第二百三十八話 決裂
「メト。早く交渉を終わらせてしまえ」
バハムートと融合しているカインが大気を震わせた。喋る。ただそれだけで威圧感に膝を折りたくなる。エヴィーがまだ状況を理解できないようで呆然としている。
《嘘でしょ……ママ、イーダ、ケイス……》
動揺しすぎているのだろう。言葉が英語になっていた。というより今の一撃でどれぐらいの人が死んだんだ? 嫌な予感がして玲香や米崎に【意思疎通】を送る。しかし返事がない。繋がった感じが全くしない。
「分かっている」
メトもカインもコシチェイの非道な行いを罵倒するわけでもなかった。ここまでの行動が全て予定通りということか。何のために殺した。どうして殺す。歯を食いしばる。冷静になれ。
ここで怒りに身をまかせたら全部終わりになってしまう。交渉だと言った。何かまだ交渉の余地があるのか。それなら聞かなきゃいけない。ちゃんと聞いて最良を手に入れなきゃいけない。せめてこれ以上誰も死なないように。
《六条》
頭に声が響いた。【意思疎通】だ。目の前に近づいてきたメトのものだとわかる。
《なんだ?》
《うむ。心は動揺しているが、交渉できる冷静さを保っているな。この3人を前にしてお前は立派だ》
《なんでこんな戦力……何を考えてる?》
いくらなんでも無茶苦茶だ。俺はレベル250だぞ。ゴールド級の敵でも簡単に殺せるぐらいのはずだ。
《自分としてもこのようなことは卑怯の誹りは免れぬと思っている。だがこの件は誰も知らずに終わる。そして世界が全て我らの戦いに注目している。ここまでして負けるわけにはいかない。この行いが後世で無駄と言われぬためには、何をどうしてでも我らが勝利せねばならない》
俺が理解できるギリギリの速度で【意思疎通】を行ってくる。この交渉をさっさと終わらせようとしている。これだと1秒もかからないうちに話が終わってしまう。まだ普通にしゃべる方がいいのに、心が怯えている。
相手の思惑に乗ろうとしてしまう。メトから感じる気配が大きすぎて抵抗する意思が萎えてしまう。目の前の男が光り輝いて見える。俺より身長は低いぐらいなのに、とてつもなく大きく見えた。それはまさに太陽のようだった。
《お前のようなダンジョンに愛されたものは不利な時ほど何かが起きる。特にルルティエラからの異常なほどの偏愛を受けているものは、我らとて油断はできん。故に交渉は早く終わらせる必要がある》
《どうしてこんな子供まで殺した? 関係ないだろ!》
腕の中から女の子の温もりが消えていく。それが分かる。
《いいや関係がある。お前が時間を稼ごうとしては困るからな。我らが本気だとお前が理解できるように、見せしめにする必要がある》
《そんなことで殺した……》
俺の腕の中で息をしていないエヴィーと似た女の子を見る。今ならまだ生き返らせることができるのか? 【仙桃】で生き返るのか? エヴィーが母親に駆け寄り、なんとか【仙桃】を食べさせようとしている。だが全く口が動かない。
《さて、最初に言っておくが助けは来ぬぞ。森神も龍神も天使も鬼も全て他の者たちが同時に戦い始めている。レベル900台のものも全てだ。この地域は忍神の守護域であろう? 感じるか? 強い力のぶつかり合いを?》
《……》
そう言われると感じられた。あまりにも大きい力のぶつかり合いで、普通なら感じられないような遠くの力の衝突を感じる。これは……同時多発的に全て起きていた。僅かに千代女様なら助けてくれるかもと思った。
しかし助けもこないようにしている。麒麟の女。雷神も口にしていた。12英傑の中で一番知略に長けているという。それがまず確実に俺を殺そうとしてる?
