第二百二十三話 終局
久兵衛が死んだ。いろいろやってしまったのだろうし、死ぬ以外の道はなかったのだろうが、猫寝様はそれでも生きてほしかったのだ。今は黒桜が横についてやり、ジャックと土岐が久兵衛を回収して一足先に上へ戻ってしまった。
美鈴達にも先に帰っているように言った。集合場所を探索局にして"切江の問題"は俺とシャルティーで対応することになった。クミカもいるので危険なことはないと思うが、一応、護衛としてマークさんが残ってくれている。
どうなるかはわからないし、俺にその気はないが、それでも流れによっては切江は俺のハーレムに入る可能性もある。美鈴たちに許可は取っておいた。
そうすると美鈴は、
「私が一番ってことがわかって結構嬉しかった。ずっと伊万里ちゃんの次だと思ってたから。それもあるし、もう今更1人増えたぐらいって感じがする。というか、そんなに増えたら祐太の方が大変じゃないの?」
むしろ俺の心配をしてくれた。美鈴は誰よりも自分が好かれている。ちょっと自分に自信のない美鈴は、そのことにかなり満足したようだ。
伊万里は、
「いい。祐太が私のこと捨てないって決めてくれてるんでしょ? それなら、もう増えることにはごちゃごちゃ言わないでおこうと思う。ただ、1時間より減るのは嫌」
とのことだった。伊万里はなんというか、大人になったというか、両親に捨てられてから俺の前でしか見せなかった本来の伊万里の性格が、誰の前でも見えるようになってきた。美鈴とエヴィーのせいだろう。
伊万里は、美鈴とエヴィーが俺と関わることを許したことで、今の世界の常識に染まってきたようだ。そして、エヴィー、玲香に関しては、聞かなくても文句などない。そんな感じだった。
「OK。ただ、あまり増えるなら時間割は考え直した方がいいかもね」
「律儀にきっちり全員と毎日関わろうとせずに、ある程度慣れてきたらもう少し自由にしたら?」
その言葉に少し気が楽になった。俺は切江の前に来た。首が並べられていたアスファルトの道は綺麗になって、水を操って洗浄されていた。その辺は黒桜が猫寝様を慰める前にやってくれた。
そんなアスファルトに座り込んだままの切江に話しかけた。
「さて切江はどうする?」
久兵衛が自刃したのを見ていて、俺は切江の意思を尊重しようと思った。何しろ、本来の未来では切江は戦うことを選び、マークさんにとどめを刺されたらしい。ただこの世界ではかなり、本来の未来とは流れが変わっている。
以前の世界の俺には切江に対する同情心などなかっただろう。でも今はそれがある。シャルティーの話では切江、紫乃、シャルティーはかなり【極楽粉】の影響も受けていた。五郎座が優秀な探索者を【極楽粉】で堕としたのだ。
『薬のいい気分でやってしまったこととはいえ、今ではひどいことをしたと後悔してますの。これは本当ですわ。私が受け取るべき金銭などは、これからかなりの部分で、五郎左衆の被害者に渡すつもりでいますわ』
そう話していた。つまり情状酌量の余地はある。
俺はたった1日違うだけの経験をした。
それは最悪の一日。
その経験があるとないとで、俺の切江に対する心象はかなり違う。そう思える。そして切江自身もこちらの仲間が誰も死んでいないというのは、以前とは心境がかなり変わっているはずだった。
この状況でも久兵衛のような潔い死を求めるなら反対しない。シャルティーは願うように切江を見ている。
「……木阿弥は死んだんだね」
「ああ、あの男は死ぬしかなかった。だが、切江。お前はそうでもないらしい」
この辺の確認は以前のシャルティーの時に摩莉佳さんにしていた。摩莉佳さんは、
『このようなクエストの場合。犯罪者の処分は大八洲国でほぼ間違いなく全員死刑だ。ただ、クエスト達成者は犯罪者の見た目を気に入った場合、報酬として受け取ることを要求できる。シャルティーの延命を望む場合はこの要求を出すことだな』
とのことだった。大八洲では勝者の権利というものがかなり強い。特に今回のような武官にできなかったことを一般探索者が成した。というようなケースの場合、その功績はかなり大きいと判断される。
そしてこの国は優秀な探索者の権限が大きい。最近の日本でもほとんどそうなってきているのと同じく、探索者の我が儘は通りやすいのだ。まあ要は五郎左衆に関しては、俺が『上級幹部でも許してほしい』と願えば許されるらしい。
