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第二百四十一話 半年

 同時に、


《祐太ちゃん。これ以上は無理よ。これ以上、融合していたらあなたじゃなくなるわ》


 迦具夜がそう言葉にして【意思疎通】を送ってくる。迦具夜とのやり取りだと凄まじく高速になる。この融合はまだ数秒だけは行ける。そんな感覚はあるが、もうほとんど時間はないようだった。


 目の前にある【呪怨】


 目の前に【呪怨】がいるのだ。迦具夜との融合が終われば本当に終わりだ。それまでに大八洲国に入るか、もしくは【明日の手紙】を使うしかない。刹那の間にたった10文字をかきあげる。間に合うか? 考えてる暇はない。


 マジックバッグから【明日の手紙】を取り出そうとして……。


 うん?


 しかしそうしようとした瞬間、手が止まった。


 何か忘れてる気がしたのだ。


 何か大事なことを忘れてる。


 本当に【明日の手紙】で大丈夫か? どうしてかそう思った。そして、思った瞬間に全ての状況を突っ込んで、迦具夜との融合で性能が飛躍的に向上した頭で、シュミレーションを開始する。翠聖様がかつてしていた行為である。


 今なら真似はできる。当然、翠聖様がやっていたほどの性能はない。大雑把な計算。それでも今の俺だと高性能な量子コンピューター級の性能を発揮することができた。


 俺が今この場で【明日の手紙】を使えばどうなる?


【了。シュミレーション開始】


 それは自分の意志とは隔離した計算でのみ成り立つ人格。それが様々な要因を総合的に判断し、まるで巨大な脳みそを持ったコンピューターのように、俺に答えを示すのだ。そうしている間も【呪怨】が迫ってくる。


 青白く不気味に光る肉塊が高速で動く。


 俺は躱して大八洲国に入れないかと試みるが、その瞬間、大八洲国へと続く階段に【呪怨】の肉の塊が広がった。気味の悪いべっとりとした肉の塊が、大八洲国への階段の入り口に蓋をしてしまう。


 その肉の塊が脈打ち青白い光を放って目が現れる。ギョロッとこちらを見た。この状態でも吐きそうになるほど気分が悪くなる。《死》が目の前にいる。どう見ても【呪怨】を避けて通る隙間などなかった。


 そうしてる間にシュミレーションが終わり、その結果、


【明日の手紙を使えば99%失敗する】


 と出てきた。なぜかと思って理由は確かめる。そうすると一番大きい原因が分かった。迦具夜に【明日の手紙】が通用しなかった。それと同じ理由だ。あの時どうして失敗したか。


 それは迦具夜が何らかの方法で自分の記憶をガードしてしまったからだ。シュミレーションでは死神もそれが使えると仮定されていた。


 俺はボケてる……。


 シュミレーションしてなかったらやばかった。レベル1000を超えた者たちは記憶をそのまま消し去った1日前に持って行ってしまえる。そのリスクはかなりある。その場合、もし使えば【明日の手紙】は逆効果になる。


 俺が時間を操作したことが死神にバレる。以前も1日だけ消し去っているのだ。しかも、この短期間に二度目となれば死神はもう対応が分かっている。時間が消えた瞬間に、今回よりもむしろ効率よく俺のところに再びやってくる。


 それでいて俺は手紙を読んでも10文字分の情報しか知ることができない。状況を理解するのに時間がかかる。そうしてる間に死神に問答無用で殺されてしまう。もっと悪い状況だと時間操作を目当てに8英傑側に利用される。


《これは使えない……》


 チートだと思った【明日の手紙】もレベル1000を超えたものが相手では、ほとんど意味がない。【明日の手紙】は相手が時間が消え去ることに対応できない場合のみ有効なんだ。


 俺は【明日の手紙】が使えないことに絶望する。心が諦めそうになりながらも、迦具夜に縋ればなんとかなるかもと思ってしまう。それを迦具夜が蔑んで見てくる。こいつは俺のそういう弱い部分は嫌いらしい。


 格好良くてタフな俺が見たいのだ。さっきは、あまりにも不利だと思って力を貸してくれた。しかし、ここまで手を貸してやったのに何もできないのなら、好きでも何でもなくなる。五郎左と同じようなものだ。


 この女は無能をゴミ以下に扱う。


《祐太様。このような女に頼ってはなりません。この女には人の愛が理解できないのです。それよりも、あの階段にさえ入ればいいのです。その間だけは私がなんとか》

《クミカ。言っただろう。無駄死にになる可能性が高いと。それに死なれては困る》


【呪怨】は大八洲国への階段の前で通せんぼしている。通れる隙間などない。おそらくレヴィアタンの知能が残ってるんだ。その上で俺を殺すことだけを願わせている。【呪怨】。命に対する冒涜的な呪い。


