第二百三十六話 Side祐太、小春
Side祐太
最近自分のすることを誰もが褒めてくれる。ついさっき親父に会ってきた。自分は浮気したのに俺にはいつも厳しかった。そんな親父に好かれたくて、俺なりに必死こいてた時期もある。そしてそんな親父に反発してダンジョンを選んだ。
『今まで本当に申し訳なかった。この通りだ』
卒業式の時の別れで十分だった。会わなければよかった。あの親父ですら、俺に頭を下げてきてげんなりした。『息子がお前と会いたがっていたよ』。そんなことを言われても、なんと答えていいのかわからなかった。
「いじめられるのが嫌で頑張った」
そこまでは良かった。でも12英傑を彷彿とさせるようなスピードでレベルアップしていく。そんな俺に今から逆らわない方がいいと、誰もが判断する。そりゃそうである。今回の戦争もたった12人が争う戦争に世界が戦々恐々としている。
現在の12英傑の隆盛を見る限り、4人もいる英傑の全てがいなくなるなんてことも起こりそうにない。本当に12英傑になるとは思ってなくても、それにかなり近しいものにはなるだろう。そんな風に俺は思われてるらしい。
「父親にペコペコされて、落ち込むとかあんたも難儀ね」
「そう言うなよ」
美鈴たちに声をかけると、榊が自分の体の調整を近くのダンジョンでしていると聞いて覗きに来た。そうすると一階層で、階段探しのランニング中だった。俺は榊の横に並んで走っていた。相変わらず一階層の日差しは強く暑かった。
「まさかあんなにペコペコするとは思わなくてさ」
きっといつもの調子でずいぶん偉そうなことを言われるのだろう。そう覚悟していた。蓋を開けてみたら真逆で、あんなに怖かった親父が、何をどうしたらこうなるのか。俺を見て怯えているようにすら見えた。
「あんたがさ。父親と話してる間に私の親が色々教えてくれてたわ。あんたの父親、ここに来る前の1ヶ月ぐらい散々だったみたいよ」
「散々ってどんなこと?」
「あんたって知る人ぞ知る次の12英傑とか言われてるのよ」
「はあ」
「顔デレデレしない」
「お、おう」
「そうするとさ。当然噂になるわけよ。そんな優秀な六条祐太の親は誰だって。ほら有名人でもよくあることでしょ。息子の出来がいいと産んだ親の評価まで上がるのよ」
いかん。顔が緩んでしまう。息子の出来がいいなどという言葉はついぞ聞いたことのない言葉だ。出来の悪い息子と言われ続けてきたので、出来がいいなどと言われると顔が緩んでしまうことは避けられない事態だ。
「しかし俺の話ってずいぶん外で有名なんだな。完全にダンジョンの中に居続けてたんだけどな。そりゃ少しは出たけど、その間に目撃されてたとは思えないんだが」
「ブロンズエリアってさ、私はあっという間に通り過ぎて終わっちゃったからよくわかんないんだけど、大八洲国があってそこに日本全国のブロンズ探索者が集まってるわけじゃない」
「そうだな」
「だから、大八洲国に到達しちゃうと、クエストですごい結果を出した人とかってすぐに噂が広まっちゃうわけよ」
「へえ」
榊なりにほとんど経験していないブロンズエリアの情報を集めたようだ。榊にすれば、着いたと思ったら身に覚えのないことでレベルが上がって、気づいたら終わっていたのだ。
翠聖様がさすがに戸惑うだろうからと前の1日分の記憶は、シュミレーション結果として教えてくれたが、それでもブロンズエリアで動いたのは五層での1日だけである。俺たちですら全体像をつかみあぐねたのだ。
榊は余計だっただろう。
「まああんたは隠してるわけでも何でもないから、簡単に学校だってわかるし父親だって見つけるわけよ。それで見つかってしまったあんたの父親は、全然違う奥さんとあんたじゃない子供を可愛がって、別の家庭を築いてました」
「ああ」
「おまけにあんたは今でこそ凄いけど、捨てられた当時は小学生じゃない。しかも結構悲惨な部類のね。調べれば調べるほど、何歳から放置していたんだとかそういうことも表に出てきちゃったみたいよ。それであんたのダメ親父は随分周りに"怒られた"みたい」
