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第二十四話 エヴィー・ノヴァ・ ティンバーレイク

「やってること最低だよな」

「祐太、何か言った?」

「あ、いや別に」


 いつものように始発で国分寺駅から電車に乗りダンジョンへと向かう。美鈴はボアコートを着てマフラーを巻き、足首まであるスパッツを履いていた。見事に着こなしているその少女は、俺と会ってすぐに腕を組んできて、そのまま電車に乗って座席に座っていた。


 美鈴と腕を組めることは嬉しいが、結局、伊万里とのことは何の決着もついていない。伊万里ははっきりさせることを望んでくるかと思ったが、夜中にベッドに潜り込んで美鈴と同じキスをした。そして、


『祐太は探索者になって最高の高み、レベル1000になりたいのよね?』

『なりたい。それだけは本気だ』

『それなら私、このまま何も決めなくていい。桐山美鈴さんもレベル1000を目指してるんでしょ? 私もなってみたい。レベル1000になったら自分が何を考えるのか知りたい。だから今は決めなくていい』


 そう言ってきた。俺はそれを受け入れた。

 というより自分でもどうしていいのかわからなかった。伊万里が望めば美鈴と終わらせるしかないと思った。でも伊万里は望まなかった。そしてレベル1000になるなら美鈴とパーティーを組んでいる方がいいと伊万里は言った。


 俺は伊万里の言葉に甘えた。


 電車を乗り継いで、池袋へ着いた。

 外はまだ暗くて、ダンジョンショップの明かりが恋しく思えた。こういうのって南雲さんに相談したら何か教えてもらえるだろうか? かなり女性経験豊富そうだったし含蓄のある教えを聞けるかもしれない。


 そんなことを考え美鈴に引っ張られるまま、早朝のショップに入店していた。そうすると、


「あの人か……」


 そしてすぐにそれはわかった。外国人の女性がいた。金色の髪で青い瞳をして、身長はおそらく俺と同じぐらい。175cmといったところか。女性がそれぐらい高身長だと、男よりもはるかに高く思えた。


 胸とお尻と出るところがしっかり出ていて、こんな場所なのにナイトドレスのようなものを普通に着て、ハリウッドセレブみたいだった。そして何より惹き付けられるのがその顔で、日本人離れしたはっきりとした目鼻立ち。


 それでもまだあどけなさも残している美少女。


「とても良い朝ね。ミスズとユウタで間違いない?」


 微笑んだ姿があまりにも美しくて息をのんだ。エヴィー・ノヴァ・ティンバーレイク。その人に間違いなかった。未だに半信半疑だったのだが、まだダンジョンショップに誰もおらず、目立たないこの時間にこの人と会う約束にはなってた。そして実際に彼女はいた。


 レジの女の人が、なんでエヴィー・ノヴァ・ティンバーレイクがいるの?というような顔でこちらを見ていた。そしてなぜか電話を手にとっていた。


「そ、そうです。こんにちはエヴィー」

「こんにちは。ふふ、こんな時間だけどね」


 日本人なのに朝の挨拶を間違えて俺は赤面した。見せつけるように美鈴がしっかりと腕を組んでくる。そんなことをしなくても絶対にこんな外国の美少女とどうこうなるなんて事はありえない。


 ダンジョンショップの明かりに照らされたエヴィーは写真で見るよりはるかに妖艶な、美少女だった。日本にいること自体が場違いであるような存在感。その蠱惑的な瞳は見つめられるだけで、男ならどうにかなってしまいそうなほど魅力的だ。


 どう考えても間違えてこの国に来たとしか思えなかった。エルフさんを見た時も現実感がなくて一幅の絵画を見ているようだったが、この子も大概である。


「これからきっとあなたと長い付き合いになるわ。よろしくね」

「あ、ああ」


 何をどうしゃべっていいのかもわからない。

 エヴィーの顔が間近に迫ってくる。美鈴と伊万里のことでまたキスされるのかと動揺する。いくらなんでもモテ期が到来しすぎだと思っていたら、エヴィーが抱きしめてきた。それほど力がこもっていない。


