺を守ろうとする。やはり俺は六条屋敷から出るべきではなかった。
俺は引きこもっているのが最善の策のはずだった。
六条屋敷から出る前にエルフさんと南雲さんに漏らした弱音を思い出す。
『俺はここから出ない方がいいんじゃ……』
怖いから言ったわけじゃない。あまりにも今回の戦いのレベルと俺のレベルが違いすぎて、あらゆる場面でお荷物になりかねない。最初からわかってたからそう言った。
『それはどうかね』
エルフさんがそう答えた。南雲さんもコーヒーを飲みながら聞いてくれていた。
『どう考えても俺は弱すぎるでしょう。自分がこれから先も弱いなんて思ってない。でも現時点では今回の戦いについていけるような強さじゃないのは自覚してます』
『六条。確かに普通の戦争なら大将は後ろに控えてるもんだよ。でもことダンジョンにおいては、あんまりそれは推奨できないね。私らもダンジョンに一生懸命に入ってるからわかるんだけど、後ろに控えてる人間は不思議と強くならないんだよ。実際、12英傑で作戦立案だけして、強くなったなんて英傑はいないしね』
『それは俺も分かります。でも強さが違いすぎて……』
怖いから言ったわけじゃない。でもレベルが違いすぎて何もできない自分に少しは怯えてしまってたのかもしれない。そんな俺の弱音を南雲さんも聞いてくれた。そしてアドバイスもくれた。
『祐太。今回はかなり大きい戦いだ。レベルも当然アホほど高い。最低でもレベル350以上あるような奴らばっかだ。シルバー級でも最高に強いやつらかそれ以上。クエスト中はレベルが上がらないだろうしな。お前じゃついていけない戦いが全部だろうよ。ここで俺たちと見てるのが本当は正解なのかもしれない。でもそれじゃあ困る』
『そうだよ。六条。この私があんたに従ってやったんだ。ちょっとぐらいは自信を持ちな。私はね。あんたには何かあるって思ってる。そして【未来予知】でもあんたがここに引きこもってると今回の件は失敗する。そんな結果ばっかりが見えるんよ』
『どうしてそんな結果になるんですか?』
最弱の俺が出ないと失敗する。それこそ意味がわからない。俺はその時そう思った。誰だってそう思うはずだ。
『あんたはやっぱりルルティエラと何か特別な関係がある。そういうことなんだろうね』
『でも、俺は本当にルルティエラのことなんか全然知りませんよ』
ダンジョンそのものと言われるルルティエラ。そんなものと知り合いなら、俺の人生はもっと楽勝だっただろう。
『だろうね。ダンジョンから好かれてるやつで、ルルティエラを直接知っているなんてやつは誰もいないよ』
『祐太。ルルティエラに理屈は通用しない。意味不明なぐらい俺たちに執着する時は執着してくる。そこはもうそういうもんなんだと諦めるしかない』
『南雲さんもそうだったんですか?』
『ああ、俺もババアもそうだったよ。それで一度も戦いから逃げなかったから英傑なんだよ。お前もそこまで来てくれるんだろう。俺はお前を待ってるって言ったぞ』
南雲さんからそう言われたこともあり、俺は悩みに悩んだが六条屋敷から出ることを選択した。それが間違っていたとは思いたくない。
「逃げてない! 今、俺はここにいる!」
巨大な刀で何度も斬りつけてくる。受け止めるたびに手がしびれる。局長の巨大な姿が消えた。ビルのように巨大な熊人が己の速度だけで、今の性能の上がった俺の視界から消えた。不可能だ! なのにどうして消えた!?
あの巨大な姿がどこにもない。
見渡す限り荒野だった。
物音がしない。動いている気配もない。
ただ嫌になるほど静かで心が焦る。
どこにいる?
気配を探るのは【異界感知】これを使うのか? 迦具夜が頭に浮かべてくれる。使おうとして間に合わないのではと焦る。
《祐太ちゃん。後ろ! 剣で受けて!》
千代女様の【意思疎通】によって、千代女様の見ている世界が映し出される。異界に場所に消えた局長が、異界から俺の後ろを取り、剣で斬りつけようとしてくる。どういうスキルだよ!
