第二百五十五話 臨時パーティー
こちらがこれだけの行動をとれば、向こうも動く。その最初の一撃が空から来た。いきなり光に包まれた空から一筋の矢が落雷のように落ちてきた。すんでのところで迦具夜が超高圧の水の壁を作り出し、防御する。
しかし攻撃された本人の俺は、何が起きたかわからなかった。
「え……?」
「祐太ちゃん大丈夫!? 腕がなくなってるわよ!」
腕がなくなり血がドバドバと流れ、地面にうずくまる。迦具夜が俺の部屋で、月城家が1つにまとまって日本側と共に動くことを報告してくれていた時のことだった。2人きりでちょうど気が抜けている瞬間だった。
ついさっきも人だらけのところにいてようやく気が抜けた。というのも人数が多くなればなるほど、簡単には動けない。全員の統率を取るため、自分では場違いだと思いつつも何度も会議に呼ばれた。そんな中での攻撃。
レベル250の俺が反応できるわけもない神速の矢。気づけば腕がなくなっているのだから笑えない。
「何が?」
それでもまだ理解できてなかった。
「よくも!」
何をされたのか、どこから攻撃が来たのかも俺は理解できなかったが、迦具夜は感じ取ったようで、水がまるで海のように集まってくるのを感じる。迦具夜が怒っている。怒りに任せて反撃しようとしている。
「待ってくれ迦具夜! 誰の攻撃だ!?」
慌てて俺が言う。
「誰かは知らないけど攻撃してきた空間の歪みから道筋は辿れる。大丈夫よ。私がちゃんと殺してあげる」
「だから誰が攻撃したか少しは分からないのか?」
織田や局長からなら、やり返す必要がある。
「多分地球からよ。あちらからこんな場所に攻撃できるとしたら英傑しかいないわ」
「なんだ。それならやり返さなくていい」
「どうして?」
「向こうは手を出す口実を探してるのかもしれない。本来、ここは八英傑が手を出してはいけない場所なんだろう。それなら、これ以上の攻撃はない。それよりも腕を治したい。迦具夜、やってくれるよな?」
「それはやるけど……人の旦那様の腕をいきなり落とすとかだいぶ教育が必要だと思うわ」
迦具夜はかなり頭に来ている。それでも俺の傷を見て治療を優先させた。腕が落ちても治すのは簡単だ。迦具夜がどこからともなく出した仙桃を食べて腕が生えてくる。このレベルになると完全回復薬ですら、普通にみんな所持してる。
心配して誰かが見に来る様子もなかった。
「祐太ちゃん。やられたらやり返す。それが大八洲国の流儀よ」
「迦具夜らしくないことを言う。お前は残酷なぐらい冷静だろ。少なくとも俺たちを殺した時はそうだった。考えたらわかることだ。八英傑が大八洲国に来る理由ができてしまったら、日本が協力してくれる意味がなくなる。だから挑発には乗らない。そうだろ?」
「……頭にくるわ。でも分かってる。どうしてかしら。妙に腹が立つの」
迦具夜は俺を傷つけられるのがよほど腹が立つようだ。この反応はミカエラと似ている気がした。やはり混じった影響があるのか。ミカエラみたいだったから思わず頭をなでると、気持ちよさそうに凭れかかってきた。
それにしても大方の予想通り戦いのレベルについていけていない。俺の防御など間に合うはずもなかった。迦具夜に守られただけである。この調子では知らないうちに自分が死んでるかもしれない。
「祐太ちゃん、怖かった?」
迦具夜が俺をもう一度心配そうに覗き込んでくる。俺をすぐに理解するところはクミカのようだ。迦具夜といると、どうしてもミカエラとクミカがだぶって見える。
「守られてばかりになる」
弱音を漏らすなと自分に腹が立つ。
「大丈夫。あなたがいないと私はきっと神にはなれない。だからあなたは十分に役立ってる」
「戦闘能力でかなり劣ってるのは覚悟してた。それでも歯がゆいんだ」
「祐太ちゃん。きっと私よりずっと強くなるわ。そうしたらあなたが私を守るの。今はその前借りをしているだけ」
迦具夜が俺の頭を抱きしめて引き寄せた。顔を上げると迦具夜の美しい顔が目の前にある。焦って唇も触れ合わせることなく離れた。2人で接触はせず、お互いの陣営が六条屋敷に完全に集結するまで部屋で待っていた。
半日ほどだろうか一緒にいた。
準備ができたという知らせが来て部屋から出た。
迦具夜に手を伸ばせばきっと関係を持つことになる。だがこの女に対するわだかまりは消えてなかった。本来は苛烈とも思えるほど残酷な女なのだ。
