第二百十六話 Side迦具夜、八代
Side迦具夜
「うわー見て八代。大鬼よ」
「本当ですね」
その圧倒的な膂力で振り回された棍棒に、切江が吹き飛ばされた。体が工場の壁にめり込む。そのまま突き抜けて機材を叩き潰し、反対側の壁まで突き抜けた。大鬼がそのまま追いかけて切江をさらに地面に叩きつける。
切江もレベル差がある。負けじとレイピアで対抗する。しかし相性が悪い。レイピアは素早く動き、相手の急所を貫く。大ダメージを与えるというよりは急所に対する1点突破だ。しかし、【超速再生】を持つ大鬼には急所がない。
心臓もレイピアで突き刺したぐらいではすぐに再生してくる。効果がない。すぐに傷口が盛り上がって元通りになってしまう。切江がなんとか距離を置こうとするが、大鬼が力押しで追跡してくるのを止められない。
【轟滅衝】
スキルを唱え切江ごと棍棒をたたきつける。そうするだけで建物が一棟崩れ落ちた。その崩れ落ちる建物から、切江の体が叩き出されてくる。足の骨が曲がっていた。ポーションを飲もうとしているがその暇を与えてくれない。
「本当に変わった子だわ。大鬼でしょ。勇者でしょ。それにあの"お松"がいた。最初に見た時びっくりしたわ。うろちょろするやつだったけど白蓮以外に仕えるなんて想像もしてなかった。あんなところで何をしてるのかしら?」
理由が理解できなかった。本当に分からないことだらけの少年だ。
「危ないところでしたね。大権現様を仲間にしてるなんて、正直ビビりました。でも本当に死んだんですか? 大権現様ですよ?」
「ええ、多分死んでるわよ。主従契約って結構面倒なのよ。万が一死んでなかったとしても、すぐに目の前に現れるとは思えないわ。だから死んでなくても大丈夫。一番厄介だったから殺せないかと思った。でも意外なほど簡単に死んでくれたわ」
「油断しすぎですね」
「そうね。こっちの正体もバレず、早い段階で始末できてよかったわ。もしも、お松の力の制限がない状態だったら、こっちだって被害ゼロじゃすまないもの」
お松大権現。どういうわけかダンジョンには猫系に転生するものが多い。おそらくルルティエラ様は猫が好きなのではないか。そんなことを囁かれているが、その真実は知られていない。そしてその猫を束ねる貴族。
白蓮の飼い猫。お松大権現。かなりドジなところも多い猫だという評判で、そのドジのせいであっさり死んでしまった。ただ、正直本当に死んだかはちょっと自信がない。それぐらい面倒な相手なのだ。
まあ主が死んだ以上は即復活はない。
それは間違いなかった。
「もうすでにこっちも被害出まくってますけどね。死黒もこの調子じゃ死にますよ。あの子たちレベル200にしては超強いです。六条君はやっぱり優秀なのが寄ってくるみたいですね」
「そりゃそうよ。珍しいほどダンジョンに好かれてるって評判だもの。それにね。死黒は被害じゃないわよ。いらないゴミの処分よ」
心の底からそう思う。五郎左という人が良さそうに見えるだけの人間。こちらのいいように騙される。奇妙な甘える言葉を出す。気持ち悪いったらなかった。しばらくの間付き合ったけど、成果は出たとはいえ寒気が出るほど一緒にいたくない。
それが美しい少年によってまた1人また1人と死んでいく。とても気持ちがいい。お礼として、逃げようとした五郎左衆残党は全員始末した。ちゃんと彼が懸賞金をもらえるように、首だけは10箇所目の最後に積み上げてある。
「悪いことをしておいて命が危なくなったら逃げようとするなんて、本当に見下げ果てた奴らよね。まあ堂々としてるだけ切江は少しはましだわ。八代もそう思うでしょ?」
「ノーコメントでお願いします」
「ふふ、それにしても可愛い。祐太ちゃんは食べちゃいたくなるぐらい可愛いわね」
「本当に食べそうで怖いですね」
祐太ちゃんの動きを隠れてこっそりずっと見てた。最初に見たのは宿でのこと。貴族御用達の宿にブロンズ級の探索者がいた。穢らわしい。だから殺してやろうかと思ったけど、まあ下の層にちゃんといるようだ。
