第二百五十六話 出発
「さてと。千代女さん、いいかしら?」
迦具夜が声をかけた。
「ええ、いいわよ。ごめんなさい。ちょっと古い知り合いにあったから驚いちゃって。世間って狭いのね」
「ふふ、あなたダンジョンが繋がる前にここに来たことあるでしょ?」
「ええ、何度か」
「いくつ?」
「秘密」
「そうなの」
迦具夜と千代女様が見つめ合う。心臓に悪い気がするのはこのメンバーの中では俺だけだろう。迦具夜や弁財天様にしても、俺が一緒に行動するにはあまりにもレベルの違う人たち。恐竜の中に迷い込んだ哺乳類だな。
千代女様を見てると疑問が浮かぶ。ダンジョンは俺が知るずっと前から存在していた。今までのことからもそんな気はした。織田信長や近藤勇、そして白蓮様=安倍晴明ではないかとも思える。
どうしてかと言えば伊万里の専用武器の名前からだった。性別は違うが、それは神様にでもなればいくらでも変えられるだろう。ともかくブロンズエリアには神話に登場する世界や存在が多い。
少なくとも1000年以上、大八洲国の歴史を考えると3000年以上前からダンジョンはあったんだ。そしてそれまではダンジョンの中に入ることができる存在は限られていたようだ。それが、世界同時多発的にダンジョンが発生した。
そこから誰でもダンジョンの中に入れるようになった。
考えてみれば不思議なことだ。
「あの、迦具夜様。ダンジョンはどうしてこんなにたくさん現れたんですか?」
俺は迦具夜の部下の八代さんたちもいる人前なので敬語を使った。
「祐太ちゃん。私を様付けなんて今更よ」
迦具夜にじっと見られた。普通に呼べと言いたいようだ。確かに今更な気はする。夫ということになってしまっている現状で、さすがに様づけはおかしい。それに本人はよそよそしい喋り方も呼び方も望んでいないようだ。
「……迦具夜でいいんだな?」
「ええ、誰の前でもそう呼んでいいのよ。それで、先ほどの質問だけど、祐太ちゃんの世界とダンジョンが"隣り合っている"ことは、相当昔からのことみたい。その始まりがいつだったのかは昔のことすぎて私も知らない。ただ、その理由は100階層にある。とは言われてるわね」
「ブロンズエリアとかシルバーエリアに行ってみて思ったんだけど"階"って感じじゃないよな。100階層もそうなのか?」
迦具夜にタメ口を聞く俺のことが、八代さんと綾歌さんは面白くなさそうだ。弁財天様は逆に面白そうで、すっと後ろに移動してきた。そしてぎゅっと抱きしめられた。
「ちょっ、何ですか?」
「ふふ、君が相手だと迦具夜はそんな喋り方するんだ」
「悪い?」
迦具夜が言った。
「いいえ。本当に好きなのね」
ふわりといい匂いが鼻腔をくすぐる。弁財天様は何せ色気のある人で、ここ最近誰ともできていない俺にはとても刺激が強かった。
「喋ってるんだから邪魔しないで」
「いいじゃない。こうしてるだけよ」
「全く。祐太ちゃん、100階層にダンジョンというものの全てがある。そんな話はあるの。それがどういうものなのかは私も興味は持ってる。でも100階層がどういう形で存在しているのか翠聖ですら知らない。つまり大八洲国には知ってる人間はいないわ。ごめんなさいね。私が知ってるのはそれぐらいね」
「優しいんだ迦具夜」
「弁財天。あなたも恋すればこうなるわ」
「今更そんなこと教えてもらってもね。そうだ。私も君としようかな」
迦具夜がいろいろ教えてくれるので、ダンジョンのことを結構知れた気はする。それにしても弁財天様に完全に遊ばれてる。際どいところに手を入れようとしてくる。そうするとなぜか八代さんと綾歌さんに弁財天様は体を引っ張られた。
「あら」
「やめてください。迦具夜様の夫ですよ」
弁財天様が2人に怒られてる。夫ではないのだが、言えないから事実になってしまってる。
「祐太ちゃん、あの子が嫌なら嫌って言っていいのよ?」