「この程度か!」
慌てて受け止める。しかし態勢が悪い。【焔国】で受け止めたことで体が胴切りにはならずに済んだが、吹き飛ばされ、地面に何度もバウンドしながら飛ばされていく。まずい。局長はすぐに襲いかかってくるに違いない。
自分の体を操れ。今の計算能力ならできる。【念動力】で強引に態勢を立て直す。すぐに振り返りジャンプする。その場所に局長が、
【天乱一閃!】
巨大刀で振り下ろしてくる。地面が砕け散る。数キロに渡って地面が斬れた。衝撃波が襲ってくる。それを【焔国】で斬り裂き局長の首を狙った。何度もお世話になった人。だから迷う。
この人が気さくに教えてくれたからずいぶん助かった。
それでも自分が生き延びるためには殺さなきゃいけない。
【蜘蛛獄】
必ず斬り裂く。その思いを込めた必殺のスキル。ミカエラの能力は今の俺じゃ無理だ。アウラ、助けてくれ。
「しょうがない人間だね」
そう聞こえた気がした。局長の周囲に蜘蛛の糸が檻となって現れる。逃げ場所など与えない。空間を固定して異界にも逃さない。局長の体がサイコロみたいに斬り裂かれることを幻視する。
【金剛体!】
水色の鋭い蜘蛛の糸が、局長をサイコロサイズにまで斬り裂いていく。その巨大な体の半ばほどまで糸が食い込んだ。これ以上は斬れない。どういう体の構造だ? スキルの効果が切れて糸がなくなる。死んだかと思う。
しかし局長の瞳が光った。逆再生のように体が復活していく。【超速再生】だ。このレベルの人間になると確実に殺さないとすぐに復活してしまうんだ。
「今のはちょっとだけ死ぬかと思ったぞ。六条。お前には驚かされる」
ちょっと痛かったなという感じで局長は首を鳴らし、こちらを見下ろしてくる。俺はその姿に二歩、引いてしまった。
「どうした怯えたか?」
「そんなことはない。けど俺はあなたのことが結構好きだ。戦いたくない」
「それは嬉しいことを言う。綺麗な女子から好かれるのは悪くない」
「女?」
「そうだろう? ずいぶん可愛い女の姿だ」
迦具夜と融合すると俺の姿は女になる。だが鏡で見たわけではない。自分がどんな姿なのかなど知らなかった。
「そんなことは忘れてましたよ」
「上品に喋るなよ。やる気がなくなるだろう。敬語などいらん。俺はお前を殺しにきた敵だぞ?」
「やる気がなくなってくれる方が嬉しいです」
「諦めろ。それだけはない。俺はここに来たあの日から、目の前に立ちはだかるすべてを斬ると決めている!」
局長の姿がぶれた。すぐに間合いを詰めて前にいる。弁財天様はどうしているのかと見る。浅葱色の服を着た美男子に襲いかかられていた。弁財天様は魔法使いのようで、琵琶を弾く。
そうすると音が衝撃波となって、理解できないほどの威力で大地を削りながら相手に襲いかかっていた。そして周囲からはこちらの月城家の貴族と、他にも大きな気配がどんどんと近づいてくる。
月城家と近藤家、お互いの主人が戦っていることに気づき、どんどんとその窮地に駆けつけようと集まってきている。こんなところで貴族家同士で、本気の争いが始まりそうな気配だった。
「周りのことなど気にするな六条」
「こう見えて責任を感じてるんですよ」
「それでもお前はここに日本を引き入れた。日本もこちらもどうなるかも考えずにな」
「考えましたよ。その結果これが一番いいと判断した」
「本当か? 俺にはお前が本質的に利己的なのだと見えるぞ!」
局長から巨大刀で斬りつけてきた。受け止める。だが【焔国】をすり抜けて攻撃してきた。異界というものを使用したのだとわかった。俺も使えるのかと迦具夜に問いかけると使えるのだと教えてくれる。
ただしそれにかなりの計算能力が必要になるらしい。自分の頭を2つに分けた。もう一つの頭に異界処理を担当させた。俺の刀を局長の巨大刀がすり抜けた。だがそれよりも速く異界に干渉し、体に当たる直前に素手で受け止めた。
巨大刀が腕まで食い込んでくる。
「もうこれも理解したか……末恐ろしいクソガキだ。普通は人の魂などと融合しても、まともには動けぬものだぞ!」
誰か来る?
