第二百四十話 呪怨
「逃げるぞ!」
「了解にゃ」
黒桜にはいろいろ言いたい気持ちになる。黒桜が俺たちのパーティーで何をしようとしてるのか気になる。だが【呪怨】によって【レヴィアタン】が肉の塊へと変化していく。カインは当然のことながら怒っている。
しかしすぐに仲違いとはならなかった。カインは自分の召喚獣を使って、レヴィアタンを助けようとはしなかった。というより、俺の目から見てもカインとメトと死神が停止している。
《何で止まってるんだこいつら?》
《ああ、多分これはカインを納得させるために説得してるにゃね》
黒桜がちょっと呆れ気味に言った。3人とも緩慢には動いているのだが、こちらへの攻撃意思が感じられない。見ている限り【意思疎通】でメトが仲裁に入っているようだ。それに死神も付き合ってる……。
つまり死神にとってもカインと仲違いするわけにはいかないんだ。俺の浅知恵でも分かる。八英傑は一人でも外れただけで、戦力が大きく変わってしまう。8対4と7対5の戦力比では、どちらが勝つか予想するのは難しくなる。
だからこんな戦闘中に説得に出ている。少し笑える。大八洲国の翠聖様ならば考えられないような、人間らしさ。やはり英傑とは人なのだ。本物の神のごとくはできない。100年以上生きているものなど1人もいない。
体や生命力が人外へと上り詰めた一方で、精神はまだまだ人に縛られてる。
それなら俺たちもこの時間で完了させたいことがあった。
《黒桜。【呪怨】って何なんだ?》
まずその詳細を知りたかった。
《他者の全てを呪いのかたまりにするにゃ。犠牲となった者のレベルが高いほど呪いは強くなり、それを食らうと死ぬにゃよ。今の祐太だと中途半端なレベルの犠牲じゃ打ち消しちゃうんにゃ。けど【レヴィアタン】はレベル1000を超えてるにゃん。召喚獣はあくまでカインの使う道具というカテゴリーになるんにゃけど、それでも擬似的なレベルアップをしてるだけの祐太なら十分殺せる呪いにゃ》
《今すぐに逃げたら大丈夫か?》
間違いなくやばいやつだ。俺は止まらず、仲間の3人に同時に【意思疎通】を送った。4人同時にリアルタイムで喋っていた。こんなことでも、今ならそれほど難しいことではなかった。
《放つ者のレベル依存で範囲が変わるにゃ。レベル1000を超えている死神だと地球上には逃げ場がないにゃ。ただ、大八洲国の入国許可があいつはないにゃ。だからあの国にさえ入れば》
《逃げられる?》
《ずっと大八洲国にいて出てこなければ逃げられるにゃ。出てきたらすぐに呪いが近づいてくるにゃ。それに祐太が行こうとしている3番目のゲートの先にあるシルバーエリアは、大八洲国ほど強力に外からの攻撃への防御力はないと思うにゃ。だから……》
《おいおい、なんだそのチート技? 逃げてももう俺は大八洲国から出られないって?》
《そうなるにゃ。でも食らったらまず間違いなく死ぬにゃ》
思った以上に命の危機がすぐそこまで来てた。黒桜は今この場で【呪怨】を放てないように死神を殺すことよりも、大八洲国にとにかく逃げる方がいいというのか。正直、俺もそう思う。美鈴とエヴィーを回収したから逃げたい。
しかし、ここにはまだ米崎と玲香がいる。相手は多分米崎と玲香のことも把握してる。美鈴たちと同じく回収しておかないと、殺されてしまいかねない。先ほどまでジャミングされて【意思疎通】を送れなかった。
でも今ならできる。そしてそれは四人同時に行っていた。
《——米崎、生きてるのか?》
黒桜と話ながら米崎とも話していた。死神は俺を殺そうとしてかなり無茶をしている。それでもカインと本当に敵対してまであの技は放てない。その間に"最低限助けなければいけない人間"を回収しなければいけない。