「それは怒られるよな。まあ無理ないよ」
「他人ごとみたいに言ってるわね。10歳で放置とか私でも引いたわ。日本の常識じゃちょっとないわね。おまけに弁護士の立場を使って、事が公にならないようにかなりうまく立ち回ったみたいよ」
「まあそうだよな。そんな気はしてた。だって誰も助けてくれなかったもん」
「そういう経験のあるあんたには同情が集まって、ダメ親父は、血も涙もない親って感じでそりゃもうね」
なるほど。それならみんなの目もあるあの空間で親父がペコペコしていたのも納得する。まだ2人だけなら以前の威厳を何とか保とうとしたかもしれないが、今そんなことをすれば袋叩きに合うわけか。
「それは悪いことしたな」
「悪いことされたのはあんたでしょう」
「分かってるんだけどさ。なんか、そういう恨みは通り越したんだよ。今はもう何か幸せに頑張ってるならそれでいいかって思う。生まれた息子っていうのもちょっと見たんだけどさ。これが結構可愛いんだよな。幼稚園児から『祐太お兄ちゃん』とか言われたらもうさ。なんかいいかなって。思わず1000万のポーションを上げちゃった」
それに向こうは分かっていないが、今回は俺が巻き込んだのだ。簡単に親が調べられたのなら、やはり避難が遅れていたら、五郎左衆にどんな目に遭わされていたかわからない。
「私はあんたがよければそれでいいけどね。あんたの父親も特にここでは危害を受けることはなかったみたいよ。あんたは別の目的でここに避難させたけど、戦争が起こるってことで、心配して避難させたってなると、あんたと父親の仲はそんなに悪くない。それならあんまりひどいことはできない。そう判断されてるみたい」
「へえ、なんか周りが勝手にそう思うんだな」
「そりゃ親子仲が悪くないなら、ぞんざいに扱って、あんたの不興を買いたくないもの。あんたは違うでしょうけど、探索者って大概横暴だから」
「変な世の中だよな」
「変な世の中のど真ん中にいるあんたが言うかな」
「俺はど真ん中じゃないよ。ど真ん中っていうのは龍炎竜美とか、そういう人たちのことだよ」
「そりゃそうだけどね。まあそんなわけで、育児放棄した親は見事にその報いを受けたってわけ」
別に今更そんなこと望んでもない。それが知らない間に達成されていたのだとしたら、かなり奇妙な感覚だ。この調子だと俺があいつが嫌いだって言ったら、そいつがきっと虐められるんだろう。
そう考えると改めて元担任は大変なのかもなと思う。ただ今の自分の発言力がどの程度なのか、正直把握できない。だから鶴見先生の言う通り、親父にしろ元担任にしろ。放置するのが一番いいのだろう。
「そういうことなら会いに来なかったのにな」
卒業式でのあの別れが俺と親父の中での最も綺麗な別れ方だったと思う。それが今回ので余計なものが付け足された。きっと親父が怒ってるかと思ったのだ。それが違うと今朝には分かってはいたが、完全に逆だと誰が思う。
「あ、階段発見」
榊が2階層へ降りる階段を発見した。その階段を降りる。そして一層暑くなる。二階層の太陽は今日も手加減してないな。ゆっくり階段なんて探してると懐かしくて懐かしくて。
「ねえ、六条」
「うん?」
「あんたまた余計なこと考えてたらダメだから言っておくけどさ。私あんたと別にセックスしたいと思ってないわよ」
急に言われて目をぱちくりさせた。
「……なんだよ急に」
「あんたって変なことで急にいろいろごちゃごちゃ悩み出す性格みたいだからさ。ちゃんと言っておこうと思っただけ。私はあんたの顔が好きなだけ。頼りにされるのも嬉しいけどね。桃源郷の五層っていうところで、翠聖様に教えてもらった通りのことを私はきっとあんたのためにしたと思う。私ってば本当にイケメンのために命をかけたのよ。でも、セックスしたいとは思ってないわ」
「そっか。それだけ?」
「ええ、それだけ」