迦具夜の方は怒った様子もなく優しく声をかけてくる。玄関ホールにいる俺は周囲を見渡す。ほとんどのものが方針を決めて六条屋敷から出発したようだった。そして俺たちも明確に行動を決める必要がある。
迦具夜に千代女様に弁財天様。これからこの3人に指示をして動く。米崎とかマークさんとか年上の人にも指示してきたのに、ひどく緊張した。
「弁財天様のことはあまり気にしてない」
「なんだ。つれないんだ」
「遊ばないでください。えっと、じゃあ俺たちも動こうと思う」
「あら、別に遊びじゃないのに」
「弁財天。ちゃんと聞いてあげて。私の大事な人よ」
「分かってる。ちょっと遊んだだけよ」
やっぱり遊びじゃないか。
「まず千、いや、お姉ちゃん」
「はい」
千代女様が素直に返事をしてくれた。
「お姉ちゃんは姿を消すこととか得意ですか?」
「祐太ちゃん、敬語禁止。あなたがリーダーなんだからシャキッとする」
「は、はい。得意なの?」
これでいいだろうか? なぜか弟風のしゃべり方になってしまった。
「もちろん。だってお姉ちゃん忍者だもの」
「じゃあ姿を隠して万が一俺と迦具夜がピンチになった時は助けてほしいんだ。神の座に参加する貴族たちに、日本側が先制攻撃をしたとは思われないようにうまく頼むよ」
「安心して。お姉ちゃんそういうの得意だから完璧にこなしてあげる」
そう言ったと思うと千代女様の姿がかすみのように消えていく。そして俺にはもうどこにいるのかわからなくなった。どこにいるんだろうと考えていたら、
「ここよ」
耳元に息が吹きかけられる。慌てて横を見るがやはりいない。そこにいると分かっているはずなのに見えない。居場所が分かっていても、俺では千代女様が隠れた姿を見ることはできないようだ。
「へえ、すごい。彼女スキルで助けてもらってないわね。自分でできるようになったんだ。そういうスキルの身につけ方は長生きの証拠ね」
迦具夜がそんなことを口にした。千代女様は謎の多い人だ。どういう人なのか興味がわく。だがもう周囲の人がどんどんと減ってきてる。みんな日本のことがあるから必死だ。俺も早く動こうと気持ちが焦る。
「お姉ちゃんはじゃあそれで頼む」
「了解。何かあればいつでも言ってね」
「あ、ありがとうございまみゅっ」
敬語は禁止だと思い言い直そうとしたら変な喋り方になった。全員に笑われた。俺は咳払いをしてもう一度話し始めた。
「じゃあ迦具夜と弁財天様は」
「八代。私たちももう行きましょう。迦具夜様には時間がないのよ」
俺が話す横で、綾歌さんは周囲の人数がどんどんと減っていくのを感じたのか、八代さんに小声で声をかけ連れて行こうとする。
「おい、一番弱い癖にリーダー」
八代さんからそう言われる。
「私はお前が嫌い。だから、その頭をしっかり使って迦具夜様を死なせないで」
「こら!」
「事実だもん」
「もう、あんたは自由なんだから。迦具夜様、私たちは私たちでなんとか頑張ってみます」
そう言って八代さんの口を押さえて、自分たちもこれから探索に出なければいけないと、綾歌さんは3人ほど離れて待っていた女の人達と合流した。そしてすぐに六条屋敷から出て行った。
「弁財天様、千代女様。今回は俺と迦具夜様の呼びかけに応じてくれたこと嬉しく思います。八代さんの言う通り一番弱いですが、えっと、よろしくお願いします」
六条屋敷の玄関ホールには誰もいなくなっていた。俺は改めてペコリと頭を下げた。
「どうするかは走りながら決めます。では行きましょう!」
六条屋敷には週1で帰ってくるつもりでいた。しかしその約束ももう守れない。このメンバーでも目指すべき場所は遠いのだ。週1なんかで帰って来れるわけがない。このまま誰にも会わないまま死ぬかもしれない。
半年の寿命のことメンバーの誰にも言ってない。それ以前に俺のせいでもし日本が消滅してたらみんなから恨まれるかもしれない。何よりも失敗すれば世紀の大悪人の誕生だ。だから日本を救うためなどとは言えない。
何しろその日本が消滅するきっかけを作ったかもしれないのだ。