《忍神は今、同じくレベル900を超える男2人と戦っている。奇跡など万が一にも起きない》
《正気とは思えない。レベル250だぞ。それなのに一番大きな戦力をぶつけるのか?》
全ての日本の戦力と戦っているのならば、少なくとも他の英傑のところにこれ以上の戦力が集まってるとは思えなかった。死神、太陽神、そして召喚士カイン。俺なんて一瞬で100回以上殺せるんじゃないかと思えた。
《そうだ。あの女がそう判断したのならそれが一番なのだよ。この国にとってこれがもっとも痛手となるのだ。嬉しく思うぞ。どこの誰ともしれん大したことのない男にアグニが使われたとあっては、このメトも許せぬが、あの女が最初に殺すと決めた男ならばまあ許そう》
ここまで喋ってても現実世界では1秒も経ってない。思考が加速しすぎて美鈴とエヴィーの動きがスローモーションのように見えた。【意思疎通】を先ほどからあらゆる方角に向かってオープンに飛ばしている。
それでも誰も掴まらなかった。
《ジャミングだ六条。外に向かっての【意思疎通】はできんぞ。まさか森神とて最初の狙いがお前だとは夢にも思うまいよ》
《なんで俺なんだよ!? 意味が分からない!》
《お前が死ねばな。あの女の【未来予知】では日本にレベル1000を超える器はいなくなるそうだ。しかしお前が生きていると日本にはレベル1000を超える可能性が、お前以外にも複数現れてしまうらしい。そう言われては我らもここに全力を尽くさねば仕方あるまい》
《バカな。何年後かの俺のためにしてるのか?》
《そうだ。お前たちの国のゲームでもそうだろう? 魔王はレベル1のうちに勇者を殺すべきなのに殺さない。だが我らは殺すのだ。これこそお前たちにとっての魔王であろう。お前は例え何があっても死んでもらう》
《卑怯者》
《その誹り、お前の立場ならば当然だ。だが聞こえぬ。選べ。この太陽の右腕となるべきアグニをおとなしく渡せ。そうすればお前は殺すが、大切な女2人は生かそう。渡さねば全て殺す。この一体すべてはマグマの海となる。アグニはお前が死んでからゆっくり探そう》
《どちらかしかないと?》
腹が立っていた。子供が怖いからって大人が全力で殴りかかるのか。何もまだしてない。結果なんてわからない。こんな奴らに怯えるのか。力じゃ絶対勝てなくても怖がってるままなのか。嫌だ。せめてこの口で罵ってやる。
「ふ……ふ、ふざけるな死ね!」
思わず【意思疎通】を切って叫んでいた。目の前に太陽がある。怖くて声が震えてる。スローモーションだった世界が元に戻る。美鈴とエヴィーが俺を心配そうに見ている。この2人だけは生き残らせたい。
それなら自分だけ死ねばいいのに……やっぱり腹が立って仕方がないんだ。
「口に出してしゃべるということは交渉決裂か。いいのだな?」
「……」
メトが腕を振り上げた。紅蓮の球が空中でどんどんと巨大化していく。それは本当に太陽が空から落ちてきたとでも言うように、空一面に巨大な火の玉が浮かび上がっている。
「どの道アグニは八洲に置いてきた。まさか『取りに帰る』と言って待ってくれたりはしないんだろ?」
頼むから何か起きろと思う。逃げるだけでいいのだ。ダンジョンに入れば、大八洲国に入れる。そうすると入国許可証のない探索者は、入ろうとすれば、すぐに武官に見つかる。向こうは日本などとは防衛体制が違う。
外国からの侵略者などという話になると面白がって出てくる最も好戦的な八洲の神。須佐之男と戦うことになるらしい。それがどれほどおっかない話なのかは、八洲にしばらくいればすぐにわかる。
「六条……お前が嘘をついているのは分かる。どこにある? 今、所持してるのか?」
《クミカ。全力で俺の心を隠せ!》
《畏まりました》
