第五章最終話 新たな力
ガチャはそれぞれ別れて回した方がいい。翠聖様ほどの存在に遭遇することは早々ないだろうが、あまりにもレベルが離れるとレベルの低いものの心が、手に取るようにわかってしまう現象を見た。
そのことから、同じパーティーになったとはいえガチャは別々にしようということになった。その上で一緒に行動する仲間や俺が作戦を決める上で、必要なことは聞く。俺だって誰かに心を読まれるかもしれない。
だから仲間同士の情報も必要以上は共有しない。その上でまずは俺がクミカとガチャを回す。順次それで回していく。ただ、ガチャコインがなくレベルアップもしないシャルティーと切江のことも考えなきゃいけない。
この二人を何らかの方法でレベルアップさせる必要がある。翠聖様から俺がなんとかしろと言われたが、俺は正直それができる気はしなかった。2人をレベルアップさせることに必要な知識も魔法もない。
またそのために時間を割く暇もない。だから、これについて米崎と話し合った。
『シャルティー君と切江君は君の所有物だからね。ダンジョンはそう認識しているから、シルバーエリアへの出入りについては問題ないだろう。ただ、問題はレベルアップだ。今回僕は翠聖様に貰ったスキルと魔法は創造するということに対して全振りしたものだ。これを使えば2人のレベルアップは君の承認を得て実行することができるだろう。ただやはり僕のやり方だと対価に"魂"が必要になるんだ』
『魂……何か当てはあるのか?』
米崎のことだから考えてはいるのだろうと思った。
『以前回収した五郎左衆の死体なんだがね。約80名。君は死体が存在するものは、ちゃんと回収してきてくれた。全てに【死霊術】を施したから魂も残っている。これを使おうかと思っている。ああ、安心していい。魂と肉体は別だから、懸賞金はきっちりもらっておいた。君の口座に振り込んでおくよ』
『いや、それはいいんだが……五郎左衆の魂なんて使って大丈夫か?』
何せ相手は犯罪者である。シャルティーや切江のように、罪を悔いて反省しているわけでもない。そんな人間の魂などまともに機能するのか?
『もちろん君の懸念通りの問題がある』
『だよな』
『五郎左衆の魂は、僕が今まで扱ってきた魂のどれとも違う。これっぽっちも協力的ではない。下手に使うと宿主に逆らってばかりで、まともな成果は期待できない』
『ダメじゃないか』
玲香はようやく魂との折り合いをつけてきている。それでも魂というのは本能に従いやすく、言うことを聞いてくれず、行動が阻害されることもあるらしい。それが五郎座衆ともなれば、魂の阻害は最悪レベルだろう。
『だから翠聖様に頂いたシルバー級魔法に"魂の結晶化"を入れた。これを使い、五郎左衆の魂を純粋なエネルギーに変換してしまえばいい。若干変換効率が悪くて1/10ぐらいの力になってしまうけど何しろ人数が多い。シャルティー君と切江君。二人分のエネルギーならばどうにかなる』
『いや米崎。さらっと言ったけど、それってそいつらの魂を消すってこと?』
アウラがかつてそれを俺にしてくれた。今ではなんとなくそのことが分かる。俺に現れてくるスキルなどからそう思えたのだ。しかし、あれはダンジョンがした。だからまだアウラのかすかない意思のようなものが残っているように思えた。
『僕は気づいてるよ。君の装備にも別の意志が宿っているよね。素晴らしい精度だ。100%全てをエネルギーに変換している。いつか僕もその域にたどり着きたい。だが今は無理だ。使用した魂は間違いなく消滅する。相手の意志など一切残らない。そんなことを勝手にやって後で君から非難されては困るからね。ふふ、だから聞くよ。してもいいかな?』
悪魔のささやきを米崎はさらっとした。まるで子供が親にゲームをしても良いか尋ねているみたいだった。
『踏み絵を踏めってことか』
『そうだ。僕のすることは君にちゃんと言うよ。約束だからね。魂の消失。きっとこれは人を殺す以上に悪だろう。どうかな? レベルとしては150~200が約80人分。それを全てエネルギーに変換してしまうならば、彼女たちはレベル350。つまりゴールドまでは問題なくいけると思う』
『今すぐできるのか?』
『残念ながらからくり族は主よりも強くするわけにはいかない。だが君がレベルアップする限り、彼女たちも幾分か低いレベルにはなるが、レベルを上げることができるだろう。スキルや魔法は、彼女たちのエネルギー量が増えれば、アクセス権が拡大される。その中からふさわしいものが与えられるだろう』
