第二百五十三話 Sideエルフさん、桐山玲二
《万が一。いや、この可能性は意外と高いと思うんだけどね。中途半端に三種の神器が見つかって、半年の時間が過ぎてしまう。そしてあんたらが死ぬ。この場合はどうするんだい?》
私は月城様だけでもいいかと思ったが、六条も【意思疎通】の中に入れた。この話を持ってきたのは六条だ。何よりも月城様が六条にどこまで本気なのかも読みかねた。ぞんざいに扱い不快感を抱かれると、長く生きている女である。
何をするか分かったもんじゃない。
《その場合。私たちが死んだ後、1年だけ三種の神器を貸し出すわ。その間だけアイテムを自由に使っていい。もちろんそのことも正式に後で書面にしたためて契約しましょう》
《1年以上、借り受けることは無理かね?》
《私が死んでるから正直もうどうでもいいのだけどね。やめておいた方がいいわ。この神の座の争いは真性の神々によって不備がないか見守られている。私の死ぬ前の願いとして必ず1年だけは貸し出すことを許してもらうけど、それ以上は無理。無理だとどうなるかは分かるでしょ?》
《素戔嗚様が回収に来かねないね。分かった。あんたらが死んでも1年貸してくれるなら悪い話じゃない》
《でもこの内容を知っているのは私と祐太ちゃんとあなただけよ。どうせ私たちが死んでも貸し出されるからって、手を抜かれては困るわ》
その会話の間、六条は口を出してこなかった。自分のレベルを考えての遠慮は多分この男にもあるのだろう。表向きの会議が続く間も、裏では私と月城様で細々とした決め事をいくつか決めていく。六条は最後になって口を開いた。
《森神様》
《うん?》
さすがに一言ぐらいは自分の意見も言うのかと思った。
《もしも俺が死んだら、伊万里達に「ごめん」とだけ伝えておいてください》
思った以上に控えめなことを言ってきた。実際にやっていることほど、大胆な性格ではないようだ。そして自分が死ぬ覚悟はもうかなりできているようだった。この男も"誰かのため"に動いてるのだろうか?
人は自分のためだけには生きられない。誰かのために生きていると思う。そうするだけで不思議なほど力が出てくる。きっと人は寂しがり屋なのだろう。自分の行動が自分のためだけのものだと思いたくない。
そうさ。私は……。
《それだけかい?》
《ええ、以前だともっと色々心配することがあったんですけどね。みんなもう強いから、きっと俺がいなくても自分たちでやっていくと思います》
《そうかい……》
あの時の子供が化けた。あんなに頼りなく見えていたのにね。この年寄りよりも潔い。若いと無鉄砲になれていいね。私には無い、それもまた生きる力。そんなことを考えて会議が終わると、六条と月城様が会議室から出て行った。
「——正気ですか?」
時治が生真面目そうな顔で問い詰めてきた。六条と月城様は帰った。あちらの事情からして、1日でも早く動き出さなければいけない。大八洲国の争いに参加する。危険な賭けだ。ただ賭けてみる価値はある。
「正気だよ」
「あのような子供の言葉を信じてどうかされてる。そもそも月城を信用などできるでしょうか? 月城迦具夜の性格の悪さは八洲でもどれほど有名なことか。我々を騙している可能性も大いに考えられる。三種の神器を見つけるだけ見つけさせて、実際は貸し出さない可能性もあるのですよ」
「それはさすがに起きないように契約書を交わしたね」
話が終わった後、約束が履行されなければ困る。当然のことながらそんな事態を避けるために、月城迦具夜、六条祐太の両者に、こちらとの合意内容をまとめと契約書へのサインを求めた。それはだいたい以下のような内容だった。
1:月城迦具夜、六条祐太両名は、月城迦具夜が三種の神器を全て揃えることに成功した場合、三種の神器を日本側に3年間貸し出す。
2:三種の神器の全てを揃えることに失敗した場合でも、両名が死亡した後、1年間はすでに所有されている三種の神器は貸し出すものとする(卯都木文子以外には非公開内容)。
3:卯都木文子、南雲友禅、浮使主鈴、田中太郎を筆頭に日本の探索者は大八洲国桃源郷神の座の争いに参戦する。