 レヴィアタンの命の全てが俺を殺すことだけに消費されている。時間が経って俺と迦具夜の融合が解ければそれで終わり。レヴィアタンの機動力がある【呪怨】に一瞬で捕まる。融合ももうそれほど長くは持たない。


 迦具夜の全てが信用できない。頼ってはいけない相手。自分自身で何とかする。今までもそうしてきた。急にその条件が変わったわけじゃない。美鈴は家族がどうなったか気になって仕方がないのに我慢してくれてる。


 他のみんなも声を出したいのを我慢していた。今は俺の邪魔をしてはいけないと思ってくれてる。それは俺なら何とかできると思ってくれてるんだ。


 考えろ。


 完全に可能性はゼロじゃないはずだ。


 いやこれはクエストじゃないから0である場合もあるのか?


 弱気になるな。


 それでも考えろ。


 絶対に俺を逃さないためだろう。【呪怨】は階段の入り口で不気味に青白く光っている。どんな通り方をしても、触ってしまうことは避けられない。【転移】も考えたが米崎の言うように、俺の【転移】に同調している。


 それならば入れないはずの大八洲国に、俺が【呪怨】を招き入れてしまうことになりかねない。【呪怨】が大八洲国の前で動かずにいる。この間が俺にとっての唯一の望みだ。


 笑えるな。


 結局、迦具夜に頼ってる。


 融合が解けたら俺じゃ、レヴィアタンとのレベル差があまりにも大きい。多分【呪怨】を見てるだけでも死んでしまう。それぐらい強烈な呪いの塊。そばに存在するだけで頭がガンガンする。


 考えろ。


 今のこの頭は相当性能がいいぞ。


 あらゆる可能性を考えられるはずだ。


 自分の過去に何か手がかりはないかと記憶を全て探る。


 ダンジョンに入って南雲さんに【天変の指輪】をもらった。


 そうか別人に変装する。これならどうだ?


 すぐにシュミレーションにかけた。


 しかし今度は100%失敗すると出てきた。


 何で?


 今までこの指輪がどんな時も助けてくれた。


 サファイア級のアイテムだからレベル1000以上でも効果があるんじゃないのか?


 理由を確認した。


 そうすると【呪怨】は常に俺だけを見ている。その執着から逃れられない。たとえ姿を変えても、その瞬間を見ている。たとえどれだけ離れても見ている。だから【天変の指輪】で姿を変えてもすぐ俺に気付く。


 無理だ……。


 これは無理だ……。


 死神が俺を無理に追いかけようとしなかった理由がわかる。確実にこれで殺せるからだ。心が絶望してくる。それでも他の可能性はと確認していき、再び1つだけ引っかかった。


 それは、


【心換帳】


 レベル上限はないという相手の心を書き換えるクミカ専用アイテム。だが使用条件が驚くほど厳しい。クミカは【心換帳】を使用している間、相手に触り続けなければいけない。その条件をクリアできる気がしない。


 何しろクミカは【呪怨】に触っただけで死ぬ。それどころか、見ているだけでも死にかねない。そんな状況でどうやって【心換帳】を使う。


《クミカ。俺が【呪怨】に触ることで【心換帳】を使うことができないか?》


 そう聞いてみた。今の迦具夜と融合している状態なら、殺されるまでに数秒は持ちこたえられるのではと思えた。


《おそらく無理です。私が祐太様と繋がっているのは心のみです。体のつながりはありません。それでは【心換帳】は完全に発動しません。弱い相手ならば、それでもいけるかもしれませんが、これほどの呪い相手になれば私が触り続けてきちんと書き込まねば、【心換帳】の効果が発揮されることはないでしょう》


 そして自分が触り続けて【心換帳】に書き込む。それが不可能なのはクミカも分かっているようで、やろうとは言わなかった。しかし、どうしてか俺がそう考えた瞬間、クミカと常に心が繋がっていた感覚が消えた。


《クミカ……どうしたんだ?》


 俺が戸惑った。


《迦具夜。もうそれしかないようです》


 クミカが俺ではなく迦具夜に言った。それが今の状態の俺にはわかった。


《なるほど。私も手詰まりだと思っていたけど、それならいけそうね。でも、いいの?》


 どうしてか迦具夜も今まで抑えていた意識を表に出して、クミカと話し始めた。たったそれだけのことで俺の意識が朦朧としてくる。俺だとかなり抑えてもらわないと迦具夜の魂にすぐに取り込まれていきそうになる。