迦具夜と弁財天様と千代女様はノリが良くて「「「おー」」」と声を上げてくれた。
俺たちは外に出た。そしてまず温泉街から出るために走り出した。どこへ向かっているかといえば、エルフさんと話し合って決めていた通り、精度が悪いながらもエルフさんの【未来予知】で見えた未来。
その未来で見えた場所に向かう。それは、
『【ユグドラシル】』
エルフさんはそう言った。俺たちはエルフさんが見えた未来で、一番【三種の神器】がある確率の高い場所に向かう。他の者たちはエルフさんが見えた未来で、示す場所を全てをしらみつぶしに探索していく方針だ。
「【ユグドラシル】か。北欧神話ですよね?」
できるだけ早く打ち解けたい思いもあって、俺は弁財天様に聞いた。ユグドラシル。北欧神話における人間の住むミズガルズや神の住むアースガルズなど9つの世界。それらが全て内包されているという世界樹のことである。
「ええ、そうよ。そっちでは大八洲国もユグドラシルも神話で伝わってるのよね」
「はい。大八洲国も神話上にある話ですね」
「神話か。大八洲国じゃほとんどの人間が国からは出ないの。だから私もあまり詳しい方ではないわ。ただユグドラシルはあなたたちの地方にとっては、"欧州"と言われるところから来る探索者を受け入れていたわね」
「祐太ちゃん、英傑カインが所属しているエリアよ」
弁財天様は柔らかな声で答えてくれた。それに続いて千代女様も姿を見せないまま教えてくれた。カインと聞くとレヴィアタンの【呪怨】を思い出す。レヴィアタンの【呪怨】。そのせいで寿命が半年になった。
「お姉ちゃん、カインは俺たちに手を出してくるかな?」
音速以上の速度で走っているが【機密保持】で声を伝えた。姿が見えなかったけど、向こうからつないでくれたからそれができた。千代女様は姿が見えないのに常に一緒にいるのは間違いなくて、なんだか奇妙だ。
クミカの時のような繋がりを感じない。それでいて【機密保持】だけが確かに繋がってる。俺がつないだ先にちゃんといるのか自信が持てずに手を伸ばす。柔らかい女性の感触がした。確かにいることは間違いない。
しかも触れるようだ。
「ご、ごめん。お姉ちゃん」
かなり柔らかい感触がしたので慌てて手を引いた。
「いいのよ。祐太ちゃんが触りたいならいくらでも触ってね。まあカインは難しいところね。私もブロンズエリアのルールはあまり詳しくないのよね。弁財天さんは分かる?」
「ユグドラシルの真性神がカインに許可を出せば、手を出す可能性はゼロではないわ。こればっかりは向こうの神の気分次第という感じ。ユグドラシルの中に限ってのことだけど、大八洲も今回のクエストに使わせてもらった関係上、文句は言いにくいかな」
弁財天様が教えてくれた。エルフさんの未来予知でもカイン介入の可能性は未知数だった。自分よりも上の神が予知に絡むと著しく精度が下がるらしい。それでも普段は真性神など何の関係もない相手だから問題はない。
しかし関係が出てくると途端に【未来予知】が役に立たなくなる辺り、俺のスキルが上の人間には役立たずになることと似ている。
『まあそれでも、あんたの向かう場所には何かがある。それは間違いないはずだよ』
エルフさんはそう言っていた。ブロンズエリアの広大さを思えば、何かがあるだけでも十分だった。そしてエルフさんの未来予知はまだ続いていた。
『不思議と予知に出ないはずの、私より上の悪神らしき淀んだ姿がチラチラ見えるね』
さらにそう口にしていたのだ。
「悪神と接触するのは大丈夫なんでしょうか?」
「悪神との接触が大丈夫なわけはないわね」
弁財天様が難しい顔をする。
「ですよね」
「神は世界の調和を考え行動し、悪神は世界の破壊を考え行動する。つまり悪神は世界を滅ぼしたいのよ」
「そんなことしたら自分たちも死なないんですか?」
「もちろん死ぬわよ。でも『そうであれ』とルルティエラ様が定めたと言われているわね。不思議よね"祐太君"」