4:日本の探索者は直接的な交戦行為は、大八洲国の規定に違反するためできうる限り避ける。これは日本の探索者が大八洲国、及びブロンズエリアで積極的に戦っても良いのは、ブロンズ級探索者までという暗黙の了解を守るためである。
5:4の契約内容は自身の身に危険が及ばない限り守るものとする。
そんな内容だった。これにサインできないようでは、この話は終わりだったが、向こうはあっさりとサインした。その様子を見る限り、どう考えてもこちら側を騙す意図があるようには見えなかった。
何よりも契約書の内容はどちらも対等の立場である。からくり族が主と交わすような契約とは違う。どちらにも命令権が委ねられたものではなく、私たちも自分たちの裁量で動くことは問題ないものだった。
「それでも大八洲の最高位貴族です。真性の神である月夜見様に頼み出れば、契約書の破棄が可能かもしれない。月城迦具夜は月夜見様の大のお気に入り。いや、お気に入りどころか愛されており、求婚を何度も断っていることでも有名だ。それが日本のたかだかシルバー級の探索者にたぶらかされたと知れば、怒り狂うやもしれません」
「あちらの神を怒らせるなんて想像もしたくないね」
それでも私は痛快で笑いが漏れるのを抑えられなかった。
「何を笑っておられるのです! 来るべき日に余計な敵を増やそうというのですか!」
会議室には他にも探索者がまだ10名ほどいた。南雲や鈴や田中、千代女はもういない。ダンジョンが現れてからこれほどの大きいクエストは初めてだ。何よりも豊國はまず間違いなく参加する。そうすれば昔のメンバーが揃い踏みだ。
こっちの戦争と違って私は意外とワクワクしていた。なのに会議室に残っている10人の探索者は、どれも今回の決定に納得していない顔をしている。
「まあそうカッカしなさんな。あんたはいい子だけど怒りっぽいのがダメだ。大丈夫だよ。私たちが束になってもあっちの真性の神が1人でも出てきたらそれでお手上げさ」
「それのどこが大丈夫なのですか!」
「どう考えても大丈夫だよ。だって万年も生きてる神にとって私たちはまだまだひよっ子。真性四柱の方々にとっては、たかが1000年かそこら誰が神になろうと知ったこっちゃないのさ。そんな方々が、ちょっと私たちが半年間うろついたぐらいで、そこまで目くじら立てることもあるまいよ。むしろ、これだけの援軍を呼び込んだ月城様の手腕をお褒めになるだろうさ」
「そんなお気楽な。もし怒ったらどうするのです」
「その時は翠聖様に泣きつくさ。私だってあの方には好かれてるよ。なんとか間に立ってくれるよう頼み込むさ」
六条のことをすごく"あの子"が気にしてた。あれ以来私のところに現れなくなったあの子。だからなのか翠聖様も気になる様子だった。何かやはり六条にはある。ならば思うままに行動させるのが一番面白いことになる。
「しかし!」
どうにも納得がいかないらしい。他の後ろのやつらも同じ顔だ。この子たちの本当の思いはわかる。一番のところは六条に嫉妬してるんだ。私に目をかけられ、南雲から好かれ、田中と鈴もなかなか好印象そうだった。
鈴はあー見えて田中が評価されるのが大好きである。いつも自分しか騒がれないことを結構気にしている。それが今をときめく六条が自分を無視して田中にあんなに喜んだ。鈴は余程嬉しかったのだろう。会議の後、もう一度左手で握手してた。
「六条が羨ましいかね?」
「そんなわけではありません。あくまでも私はこの戦争に勝つために!」
「時治。この戦争は負けるんだよ。勝つ目はないと私は見てる」
「……」
「それでも戦わないよりは戦った方がいい。そう私はあんたたちに言ったね」
会議室に残っていたのは私の信奉者と自分たちで公言している子たちばかり。私が老人ホームに通うものだから、この子達は年寄りの介護まで始めた。この子たちはどれも私がいなくなることを恐れてる。ずっと生きててほしい。