《大丈夫。生きてるよ。研究所での用事をしている場合ではなくなったようだね。僕は勝手に判断させてもらって池袋に向かっている。すまないが玲香君を頼めるか?》
改めて思う。米崎はやはり役に立つ。いちいち指示しなくても勝手に判断できる。そしてその判断が間違っていたことは今まで一度もない。しかしそれだけに敵対したら怖そうだ。どうか敵対しないでくれと願った。
いや願うよりも米崎の目的を知らなければいけない。本当の望みがなんなのか。折り合いがつくならば多少非道でも俺はできる限り協力する。しかしそれが俺の利益と反しているなら今のうちに袂を分かつてべきなのだ。
米崎と一度きちんと話す。こんな時だが、それもやらなければいけない項目に追加しておいた。
《了解だ。玲香とも"今話している"。しかし池袋で各階層への階段を悠長に探してる暇もなくなった。俺が一気に》
《安心したまえ》
全てを言い切る前に米崎が言葉をかぶせた。
《ジャック君とマーク君に先行させている。彼らの今のレベルならば昨日1日あれば10階層までの階段を見つけているだろう。僕たちは池袋の1階層に入って、彼らに従って下に降りるだけだ》
すごいなこいつ。米崎に関しては心配なさそうだ。ただ、
《黒桜、全員俺の影の中に入れたい。クミカは今で精一杯みたいなんだ。影の空間を広げることはできるか?》
どう考えても米崎たちの速度で移動していたら、死神たちに捕まってしまう。それが最もまずい。だがクミカの影に米崎と玲香を取り込めば、俺と一緒に動くことができる。
《クミカの影はかなり特殊な空間にゃけど》
すっと俺の影に黒桜が入り込んだ。
《まあなんとかなりそうにゃ。クミカ、ちょっと黒桜と同調するにゃ》
《同調とはどうするのですか?》
《こうにゃ》
《こうですか?》
黒桜はかなり感覚派のようだが、クミカもミカエラの部分が感覚派のようで、それでできてしまうようだ。クミカとは繋がった状態のままで、その意識から影の空間が広まったのが分かった。
一度自分ですることを覚えると、後は自分で保持できるらしい。
《よし》
即行で、米崎の位置を把握する。
《米崎。拾うぞ》
米崎が人工レベルアップ研究所から離れて、50㎞以上進んでいるのがわかった。その正面に回り込む。衝撃波が起こらなかったことに自分でも驚く。なぜか起こさずに移動できると分かって、実際簡単にできてしまった。
米崎がこちらを目をぱちくりとさせながら見ていた。
《君、女になったの?》
そう【意思疎通】で送られてきた時には、クミカが米崎を影の中に引っ張り込んでいた。黒桜は3mほどの黒と桃色の猫に縮小すると、俺を乗せてくれた。
《あいつらかなり混乱してるにゃ。まだ動かないにゃ。次はどこにゃ?》
まだ死神が動かない。カインを納得させることにかなり時間がかかっているようだ。そもそもこんなことに納得するのかとすら思える。レヴィアタンは二度と生き返らないのだろう。エヴィーならリーンが死んでもいいから相手を殺す。
そんな内容には絶対に同意しない。ラーイも無理だ。クーモだって納得しない。召喚士にとって召喚獣は自分の命と同じだ。それが一体でも欠けることは自分の一部がなくなってしまうのと同じ。
このまま決裂しろ。
心からそう願う。これでもし死神がカインを納得させることに成功して【呪怨】が放たれたら、死ぬのかと思うと、激しく心が怯えた。
《——玲香、今どうしてる?》
そして同時に喋っている4人の中の3人目は玲香だった。
《何か起きたの? 何度も大きい音がしてるけど……》
《芽依さんも無事か?》
《芽依もお父さん達も無事だけど状況を教えて》
何と言うべきかと一瞬考える。最悪を考えた方がいい。さすがに一般人を人質に取ったりはしないと思うが、俺のパーティーメンバーはどうするか分からない。
《玲香。一人でその建物から出て離れろ》
《どうして? 何が起きてるの? 芽依は避難させないの?》