「お、出てきたか」
南雲さんもちょうど同じ方向に歩いていて横に並んだ。
「祐太。覚悟は決まってるな?」
「はい」
「全員もう集まってるらしい。行くぞ」
それは六条屋敷に新設した大講堂。その場所へと向かって歩く。普通に歩くと結構距離がある。家の中をこれだけ歩く。自分の中でこんな経験があるとは思わなかった。その道すがらにエルフさんもいて合流した。
「六条、南雲、月城様。どうせすぐに分かるだろうから言っておくよ」
「なんだ?」
エルフさんは険しい顔をし、南雲さんが聞いた。
「王が日本を消滅させると宣言したよ」
「「「……」」」
3人ともすぐには声を発しなかった。ただ俺は思った。自分ももしも敵側の立場なら同じ手を取るかもしれない。迦具夜もそう思っている。なんとなく繋がりでそれがわかる。そして南雲さんも予想はしていたようで動揺してはいなかった。
さらに詳しい内容を聞くとようやく南雲さんが言った。
「——ふ、まあ、そうなるわな」
最も効率的にダンジョンから四英傑を炙り出す方法。これを実行する段階でこの事態に対する【未来予知】はエルフさんの方にはあったと思う。
「本当にしますか?」
俺はそれでも人ならば迷うだろうと思って聞いた。
「八英傑はするさね。奴らはそれぐらいこの戦いに負けたくないと思っているよ」
「1000万人程度じゃなかったわね。日本って今1億人ぐらいいるの?」
迦具夜は微笑を浮かべながら尋ねた。大八洲国の貴族はレベル100以下の人間を対等な存在とは思っていない。自分たちより一つ下。家畜のような捉え方をしているらしい。家畜が1億頭死ぬ。
それぐらいの経験は大八洲国の過去を調べると結構普通にある。だから、さすがに再生させるのは大変だな。ぐらいに考えてそうだ。
「六条」
エルフさんは迦具夜のその反応は無視した。少なくともそんな考えができるほど日本の探索者は達観していない。それは八英傑側も同じで、かなり覚悟を決めないと宣言すらできないはず。あるいはブラフの可能性すらあると思えた。
「はい」
「ある程度予想していた範囲内だ。日本のことは私たちで対応する。そっちは心配せずにやってくれればいいよ。どうせ私らはここを動けないしね」
「じゃあ遠慮無く」
俺もあっさり返事した。自分のことで精一杯すぎる。ただでさえお荷物感が半端ないのだ。できることがあるとすれば、一刻も早く三種の神器を見つけること。
「それとお世話をかけます」
主にエルフさんのお世話になるので俺は言っておいた。
「まあブロンズエリアの情報は私も少ないからね。【未来予知】は確率的に高い場所を示すのがせいぜいだよ。しかも別の場所にあったとしても全く不思議はない。だから、そこに月城様のアイテムを加える」
エルフさんが言ってきた。探索を急ぐため大人数で軍隊のように動くわけではなく、細かくチームを分ける。そして俺のパーティーに最大戦力を集中させる。その上で、探索の時に利用するのがエルフさんの【未来予知】だ。
現時点でわかる三種の神器のおおよその位置、それはエルフさんが割り出してくれた。
ここにさらに迦具夜のルビー級のアイテムを加える。それはあまり表に出したくないらしく、後でパーティーメンバーにだけ見せると迦具夜は口にしていた。
「全く無駄に広い場所だよ」
長く廊下を歩き、目指す場所が見えてきた。
「全くです」
「お前の家だろうが」
「滅多にいませんもん」
「そうよね。祐太ちゃん」
臨時に造られた大講堂に、今回の参加メンバー全員が集結した。迦具夜が連れてきた月城家の約100名。今回の作戦に参加できるのは同盟貴族合わせて全員女だ。他にも探索者は下に男も含めて3000名ほどいるらしい。
だが、月城家に実力のある男はいないそうだ。ゴールド級もしくはそれに近い実力者は女しかいない。月城家には男の実力者は皆無。
『なんで?』
心底不思議でそれを知った時すぐに聞いた。
『……ふふ』
迦具夜は笑ってごまかしていた。俺もそれ以上は追求しなかったが、迦具夜の男に対する性格がもう少し丸ければ、倍以上の勢力にできたのではと思えた。
「こうして見ると壮観だね」
日本の探索者と合わせて1130名となり、大講堂は賑わっていた。俺はその中で一番高い場所に上がらせてもらい、四英傑と迦具夜、そして迦具夜側の女性貴族もう1名と同じ場所にいる。
あまりにも場違いすぎて胃が痛くなってきた。