「勇様、お手伝いします!」
まずい。局長側の貴族が先に来てしまった。刀を持った女だった。局長をリスペクトしているのか浅葱色の服を着ている。
【鳳仙禍!】
刀を持っているくせに魔法使いタイプか。
よく見ると持っている武器も赤い杖だった。
「魔法使いならそんな服着るなよ。紛らわしいぞ!」
「勝手に勘違いしたんだろ!」
女の子が言ってきた。
「その姿は剣士に見えるだろ!」
「うるさい! 私が殺してやる!」
俺の足元に花が咲いた。それが体を包み込んで来ようとする。慌てて逃げるとその先に局長がいて、斬り下ろされた。受け止めるが、体が落ちた。花に包まれる。
【水球】
体を水で覆う。その水が沸騰してすぐに蒸発し、それでも、その間に花を斬り裂いて逃げた。
「そっちもいい女がいるんですね!」
「バカを言うな。こいつは女ではない。俺の目から見るとほぼ男だ。男より強い女など存在せん。戦場にいるものは全てほぼ男だ」
「そういうの今の時代は差別ですよ!」
「知るか。俺はそういう時代を生きたのさ!」
頭をさらに3つに分け2人からの攻撃を魔法と剣でなんとかしのぐ。戦えはする。迦具夜と融合すると戦闘にはついていけた。しかし勝つには足りない。時間も足りない。迦具夜と融合できる上限の10分がもうすぐ来てしまう。
それまでに逃げなきゃいけない。あれから千代女様の声が聞こえなかった。このまままともに戦い続けるのはまずい。時間切れでこっちが負ける。周囲から戦力が集まってきてくれてるのは感じるが、できれば乱戦にはなってほしくない。
きっとそうなれば誰かが死ぬ。八代さんと綾歌さんも近づいてきているのが分かる。貴族もいるのに死んでしまう。いい加減、逃げなきゃいけない。戦いの規模が大きくなるのに俺が戻ってしまう。
《祐太ちゃん。準備ができたわ》
《行けますか?》
《さっきからそのしゃべり方。お姉ちゃんやる気が出ません》
全く面倒な人だな。
《わかったよ。お姉ちゃん、行ける?》
《任せてお姉ちゃん頑張る!》
千代女様がそう返事をした。その瞬間。上空に巨大なエネルギーが集まっていくのを感じる。
「ふふ、勇ちゃん。間違って殺しちゃったらごめんなさい。攻撃したわけじゃないのに死んじゃっても先制攻撃じゃないわよね?」
「千代女の声……」
この世界でも千代女様は何だか有名人のようで、局長の手が止まった。
「暗殺しちゃうぞ!」
「桃音!」
あれほど攻勢をしかけてきていた局長が千代女様の声を聞いて焦ったように、そばにいた貴族の女を自分の腕に包んで抱きしめた。
「勇様何を!? 私は庇われるほど弱くはありませぬ!」
「黙っておれ!」
【忍法牙堅城!】
千代女様の声が戦場に響いた。天から誰のものなのか牙が落ちてくる。それが無数に連なり、あらゆる場所に突き刺さっていく。俺と局長の間にも、弁財天様の戦っている間にも、高速に恐ろしいほどのスピードで連なっていく。
次々に牙のようなものが、まるで城のように俺の周りを包み込んできた。
「祐太ちゃん、さっさと逃げましょう。こっちこっち」
「ちっ、暗殺ではないのか! 邪魔をするな千代女!」
局長が完全に怒って牙でできた巨大な壁を叩きつけてくる。頑丈で罅が入るが持ちこたえている。千代女様の声だけが響き、襖の戸がポツンと空間に現れる。それが両側に開いて、どこかにつながっているようだった。
「早く早く。そんなに持たないわよ」
牙のような何かで出来た城壁を叩き壊そうと局長の刀が振り下ろされる。頑丈ではあるが、長く持たないことが一目瞭然だった。迷ってはいられない。俺は弁財天様の体を掴んで、
「やん」
「変な声出さないでください。狐魅は?」
「大丈夫。あの子はいつも私のそばにいるから」
いつの間にか消えていた狐魅はついてきていると判断して開いた襖の中をくぐった。空間が歪む感覚。どこかに大きく移動したのだと分かった。
「ここは?」
周囲を見渡す。海の匂いがした。どこかの港湾都市のようだ。いろんな種族の人間が歩いているのが見えた。少なくとも戦いの気配はない。
「祐太ちゃん。さっさと気配を消す」
しかし千代女様から先にそう言われた。相変わらず声だけでその姿が見えない。
「はっと、うん」
はいと言いかけてうんと言い直す。どうしてそんなに姉扱いしてほしいのだろう。まあそれで気持ちよく動けるというのならそれに従うだけだ。言われるままに迦具夜との融合をといて【自然化】を唱えた。
「時間がかかっちゃってごめんなさいね。頑張ったのだけど普通に時空をつないだだけだと、あのレベルの貴族になると追いかけてくるのよ。足取りをつかめないように空間を歪ませるのが結構面倒なの」
「そうなんだ」
「助かったわ。千代女さん、あいつに追いかけられてちゃんと逃げれるなんてね。あなたは本当にこの世界を色々理解してるのね」
迦具夜が少しふらついた。どうもあの融合は迦具夜の方が消耗するようだった。
「大丈夫か?」
「大丈夫よ。でも心配してくれるのは嬉しいわ。ずっとしんどいふりをしてようかしら」
「それは困るが、本当にしんどいなら言ってくれ」
「……ちゃんと大丈夫。半年は持つわ」
「そうか。何とか神にならないとな」
迦具夜を心配するのと同時に、自分の魂もそれほど長持ちしないのを感じる。迦具夜と融合するうちにいろんなものの感じ取り方が、徐々に理解できるようになってくる。そうすると自分の寿命が長くないのもよくわかった。
俺は急がねばならないとどこまでも果てしなく続く海を見渡した。潮騒の音が耳に響いていた。