「なあ榊」
「何よ」
「伊万里のこと聞いたか?」
「何かあるの?」
どうやら聞いてないようである。伊万里もここに来てから喋ろうと思っているのか、それとも改めて話す気はないのか。榊は知らないようだった。人工レベルアップ研究所の近くにあるダンジョン。ど田舎で他の探索者の数も少ない。
それでも一応他の探索者も見かけたので、【機密保持】を使用した。探索者の聴力はレベルが低くても馬鹿にできない。レベルがちょっと上がるだけで1km離れてても他人の会話が聞こえてきたりする。
だから局長や南雲さんからも、『【機密保持】は癖にした方がいい』と教えられていた。よほど気が抜ける話じゃない限りは、【機密保持】を使用してしゃべるものらしい。
「伊万里な」
「ちょい待ち。伊万里って誰?」
そういえば話してなかったか。
「榊は知らないことだらけだな。俺の義理の妹で、今は赤の他人の恋人だ」
「ああ、OK。理解したわ。2番目の東堂さんね」
どうやら俺に何人も彼女がいることは承知しているようだ。それであんなことを言ったのだろうか。
「それがな。勇者っていう称号を持ってるんだ」
「勇者……あ、あんたの2番目の彼女、よく生きてるわね」
「その言い方はやめろ。東堂伊万里でいいから」
「了解。東堂は生きてて勇者ね。まあその辺はさすがあんたのパーティーってところか」
それだけで榊は理解できたようだ。かなりダンジョンに詳しい女である。勇者というものがどういうものかぐらいは知っているようだ。地球では成功例0であり、大八洲国全体でも白蓮様以外は誰も生き残っていない。
何ならブロンズエリア全体ですら成功したという話はなく、現在進行形では伊万里以外存在しないらしい。
「結構大変だったんだけど今のところは大丈夫だ。でもこれからも大丈夫っていう保証はない。それなのに俺は今、探索を急ぐ必要がある。そうすると俺は伊万里と一緒に動けないことが多いんだ。どうしても別行動になる。伊万里は強い。自分で言うのもなんだけど俺も強い。その2人が一緒にいるのは探索の効率として非常に悪い。おまけに伊万里は勇者としてまた俺とは別のクエストがある」
「あんた本気で12英傑を目指してるの?」
「ああ、出来れば3年以内に達成したい」
「3年。また大きく出たわね。そんな期間で12英傑になった人間はゼロよ。今の12英傑でも4年以上はかかっているはずよ」
榊は呆れたように俺を見てきた。
「ああ、そうじゃないと日本が負ける。ただの負けならいい。だけど取り返しのつかないような負けになるのは嫌だ。それを何とかできたのに何もしなかったなんてことになるのも嫌だ」
「そこまで追い込まれる? テレビとかネットだと英傑が1人死ねば、それで丸く収まるとか言われてるんでしょう。特に誰が死ぬべきだとは言わないけどね」
「お前は本気でそう思うか?」
俺が言うと榊は考え込んだが、すぐに頭を振った。
「……こんなところで私たちがそんなことしゃべっても仕方ないでしょ」
「まあそうだよな」
「あんたさ。いろいろ人から褒められて自分が何でもできるって自惚れたらだめよ。そういうのは落とし穴があるんだから」
「……わかってる」
グサッと言われて、図星な気がした。確かに何でもできるわけではない。でもできるならしたいと思う。こういうのはよくないのか。それともいいのか。そんなものやってみなければわからなかった。
「で、何なの?」
「伊万里たちと一緒に行動してやってくれないか? お前が一緒だと安心できる」
「私はどっちかって言うとあんたが心配だけど」
「俺は自分で何とかするよ。米崎もいるし」
「六条」
また呆れた顔で榊が見てくる。
「何だよ」
最近こういう顔は誰にもされていなかったから、ちょっと言い返したくなった。
「博士はね。あくまでも自分の目的のために動く人よ。最終的な目標地点まであんたと一緒ってわけじゃないかもしれないわよ。超頭のいい人だから頼りたくなる気持ちはわかるけど、対立するかもしれないってことも考えておきなさいよね」