 ああ、これはきっと、欧米人特有の挨拶だ。

 頬に軽いキスをされる。ただの挨拶だと分かる。それでもドキドキする。俺はひょっとすると、どんな女相手でもドキドキするんじゃないかと自分の心臓に文句を言いたかった。


「に、日本語、上手なんですね」


 こちらも抱きしめ返さないと失礼になるのだろうか。考えながらも失礼な気がして、軽くハグしておいた。そして恐れ多くてすぐに離れた。


「ふふ、これ。ちょっと高かったけど買ってきたの。日本語は全然。ちゃんと覚える気はあるんだけどね。レベルが上がってからでもいいかと思ってるの。その方が簡単でしょ?」


 軽く肩をすくめる仕草が欧米の人特有だった。

 ウィンクされるとそれだけで好きになってしまいそうだった。

 そんなエヴィーは美鈴にもハグをして頬にキスをした。欧米人は誰にでもするんだなぁと思った。そしてマフラーをどけて首元を指差した。真ん中に宝石がついたチョーカーをしていた。


 それはいわゆる【翻訳機】である。

 機械式のものではなくダンジョンアイテムの翻訳機で、5000万円程で売っている。

 存在自体を見えなくも出来る上に、どの国の言葉でも完全に翻訳してくれる優れもので、よく見るとエヴィーの口の形は日本語のものではなく英語を喋っているようだった。


「ご、ゴールドガチャのアイテムだ。すごいですね」


 思わず俺は敬語で喋ってしまいながらも、アイテムをまじまじと見た。そうするとエヴィーの胸元も視界に飛び込んできて、豊かだと思った。そしてやっぱり自分は誰にでもドキドキする最低野郎なのかと凹んだ。


「ま、ちょっとした先行投資ね。本当は財産はたいて装備も買うつもりだったんだけど、あんまり良くないのよね?」

「あ、うん。そうだね。あまり度が過ぎたものは、レベル1000を目指すならやめといた方がいいです。いや、よ。ステータスの上がりが悪くなる。装備でガチガチに整えてダンジョンに入ったりしたら、10階層より下ですら降りられなくなるって言われてます。いや、よ」


 ちゃんと喋れ俺。舌が回ってなさすぎるぞ。


「そうらしいわね。だから、止めといたわ。でもとりあえずパーティーを組んでくれるお礼に、100万ドルずつは渡すわ。用意してきたの。受け取って」

「「いらないです」」


 思わず声が美鈴とハモった。アメリカでトップモデルなんてしているのである。美鈴のお姉さんですら親に簡単に家を建ててあげられるぐらい稼いでいて、俺達にも1000万先行投資してくれた。


 後で必ず返すが、桐山芽依ですらそんな金銭感覚である。それよりも人気があるというエヴィーならお金は相当持っているはずだった。それこそ初心者段階の装備など簡単に揃えられるぐらいには。


「どうして? 言っておくけどパーティーを組んでくれるお礼だから返してくれなくていいわよ?」


 あっさりそんなことを言ってくる。馬鹿を言うんじゃない。円高が進んでるから今は100万ドルでも5000万円ぐらいだけど、それでもそんなお金は今の段階で早すぎるし、いきなりそんな貸しを作りたくなかった。


「え、エヴィー」


 ようやく美鈴も呑まれていたのが解けたのか口を開いた。


「私たちはパーティーになるのよ。仲間よ。お礼なんてものはいらない。私達だってあなたと組むことで、高レベルに行けると思ったから受け入れるの。それに1階層で100万ドルもらったって仕方ないのよ。そんな買い物する必要ないし、金銭感覚どうなってるのよ」

「むう。ユウタもいらない?」

「ああ、そうですね。いや、そうだね。必要ないかな」

「用意してたのに」


 エヴィーの口が拗ねたように可愛くとがった。よく見ると後ろに黒服の人が二人いて、エヴィーが手を挙げると後ろへ下がっていった。


「だ、誰? 仲間?」

「ああ、違うのよ。会社のボスがね。今回、日本のダンジョンに入る理由を話したら、それなら投資してやるって」

「投資?」

「そ。色々サポートつけてくれるって。この間まで契約切るとか騒いでたくせに、現金な奴よ。あんなお目付け役までつけて。あの二人レベル10なんだって。日本には高レベルがゴロゴロいるんだからそんなの意味ないのに」

「ごろごろはいないと思うけど……」


 外国人から見た日本のイメージってどうなってるんだろう。ダンジョンで日本がかなりリードしているということを知っているから、強い奴だらけの人外魔境だと思われているという話は聞いたことあるけど。