《考えなくていいから早くするんだ。一人だけ置いていくぞ!》
芽依さんにも念のためにダンジョンの中に逃げろと言おうかと思った。しかし芽依さんと喋るのは時間がかかる。玲香や米崎相手ならここまでやっても数秒も経ってないのだ。それが芽依さんだとそうはいかない。
《一応芽依と両親にダンジョンに避難するように言っておく。それだけ許して》
玲香も何か大きな気配だけは感じるのだろう。この場に近親者をいさせることだけは恐れた。
《分かった。早くしろ!》
玲香が意味もわからないのに俺に怒りの意思をぶつけられて、憮然としたのがわかる。それでも言うことを聞いた。【意思疎通】は繋げたままにしておく。玲香は迷いながらも動き出している。100m以上マンションから離れた瞬間。
《芽依さんたちは逃げたのか?》
玲香を美鈴がつかんで影の中に引っ張り込んだ。
《女?》
《それはもういい》
《あの、『すぐにダンジョンに逃げなさい』とは言ったわ。それ以上の時間がなかった》
後の説明は影の中にいる美鈴たちに任せる。最後に、この存在だけは万が一にも殺されたら、俺が探索者を続ける自信がなくなるほど大事な存在、
《——伊万里!》
《祐太? どうしたの? 何かあったんだね?》
伊万里もまだこの変化に気づいてないようだった。だが池袋でも戦っている人がいる。そのせいで危機感は持っているようだった。
《伊万里、【光天道】で俺に向かってこい! 急げ!》
伊万里は一瞬戸惑った。
だがすぐ後に、
《うん、分かった》
こういう時は考えるよりも先に動く。探索者をしているとそれが身についてくる。伊万里がすぐに動き出している。マンションの窓を破壊する。あの眺めの良い弧を描く窓だ。
そのまま飛び降りて【光天道】で一気に俺の方へと向かってくる。何をどうすればいいのか分かったのか。影の中に入った。榊も気になるがダンジョンの中である。今ならすでに三階層ぐらいに進んでいるはずだ。
危険があるとは思えない。榊に関しては後で迎えを出すことにした。
あいつのことはいつも置いて行ってしまうな。
そんなことを考えながら、池袋のゲートが目の前に見えてくる。迦具夜と合体したこの体は凄まじく性能のいい。ずっと使っていたいが、同時に迦具夜と融け合ってきていることも感じる。俺はそれを気持ちがいいと感じてる。
このまま迦具夜に支配されたいと。その方が楽だと。徐々に抑えようとしている迦具夜の魂が、俺を取り込んで行こうとしている。できるだけ早く離れないと俺が侵食されてしまう。10分ですら持つかどうかわからなかった。
池袋のダンジョンゲートが視界に入った。
しかし、
「すまぬな六条祐太」
そこには死神が一人で立っていた。俺は、"説得"が終わってしまったのだと気づいた。東の方角に太陽のような赤い炎の塊が浮かんでいた。それは今までいた場所だと分かった。人工レベルアップ研究所に向かって太陽が落ちていく。
「あの地はもともと破壊予定だったのだ。我らにとっては取るに足らぬことだがな。全てのことが終わった後で、つまらぬレベルのものたちにゲリラ戦などやられては面倒だ。それと、カインが許した。やはり【レヴィアタン】の命、使わせてもらうぞ」
辺りが暗くなる。空は晴れていたのにどうしてなのか暗くなる。何かまずいことが起きる。寒気がした。そこでとてつもない落雷が落ちる。鼓膜が破れるかというような音が響いた。
体から血を流した雷神がいた。
「ああ、こんなものか」
雷神は男二人の首を持っていた。そして死神に投げつける。
「なあジジイ。そんな年になって弱い者いじめか?」
唇の端が酷薄に上がった。池袋でずっと戦っていた人は、雷神様だという気配は感じていた。同じレベル900台の人間が2人相手だという話だった。仕留めてしまったのか?