人の心を読むことができるクミカ。同時に心というものを非常に理解していた。心を完全に読む能力というのは、滅多に持っているものがいないらしい。真性の神などであれば簡単に読めてしまうらしいが、メトは半神。
心だけならば、クミカは隠すことができる。そう信じた。クミカが自分のMPを全て注ぎ込む。そして短時間だけしか持たないだろう俺の心に強力なバリアを張り付けた。
「知るか。俺が死んだ後必死に探し回れよ。絶対見つからないだろうがな」
殺されるのか。嫌だなと思う。
「なぜだ。急に真偽が分からなくなった」
「おそらくこの男に憑いているという女の仕業だろう。心を読むという噂がある」
「終わりだメト。1分を過ぎた。それ以上の時間は取らない。その約束だぞ」
カインは急いでいるようだった。死神はただ冷たくこちらの行動を言い当ててくる。
「そうだったな……。この行いは何があっても成功させねばならん。交渉は終わりだ」
空に浮かべた太陽のごとき紅蓮の塊が、メトの手から解き放たれた。
「全て消え去れ」
そして俺は自分が交渉に失敗したのだと分かった。
「ごめん」
2人に謝った。
「いいよ。本当にこういうことになったら一緒に死のうって思ってたし」
美鈴が言ってくれた。
「……私ももう帰るところもない。ママたちと好きな二人。一緒に死ねるならもうそれでいい」
エヴィーの頬に涙が伝っていた。
「よいのか六条。この炎は半径10㎞を全て焼き尽くすぞ。もう一度だけ言う。アグニを渡せばお前1人だけで済むのだ」
「それでお前が余計に強くなっちゃうんだろ。そうしたら南雲さんたちが負ける要因が増えちゃう。俺はそれが一番最悪だと判断した。殺せよ。別にいいさ」
「己一人の判断でそれをしてお前は人から恨まれるぞ」
「そんなこと今言われて初めて思い出したよ」
「人としてそれで良いのか?」
「殺す側が言うことじゃないだろ。だいたい、自分が死んだ後のことまで知るか。自分が助かりたきゃ自分で勝手に自分を助けろ」
少なくとも俺はそうだった。ダンジョンが現れる前は、弱い人間は助けるべきと言っていたけど、結局そんなヒーローは俺の前に現れなかった。俺が今少しでも良くなっているとしたら、自分で自分を助けようとしたからだ。
他の誰かが巻き込まれて死ぬ? 知ったこっちゃない。こんな時代に呑気に家で寝てたやつが悪いんだ。目の前に炎が来ていた。目の前の全てが炎だった。本当にそれは太陽みたいだった。
俺は美火丸と焔将のおかげで炎に対する耐性が、異常なほど高い。もしかしたらこれでも生き残れるかもしれない。だが美鈴もエヴィーも死ぬ。玲香も巻き添えを食うだろう。クミカも、
《良いのです。地獄の底までお供します》
どうせ俺も少し後には殺される命だ。
《多少は太く短く生きれたか》
相馬灯のように昔からの思い出が脳裏を駆け巡る。伊万里。せめてお前は生きてほしい。どうか俺の後を追わずにジャックたちと生き残ってくれ。そして俺の代わりにレベル1000を超えて、このふざけた奴等をぶっ殺してくれよ。
体が炎に包まれようとして、その中でどうしてか俺はエヴィーのそばにいる猫を見た。
「お前たちはまだ若いにゃよ。それじゃあ黒桜は殺せないにゃ」
炎に包まれた空に向かって、黒桜が大きく鳴いた。空を包むような炎を相手に、空を包み込むような声が抵抗する。炎が地面に到達する。その前にまるで分解されるように消えていく。そのまま猫の鳴き声が炎を包み込み、
「何だと……」
霧散させた。
「……我が炎を消した」
メトが呆然としていた。そしてそれを成した猫を見た。
「レベル1000を超えたと言っても半神としてはまだまだにゃ。400年以上生きた黒桜に比べれば子供もいいところにゃ。メト、力の使い方が下手なんにゃよ」
黒桜はいつもよりも確実にデカかった。尻尾が六本になっていた。桜の文様が体全体に広がり、黒と桃色のストライプになっている。明らかにいつもと雰囲気が違う。本気の黒桜……こいつのことは多分強いと思っていた。