 自分の考えがどんどんと消えていくのを感じる。それなのに迦具夜はクミカと会話を続けた。


《構いません。あなたは歪んでる。このままでは祐太様の毒になります。でもあなたは強い。ですからこの方がいい》

《……それが愛?》

《そうです。いえ、私も理解しているかどうかなど分かりませんが、私のこの純粋に祐太様を思う心こそ愛だと……私はそう信じています》

《やっぱり私には理解できない感覚だったのね》


 そして俺と迦具夜の融合が解除された。そうすると急に鎧も何も着ずに外に出たような感覚にとらわれる。どれだけ強い鎧に守られていたのかわかる。俺がレベル250に戻った。


 それを確認した【呪怨】がそれならばもう待ち伏せする必要などないと、目の前に向かってきた。


「ダメ」


 しかし、迦具夜がその前に立ち【呪怨】を取り囲むように水の防御壁を展開する。その水の防御壁が【呪怨】によってドロドロに腐って濁っていく。吐きそうなほどの腐臭を放った。迦具夜の水の防御壁がどんどん腐っていく。


 それに合わせて水の防御壁を迦具夜が無数に展開していく。そうすると、この間に俺が大八洲国への階段を降りてしまうと心配したのか、【呪怨】が再び大八洲国への階段に戻ってしまった。


「何のつもりだ迦具夜?」


 まだしばらくは行けるはずだった。融合を解除されてこんな場所で裏切るのかと睨んだ。それならどうして最初から助けた。それ以前に今どうして水の防御壁で助けたのか。何かクミカと話したのか。嫌な予感がする。


 それを考えた瞬間にクミカが実行してしまうと思って考えなかったこと。それが一つだけある。しかし、そんなことを思った時点でもうすでに考えてしまっていた。


「祐太様。どうか影の中に」


 クミカが影から表に出てきた。俺はレベル250に戻ったことで【呪怨】が傍にいるだけで、その呪いで体の自由がきかず、そのままクミカの影の中に引っ張り込まれた。そうしてから再びクミカが【意思疎通】をつなげてきた。


 それで全て理解した。クミカが何をしようとしてるのか。やはり俺が一瞬だけ考えたこと。やめてくれ。それは望んでない。


「クミカ。ダメだ」

「六条君。ダメだけではクミカ君は止まらないよ。僕の頭で考えてみてもね。それしかなかった」


 米崎が言ってきた。クミカは米崎に自分がしようとしていることがうまくいくかどうか聞いたようだ。クミカと再び繋がったことですぐにそのことが分かった。米崎は『まず間違いなくうまくいくよ』と返事をした。目の前で、


「祐太様。さよならではありません。でも、私はほとんど影に隠れて見えなくなる。だから、どうかお健やかに。少しの間でしたがクミカはとても幸せでした」


 クミカが消えていく、いなくなっていく。それはまるで迦具夜へと吸収されていくようだった。クミカは迦具夜の一部になっていく。俺の時とは違う。それは完全に自分をなくしていく行為。


「ああ……なぜ……」


 早く強くなりたかった。


 弱いからこんなこと何度も何度も受け入れなければいけなくなる。


 俺はどうしてまだ弱いまま……。


 そして、


「ふふん、なるほど。これが愛というものなのね。甘美だわ。いいでしょう。対価は受け取ったわ。本当にいいのね?」


 迦具夜がその状態でも意識を保っているのかクミカに言う。その【意思疎通】をあえて迦具夜は俺にも教えてくれているようだった。


《構いません。私もミカエラも本来は、もう死んでいたのです。祐太様のおかげで生きているだけなのです。迦具夜、約束は守ってくださいまし》


 やめろと叫びたいのに声が出ない。


 俺はいつもどこか冷静で、こうしなければみんな死ぬと理解している。


 それなのに偽善で叫ぶのかと思うと叫べなかった。


《分かってるわ。私はあなたを裏切れない。きっとそうなる》


 そして体が再構成されていく。何をしているのか分かった。俺と同じだ。迦具夜とクミカの魂が融合していってるのだ。俺の時のように俺を優先してない。迦具夜の体が表に出てきて、クミカであった部分がどこにも見えなかった。


《消えるわけじゃないわ。私は残るから》

《そうです祐太様。永遠にあなたのおそばに》

《《だから、あまり悲しまないで(くださいまし)、心配で仕方なくなってしま(います)う》》


 涙がこぼれる。不思議とミカエラとクリスティーナ、2人の声が聞こえた気がする。クミカと迦具夜が融合した。主人格を迦具夜にして、そうするとレベルが圧倒的に高い迦具夜にクミカは完全に取り込まれてしまう。