「シャルティーの望みでもあるし、お前が生きたいと望むなら、俺はお前の助命願いを出すつもりだ。その場合シャルティーも含めて俺の管理下になる。お前が同じように犯罪を犯せば、今度は俺が悪いってことになるらしい」
俺だけが喋りシャルティーは何も言わなかった。切江はもう大丈夫だと一人で立ち上がった。
「聞いたことあるよ。まあつまり俺は君の所有物で、所有物が犯罪を犯せば、所有者が悪い。からくり族と同じというわけだ」
「切江。六条は最初以外は私に優しかったですわ」
シャルティーが切江を見つめた。
「……そんな顔で見ないでおくれよ」
切江は困った顔になる。俺にはからくり族になるなどというものが楽しいとは一切思えなかった。だからこそ死ぬことを選ぶなら反対しない。シャルティーも自分の権利がからくり族にまで落ちる。
そのことを知ってなかった。俺たちと同じく、地球出身のシャルティーは大八洲について、そこまで詳しくなかったのだ。そしてそれを知るとプライドの高い切江に『からくり族と同じ立場に落ちよう』とは願いにくかった。
「困ったな。君、俺に優しくしてくれる?」
こんなことを聞いてくる時点で、やはり相当本来の歴史とは違うみたいだ。本来ならば工場の壁にもたれかかっているマークさん。こちらの様子だけは注意深く見ているマークさんと戦う道を選ぶ。
だが切江にそんな様子は見えなかった。
「そのつもりではいる」
何十年も先のことなど保証できない。
「できればその気持ちを変えないでくれ。まあ言えた義理ではないのだけど、君のものでないのなら、俺とシャルティーはすぐに武官からリンチを食らうよ」
「私も切江も100回殺しても足りないぐらいここでは恨まれていますものね。見逃すなんて選択肢はないですわ。ただ、この国は勝者に対する権利がかなり強いんですの。六条のそばにいる限り安全は保証されると思いますわ」
「それはそうだろうね」
「で、どうするんだ?」
冷たく口にした。期待されても困るからだ。
「六条。俺たちは木阿弥と同じだ。本来許されないんだよ。だからまあ君が必要だというなら、その間は生きよう。いらなくなったら殺してくれて構わない。からくり族とはそういうものだ」
切江が俺の顔を見つめてきた。相変わらず男前だ。女ばかりの集団の何々組男役トップスター。本当にそんな感じの顔をしていた。そしてその瞳は、同情を買う気はないようだった。
「それでいいんだな?」
「いいさ。五郎左衆の生き残りとして、罪のつぐないぐらいは誰かがするべきだろう。だからできれば君が正しくあることを願うよ」
「切江。了解した」
俺はそう言った。
「ふ。面白いな。本当は華々しく散ってやろうと思ったんだけどね。了解か……。いいだろう。いや、よろしくお願いするよご主人様」
「切江! では!?」
シャルティーは切江が久兵衛と同じく自刃してしまうのではないかと心配していた。その顔が喜びにあふれる。大きな乳房が揺れて思わず目が行ってしまった。
「シャルティー。邪魔でなければ、君の横に俺もいるよ」
「ああ、よかった!」
シャルティーが思いっきり切江を抱きしめた。久兵衛のことは悲しかった。正直泣いてしまった。どうもミカエラの時から、俺は泣くことが多くなった。だから決めていた。全てはもう終わったことだ。
恨みを続けたところで仕方がない。久兵衛の死体はない。五郎左と思われる人間の首もあったから、それに全ての罪を背負ってもらおう。実際この男、シャルティーの話では迦具夜以前の問題として相当悪だったらしい。
「切江。五郎左について知ってることはあるか?」
「五郎左?」
「ああ、五郎左はほとんど表に出てこないやつだった。捜査資料にも詳しいことが書かれていない。できるだけの情報を武官側にも渡せれば、武官の顔も立つ」
迦具夜の件は切江が知っているとは思えなかった。知っていれば今頃生きてない。生きている以上は知らなかったのだ。その上で五郎左衆事件のできる限りの真相が語られることは意味がある。この世には司法取引というものがある。
自分の罪を認め、自分がやったことを嘘をつかずに白状する。そのことでかなり罪が軽くなるのだ。捜査をする側は事件の真相を苦労することなく手に入れられ、犯罪者側はそのことによって罪を軽くしてもらえる。
まあ要は双方にとってメリットがある。摩莉佳さんによれば、そういう制度は大八洲にもあるらしい。それを使って、切江とシャルティーの武官側への心証もまた変わると思われた。まあ余計なお世話と煙たがられるだけかもしれないが。