「全員もう聞いているね」
エルフさんがまず最初に声を上げた。広い空間ではあるが、エルフさんの声は不思議と隅々まで行き渡るのが感じられた。まあそもそも全員耳がいいので、内緒話のように小声で喋っても聞こえるだろう。
「麒麟はあと2ヶ月で日本を丸ごと海に沈めようって気らしい。そんなことさすがにしないなんて慰めはなしだ。あの子なら本気でそれぐらいするだろうさ」
それを聞いても誰一人動揺した様子は見えなかった。この中にいるメンバーのほとんどがゴールド級以上である。ルビー級のものもかなり存在しており、一般市民が聞けば暴動ものの内容でも、しわぶきの音すら出さず聞いていた。
「みんな日本のことは心配だろうけどね。そちらのことは私たちに任しておいてくれればいい。必ず半年の間、守ってみせるよ」
その言葉がどこまで本当かは分からなかった。それができるならこんな行動はしなかったはず。それを分かった上でも誰も文句を言わない。エルフさんへの信用だけではない。やるしかないのだからやるのだ。
エルフさんの話が終わると迦具夜が演台に上がった。
「日本の皆様。今回は私の用事に付き合っていただき本当にありがとう。おかげで神になる道が一番見えているのは私となったわ。そして私はこのまま大八洲国の神へと至る。その報酬は確かなものよ。これに成功すればあなたたちはきっと世界の覇者となる。だからどうか今しばらくお力添えをよろしくお願いします」
迦具夜は多くを語らず、それだけ言うと深く礼をした。最初に月城家のものから、歓声が上がる。それが徐々に日本の探索者にも広がり、最終的に会場は探索者の凄まじいエネルギーに包まれた。
ここに大同盟が結成され、そしてそれは大八洲国の貴族にも周知される。これほど大規模に日本の探索者をブロンズエリアで動員すれば、隠すことなどできない。そして隠すことができないなら、やはり四英傑はおいそれとは動けない。
神という立場上、他国での行動は遠慮しないわけにはいかないそうだ。何よりも日本側への備えを残しておく必要がある。そのため四英傑は六条屋敷から動かないことになった。
南雲さんと一緒に探索できるかと思ったが、立場上そう簡単なことでもない。
「偉くなると動くの1つでも大変ということだ」
大集会を終えると本人がそう言っていた。俺は何人もの人から背中をバンバン叩かれた。俺の何十倍も力がありそうな人にバンバン背中を叩かれると非常に痛いのだが、憎しみがこもっているわけでもないようだ。ただ、
「「「「「何があっても、お前だけは死ぬな!」」」」」
そう言われることが多かった。日本と月城家の結びつきにおいて一番重要な存在で、俺が死ぬと日本と月城家の繋がりはかなり希薄になる。というより俺が死ぬと、日本が今回の件に介入する大義がなくなる。
そうなればいくらなんでも日本は神の座の争いに参加していることに待ったがかかる可能性が高いらしい。この大同盟の理由をより正当なものにするため、俺には生きていてもらわねば困る。だから俺もそして迦具夜も死んではいけない。
それでも外に出て戦う。どうもこれに参加した探索者全員から俺は迦具夜の夫になったと思われているらしい。実際結婚はしていないが、この状況で否定はできない。迦具夜の夫である俺が家にこもっているなどありえなかった。
それでも最弱の俺が死んだら困る。パーティーメンバーは厳選された。迦具夜側からは、迦具夜の下についている最高位貴族弁財天様という人がメンバーに入った。赤い着物に琵琶を持ち、ものすごく妖艶さのある人だ。
血のように赤い唇が印象的だ。
月城家と同盟関係がある中で、一番の実力者レベル913である。
『月城の軍事力の半分は迦具夜と弁財天の2人にある』
とすら言われているほどこの2人は強いらしい。そんな弁財天様が迦具夜に話しかけてきた。
「急に結婚はするし、寿命は半年になるし。最後の最後でずいぶんなわがままを言ってくれるじゃない」
弁財天様は迦具夜と親しく喋る。迦具夜と並ぶと弁財天様の方が少しお姉さんにも見えた。
「ごめんなさいね。あなたには迷惑かけてばかりだわ」
「今更ね。全くあんな誓約書を書かせるなんて、もう少し信用してほしかったわ。それだけはちょっと不満」
「仕方ないわ。日本側は全員あれにサインをしてもらったのだもの」
「まあどう考えても向こうの方が勢力が上だから仕方ないけど……その子ね?」