私もこの子たちが実の子より、よほど可愛い。できればこの子たちのそばにずっといてあげたい。でもそれは叶わない。今回の件でもやはり私の死ぬ運命にまでは影響しないようだった。どうあってもあの子は私を殺したいんだ。
「この命をかけてもいいのです。あなたが死なないなら私は死んでもいい」
時治が口にした。
「この戦争で一番死ぬ可能性が高いのは、実際のところ南雲じゃないんだよ。この私さ。それは何があっても変わらないと何度も話したね」
「……」
誰も何も言ってこなかった。この子たちはそれを恐れてこの戦争で私のそばから離れようとしない。
「どの未来でも私が死ぬんだ。そしてその後日本はすごく混乱する。南雲も鈴も私の代わりをできるタイプの人間じゃない。田中だってそうだ。人の前に立って指揮をとるタイプじゃないんだよ」
「それは……」
「正直言って私は死ぬのが怖いよ。そしてちょうど私が生きなきゃいけない理由がある。私が死ねば日本はガタガタさ。そして世界的にも死者が増える。自慢じゃないけど英傑の中に私ぐらい性格のいい子はいないからね」
実際のところどうだろう。麒麟に私の代わりができるだろうか。ロロンに私の代わりができるだろうか。多分どちらも無理だ。あの2人は頭は私以上にいいんだけど、自分の思いにとらわれる。あの二人はきっとこの世界が嫌いだ。
「六条はちょっと変わった子だね。成長してレベル1000を超えれば、あるいは私みたいなこともできるかもしれない。でもやっぱりまだ若い。そんな風にも思うんだよ。だから私は生き延びる必要がある。そこは理解してくれるね?」
「もちろんです。あなたさえ生きてくれるなら私は……」
時治が声も出さずに泣き出した。この子は涙もろいのだ。そうすると後ろの子達まで泣き出した。
「分かっているのです。死んでもすぐに生き返らせてしまう卯都木様がいる限り四英傑は死なない。それを分かっている麒麟は絶対に卯都木様から狙うと。だからそばを離れぬようにと……」
「そうだ。誰も六条のような小僧に文句を言わなかったのは、卯都木様の顔を立ててこそ」
「日本の探索者で卯都木様の世話にならなかったものなどいない。なのに卯都木様の森神としての役目が、他の英傑に奪われるなどということがあれば、たとえ南雲様達が全員生きておられても意味がない」
後ろの子たちが次々に発言した。賢い子たちだからだいたいは理解してる。そして私はそれに甘える。そうすることが一番この子たちの心を決めさせる。そう知ってるから。
「時治。聞き分けてくれるね?」
時治がむっつりとした顔で考え混んでいる。こういう顔をしていると昔が懐かしくなった。全員とんでもなく手のかかる問題児ばっかり。何の因果かその子達に頼られ、私はどんどん偉くなり、私への感謝の言葉を聞かない日はなくなった。
家族から、お爺さんと共にもうそろそろ死んでくれてもいいと思われていたババア。
『婆さん。やっぱりちょっとボケてきてるか?』
私の実の子供達。みんな勝手なこと言ってたね。
『まああの年だ。今まで元気だった方だよ』
私の実の子供だ。もうみんな還暦さ。
『ジジイと同じ老人ホームでいいか』
あの言葉にぎょっとしたね。自分の大事な運命が、完全に人によって決められるのかと思った。
『馬鹿。あそこは結構高いんだぞ』
『大体、お爺ちゃんをどうして高いところに入れたの? うちはお金ないわよ』
『婆さんがどうしてもって言うから』
『なんだかんだでお婆ちゃんはボケても元気な人だし、まだ何年生きるか分かったもんじゃないわ。無駄にお金を減らさないためにも一番安いところにしておきましょうよ』
『こことかどう?』
私に聞こえないとでも思ったのだろうか、それとも聞こえても構わないと思っていたのだろうか。私の運命を左右する相談はいつも聞こえるところで行われていた。お爺さんと2人で一生懸命貯めたお金は、できるだけ私たちのことに使わず、子供や孫のために残しておく。
そんな話だったね……。
今では日本中の老人ホームを買い占めることができるような莫大な資産がある。あの子たちは何も知らない。あの子達にとっては、お爺さんは老人ホームの中で死んで、ささやかな葬式を終えている。