「祐太君?」
「そ。みんな同じ呼び方だと混乱するでしょう。だから私は祐太君。いや?」
「嫌ではないけど」
ただ呼ばれた瞬間ゾクッとした。なんだかこの3人のお姉さん方と一緒にいると変な扉が開けそうだった。
「よかった。それと長い旅路になるわ。男の探索者は大抵、半年なんて間はエッチなことを我慢できないものよ。迦具夜はまだ処女っぽいし、手を出してないのでしょう?」
「それはまあ……」
「それなら祐太君のエッチな気分が溜まって我慢できなくなってくるでしょ。その時はいつでも私に言いなさいね。いくらでも祐太君の溜まってるものを出してあげるわ」
いきなり言われて顔が引きつった。摩莉佳さんもマークさんにかなり積極的だったようだが、大八洲国の女性というのはかなりアグレッシブなのだ。土岐に聞いた話では、
『家の嫁は、全員向こうから僕を口説いてきたよ。小さい男の子が大好きなんだって言ってたな』
そう言っていた。大八洲国の女性はこの男がいいと思うと、自重しないそうだ。さっさと声をかけてさっさと関係を持つ。そして相性がいいと判断すれば結婚を申し込んでくる。一夫多妻制であり、一妻多夫制でもある大八洲国。
この国では相手が結婚しているから声をかけないという論理はないらしい。
「あなたはやっぱりモテるのね」
迦具夜が声をかけてきてドキッとした。
「ああ……勘違いしないでくれ。俺はお前のことにどうしてもわだかまってる。だから半年間そういうことは我慢しようと思う」
「遠慮しなくていいのよ。私は最初の出会いが悪すぎたことを自覚してるもの。このまま私だけ何もなかったとしても気にはしないわ」
「確かに最悪だったけど」
だからって親友らしき相手に手を出されて自分が相手にされないというのは、最悪である。俺としてもそんなことは望んでない。だいたい半年ぐらいエッチなことは我慢してみせる。俺は下半身の落ち着きには自信があるのだ。
「でもね。何度やり直してもきっと同じ出会いになるわ。私はそうでないと男を好きになれないから」
「難儀な……」
「これが私なの。だからあなたと綺麗な体のまま出会えた」
「……」
そんなことを言われても応えられず、やはり黙った。何よりもこの3人と俺は対等ではない。ただ守られているだけの存在。それが女性関係にだけはやたらとちゃっかりしているのは嫌だ。
「ところで祐太ちゃん。少し遅すぎるわね」
「……やっぱり」
自分でも気になっていたのだが迦具夜に指摘された。今の話とは無関係だ。何かといえばレベル250の俺の移動速度である。あまりにも遅すぎる。遅いということは無駄に時間がかかる。そのことは今の状況で最悪だ。
だがこれでも力いっぱい走っていた。おかげで温泉街はもう出ていた。
「ごめん。正直継続して走るならこれが限界だ」
地上をジェット戦闘機以上のスピードで走っている。それでも遅い。シルバー級とルビー級最高位である。速度が違いすぎる。今でも息が切れそうになる手前だった。
「お姉ちゃんが背負う?」
千代女様が見えない場所から言ってきた。雷神様に最初遭遇した時、米俵のように千代女様に担がれたことを思い出す。あれは嫌だなと正直思った。
「千代女さん。女に背負われるなんて祐太ちゃんが可哀想だわ」
「そう? 私は結構体力があるから祐太ちゃんぐらいなら軽いものよ? 一緒に姿を隠してあげる」
「そういう問題ではないわ。祐太君は迦具夜の旦那様ですものね。ぞんざいには扱えないわ」
「じゃあずっとこのペースで行くの?」
千代女様が2人に聞いた。
「それも考え物よね。祐太ちゃんはどうしたい?」
迦具夜から聞かれた。
「選ぶ権利なんてないよ。千代女様の案でも何でもそこは受け入れるよ」
俺としては恥ずかしい移動方法でも、自分が遅いから悪いのだ。文句を言う気はなかった。
「ま。祐太君、賢い」
弁財天様は頭を撫でてきて、どうにも俺を子供扱いしてくる。
「弁財天、"あの子"は使えない?」