「ええ、私の誰よりも大事な人」
「惚気るわね。迦具夜が死んだら暇になると思ってたのに、一目惚れしたからって、ここまでして神を目指すとはね。私たち最後まで結婚しない約束だったでしょう」
「あなたと違って私は結婚自体はしたかったわよ」
「ねえ、あなただけちょっとズルくない?」
「怒ってる?」
「怒ってる。迦具夜。あなたが神の座につけば今度は私が先に死んじゃう。そうじゃなかったら、半年でお別れ。協力するしか選ぶ道がないもの」
月城家の話し合いには俺は参加していない。六条屋敷で答えを待っていて、月城家とその下についている貴族。全てがまとまったと翌日に迦具夜が俺のところに報告しに来て、それにこの弁財天様もついてきてくれた。
迦具夜はさらに八代さんと綾歌さんという人をお付きとして連れてきていた。ただその2人は俺に対して話しかけてこず、少なくとも迦具夜の部下は俺のことを心よく思っていないようだった。
「私たちは連れて行ってもらえないのですか?」
集会が終わっていよいよ探索に出ることになった。玄関ホールで待っていた綾歌さんが泣きそうな顔になって、迦具夜のそばに来た。迦具夜はその美しさゆえか同性への人気は高いらしい。
「ごめんなさいね。私と祐太ちゃんが一番狙われるのよ。あなたたち二人を守る暇はないの。申し訳ないのだけど、私のために別のエリアを探索してちょうだい」
「ですが今回の三種の神器の探索は、一度出発すれば、ただ迦具夜様の姿が見えなくなるだけじゃありません。探索の途中で死ぬかもしれないし、半年で死んじゃうかもしれない」
「死なないために行くのよ」
「どうしてこんな男のためにそこまでしてしまったのですか?」
「何度も説明したことよ。もし祐太ちゃんを守ってなかったとしても、織田信長に負けて10年で死んだだけよ。それが1000年生きられる可能性が出た」
「でも……」
綾歌さんが言いにくそうにしていると、
「この男よりは役に立ちます」
もう1人の部下、八代さんが言ってきた。JKっぽさのある人で顔立ちがかなり若い。この人は俺が一番気に入らないようだ。
「こら、八代!」
しかし、綾歌さんは言いすぎだと止めた。
「事実です。だってこいつ一番弱いじゃない」
かなり俺がお荷物に見えるようだった。
「そりゃそうだけどさ。仕方ないじゃない。迦具夜様が自分の寿命を犠牲にしてまで守ったって言うんだから」
これだけたくさんの人員が集まった中で、最弱の俺が迦具夜の横にいて、神の座の争いで中心メンバーとなっている。この人たちの気に食わない思いは半端なもんじゃない。
「八代。あなたなら絶対に私は神になれると思ってるでしょ?」
迦具夜が言う。
「も、もちろん、だいたい私まだ10年ぐらいしか一緒にいないんですよ。せめて私がお貴族様になるまであなたは生きてるはずでした」
「でも残りの10年でその姿は見られなかったかもしれない。分かるわね?」
「……」
迦具夜は八代さんの頬を慈しむように撫でた。
「こいつ嫌いです」
チラッと俺の顔を見た。何気に探索者を目指してから女から嫌いと言われたのは初めてだ。だから不快感を感じるより、とても新鮮な気持ちになった。
「私は彼のことが大好きなの。だから私はまだ死にたくない。八代。私が神に至り、あなたが貴族になれば500年また一緒に過ごしましょう。彼もずっとそばにいるけどそれだけ時間があれば、彼と楽しいこともきっとあるわ」
「……納得いきません」
八代さんは頬を膨らませた。迦具夜にその頬を抑えられて、遊ばれている。それにしても気になっていたことが1つ。綾歌さんという人なのだが、俺はこの人を直接見たことはない。
実を言えば翠聖様が教えてくれたシュミレーション結果で、本来ならば俺のパーティーメンバーを全員を殺す実行犯は八代さんで、その顔を忘れられない。最も本人も覚えていないことで恨む気などない。
それよりもやはり綾歌さんだ。この人と俺は会ったこともないのは確実だが、それなのに見覚えがあるのだ。というのもこの人……。
「もういいでしょ八代。迦具夜様、八代はこんなこと言ってるけど今回のクエストに全力出す気ですよ。家にあるアイテム系全部持ち出してますしね」
「綾歌っ」
「もちろん私もそうです。三種の神器私たちの方でも必ず見つけてみせます」
「よろしくね」
「……」
綾歌さんが俺の方に【意思疎通】を送ってきた。