私が作ったお爺さんの人形の骨を墓に入れて、誰でもない物質があの子達の手によってお寺の無縁仏の中に入った。あれは私があの子達に与えた最後のチャンスだった。お爺さんの墓をちゃんと立て、誰か一人でも毎月墓参りに行けば、少しは力を与えてやったのに……。
与えてやったか、私も偉そうになったね。
お爺さんの遺体がこの施設の一番いい部屋にずっといるなんて誰も思ってない。私に至っては適当な老人ホームに入っていると思ってる。今は、私の姿をしたからくり族が3交代で私のふりをしてくれる。
世界一の大富豪。
気づけばそれになっていた。なのに子供にも孫にもビタ一文やらないケチな婆さん。いや、そう言いたいところだがお爺さんの名誉のため、私の貯金に2億ほど振り込んである。今の私からしたら端金だ。
あの子たち少しぐらい喜んでくれるかね……。
「あの子もずいぶん変わったんだろうね」
六条を思い出す。最初に見た時の面影はなくなった。南雲もそうだった。それほどにダンジョンというのはレベルが上がるほどに人を変える。
「一つだけ尋ねさせてください」
時治が私をしっかりと見る。
「何だい?」
「少なくとも卯都木様は、六条に協力すれば死なないのですね?」
「そうだよ。私は死なないですむ」
ダメだった。六条に協力しても私の運命だけは変わらない。何よりも元々私はかなり大八洲国の情報を持っている。そうすると【未来予知】に変更は出るものの、そこまで大きい違いが出ない。
「「「「「ならば我等一同、従います!」」」」」
全員が頷いてくれた。結局私は助からない。だからと言ってこの子達も日本が助かれば六条祐太を責めることもないだろう。ここからの日々は目まぐるしかった。何しろ六条の命は半年しかない。ダンジョンに好かれていても死ぬ。
そういうものだということをよく知っている。だから全員に急ぐように言った。できれば六条は死なない方が日本の有利が増える。何よりも六条が死ねば南雲がどれほど怒るか分かったもんじゃない。
日本にはまだ悪神は生まれていない。南雲が恨みに染まればそうなりかねない。そうなれば南雲が死ぬよりもひどくなる。それだけは回避したかった。だから全員に急がせた。
《雷神が2つ返事でOKしました。横浜も全面的に協力すると》
《ダンジョン内に入っていた探索者との連絡ほぼ終わりました》
《中途半端な戦力で残るよりも、ルビー級は一人残らず協力するとのことです》
《そりゃそうだ。数人で残ったところでリンチされるだけだ》
《ブロンズ以上の探索者にはできるだけ大八洲国に入るよう通達を完了しました》
《海外に出ていた探索者。帰還しました》
《レベル100以下の探索者はどうしようもありません。一般市民と同じ扱いとします》
《大規模な動きがあると八英傑側が察知したようです》
《全員急げ。交戦は禁止されている》
《この行動に参加する全ての探索者に誓約書を作成》
《総勢1023名。六条屋敷に入りました》
それから3日ほどのことだった。日本全体の探索者に対する通達が終わり、日本人は総理大臣含め、レベル100以下のものには一切何の情報ももたらされることなく、日本から探索者の姿は忽然と消えた。
Side桐山玲二
『この度の探索者失踪事件に対し、日本政府は緊急声明を発表し、八英傑側に探索者がいなくなったことを報告しに行くものと思われます。一刻も早い戦争の終結に——』
邪魔な探索者という存在が日本からいなくなった。嫁も娘も誰もいなくなった家の中、俺は酒浸りの毎日になっていた。お金だけは置いて行ってくれたから何の心配もない。毎日出前を頼んでる。妻がいた頃よりもすぐに太りそうだ。
だが問題はない。すぐにみんな帰ってくる。テレビでも探索者がいなくなったことで、戦争が終わるとみんな喜んでる。
「これでやっと日常に戻れるな」
あの鬱陶しい探索者という存在がついに日本から消えた。こんな日が訪れるとは本当に幸せだ。かつて日本が武器を捨てた日もきっとみんなこんな気分だったのだろう。世界に先駆けて日本が探索者を捨てたのだ。