でもいつもドジばかり踏むし、迦具夜の時もあっさり殺されるし、やっぱりこいつ弱いと思ってた。でも今ほどこの黒い猫を頼もしく思えたことはなかった。
「何だこの黒猫は?」
カインが警戒しながら見てくる。
「慌てるなルビー級だ。しかもエネルギーレベルは中位程度だ」
死神が口にした。
「しかしルビー級で、正面から我が太陽を滅することができるものなどいるわけが……」
メトが顔に戸惑いを浮かべた。
「迷う必要はない。今のようなことがそう何度もできるとは思えない。大方、メトの交渉時に術理を組み上げたのだろう。明らかに気配は我らより小さい。あの女の言っていた通りだ。迷わず同時に行く」
死神はどこまでも冷静に言ってくる。確かに俺の目から見ても今の魔法の無効化はかなりギリギリに見えた。さすがにこの3人から攻撃されてどうにかなるとは思えない。
「お、おい、黒桜」
「心配ないにゃ。助っ人ならまだいるにゃ。早く出てくるにゃ。祐太が死んじゃうにゃよ」
誰かいるのか? 南雲さんたちも全員足止めされていて来れないんだろ。レベル900台の人たちもダメとなれば他に誰かいたか? 黒桜は俺の方を見ている。まるでそれは俺だと言いたげだ。でも俺は何も力なんて隠してない。
正義のヒーローじゃあるまいし、ピンチの時に秘められた力なんて出てこないぞ。
「"迦具夜"。いるのは分かってるにゃ。ずっと粘着質にくっついてるの黙っててあげたにゃよ」
その名前が出てくるとは思わなかった。そもそも八洲の貴族や探索者は外に出れないみたいだった。簡単に出て来れるとでも言うのか。黒桜はエヴィーの召喚獣になったから、出て来れるだけで他は無理ではないのか。
「……どうして私がそんなこと。祐太ちゃんさえ死ななければそれでいいもの」
確かに声が聞こえた。それはあの女の声だった。俺の仲間を皆殺しにした女。それでいて俺を助けたとも言える女。こいつのことだけは俺は未だにどう考えていいのかよく分からない。少なくとももう二度と会わなければいいと思っていた。
でも今はちょっと嬉しいと思ってしまった。
「ふざけるにゃ! 祐太以外の人間全員焼け死ぬところだったにゃ! さっさとしろにゃ!」
珍しく黒桜が声を荒げた。
「黒桜。本当にいるのか……迦具夜が?」
「いるにゃよ。というか多分ずっといたにゃ。黒桜が祐太を見る前からずっと。こんな色々こじらせた女がずっとずっと望んでいた相手が現れたのに、近づかないわけないにゃ」
「お松は余計なことを言うのね……」
そう言ってその女が、まるで最初からそうしていたというように俺を後ろでしっかりと抱きしめて、その姿が現れてきた。背後霊のようで、ストーカーのようで、それなのにあまりにも美しくて清潔感の漂う女性だった。
「……レベル969」
死神が声を出した。かなり精度のいい目をしているようだ。
「969……老公。本当か?」
メトの顔に動揺が浮かぶ。
「どうなってる! 麒麟女! レベル900台は全て押さえているのではないのか!? どこにこんな女がいた。メトの一撃を消し去る猫といい、どうなってる!? 忌々しい。あの女また私をはめようと言うんじゃないだろうな!」
バハムートと合体して巨大になっていたカインの体が縮んでいく。かなり苛立っているようだった。それでもまだ大きい3mほどの巨人になった。おそらくそれがカインにとっての本来の戦闘フォルムなのだろう。
何か怒っている。召喚獣を殺されたという死神と組んで現れた。何か弱みでも握られたのか? カインはそれでも真横に魔法陣を浮かべた。召喚の魔法陣だ。
「出てこい【聖騎士ゲオルギウス】」