《迦具夜様を裏切ったら許しません》
《そんなことしたらその瞬間俺が死んでるよ》
《そういうことではない》
《分かっている。裏切ったりしない》
綾歌さんはそれ以上は言ってこなかった。ただやはり俺は彼女の顔が気になりよく見てしまう。
《な、何よ?》
あまりにも気になって思わず一歩近づいた。
《いや、ものすごく見覚えのある顔だなって》
《それって天然男の中でもモテ男がよく使うという言葉? あ、あなたまさか!? だ、ダメよ。ダメだから。迦具夜様の旦那様になるのでしょう!? 私に一目惚れとかダメですから!》
いやそうではない。やはり顔を見れば見るほど見覚えがある。綾歌さんは忍者系のジョブを持っている人のようだ。髪型はパッツンと前髪を切り揃えている。"あの人"は完全におかっぱ頭だ。
綾歌さんは後ろに髪が伸びて1つにまとめている。
そこだけは違う。でもほとんど一緒だ。今回もう1人パーティーメンバーとして同行する人がいた。その相手はふっと目の前に急に現れてニコニコしてた。ものすごくニコニコしてる。
だけど、最初に言わなければいけないことを俺は理解していた。
「お、お姉ちゃん、お久しぶりです」
俺は頑張ってそのセリフを口にする。俺が行動を共にするのは3人で、迦具夜に弁財天様に、
「あら、ちゃんと言えて偉いわ。お姉ちゃんもあなたにまた会えて嬉しいわ」
そう言って千代女様から頭を撫でられた。何か精神的なものがガリガリと削られていく。この人と同じパーティーだ。南雲さんが六条屋敷から出ることが出来れば一緒に来るはずだったが、それはどうにもまずいらしい。
それならこの人が一番いいということになった。それが四英傑の総意であり、俺を一番死なせないという意味で、千代女様以上のメンバーはいないらしい。どうもこの人がいれば他の人員は邪魔と判断され日本側からは他にはいない。
それぐらい千代女様といのは強い人らしい。千代女様は俺の次に迦具夜ではなく、なぜか綾歌さんを見た。というのもこの二人、
「あら、お久しぶり綾歌ちゃん」
やはり知り合いか。この二人、すごく似てるのだ。血縁関係があるのではというぐらい顔が似ている。おまけに同じくノ一ということで、着ているものまで似ていた。正直俺は一瞬綾歌さんを千代女様かと思えたぐらいだった。
「ええ……って! ひい!」
千代女様の姿を見た瞬間、綾歌さんは二歩も三歩も後ろに下がった。
「綾歌ちゃんってば、里にいなくなったと思ったらこんなところにいたのね。元気にしてた? 急に里抜けするからお姉ちゃん心配してたのよ」
「千代女様……」
そして綾歌さんも俺の心の中の声と同じく、千代女様を様付けで呼ぶらしい。
「お姉ちゃん?」
「はい?」
「お姉ちゃん?」
「はい?」
「暗殺しちゃうぞ?」
「お、お姉ちゃん! お姉ちゃん! ごめんなさい殺さないで、というか、千代じゃないお姉ちゃん、どうして、なんでまだ生きて……私がいなくなった時って100歳超えてたような……」
「はい、そこまで。余計なこと言っちゃダメ。暗殺しちゃうぞ」
千代女様が綾歌さんの唇に人差し指を当てていた。どうやって当てたのか全く見えなかった。移動したのがわからず、気づいたら自然と綾歌さんの前にいた。速く動いたとか、【転移】したとかそういうわけでもない。
確かに普通に移動した。でもどういう風に移動したのかが理解できなかった。
「は、はい。あの、お久しぶりです」
気のせいか迦具夜と接するよりも千代女様の方が綾歌さんは緊張しているように見えた。
「そっかあなたもこっちに来てたのね」
「は、はは、えっと里のものたちは元気ですか? 私はその、50年ぐらい前にこっちに迷い込んで帰れなくなってしまい、別に里抜けしたわけじゃないんです。ごめんなさい。殺さないで」
「あら、ちょっと異界に迷い込んだぐらいで帰れなくなるなんて綾歌ちゃんは修行が足りないわね。よし、今回の件が終わって帰ってきたらお姉ちゃんが修行をつけてあげる」
「ええ……」
「それにしても、こんなところであなたに会うなんて油断は禁物ね。祐太ちゃん、みんなには内緒。いいわね?」
「お、おう。了解です。絶対誰にも言いません」
語尾に『暗殺しちゃうぞ』と聞こえた気がして俺はコクコク頷いた。
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