「分かった。できる限り協力しよう」
「実際どんなやつだったんだ?」
「正直あの男は奇妙な男だった。気味が悪いと思う日もあれば、妙に優しく思える日もあり、惹き付けられるほどのカリスマを感じる時もあった。ただその原因が【極楽粉】によるところも大きいのかもしれない」
切江はシャルティーに抱きつかれながら立ち上がりにくそうに立ち上がった。
「そうか……」
結局最も悪いのは迦具夜で間違いがない。【極楽粉】の使用も迦具夜の言葉に従ってただけかもしれない。それでいて手が出せる領域にはいない。何万人、何十万人、いや、何百万人死んだかも分からない。
その元凶である迦具夜はピンピンしたままで、反省どころか利益だけを得た。
そして誰からも悪いとすら思われてない。
《ままならないものだな》
悪だから必ず裁かれ、正義だからでかい顔ができる。どうやらそんなにこの世は単純なものではないらしい。いや、ある意味単純か。この世は強いものだけが権利を主張できる。弱いものが弱いままで居続ける。それは罪なのだ。
俺は翠聖様からの無理難題をこなすことで自分の強さを証明した。だから権利が主張できる。
《クミカ。生きるのは大変だな》
《そうですね祐太様。動物のように生きるだけで良いのなら、楽なのですけどね。それでは無理だから私はあんな目にあったのでしょう。そして祐太様もお辛い日々があったのです》
クミカが答えた。切江がいるし、信用しきれないこともある。他のみんなはもう上に戻り始めていたが、マークさんだけが、俺がゆっくり歩き出すと合流してきた。
《そうだな。その通りだ》
「シャルティー。上に帰るよ」
「はーい。切江、ほら待たせると行けませんわ」
「まだ少しふらつくんだけど」
「しっかりなさい。これから私たちは罪の償いとしてご主人様にお仕えするのですわ。お手を煩わせてはいけませんわ」
「あ、ああ、やっぱりそういう感じにならなきゃダメかな」
「当然ですわ」
「ええ」
なかなかふらつきが治らない切江を、マークさんが大鬼に変化して肩に担いだ。切江の顔が青ざめている。心のどこかで、殺されたことを覚えてるのかもしれない。
「自分で歩く! 自分で歩くから!」
「遠慮するな。別に重くもなんともない。運んでやるって」
「ふふ、切江は統合階層で大鬼にこっぴどく泣かされた思い出があるのですわ」
「こら、シャルティー。言うなんてひどいよ」
俺は最後に五層を見渡した。
走るほどに古ぼけた雰囲気になり昔の江戸のような町になる。まだ昼間でこんな層でも笑っている人はたくさんいた。この場所の幸せがあるんだなと思いながら、五層の黒い輪っかに到着する。俺はようやく三層の探索局へと帰ってきた。
「——米崎さんは?」
美鈴が聞いてきた。全員がここに合流してクエスト達成の報告をしにいくところだ。大変なクエストではあったがブロンズエリアをこの短期間で抜けることができた。そういう意味ではリスクに見合うだけの見返りがある。
「ああ、誘ったんだけど集団行動は嫌いなんだってさ」
『顔なじみがいる探索局があってね。そっちで報酬はもらうよ』
とのことだ。どの探索局でも報酬をもらうのは自由らしい。あの男のことだから何か目的もあるんだろう。深く詮索はしなかった。
「お姉ちゃんはそれに付き合わされたわけか」
この場にいないのは米崎と玲香だけだ。美鈴はまだ玲香の話になると複雑そうな顔をしているが、もう玲香関係で揉める気はないようだ。そういうわけで伊万里、エヴィー、マークさん、摩莉佳さん、土岐、ジャック、シャルティー、切江、そしてクミカ。
米崎たちも加えると総勢13人。随分と大所帯になったものである。俺以外女しかいないとずっと思っていたが、5人は男性で、女ばっかりってこともなくなってきた。全員ができれば次のクエストにも参加したいと表明している。
間違いなく俺とのクエストに参加することが、探索者としてレベルアップするための近道になる。どういうクエストが出されるのかは知らないが、それに乗る気がないなどという探索者は誰一人いなかった。
ただ、クエストの種類によっては、今回のような自由参加が許されないかもしれない。その辺はクエスト次第だ。クエストの出方は普通の探索者だとほとんど同じような出方なのだが、ダンジョンに好かれている場合、個人によって全く違う。