『……そうか』
『どうする? 彼女たちをこの屋敷でただのお手伝いさんとして使うかい? それとも従者に仕立てるかい?』
どちらを選んだところで、米崎は何らかの別の方法を見つける。いずれは何とかするやつだと思ってる。だが今すぐできる方法が【魂の結晶化】なのだろう。
『わかった。やってくれ』
だから口にした。
『即答したね』
急がなければいけない。遅くては意味がないのだ。
『言い訳はしない。俺は今すぐに戦力がいる。何年後かなんて持ってられない』
『君のそういうところが僕は大好きだ』
『米崎』
『うん?』
『この事は俺と米崎だけの秘密だ。シャルティーと切江にも絶対に教えない。守ってくれよ? 全てが終わって地獄に落ちるのは俺と米崎、お前だけだ』
『ふふ、了解。地獄でも仲良くしようね』
クミカだけは巻き込む。だが、クミカはそれを喜んでいるようだった。
「クミカは祐太様と一緒であれば地獄であろうと天国であろうと同じです。一緒にいられないなら、どんな場所であろうと地獄です」
「そっか……」
肉体関係も求めず、ただ心がつながっていることを望んでいる。クミカはそういう女だった。そのクミカとのみガチャゾーンの中に入った。まずこの2人で回す。心をつないでいるクミカとだけは別に回しても仕方がない。
「何気にクミカのガチャを見るのは初めてだな」
「そうですね」
クミカが俺の影から出てきた。そしてその姿がミカエラと瓜二つに変化していく。ゴスロリファッションの姿。クミカの戦闘スタイルだ。翠聖様はクミカの報酬についてあの場で口にしなかった。
だから今回のレベルアップでクミカの扱いがどうなるのか、それが気になっていた。今回は報酬をもらえないと困るからだ。ただクミカと俺は繋がっているから、翠聖様が扇をあおいだのと同時にレベルが上がっていることは感じた。
それを後になって確かめ、
「俺と完全に一緒のものを与えたんだよな」
「そうですね。正直驚きました」
翠聖様の屋敷でクミカが俺の影の中に再び隠れた後、何一つクミカには言葉をかけなかった。それなのに翠聖様はレベルアップで他のみんなと同じにするのではなく、クミカの功績を俺と同じに扱った。
俺の影の中でサポートしていたクミカの功績が、そこまで大きいかと言われると難しい。クミカがいないとダメな点は何度かあったが、それがずっとこのクエストに関わっていたジャックや土岐より大きいか?
そう言われると少しは大きいと思う。でも、圧倒的というほどではない。パーティーリーダーとして大きく評価された俺とクミカは同じ功績かと言われると、正直違うと思う。ただ翠聖様が何を見て評価しているのかわからない。
何よりも俺としてはこれが一番ありがたい。クミカは俺と同じくレベル250になり、スキルと魔法も2つずつもらった。さらにゴールドの魔法も一つもらった。どうしてそんなことをしたのか。
あの場でそこまでもらえていたとは思っておらず、今となっては確認のしようもない。
「まあ心が共有されてるって意味では、クミカを俺と同じに扱うっていうのは分からなくはないけどな」
「だとしてもどうして翠聖様は黙っていたのでしょう」
俺だけだと外に出るのも平気なようで、ガチャゾーンでクミカはリラックスしていた。
「神様の心なんてわかるわけないよ」
「そうですね。私がレベル211では、祐太様のお役にあまり立てないと危惧したので、嬉しくはあるのです。気にするべきではないのでしょうか?」
「おそらく」
「了解しました。ではこれ以上の言及はやめておきましょう」
結局俺たちはその結果が良いものだからと気にするのをやめておいた。まあどう考えても翠聖様の行動理由など分かる訳がなかった。
「しかしそれもだけど、何気にクミカって今回のレベル200で、ガチャ運5だよな?」
心がつながっている俺は当然クミカのガチャ運も把握していた。俺はレベル200でガチャ運6のまま上昇することがなかった。まあ翠聖様ですら俺のガチャ運はよすぎると言ったのだから、それに不満はない。
ただ、クミカが"ガチャ運5"なのだ。
「はい。レベル200を超えた際に、ガチャ運が5にアップしました。クミカとしての力を使おうとした場合のみですが、それが私のガチャ運となるようです」
クリスティーナとミカエラ。この二人の相性はよほど良いのか、クミカという1つの人格になろうとしてきている。久兵衛のように分裂したのとは逆に、姿も2人が合わさったような見た目になってきている。