「そうね。祐太君。お姉さんの使いをしている子がいるからそれに乗りなさい。おいで狐魅」
弁財天様がそう口にした。そうすると地面からずずっと浮かび上がってくる存在があった。召喚したというよりはクミカのように影の中にいたように現れたのだ。かなり大きかった。
体長10メートルほどの白と赤が入り混じる獣毛の綺麗な狐だ。俺よりも強いと一目でわかった。
「弁財天様。御用でしょうか?」
「狐魅。祐太君を乗せてあげて」
「畏まりました」
一旦止まると美しくも大きな狐が屈んでどうぞと背中に乗りやすいようにしてくれた。自分で走りたいところだが、迷惑をかけるわけにもいかず俺はそれに乗った。背中の毛が気持ちいい。
「狐魅。衝撃は消せる?」
迦具夜が聞いていた。
「それはご自分でしていただかなければいけません」
「じゃあ私が【水精の守り】をかけるわね」
迦具夜もそう言うと、俺の前に一匹の小さな水の精霊らしき女の子が現れる。それが体の中に入り込んでくれた。それと同時に水の薄い膜が体の表面に張っているのを感じる。一番最初の頃に使ったバリア、アリストと似たようなものに見えた。
「これで衝撃が伝わってこないわ」
「なんか至れり尽くせりすぎる」
俺の探索史上初めてなぐらい甘やかされている。きっとストーンエリアでこんな状態だったら、レベルの上がりは最悪になっていた。
「それではお姉ちゃんが、祐太ちゃんの体力が続くように【気力付与】を与えてあげる」
そして千代女様は見えないのだけど何かを施してくれたのだろう。体の内側から気力が溢れてくるのを感じた。
「これって完全な紐では……」
年上のお姉さん三人に至れり尽くせり。ダンジョンに入ってこういう経験は初めてだったが、正直楽だ。ただ、慣れるとやばい。そう思うから自分でも何かできることはと考えて何もないことに絶望する。
落ち込む俺にかまっているわけにもいかず、狐魅が俺を乗せて飛び上がった。空を飛べるようだ。合わせて迦具夜と弁財天様が空を飛んだ。千代女様もそばを離れずにいるのだと思う。体がまるで流星のように、加速していく。
これがルビー級の移動速度。
俺は1つの光にでもなったようだった。早く移動しすぎて地上に見える景色が歪んで見えた。それでいて衝撃がない。不思議と周囲にも衝撃波は発生していないようだ。空間の中に自分の体を融け込ませる。そんな感覚がする。
そして、空間と一体になってその中をすり抜けていくようだ。これが上位の移動方法ということか? これができるように俺はならなきゃいけない。そして少しでもこの3人についていけるようになりたい。
お荷物なのは分かってる。でも少しでも荷物の重さが軽くなるように狐魅が行っている移動方法、そして【水精の守り】がどういうものなのかをその目で見てしっかり術式を理解していこうとする。
そんな俺を微笑ましそうに見ている3人。俺が夢中になって行っている時だった。
《よお、六条。お前はいつも極上のいい女を連れてるな。全く羨ましいことだ》
体に湧き上がる悪寒。圧倒的な存在感が急に現れた気がする。そして俺は横を向く。本当に巨大な存在がいた。大きな熊の異形、人の形をしている。まだ離れている1㎞はある。それが一気に俺との距離を詰めた。
ぐんぐん近づいてきて目の前にいる。
ビルのように高い超巨大熊が見えた。
「お前は俺の予想しないことをよくする。だが少々今回はやりすぎたな」
大八洲国探索局局長近藤勇に違いなかった。それが巨大な刀を抜いた。
「見逃せん!」
空を割るような巨大な刀が振り下ろされてくる。
この人こんなに大きかったか?
いやそうじゃない。こちらに近づくほどに巨大化してきている。
「迦具夜!」
「はい」
瞬間的に迦具夜が俺と融合する。迦具夜の専用装備【国水】と【焔将】が融合し、水色の炎をまとう刀となり、局長の巨大刀とぶつかり合った。大気が鳴動し、雲が裂け、地面がひび割れるほどの衝撃が響き渡った。