そう言われていた。だから大人数で参加する形のクエストが、出続けるというケースもありえなくはないそうだ。
「猫寝様、大丈夫かな」
美鈴は気になるようだった。
「ああ、黒桜が心配してしばらく一緒にいてあげるみたいだ。大丈夫だろ」
かなりドジなところがあり、頼りになるのかならないのかよくわからない黒桜だが、相当な長生きである。黒桜曰く、長く生きるということは辛いことも悲しいこともたくさん経験するのだそうだ。だから心配ないとのことだ。
それでも土岐も心配していた。だが土岐はここにいる。ジャックもだ。美鈴がそれを半眼で見つめる。
「おいおい女。薄情者みたいな目で見るなよ。俺だってそばにいようとしたんだぜ。でも、猫寝様が『今は1人がいい』って言うしよ。それにあの偉そうな猫。『私がいるから心配ないにゃ。若い者は人の面倒を見るよりしっかり働いてくるにゃ』って、追い出されたんだよ」
ジャックはそういうところは情が深い。本当に一緒にいようとしたのは見ていた。
「右に同じ。ま、君のクエストに参加すれば僕がゴールド級の探索者になれるかもしれない。それをミスミス逃すことはできないよ。猫寝様の面倒は、僕の奥さんたちにも任せてる。『すごいチャンスだ』って報告したら、『心配しなくていいから旦那様は頑張ってきてください』って」
そんなことを土岐も言っていた。ただやはり猫寝様が気にはなるようだった。いつもよりも落ち着きがなく見える。
「ところでさ。入んないの?」
美鈴が言う。俺は翠聖都の探索局前で、みんなでたむろして中に入らずにいた。先ほど合流したばかりの美鈴はその理由を知らない。というか、ある人を待っているわけなのだが、その名前を口にするとまた美鈴が怒らないかと心配だ。
「はは、いや、うん」
言いにくくて口ごもる。桃源郷の三層に戻り、米崎と【意思疎通】を行った。その中で米崎が言ったのだ。
『なるほど。予定と違うのは月城迦具夜の記憶保持か。さすがルビー級と言ったところか。思い通りにはいかないな。しかしそうなると月城迦具夜はかなり君にこだわるだろうね。モテる男はつらいね』
『も、モテてるのかこれは?』
『少なくとも相当気に入られたのだろう。でなければ行動が不自然すぎる。もともと今回の件に深く彼女が関わったのは、それによるところが多いのだ。むしろそう考えないのは不自然だ』
『……勘弁してくれよ』
心の底から出た言葉だ。
『おや、必要とあれば毒でも何でも利用する。君はそういうタイプだろう。いいじゃないか。レベル969の協力者となってもらえば。非常に心強い』
『バカ言うな。協力してもらうつもりが、いつの間にか向こうの言いなりになってるって事になりかねないぞ』
『確かに。くく、まあその問題は後で考えよう。ああ、それよりね。六条君。君、本当に忘れてるようだから一応言っておく。今回のケース。時間が逆行し、君が【明日の手紙】を手に入れた時間帯を考えると。本来の未来でおそらく僕は死んでる』
『お前が死んでたら誰に手紙をもらうんだよ。俺は自分で手に入れたのか?』
本来の未来の俺は超人にでもなったのだろうか。どう考えてもそれは実現不可能に思えた。
『違うよ。おそらく君に手紙を渡したのは——』
『へ?』
俺は米崎から名前を聞いてようやくその存在を思い出した。そのぐらい完全に自分の頭の中にその名前がすっぽりと抜け落ちていた。
『クエスト報告しちゃうとね。さすがに参加していない彼女は無報酬となってしまうだろう。だからちゃんと待ってあげなさい。僕の予測が正しかったとすれば、彼女は、いくぶん早く現れる』
『いやちょっと待って。あいつこの短期間で統合階層抜けたの?』
『おそらくね。もともと僕は迦具夜に殺される可能性が高かった。どれほど僕の存在を薄くしても、女は、こういう妙に頭のいい男を嫌うものさ。そして僕が殺されるパターンで、一番保険に適していたのは彼女だ。優秀だしね』
『そうなのか……』
なぜ今までその可能性を全く考えなかったのか。いや、女が一人で統合階層を超える。その可能性はどれほど低かった。正直想定になかったとしても不思議ではなかった。しかもこの短期間である。俺たちより成績がいいぐらいだ。
『僕も君が彼女に期待しないように極めて気をつけた。何よりも彼女が間に合うかどうかが、今回における一番の賭けだった。おそらく時間から考えて彼女が来るのは午後3時ぐらいかな。それぐらい待ってあげなさい。MVPは彼女だろうから』