 俺の時は迦具夜が主人格にならないように気をつけていた。迦具夜が気をつけなければ簡単にクミカの意識が失われる。一度完全に混じり合えば、戻らなくなるというのにどんどん混じっていく。それが繋がり続けるから理解できた。


 完全に迦具夜の体が安定する。


 水の羽衣のような服を着て、妖精のような羽を持つ綺麗で清らかな女の人が一人で立っていた。


「……約束は守らなきゃね」


 "迦具夜の第三の瞳が開く"


【呪怨】を捕らえた。完全に大八洲国への入り口を塞いでいた肉の塊。呪いが縮小化していくのが分かる。さらに迦具夜が【呪怨】に触れた。その瞬間迦具夜の手が腐っていく。左手がどんどん腐って使い物にならなっていく。


 俺は意識を保っているのがやっとで、地面に這いつくばっていた。


 それでも今度は迦具夜と心が繋がったままだからわかる。


 迦具夜が【心換帳】を宙に浮かべて腐っていない方の右手で書き込んでいく。


【六条祐太を呪わない】


 迦具夜は自分の【心換帳】にそう書き込んだ。レベル969。やはり使い手によっても威力は変わる。【心換帳】がレヴィアタンに心のあり方を強制した。


「呪いのかたまりである【呪怨】。それが呪うのをやめればどうなるか?」


 迦具夜が嘲笑した。


「あ、あ……カイン様、どうして……」


 かつてレヴィアタンだった肉の塊が消えていく。最後の言葉は俺への呪いではなくカインへの呪いのようにも聞こえた。死ぬほど気分が悪かった俺は、徐々に頭がはっきりしてくる。悔しい気持ちだけが湧き上がってくる。


「何もまたできなかった」

「そうかしら? 少なくとも祐太ちゃんの下地をもとにクミカは唯一の解決方法を見つけたのよ」

「クミカは消えたのか?」

「私の中にいるわ。融けて混じっちゃってもう取り出せないけどね。そう……これが好きという感覚なのね。やっぱり私はほとんど理解してなかったようだわ」


 俺の目には額の瞳以外は全くと言っていいほどクミカには見えない迦具夜がいる。額の瞳が閉じてしまうともう以前と変わらない迦具夜がいるだけだった。言葉遣いも姿も何もかも迦具夜のままだ。


「落ち込んでいるところ悪いけどね」


 米崎が言ってきた。


「さっさと下に行こう。大丈夫とは思うけどね。こんなところで悠長にしていると、死神とばったりこんにちはということになりかねない。死神がここに来てしまう可能性が0ではないことを忘れてはいけない。そうなればクミカ君は本当に犬死にしたことになってしまうよ」

「……分かった。みんないろいろ言いたいことがあると思うが、とにかく降りよう」


 全員が頷いた。そして階段を降りた。【翠聖兎神の大森林】。もうかなり以前に来た気がするその場所に再び俺たちは現れた。ここで白虎様の背中に乗せてもらったのだ。そんなことを考えたがひどく疲れていた。


 黒桜とラーイが出てきてみんなを背中に乗せてくれる。迦具夜と俺がその後ろで飛行した。おそらく死神からは確実に逃げ切れた。しかし……、


「ああ、そうそう。死んでるかもしれないけどね。一応君と榊くんの家族は地下シェルターへの避難を優先的にさせたよ」


 米崎は言われなくても癖にしているようで【機密保持】を俺の耳につないできた。だから俺もそれで返す。しゃべる時は基本これ。いろいろな反省からそう決めることにした。


 米崎はどうやらメトが太陽を人工レベルアップ研究所に落とした時のことを言ってくれてるようだ。自分が避難する前に、俺の親父たちと榊の家族を優先的に、地下シェルターに避難させてくれたそうだ。


「死神やメトは君が死んだと思い込んでいるだろう。見逃される可能性はそこそこあると思う。少なくとも君の家族だからということで殺されたりはしないだろう」

「そうなのか……」


 それでもあの状況では生きてるかどうかわからない。何よりもメトが地下シェルターを見つけて、いや、レベル1000を超えた気配察知能力から考えて完璧に見つけるだろう。メトが見逃すかどうかにかかっていた。


 戻るわけにもいかない。あとは運を天に任すのみである。というか榊も大丈夫だろうか。置いてきたことがかなり気になった。


「祐太ちゃん。これは喜ぶべきだと思うわ。レベル1000を超えたものが3人。それでも彼らは本来の目的を何一つ達成できなかった。私はやっぱり思う。あなたはすごい。どう? 本当に私の伴侶にならない?」