クミカという特殊な条件下でのみ、それが起きているようで、最近はクリスティーナが考えているのか、ミカエラの魂によるものなのか自分でもわからなくなってる。常に繋がっている俺はそれを知っていた。
「大丈夫だよな?」
「今のところ何の問題もありません」
それは間違いない。ミカエラとクリスティーナで混ざり合っていく方が、落ち着くようだった。とはいえ完全に別だった魂が一つになっていく。とても奇妙に思えた。
「2つの命が1つの命になってるようなもんだよな。絶対に起きるわけのない状態」
「博士がとても私を調べたそうな顔をしていました」
「あいつは無視していい。しかし、分からないことが多いな」
「すみません」
「いや、落ち着いた状態で起きていることみたいだからいいんだ。それよりガチャだな。クミカも100枚もらえたんだな?」
「はい。いつの間にかマジックバッグの中に入っていました。隠神刑部という方から頂いたという仙桃もです」
俺もそうだった。翠聖様の扇であおがれて、その後マジックバッグの中を確認したら、コイン100枚と仙桃4つが入っていた。マジックバッグの中に勝手に物を入れる。何というか俺たちから見れば翠聖様は何でもありだな。
「回すか?」
「はい。私から回した方がいいですね」
「ああ、じゃあそうしてくれ」
ガチャゾーンにはブロンズでできたガチャが中央に存在感を示すように1つだけ置いてある。クミカが手をかけた。ガチャコン、ガチャコンと回っていき、どんどんと結果が出て行く。
それは今まで俺が美鈴達のガチャで見ていたものとは違った。さすがガチャ運5だけあり、クミカは今回のガチャで専用装備を完全に揃えてしまった。実のところミカエラの時はブロンズ装備は3つほど足りなかったそうだ。
それが完全に揃ったのだ。さらに、クミカのガチャではルビーカプセルが他にも大量に出てきた。その中で、俺の今まで見てきたガチャでは見たことがないアイテムも一つ出てきた。
それは、
【心換帳】
というものだった。おそらく俺の【明日の手紙】と同じく、クミカのブロンズガチャから出てくる"専用アイテム"である。ルビーカプセルから出てくるもので、どれもその個人にとってかなり強力なものが出てくる。
「用途はわかるか?」
それは日記帳のようだった。ページ数は1枚だけで開くと中央部分に10マス分だけ書き込む部分が印刷されていた。
「はい、大丈夫です」
俺と戦った時、ミカエラは【鑑定眼】を持っていた。クミカはそれを使えるようになってきたらしい。クミカとしてミカエラの能力に習熟していくほどに、どんどんとえげつないほど強くなる。
そもそもミカエラの持っていた魔眼の能力が色々おかしい。
両目の【爆眼】と【心眼】
入れ替わる第3の目【束縛眼】と【鑑定眼】と【黒死眼】
この5つを所有している。どれか1つだけを持っていたら十分なのに、五つだ。この上、ガチャ運もクミカの状態だと俺より1低いだけ。精神的な弱さがあるものの、それを補ってあまりある能力の多彩さだ。
「この【心換帳】は、私が対象を決めて書き込むと。相手の心を変更することができるようです」
「それはまた……無条件にできるのか?」
五郎左衆相手には使用を控えていた【心眼】に連なる能力だろうか。
「いえ、祐太様の【明日の手紙】と同じで書き込める文字数は10文字まで。使用できるのは一度だけ。強制的に相手に10文字の言葉を刷り込むことができます」
「【俺たちの味方になれ】でもいいわけか?」
「はい。その場合は【六条祐太の味方になる】の方がいいかもしれません」
「有効なレベル帯は? 射程距離は?」
まさか、どんなレベルの人間にも有効などということはないだろう。
「有効レベルは存在しません。脳に直接書き込むので決まればどんなレベルの相手でも決まります。ただし、有効射程距離は0mです。文字を書いている間、私は相手に触れ続ける必要があります」
「レベル制限がない……」
「はい。ただ、迦具夜が使用したと思われる正体不明の力によるガードは貫けるのか分かりません。また私の今のレベルではブロンズ以上の魔法護符を突破できるかも分かりません」
「あまりにも格上になると対抗手段を持ってる可能性ありか。それに上のレベルの人間を文字を書いてる間拘束し続けるのも難しい」
「条件は厳しいです」
「けど強力だ。相手の心と完全に相反する命令をすることになってもいいわけか……」