「……お前小姑みたいだな」
「うっさい。あんたが考えてないから心配するんでしょ。変なところで死ぬんじゃないわよ」
「分かってるよ」
死ぬんじゃないは探索者の共通語だ。それぐらい次の瞬間には死んでいて会えないなんてことも少なくない。そして榊が一番俺を俯瞰して見ていて、注意してくれてる気がする。小姑というより母親だな。
榊はそばにいて欲しい気がする。でもやはり伊万里が心配だ。榊が有能だということがこの間のことでわかった。だからこそ伊万里のそばにいてやってほしい。俺はきっと自分のことは何とかできる。
「榊」
「何よ」
「ちゃんとお礼を言ってなかったよな。みんなのために命をかけてくれてありがとう。お前にはあの場で逃げる選択肢もあった。それでもお前は逃げなかった。お前はすごいよ。だからまた俺のことで気づいたことがあれば言ってくれ。お前の言うことなら俺は聞くよ」
「え? あ、うん」
榊は照れてるのか顔が赤くなっていた。俺は他の用事もさっさと終わらせようと、とりあえず美鈴とエヴィーに『親に挨拶してくれない?』と頼まれたことを実行しに行くことにした。
こんな時だが、2人とも親にせっつかれて仕方がなかったらしい。そんなわけで榊とはそこで別れた。
「って、榊に聞き忘れた。まあ、また後で聞くか」
そういえば統合階層でのことを聞こうと思っていた。自分のことばかりであいつのことを何も聞いてないと気づき反省した。だから後でちゃんとあいつの話も聞こうと思った。
Side小春
「あいつ自覚ないわね」
自分がモテる自覚はあるようだ。ただそれがどの程度で、相手の女がどこまで自分を好きになるか。それがよくわかってないみたいだ。正直私はあいつのためなら命だってかける。死んでも別にいい。
それが一生報われなかったってそれでも別にいい。美鈴たちからハーレム状態になっていて、全員の女をほぼ毎日抱いていた。そう聞いた時、六条をひどい男と思うよりも、私はそれはちょっと六条が大変だろうなと思ってしまった。
それなら自分は負担にならないためにセックスはしなくていいと口にしていた。案の定あいつはよくわかってなくて私の献身的な愛情表現をスルーした。六条祐太に惚れてしまう女を止めることはできない。
「それをしたら探索者やめろって言うようなものだもんね」
それぐらいあの男は今、異常なほど女を惹きつけている。いや女どころか男まで引き寄せている節がある。
『小春も一緒に頑張ろう』
美鈴に言われた言葉だ。美鈴は私がその中に入る。それは分かっていたようだ。でも私はそういうのじゃないとうまくごまかした。変わった趣味の女。好きな男に抱かれたくないと思ってる。
そんな風に美鈴達を騙せたかはわからない。でも、私はあいつと少しだけ距離を置くことにした。それが一番あいつのためになると思った。そうしないと好きになりすぎて、あいつのことがよく見えなくなる気がした。
「馬鹿よね」
凄まじいジゴロっぷりである。あの顔であんなこと言われたら、そりゃね。好きになりますよ。でもなんか弱みにつけ込むみたいでさ。それに私ってかなり中古だし。一時期かなり男を漁ってたし。
なんなら六条をいじめてた和也とも仲良くしてたし。色々アウトが多すぎて、今更都合がいいとも思っちゃう。本当に命をかけてここに来た。それはあいつに言わなかった。特に統合階層で本当に死にかけた。
クエストの評価が全てダブルSになった統合階層。クエストをそれだけ高難度でこなした。それがもちろん理由だろうけど、半分正解で半分不正解だ。思い出すといやになってくる。できればもう二度と関わり合いになりたくない男。
私は六条以外のイケメンとしばらくの間一緒にいた。そいつが六条級のイケメンで、統合階層にあの男はいたんだ。
『なぜその程度のことで強情をはる?』
自分の言うことを聞かない。あの男はそんなに人間がいることが心底不思議そうだった。