「そうなの? 今の日本はリアル忍者がいるって聞いたけど」

「まあそれはいるけど」


 日本の探索者はレベルが上がるとまずやってみたいのが忍法なのだそうで、【リアルで忍者やってみた】という動画がよく上がっている。

 火遁の術とか分身の術とか召喚魔法で口寄せの術とか言い張ったり、面白いんだけど外国の人が見たら誤解しそうだとは思っていた。


「やっぱり誤解するんだ」

「うん?」


 目をキラキラさせてるエヴィーに俺はそれ以上は言わなかった。


「ところで忍者は紹介してもらえないの?」

「もらえな――」「よ、坊主元気にしてっか!」


 そう言いかけて声がしてそちらを見た。


「南雲さん?」


 南雲さんがいた。相変わらず無精ひげでサングラスをかけてる。大剣を背中に下げて眠そうである。


「南雲さん、私をこういうのに使わないでくださいね」

「けっ。クソアマ、ご苦労」

「私、探索者の使いパシリじゃないんです」


 返事をしたのはレジをしているお姉さんだった。

 どうやらお姉さんは俺たちがダンジョンショップにいることを南雲さんに連絡したようだ。さっきの電話はそれか。エヴィーを見て友達に自慢の電話でもしてるのかと思った。


「おら、礼。そんなこと言うならいらんのか?」

「まあ貰うものは貰いますけど」


 南雲さんが100万円ほどあるんじゃないかという札束を出すと、レジのお姉さんはさっと受け取って自分のポシェットらしきものにしまった。

 多分俺が来たことを連絡したらお礼を渡すと言ってたんだろうな。それで100万円。高レベル探索者はやっぱり金銭感覚バグってるな。


「この人が南雲さん?」


 美鈴が聞いてきた。エヴィーも興味深そうに南雲さんを見ていた。


「ああ、そうだけど。あの、南雲さんどうしたんですか?」

「いや、なんかあれからお前のこと気になってな。クソアマに頼んで、お前が来たら知らせてくれって連絡しといたんだよ」

「俺のことが?」


 高レベル探索者ってダンジョン探索はしなきゃいけないし、政府からもしょっちゅう相談事をされたりして忙しいと聞いていた。それなのに俺みたいな小僧のことをそんなに気にかけていたのか?


「そうだよ。お前、あれから穂積に絡まれてねーか? 絡まれたら言えよ。さすがにお前が絡まれたんなら、その時は殺してやるから」

「あ、はい。今のところ何もありません。って、殺す? え? 俺が穂積に絡まれたら、南雲さんが穂積を殺してくれるんですか?」

「そう言ってるだろうが」

「本気ですか?」


 あんなに悩んでたのに思ったより簡単に南雲さんが殺してくれると言ってしまった。

 ひょっとして悩まなくていいんだろうか?と言うか高レベル探索者の感覚はよくわからない。人殺しってそんなに簡単にできるものなの? それに前は関わりたくないって言ってたじゃないか。


「祐太、頼んだらさくっと穂積たち殺してくれそうだね」


 美鈴が小声で俺の耳元に話しかけてきた。


「なんだやっぱりうざいのか。しゃーねーなー。ちょっとサクッと殺してくる」

「いや、いいです! いいですから!」


 俺は慌てて止めた。

 いくらなんでもサクッと人殺しされたら困る。いや、まあ、あの被害者の液体のついた下着の状態からしてサクッと殺されてもいい奴等の気はするが、それを南雲さんにしてもらうのは何か違う。