 飛んでいるところを後ろからスッと抱きしめられた。


 俺はそれを振りほどいた。


「……これからどうするつもりだ?」


 その上で迦具夜に尋ねた。


「あなたに従いましょう。それが私とあの子との約束なの」

「いいのか? 大八洲国で神の座の争いに参加するんじゃなかったのか?」

「正直ほぼ100%。神の座の争いは、このままいけば私に勝ち目はないのよ。それほど織田が圧倒的に強い。近藤も異常なほどのスピードで強くなってきてる。何か変化が起きなければ私は神様にはなれないのよ」

「その変化がクミカを取り込むことだと?」


 あの場で迦具夜が他の人間を取り込む必要はなかった。危険なことだというし、本来なら迦具夜はやりたくないはずだった。それでもしたのなら何かメリットがあったんだ。俺は迦具夜をそういう女だと思った。


「そういうこと。私の寿命はあと10年しかない。クミカを取り込んだくらいではそれに変化はないわ。それに正直私は融合をあなた以外とはしたくなかった。魂の融合が私の心にも影響を与える。思った以上に上位の私にでも影響が出ると融合してよくわかった」

「それでもお前はやったよな」

「あの子が提案したの。『私の能力を全てあなたに与えましょう。私の能力は超レアです。この能力を全てもらえるならあなたにとっても魅力的なはずです。代わりに私の意識は全て消していただいて構いません』。とね」

「……」


 じゃあ死んだってことじゃないか。


「それなのにね。私は今祐太ちゃんに従いたいと思ってる。あの子の影響が出てるのよ。あの子の影響が出ないようにできるだけ意識を消したつもりなのに、これだけは残されたわね」


 クミカが常に影の中にいた時以上に、迦具夜と強固に繋がってる。以前のような心ではない。魂のレベルだ。この状態では迦具夜が傷つけば俺も傷つくのではと思えた。ふと気になり左腕を見てみた。青白く変色していて腐っていた。


「……」

「祐太ちゃん。はいこれ。あなたも治らないと私も治らないから」


 そう言って仙桃を渡してくる。2人同時に食べると左腕が元のように復元した。これはもう切っても切れない。俺も迦具夜と融合した影響だろう。クミカともずっと心を繋いだ状態だったから、余計に離れなくなったようだ。


 だからこそ分かることがあった。


「お前、寿命があと10年だって言ったな?」

「そうよ」

「嘘をつくな。あと半年しか生きられないのか?」


 迦具夜の魂がそう言っていた。あと10年も生きられるとは言ってない。迦具夜はあの時、【呪怨】に触りながら【心換帳】に文字を書き込んだ。呪いは何かを感じたのか全力で迦具夜をあの瞬間殺そうとした。


 それによって迦具夜ですら寿命が削れた。


「どうしてそんなことをした?」


 クミカの時のように考えていることが分かりにくかった。魂のつながりでは心を完全には理解できないようだった。


「あの子と融合したら便利になると思ったのに、意外と便利が悪いわ」

「俺もそう思う。お前とは嫌だ」

「ひどい人……。まあそうよ。この私でもあんな呪いの塊に触れ続ければ寿命が9年半は縮んだってことね。貴族になった時は500年も生きるのかとうんざりしてたけど、最後の半年でまだこんなにも生きたいと思うのね。まあいいわ。どうせそれほど楽しめてなかったから、残りの人生があなたと一緒に生きることができるならそれでいいでしょう」

「ずっと一緒にいるつもりか?」

「そうよ。半年だけだから嫌がっちゃだめよ」

「……」


 何言ってるんだこいつ?


 お前が死んだら俺も死にかねないだろうが。


 そもそもずっと死ぬまで一緒にいろだと。


 そんなもの嫌に決まってると思った。


 お前は俺の仲間を皆殺しにした悪女だぞ。


 1分1秒でも一緒にいるのは嫌だ。


 だから俺は……、いや、まさかこれもルルティエラの罠なのだろうか。


 頭に浮かんだ考えに、ルルティエラという女神がひどく鬱陶しく思えた。

毎月19日はチャンピオンREDの発売日になってます!

今回は南雲さんの超かっこいい姿が見れるので必見です!

またよければ書店で是非手に取って読んでみてください!

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― 新着の感想 ―
さすがに好かれが偏重しすぎて女神たんが嫌がったのか 思ったよりLV1000は圧倒的という感じではなかったな プレイヤースキル次第でも幅がありそうだし
迦具夜を神にする感じかな?
8英傑とやらクソ 滅べよ
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