『はは、なんでかしらね。あんたが嫌いだからじゃない?』
六条と同じく怖くなるほどのイケメンだった。全くクラッと来なかったかといえば来なかった。そのことに自分でも驚いた。そして自分は思った以上に六条が好きなんだとこの時気づいた。
『この太陽のごときメトをレベル100にもならない女が嫌う?』
『そうよ』
『嘘をつくな。そんな女はこの世に存在せん。女よ。殺されたくなければ素直になれ。今はあまり時間がないのだ』
あいつは何であんなのに狙われてるの。統合階層で出会ったメトという化け物。見ているだけでも怖くて、そしてひれ伏したくなる。そうならなかったのは相手は潜んでここに来ていたかららしい。
よくわからないが変装アイテムを使い。力を制限しているようだった。メトがもし、何の遠慮もしなくてよかったのなら、私は間違いなく強制的に従わされたと思う。でも戦争が始まる。その時期にあの男が甲府ダンジョンに居る。
それは太陽のごとき人と呼ばれるあの男にとってもかなりのリスクだった。結果として私は助かった。いや今から考えるとむしろそれが私にとっての幸運だった。そうでなければとても間に合わなかったからだ。
私は六条に提示された1ヶ月に間に合おうとして、統合階層に着いた早々オーガという化け物に挑んでしまった。私はその戦いでオーガに片腕を持っていかれていた。このままじゃあ追いついても六条の役には立てない。
『その腕治してやろうと言ってるではないか。素直にこの【ソーマ】を受け取れ。そうすればお前は腕が復活するのだ。男のことなど忘れろ。いや忘れられぬのならばそれでもいい。アグニさえ戻れば、男は生かしておく。お仕置きをしようかと思ったが、それもなしにすると誓おうではないか』
私は統合階層でかなり手間取っていた。腕もなくなりかなり落ち込んだ。正直1ヶ月は無理だと途中で諦めかけた。しかしメトは私につきまとった。どうやら服従系のアイテムを何も持ってこなかったようだ。自分が言えば誰でも従う。
ましてや六条祐太はブロンズ級。簡単に従わせられると思って、アグニの買い手、六条祐太の情報を入手して、大胆にも日本に潜入してきたらしい。だが統合階層からブロンズエリアに行く、その階段がどうしてもメトの前に現れなかった。
メトはそれで焦った。どうやら日本のダンジョンは自分には道を開かないつもりらしい。そう気づいて、それならば日本の探索者を従わせようと思った。しかし急がねばいけないのに統合階層にいたのは言うことを聞かない私だけだった。
おかげで私はメトにつきまとわれ、メトは片腕なしではもはや無理と諦めていた"私のクエストを勝手に攻略してしまった"。ダンジョンはそれを助力とは受け止めず、上質な策と判断した。
結果私の統合階層でのクエストが全てダブルS評価となった。レベル1000を超えた化け物を従わせたのだから当然らしい。それは後で翠聖様が教えてくれていた。
あげくにメトは、
『ナディアから連絡が来た。すぐに帰ってこいとのことだ』
『あなたってレベル1000を超えても女のお尻に敷かれてるのね』
『ふん、惚れた女の言うことなら何でも聞くのさ。これこそ愛であろう。お前もなかなか強情で私好みの女だったぞ。太陽のごときメトに従わないとは関心した。片腕では辛かろう。これを飲め』
そしてあの男はあっさり完全回復薬である【ソーマ】をくれた。
『いいの? これをくれても私はあなたを仲間だなんて思わないわよ』
『分かっている。今から八洲に入れたところで、もはやその時間もない。お前のせいで思惑が外れた。お前以外の他のものもエリアに入ってきたのは感じていたが、つい言うことを聞かせたいと意地になってしまった。仲間を売らぬその心意気好みだ。故に評価する。いずれまた会おう。それまでに死ぬなよ』
その話を私は誰にもしなかった。六条は私に恩を感じる必要などないからだ。そばにいさせてくれるだけでいい。そしてあいつの役に立ちたい。
それだけでいいのだ。