「違うさ。見てわかるであろう豊國。もう終わりなのだ。ここで我を殺したところでもう無意味なのだ。【呪怨】は完成した。カインも納得した。こやつはもう死ぬ」
「では先にジジイから死ね」
死神を中心に10mほどの範囲が落雷に包まれた。最後に死神の骸骨の顔が笑った気がした。仲間を回収するために時間にして10秒は経っていた。俺たちが加速した思考で会話をしてしまえるように、向こうもそれはできる。
そして俺たちがあれだけのことをできたのだ。
カインが裏切らないように時間を取る。どれほど会話したのかは分からないが、普通の会話にしてみれば、1日分以上話せたかもしれない。その時間でカインは納得させられたようだ。
そのカインの気配はアメリカの方へと向かっているのがわかった。南雲さんを殺す気だ。今すぐ助けに行きたい衝動が湧き上がった。
《状況は?》
雷神に聞かれた。
《えっと》
俺は今まで目にしたこと全てを圧縮して雷神の頭に送りつけた。
《なるほど……》
雷神の余裕そうな顔が変わった。かなりまずい状態であると理解してくれたようだ。
《あの、雷神様。死神やあの2人は死んだんですか?》
雷神が死神やおそらくレベル900台と思われる男2人を殺した。少なくとも俺にはそう見えた。
《いや、あれでもまだ死んでいない。レベル1000とかレベル900を超えてくるとな。体の一部を別の場所に残しておいて、自分を再構成するなんて化け物もいる。そうなるとかなり高レベルの呪いをかけるか、短期間に何度も殺さなければ死なないし、総じて殺しにくい》
命を分けるようなものか。かつて雷神様が死んだ時【蘇生薬】を使って復活するようなことを聞いて、いまいち理解できなかった。わざわざ殺した敵を復活させるやつがどこにいる。そうではなくて殺してもどこかで生きてるのか。
《死体が死体ですらないのか……》
《ババアだとこれがもっと酷い。例え神を犠牲にした【呪怨】でも、生き残ってしまう。だがお前は【呪怨】で死ぬぞ》
《でしょうね》
殺してもなかなか死なない。なぜ英傑たちがそう言われるのか、意味がよくわかる。だんだんと人を超えていくということは、生命力が人ではない。人外ですらない。やはり神という言葉がふさわしいように思えた。
《どうする気だ?》
《なんとか逃げ延びます》
《そうか……せめて死神は我がなんとかしてやろう。殺されるなよ》
そう言ってくれた。残酷で自分が強くなることにしか興味のない人だというが、嘘をついているようにも思えない。多分本気で死神の足止めをやってくれるのだ。そしてその言葉でわかる。死神は死んでないのだ。どこかにいる。
《すみません》
《構わん。死神と戦うのは初めてだ。面白そうではないか》
《死なないでください》
《ふ、我にそんな心配をする必要はない》
《祐太。黒桜はダンジョンの中に入るとこの力を使えないにゃ。だから悪いけどここまでにゃ》
黒桜の力が元に戻っていくのがわかる。これ以上本来の力を使うと、今までの黒桜の行動からしてかなりまずいことになるのだろう。同じく影の中に入ってしまった。
【呪怨】
それだけは自分で対処しなければ仕方ない。
《……黒桜。お前のこといつも逃げてばっかりだって思ってた。ごめん》
そう【意思疎通】を送って答えを聞かずに池袋のダンジョンゲートをくぐった。
「別れは済んだか?」
死神の骸骨の顔だけが沁み出すようにダンジョンの中へと現れた。
「待っててくれたのか?」
顔だけで喋られて、ただでさえ気味が悪いのに余計気味が悪かった。
「そうだ。お前はこれから確実に死ぬ」
しかし体の方もゆっくりと構成され現れてきた。
「そんなことわからないだろ」
「私にはお前と同じ年のひ孫が居る。とても元気な子だ。『ジイジ、この国で一番強いんだよね』。そう言われるのがたまらなく嬉しい。正直お前を殺すことが、ひ孫を殺すようで、心が痛む。だが今更この手を血に染めることを迷いはせぬ。許しは請わぬ。貴様は泣き叫ぶことになるだろうが大多数の命のためだ。死んでくれ」
「なんとか逃げ延びて見せるさ」
「できると良いな」
その言葉と同時に死神の手のひらの上にあるゴルフボール程の大きさになった青白い不気味な光を放つ肉の塊。【呪怨】が解き放たれた。それだけのことで一階層のあの明るい太陽の光が、消えた。サバンナの大地が枯れ果てていく。