何と喜ばしいことか。嫁と娘たちももうすぐ帰ってくるんだろう。ダンジョンというものが夢のようで、探索者がいなくなったことで、日本における全ての問題が解決した。テレビではそう報道されていた。
「あの小僧。ざまあみろ」
俺から全てを奪った六条祐太という存在。テレビでは探索者という存在は否定され、そもそも日本が過剰に戦力を有していたせいで、戦争は起きたのだとコメンテーターが次々に発言していた。酒を飲みながら全くその通りだと頷いた。
一部では探索者が日本を見捨てたのではないかと、心配する声も上がっている。そんな見当外れの心配をするバカもまだいるのだなと笑った。しかし娘たちからネットぐらい見ろと言われていたから少しだけ見ていた。
【緊急事態】日本国内の中、高レベル探索者行方不明の件
名無し【やべえよ。マスコミが戦争がこれでなくなるとかお花畑みたいなこと言ってる】
名無し【武器の放棄こそが、戦争根絶への近道らしいぞ。お前ら良かったな】
名無し【今は外国の探索者も気味悪がって入ってこないけど、これ本当に続いたらやばいよな?】
名無し【やばいなんてもんじゃない。この国が超嫌いなあの国とかこの国とかマジで何するかわからないぞ】
名無し【俺の知り合いのレベル100の人がさ。もうすぐレベル100を超えられるって喜んでたんだよ。でもそれから連絡がないんだ】
名無し【そいつなんか言ってなかったか?】
名無し【何も言ってなかった。でもレベル100超えたら、日本で起きてる戦争に参加するって言ってたな】
名無し【どういうことだ? ダンジョンの中で死んだのか?】
名無し【レベル100以上になった探索者が誰一人ダンジョンから出てこないぞ。まさかみんな揃ってビビってるのか?】
名無し【でも他の国の探索者はそんなことないぞ。日本だけがビビるなんてことあるか? そもそもあいつら超好戦的だぞ。それなのに全員が急にビビり出すのか?】
名無し【レベル100以下は普通にいるよな?】
名無し【ああ、ついこの間、六条を見かけてサインをもらったとか言ってたやつもいたぞ】
名無し【死ね】
名無し【死ね】
名無し【死ね】
名無し【死ね】
名無し【死ね】
名無し【死ね】
名無し【死ね】
名無し【死ね】
名無し【死ね】
名無し【死ね】
名無し【急に何!?】
名無し【おい、その名前出すなって。今をときめく六条様はガチファンがミーハーなこと言われると発狂するから】
名無し【でも結局何なんだろうな】
名無し【誰にもわからん。この状態がもう少し続いたら間違いなくやばいことになる】
名無し【早く帰ってきてくれよ】
名無し【お前らバカか? ようやく化け物みたいな力を手に入れた探索者が消えてくれたんだぞ。戻ってきてもらったらむしろ困るだろう】
俺はそう書き込んだ。化け物みたいな力を持って好きに暴れ回る探索者がいなくなる。それがどれだけ清々することか。だいたい探索者が戦争を呼び込んでいるとマスコミたちは言ってるじゃないか。それを平和主義だ平和ボケだの何だのと戦争を知らない人間の言うことじゃない。
名無し【森神様って何で言論統制やめたんだろうな。自分たちにとっては有利だったのに】
名無し【知らん。でも探索者なら何をしてもいいっていうのは、徐々になくしていこうとしてるんじゃないのか?】
名無し【森神信者は、森神が何してもありがたがるよな】
名無し【マジで宗教みたいだからやめてくれ】
名無し【12神教信者キモい】
だが俺の書き込みを無視された。それがなんだか悔しくて、相手にされるまで書き込もうとした時だった。
名無し【おいテレビ見ろ! 麒麟が出てるぞ!】
そう聞いて俺も慌ててテレビの方に集中した。そうすると本当にテレビに神獣と呼ばれる存在が現れる。その姿はどこか龍を思わせ、虫や植物を踏むことさえもしないという生物。
その性格は極めて温厚で、戦争などという言葉とは最も離れた存在のはずだった。あっけに取られるほどの神々しい姿。これほどまでに神秘的な生物が悪いことを言うわけがないと信じた。