魔法陣から純白のフルアーマーを装着した聖騎士と呼ばれるだけある召喚獣が馬に乗って現れる。カインの召喚獣。【聖騎士ゲオルギウス】カインの召喚獣としておそらく最も対人戦に優れている。そう言われている召喚獣だ。
「麒麟が見えていたのはこれということか。放たれる気配が洗練されている。こちらにはないものだ。称号に水守神とある。聞いたこともない。八洲の貴族か……」
死神が言い当ててきた。
「奴らはこちらの世界にはまだ干渉しないのではないのか? 八洲は日本の後ろに着いたということか?」
メトが驚いた。カインも竜の顔でこちらを忌々しそうに見てくる。
「何を考えている? こちらにも親しいあちらの貴族はいるぞ。この戦争に参加させるのか?」
死神が俺に問いかけてきた。俺は焦った。ブロンズエリアが終わったところなのだ。相手が何を言ってるのか理解できない。というか何でこいつ俺の背中にいるんだよ。そんな話聞いてないぞ。
《お、おい黒桜。なんか聞いてるぞ。答えろよ》
《黒桜は交渉が苦手にゃ。迦具夜、なんか言えにゃ》
《嫌よ。私が喋ったら祐太ちゃんがしゃべらないじゃない》
《迦具夜。その、お前に頼むのが腹立たしいが、デート1回でどうだろう》
《仕方ないわね。今回だけよ》
迦具夜がすぐにOKしてくれた。なんだろう。負けた気がする。というか離れろよ気持ち悪いな。
「こちらの神様が3人ね。御三方、初めまして大八洲国の貴族迦具夜よ。私はね。祐太ちゃん以外は死んでいいから自由にしていいわよ」
「我らの目的はその六条祐太だ!」
メトが口にした。
「じゃあダメ。殺させてあげない」
「……良いのか? こちらは八英傑。お前たちが手伝うというのならばこちらも呼べるヴェーダの神はいるぞ」
「そんなの無理よ。そんなことしたらそれこそ地球が壊れちゃうわ。八洲でも真性の神々が戦えば大陸ごと消し飛ぶことも珍しくないの。それでも八洲はスペアが用意されてるから生物以外はすぐに復活できる。でもあなたたちそんなものないわよね? いいの? ダンジョンの中の神々なんてここに来たら、住む場所なくなっちゃうかもよ」
「……」
「それにこんな大人げないことしておいて外様の神にお願いなんてするの? 私なら恥ずかしくて死んじゃうわ」
そんなレベルで俺たちを殺して回ったお前が言うな。
《あ、あまり煽らない方が……》
《大丈夫。祐太ちゃんだけは私が守るから》
《いやだから俺だけ守られても困るんだって》
《大丈夫祐太。主と美鈴は私が守るにゃ。ここなら全力は無理でもかなり力を使っても、強制的にお家に帰されることはないにゃ》
それでも全力は出せないのかよ。そんなので大丈夫か?
「残念だが確かにこの女の言う通りだ。ダンジョンの中の神など呼べない。だが麒麟の想定の中には入っていたということか。私とメト。2人がかりで迦具夜という女は殺そう。カイン、その猫を頼むぞ」
「俺に命令するな。まだお前を許しているわけではない」
「ではどうする?」
「私が自分で決める。この猫を始末する。メト、死神、その女を殺せ」
結局一緒のことだが口にした。ここで戦うのはまずい。エヴィーの家族の二の舞にみんなをしかねない。せめて自分にできること。考えて俺は、狙いは自分だというのなら下手に動くわけにもいかず、かといえ戦いに参加できる実力もない。
何もできない。そう自分で思ってしまう。情けなかった。こんな時に一番助けられたくない女に助けられる。しかし縋るしかない。
《巻き込んだことを謝る。迦具夜。すまないが俺を守ってくれ》
《ふふ、ちゃんと言えて偉いわ》
《子供扱いするな……》
《まあ。ふふ、祐太ちゃん悔しいの?》
《正直言うとお前にだけは助けられたくなかった》
《なら祐太ちゃん。少しだけ力を貸してあげる。あなたの格好良いところをまた見せて。そして私を感じさせて》
迦具夜がそんなことを言ってきた。