急いでジャックとマークさんを探す。階段のすぐ近くで待機しているのが見えた。これならば逃げ切れる。
《クミカ。あと二人行けるな?》
《はい。しばらくの間であれば何とかします》
今ならできる。そう確信して【転移】した。ジャックとマークさんが目の前にいて、美鈴と伊万里が影の中に引っ張り込む。死神はまだ入り口の近くだ。雷神とぶつかり合いだした。
《おい、お前何に追いかけられてる?》
《あれはやばい。地面まで腐ってる》
《ルートを!》
《お、おう》
ジャックたちは意味が分からないようだった。それでも何かに追われているということだけは感じたようで、俺に【意思疎通】で10階層までのルートを教えてくれる。遠くから声が聞こえた。
「我の【呪怨】は貴様を追い続ける。例え距離が離れていようとも、永遠にな。行け。死をまといし怨霊よ。そして我らの勝利の礎となるのだ」
不気味な青白い輝きをまとったゴルフボールぐらいの肉の塊が、こちらにまっすぐ向かってくる。
《死》
その言葉だけが永遠と頭に浮かぶ。俺は逃げた。スピードで言えばはるかにこちらの方が速い。だが死神の言葉が本当だと思えた。それは怨念の塊。何をどうしたところでこちらに的を絞り、永遠と追い続ける。
まっすぐ後ろに迫ってくる死の感触。
こちらの方が速いのに振りほどけている気がしない。
恐怖した。俺の場所がわかるようだった。二階層、三階層、四階層、どんどんと下へと降りていく。時折人がいた。池袋にも新人はいるようだ。そいつらが全員ばたばたと事切れていく。呪いを見ただけで死んでしまってる。
あの怨念の塊はまっすぐに俺の方に向かってきている。
親父も親父の家族もその他、避難させた全員がメトの太陽で死んでるかもしれないのに、そのことを一瞬でも考えている暇がなかった。
《祐太様。私が受けます。何とか相殺してみます》
他のみんなは俺を混乱させないために声をかけてこない。しかし【意思疎通】で繋がっているクミカは俺の状況を正確に把握していた。【呪怨】は俺より遅い。しかし、それは今の状態だからだ。迦具夜との融合が終われば追いつかれる。
何よりもレベル250に戻れば何の抵抗もできずに即死する。それがわかった。【呪怨】は犠牲となったレヴィアタンと同じぐらい速度が出せるようだった。ただの肉の塊が異常なほど速い。もっと離れなければいけない。
だがそれほどの距離が離れない。そして気づいた。【呪怨】は俺が階層を降りると、すぐにその階層へと現れてる。どうやってるんだ? 本当に殺される。逃げ切れない。俺が四階層に降りた瞬間、もう同じ四階層にいるのを感じた。
こっちと同じように【転移】してる?
そう思えるぐらいすぐに追いついてくる。
「もう【明日の手紙】しか……」
ここで【明日の手紙】を切るか。しかしまだシルバーエリアに入ってもいないんだぞ。こんな地点で切ってて大丈夫か。しかし間違いなくこれはどう考えても命が危ない。五階層、六階層へと降りる。
更に降りて行き統合階層で【呪怨】の不気味な青白い光りが見えた。
俺はピラミッドまで進んでいたが、スカイツリーの方に見えて凄まじい速度で近づいてくる。
数百メートルしか離れてなかった。
なぜ、余計に近づかれてる!?
《これはおそらく君の【転移】に同調されてるよ。普通に降りてた方が引き離せたかもしれないね》
米崎が冷静に分析していた。
《そんなことできるのか!?》
《やってるんだからできるんだろう》
《祐太様。ここは私が》
《だめだ。無駄死にになる!》
誰か一人の命を犠牲にして放つ呪い。確実に相手を殺してくる。雷神が止めてくれているのだろう。死神自身が追いかけてくる気配はない。俺は一気にピラミッドの地下をできる限り急いで、そして女神像がある場所まで来た。
女神像のある神殿。
しかし階段がなかった。
《ジャックどうなってる?》
まずい。もうそこまで来てるんだぞ。
《悪い。ここで階段が出てこなかった》
《多分パーティーリーダーがいないとダメなんだね。六条君。女神像に手をかざしなさい》
米崎がこんな時でも冷静に伝えてくれた。それで落ち着けと思う。俺は女神像に手をかざした。頼む開いてくれ。そう願ったと同時に以前見たのと同じように階段が地面から現れた。そのわずかな時間のことだった。
レヴィアタンの【呪怨】が目の前に来ていた。