もしそうなら本当に間違いなく俺もそう思う。レベル100で五層に降りて迦具夜にバレないように俺に近づく。一般人の頃に猛獣に狙われた俺に同じことをしろと言われた方がまだ楽だ。動物ならいくらでも釣り餌に騙される。
しかし、迦具夜はそんなに単純じゃない、おそらく薄氷を踏む思いだったはずだ。
『あいつ頑張ったんだな……』
知ることはない本来の未来。そこで起こったであろうこと。たった1日の間に本当に色々あったのだなと思った。そして考えていたら声をかけられた。時間はちょうど午後3時だった。
「えっと、六条元気してた?」
俺は振り返った。それはお下げの髪をした少女だった。幾分痩せたように思う。それでも相変わらず胸は大きい。この元同級生がいなければ、『今回のクエスト。達成は不可能だったと思われる』。そう米崎が口にしていた。
「は、はは、やっと追いついたわ。あのさ。博士から『行け』と言われたから来たんだけど、さすがに何もしてないのにクエスト報酬はないよね?」
本人は気まずそうに言ってる。そりゃそうである。少なくともこの少女は今の時点で何もしていない。一切関わっていないのだ。
「小春? え? もう来たの?」
榊小春。俺の知らないところで大活躍したという話だ。俺も米崎から聞いて、榊がMVPである可能性はかなり高いと思った。うまく米崎に意識しないようにされていたが、よくよく考えると米崎は殺される可能性がかなり高い。
あまりにひどい状況に期待しすぎたのか、半分ぐらいは成功すると思っていた。だが、冷静に考えると1割もなかった。やはり俺には自分の間違った計画をある程度正しく修正してくれる米崎がいる。改めて思った。
「そうよ。頑張ってきたんだから」
「え、ええ、小春って一人?」
「そうだよ」
「統合階層って、こんな楽勝でクリアできるもの?」
「何言ってんのよ。結構苦労したわよ。全部SS評価取ったんだからちょっとは褒めてよね。まあでもそこまで図々しくはなれないからさ。今回は遠慮しよっかな」
こんな短期間でここまで来ようと思ったら、とんでもない苦労だったと思う。本当よく頑張った。起きてもいない未来のことはよくわからないが、それだけで十分仲間にする価値はある。要は探索者として非常に優秀なのだ。
「遠慮しなくていい。間に合えば仲間にすると言っていたのは俺だ。そして実際間に合った。榊は自分の優秀さを示したんだから、堂々としてろよ。さあ入ろう」
榊の手を取る。
「えっと、六条。まずここがどこかよくわかんないんだけど?」
「ぷっ、お前、探索局も知らずにクエストクリアかよ」
「こりゃ傑作だ。六条が良いなら文句ないぜ。行こうぜ姉ちゃん!」
バンッ! とジャックが榊のケツを叩いた。美鈴はもう諦めたみたいにため息をつき、ついてくる。何よりもそれどころではない。自分たちの戦力は少しでも拡充しておいた方がいい。
次のクエストに向けての準備でもあるし、それ以上に、探索局の前でいると嫌でも聞こえてきた声があった。
「はあ、せっかく世界一だっていうのによ」
「日本がこんなことになる機会はもうないかねー。勝ちすぎたら狙われるってか」
「じゃあどうしろってんだよ」
「今の私達じゃ何もできないわ。見守るしかない」
「ああ、嫌になってくるな。本当に戦争かよ」
日本自体がかなりまずい状態らしい。ひょっとすると俺たちは帰る場所がなくなるかもしれない。それほどの戦争が日本を舞台に明日にでも勃発しようとしている。それは後の世で、
【第三次世界崩壊】
そう呼ばれることになる。第一次はそもそもダンジョンが現れたことによる大混乱。第二次はそれから2年後に起こった閉鎖されたダンジョンの大量崩壊による人類の大量死。
そして第三次になり、ついに人の手によって、世界に崩壊がもたらされようとしていた。俺たちに注目など集まっている暇もなく、探索局はその話題で持ちきりだった。
前回は重版記念だから、
久兵衛に恩赦を与えようと思ってたのに、
言うこと聞かないんですよね久兵衛。
どうやっても責任を取って潔く死にたいというので、
仕方なかったですね。
猫寝様にはかわいそうなことをしてしまいました。
ともかくこの章も終わりが見えてきました。
と言ってもまだまだ続くんですけどね。
これが終わっても祐太まだレベル200だし……。
大好評発売中のコミックスも含めて、
これからもまた気長によろしくお願いします。