「そうなのか? でもお前、レベルいくつになった?」

「3です」

「おお、なかなかすごいな。じゃあ階段探してるところだな」

「あの、やっぱりレベル3に2日でなれたのってすごいですか?」

「十分すごいな。俺でも3日はかかった。この短時間でレベル3になれたんなら十分偉業だよ。そりゃ可愛い女が寄ってくるってもんだ」


 南雲さんが後ろにいた美鈴とエヴィーを見た。南雲さんから、そんなふうに言ってもらえることはなんだかムズムズするほど嬉しかった。


「その二人はお前の仲間か?」

「はい。南雲さんの言うとおり本当にすぐに見つかりました」

「よしよし。やっぱお前は俺が期待しただけある。ダンジョンに好かれるほど良い仲間がすぐに見つかるって言うんだぜ。なかなか美人じゃねーか。大事にしろよ」

「は、はい」

「それで四人目はいないのか?」

「俺の妹が、義理の妹で誕生日2ヶ月違いなんです。一緒にダンジョンに入りたいって言ってるから、4人目は妹と思ってます」

「なんだそれ。見事なハーレムパーティーじゃねえか」


 南雲さんがニヤニヤしていた。


「は、はは、そんなつもりはないんですけど」


 と言うか、その妹のことでものすごく悩んでる。南雲さんに相談したいのだが、この状況で言うこともできなかった。


「まあ順調そうで何よりだ。俺も目をかけた奴がちゃんと育ってくれてるってのは嬉しいぜ。だが、穂積たちをなめるなよ。言っとくがあいつらに絡まれたらお前やばいぞ」

「それは分かってるんですけど……」

「じゃあどうして、この池袋でダンジョンに入る?」

「あ、うん……」


 そうか。もしかして、それを言うために来てくれたのか。

 やっぱり危ないとわかっているダンジョンに入るのは南雲さんの目から見てもダメなのか。そりゃそうだ。ダンジョン自体も危ないが、探索者同士の揉め事もすぐに命のやり取りに発展するっていうもんな。


「場所変えた方がいいでしょうか?」

「まあ俺もお前を焚きつけるような言い方をしちまったから悪いんだけどよ。そういうことだな」

「本当にすみません」

「いや、止めなかったのは俺だ。俺も悪かった」


 この人、本当にいい人だな。俺が見た大人の中で一番いい人だ。俺よりはるかに高みにいる人なのに、俺なんかに頭を下げてくれるなんて。何よりも俺は相談できる大人が現れてくれたことに心からホッとしていた。


「あの、南雲さん」

「なんだ。やっぱり逃げるの嫌か?」

「いえ、南雲さんがそう言うなら、大人しく言うこと聞きます」

「はは、強制するみたいで悪いな」

「いえ、そんなふうには全然思ってないです」

「まあちょっと穂積について調べたんだよ。思ったよりヤバくてな。正直、あんなこと言っちまった手前、焦ってこんなこと言い直しに来てる」

「わざわざ調べてくれたんですか?」

「まあお前のためだけじゃない。気にはなってたことだ。それで調べたら穂積たちは低レベルじゃなくて中レベルまで行ってるみたいだ。俺はまさかあいつらがそこまでさくさくレベル上げするとは思わなかった。探索者になってまだ2年なのにかなり優秀なペースだ」

「中レベル探索者……」


 中レベル以上は人外だ。低レベルならまだ人間が目で追えるぐらいのスピードで動くが、中レベルからは違う。普通の人からは何をしているのかわからない。

 わからないのに殺されるし、わからないのに操られていたりもする。それぐらい恐ろしい存在だった。


「そのせいで調子に乗ってあっちこっちの女、『ダンジョンでレベル上げ手伝ってあげる』って誘ってるらしい。それで一生帰ってこない女が結構いるそうだ。だよな?」

「え、ええ、しょ、正直ちょっと困ってます。わ、わ、私も声かけられてヒヤッとしましたし」


 南雲さんがお姉さんの方に声をかけた。

 調べたのはお姉さんのようである。お姉さんは南雲さんと喋るのがやはり緊張するのか震えていた。それにしても異常なほど緊張してるような気がする。気のせいだろうか。


「それでまあ俺が知り合ったガキを中レベル程度のアホの気まぐれで殺されたら、ムカつくなって思ったんだ。それなら殺してしまおうかって」

「何の話?」


 エヴィーが話についていけないようで、説明を求めてくる。

 そこまで話したところで、南雲さんは「人が来ると何かと面倒だ」と言い、場所を池袋ダンジョンの1階層へと移して、エヴィーにも事情を話した。話してる間あまりにも暑くて、俺も美鈴もエヴィーも一気に薄着になった。


「ああ、最っ低。こういうのは日本はないと思ってたのに」


 エヴィーは暑さと忌々しさにドレスのケープを地面に投げつけてた。肩がむき出しになるがモデルをしているだけに露出に頓着がないようだ。形の整った胸が強調されて、そうすると余計にスタイルがいいことが分かった。