「そのようです。使う時は祐太様にお任せします」
【媚薬】と似ている。違うところに肉体関係を持つ必要がない。まあそもそも【媚薬】は心を操るわけではない。ただ快楽に相手が流されてしまうだけだ。
「慎重に使おうな」
「はい。祐太様の言葉のままにいたします」
クミカという存在は自分で判断することを嫌っている。全てを俺に委ねる。そのことで心の均衡を保っている。俺が死んだ時どうやって生きていくつもりだろう。そう考えたが、その答えもわかっていた。
『まず米崎博士に祐太様の魂を保存してもらいます。その後、たとえどれだけの月日がかかっても祐太様を生き返らせてみせます』
ともに死ぬのではなく意地でも生き返らせるらしい。
ともかく俺もガチャを回した。専用装備は既に全て揃っていて、ガチャ運が良すぎて、必要なアイテムが出てくることも分かってる。おかげで緊張感は0のガチャ。しかしこれだけは重要だった。
【明日の手紙】が1枚だけ出てきたのだ。
「果実も多いな」
俺自身がクミカに負けるわけにはいかないが、油断してると本当に負けてしまう。だから頑張って果実も全部食べた。
「さて、2人のステータスだけ確認しておこう」
【明日の手紙】以外には重要なことはなかった。いや普通ならば重要なことはたくさんあったのだが、あまりにも当たりが多すぎて感覚が狂ってしまうのだ。だから俺はあっさりと自分のガチャを終えた。
「畏まりました」
俺とクミカがステータスをオープンにした。今までになかったステータスがいくつか現れていて、俺は翠聖様の言葉通り、
シルバー級魔法【短距離転移】
「転移が本当に生えてる」
「飛行もありますね」
シルバー級魔法【飛行】
「クミカは飛べなかったよな?」
クミカの能力には飛行関係のものはなかった。ただ、ミカエラがふわふわ浮かんで着地していたのを俺は覚えている。あれはどう考えても飛んでるように見えた。
「何回かミカエラがふわふわ浮いてた気がするんだけど」
「それは【無重力】という魔法です。効果範囲が今まで狭かったので、自分以外には適用できませんでしたが、シルバーになり他者へも多少影響を及ぼせるようになりました」
「なるほど」
やっぱりクミカって俺より強くない? そう思ったが、クミカはとにかく俺から離れるのを嫌がる。それがある限り、なかなか自分の能力を生かしきれないようにも思った。
「そうですね。1kmぐらいが限界でしょう。私が祐太様とそれ以上離れることは無理です。耐えられません」
「……」
クミカはそれ以上離れると敵を倒すことよりも、俺と離れないことを優先する。クミカの唯一とも言える弱点である。
「難儀なものだな」
「はい。難儀なものです」
しかし確実に桁違いに強くなった。レベルが上がれば上がるほど、良いレベルの上がり方をしたものは、どんどんと桁違いに化けていく。
「それでもまだ……」
「そうですね……」
俺が一番望んでいるから、クミカも望んでいること。今回の戦争に影響を与えられるレベルになりたい。そこまでに到達していない。ただ、【明日の手紙】、そして【心換帳】。この2つはあるいは……。
「まだ届いてない。あと2回せめて今回ぐらいの大きく強くなる機会があれば……」
「そうですね。祐太様ならばレベル500に到達すればあるいは……」
時間を操れる。これは強い。レベル1000以上だと迦具夜のようにこれに耐えてしまうかもしれないが、あくまで自分の頭の中身だけのようだった。体まで抵抗できる訳ではないのだ。となればこれを南雲さんに教えておけば……。
「いや考えてても仕方ないな。美鈴たちと交代しよう」
「畏まりました」
クミカが再び俺の影の中へと戻っていく。そして心をすぐに繋いだ。クミカが再び静かになった。いるのかいないのか分からないぐらい。それでも確かにいるのだとわかった。ようやく日本に帰れる。
日本に帰ったらまず俺は南雲さんに連絡してみるつもりだった。
ミカエラとの顛末も南雲さんには話したかった。
そのため美鈴たちとは一旦離れて、行動することになった。
更新間隔が空いてしまい申し訳ありません。
ちょっと出かけたりとかで忙しくしていました。
次からは通常運転に戻ります。
美鈴たちのガチャですが、
必要な時にまた書こうかなと思っています。
なので明後日からついに新章スタート!
ますます更新頑張っていくので、
今後も是非読んでいただけると嬉しいです!