「あっちでも似たようなことなの?」


 美鈴が気になって尋ねるとエヴィーが表情を歪めた。


「そうね。というより、あっちはもっとひどいわ。完全にアメリカ政府の対応はダンジョンにおいて後手に回った。おかげで人がたくさん死んで、倫理観なくなったイカれた奴らがダンジョンの中を支配してる。特に特級ダンジョンは危なくて入れたもんじゃないわ。初級とか中級とかでも危ないぐらいでね。一般人が安心して入れるダンジョンなんて数えるぐらいしかないのよ」


 それを聞いて、エヴィーが日本にあっさりきた理由が分かった気がした。安全面でも圧倒的に日本の方がいい上に、ちょうどレベルが同じダンジョンに入ってくれる仲間がいるのなら、そりゃこっちを選ぶというものか。


「それってどうしようもないの?」

「日本の龍炎竜美も応援に来てくれてるけどね。それでも時間がかかるわ」

「龍炎竜美が?」


 それは初めて聞いたことだった。


「ネットとかでもそんな情報なかったよ?」

「最近のネットはダメよ。規制が多すぎて昔みたいに何でも知れるわけじゃない。特に探索者の情報はかなり制限されてる。龍炎竜美の話も口伝えのことばっかりよ。日本じゃずいぶんやらかしたみたいだけど、ものすごく綺麗だからアメリカじゃ火の出るドラゴンは人気なの。もちろんアメリカの探索者もゲント中将を中心にあちこち回って取り締まってはくれてるけど、『3年の過ち』が本当に後を引いてるわね」


 3年の過ちとはアメリカのダンジョン対策、最大の過ちのことだ。ダンジョンに対する規制を完全撤廃するのにアメリカは3年かかった。ダンジョンが現れた当初からアメリカは警察でも軍隊でもない一般人がダンジョンに入ることを嫌った。


 秩序の崩壊が目に見えていたからだ。特に多民族国家のアメリカではそれを許すことができなかった。結果としてダンジョンを封鎖して2年目でダンジョン崩壊が起きた。全てのダンジョンの1番目の入り口がモンスターを吐き出し始めたのだ。


 それでもまだアメリカ軍でなんとか対応できた。しかしそれでも出てきているのは1階層から3階層までのモンスターまでだった。4階層以降はまだほとんど目撃例がなかった。しかし、4階層から出てくる奴らはやばい。


 その情報が、ダンジョン探索がどんどんと進んでいる日本などからの情報で、いやというほどアメリカも分かっていた。やむなくダンジョン関連の法律を全て撤廃。今に至っている。


「龍炎竜美って今そんなことしてるんだ」

「私、一度だけ見たことあるけど、不死鳥みたいでとっても綺麗なのよ。もし人間の転生先が出てこなかったら、ああいうのがいいなって思った。でも、高レベル探索者には最悪のやつもいてね。日本の悪代官。雷神豊国と一緒よ。そういうのがいるダンジョンになるともう低レベルじゃ全然入れないわ。日本の池袋に入れるって聞いた時は正直驚いたくらいよ」

「池袋は低レベルでも入れるだけマシってことか」

「ええ、穂積だっけ? 殺してもらえるなら殺してもらったらいいんじゃないの? 悩む必要ある?」

「でも、もうダンジョンを甲府に変えるんだから、そこまでしなくても」

「甘いわね。こっちがコウフ?でレベル上げしている間に、向こうだってレベルが上がっていくのよ。そんな素行が悪い奴らは早めに排除しないと大変なことになるわ」

「祐太、どうするんだ? お前に考えがあるなら手は出さねえけど」

「そんなのないけど……頼んじゃっていいのか……」


 人を殺すことを簡単に頼んでいいのか。

 南雲さんが俺のことを思っていてくれたのは嬉しいが、それは倫理的に許されるのか? 普通なら人殺しの依頼など絶対に躊躇する。でも、俺達3人がダンジョンの中で穂積たちに見つかれば間違いなく殺される。


 俺だけなら男だし見逃されるかもしれないが、美鈴とエヴィーが居るのだ。

 女が目的で殺しまでするようなやつらが、美鈴とエヴィーほど綺麗な女を見逃すとは思えない。二人に手を出されたら俺だけ逃げるという選択肢は取れない。

 学校では逃げた俺だけど、ダンジョンでも逃げて生きるぐらいなら死んだ方がましだ。

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― 新着の感想 ―
酷い世界観だもんな内外はゴブリンたらげ、Gが。。。
主人公は本当に骨の髄までヘタレだな。決断力が皆無。
実に際どい倫理観のラインを攻めていく感じがいい
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