その頃の私は五郎左衆の始末をどうつけるか悩んでいた。そのこともあり、あまり気にしてなかった。ただその子達が五郎左衆を全員始末する。そういう任務を翠聖が与えたと聞いて見る目が変わった。
あの日の私は焦っていた。
「急にどうして焦ってるんですか?」
八代はゴールドにもなってるのに、どうにも察しが悪い。織田家には利口な子が多いという評判なのに、私のところは私の知性が伝染らないのか、どうにも力で押せ押せどんどんの子が多い。
「八代。あなたバカなの? 古兎が動いたのよ。古狸とも仲が良かった。きっとこちらの動きを完全に抑え込む気だわ」
「ああ、迦具夜様って翠聖様に嫌われてますものね」
「そうなのよ。どうしてかしら?」
「理由に気づいてないんですか?」
「ええ、理由が分からないのよね。私ってとてもいい子なのに」
私が貴族になった頃から、翠聖には何度も邪魔をされている。おとぎ話にあるかぐや姫とうさぎは仲がいいはずなのに、どうにも貴族の私と神である古兎は仲が悪いのだ。腹が立つから殺してやりたいのだけど、実力が違いすぎる。
「迦具夜様って、あの方の年齢はご存知なんですか?」
「神様の中であの女だけは年齢不詳よ。とんでもない年寄りのくせに若作りしてるのよ。モテモテなのが気に食わないわ。あんなババアに男が群がってみっともないったらありゃしないでしょ。それなのに私は結婚できないの。本当この世は意味が分からないわ」
そもそも最初に怒ったのは、貴族になった私が早く結婚したい。結婚願望がかなり強い。そういったことを翠聖に話したのだ。そうしたらなかなか綺麗でゴールド級の男5人を紹介してくれた。翠聖は気前が良くて、
『気に入ったなら全員娶りゃんせ』
と言ってきたのだ。私は素直に喜んだ。でも性格の不一致があると嫌だ。だから私は彼らの心を見たかった。おとぎ話の故事にもあるように、迦具夜姫として絶対達成不可能なことを5人に頼んでみることにした。
『ヤマタノオロチの鱗が欲しいの』
ダンジョンの中で、非常に手に入れることが難しいとされるアイテム。それをとってきてほしいと要求したのだ。それは難易度で言えばサファイア級と言ってもいいほどだ。彼らは私の美しさにメロメロで、目標に向かって命をかけた。
そして全員死んで帰ってこなかった。まあこの程度でダメなら元からダメなのだ。
「原因はそれじゃないんですか?」
「ええ、これぐらいで怒る?」
「私なら怒ります」
「そうなの。あなた短気ね。私のような綺麗な女の子のために命を捧げたのだから後悔はないと思うのだけど。だいたいこの私の旦那になろうというのよ。絶対達成不可能なことの1つや2つぐらい達成できなくてどうするのよ」
心からそう思った。私のやりたいことは昔から決まっていた。とてもとても美しい旦那様を迎えて幸せな人生を過ごすの。そのために必要なことは何だってするわ。旦那様への要求ももちろん超一流。
超一流のことができて当たり前よね。だって私の旦那様になるんだもの。でも今までそれを達成できたものは1人もいない。それどころか私のことを男たちは、
『根性が悪すぎて結婚できない』
などと罵ってくる。全く持って失礼しちゃうわ。私の美しさに嫉妬してるのよ。男に嫉妬させる。
「美しいって罪だわ」
切江がもう何度目になるのか大鬼に地面へと叩きつけられた。
「みっともない子。あれは勝てないわ。さっさと死ねばいいのに。八代もそう思うわよね?」
「ノーコメントで」
「それにしても祐太ちゃんは見れば見るほど期待通りだわ」
こんな私にもついに結婚相手が見つかった。名前は六条祐太。あまりに可愛いので祐太ちゃんと心の中で呼んでるの。私も寿命には勝てない。今年で490歳。もうすぐ死んじゃう。でも結婚するまで死にたくない。
だから神様になることにして、ここ100年ほどかけて、派閥を大きくして、資金集めにも奔走した。タヌキが死ぬまでの準備は十分。だが対抗馬が多い。悔しいけど神になる筆頭候補は織田だ。次に急成長著しい近藤家。
他にも5つほど有力候補がいる。月城家はその中で5番目ぐらい。そして1番の壁は高い。このままでは多分無理。もっと優秀な手駒が必要だ。色々と探した。千代女のこともあるから、日本の忍びの家系からも選ぼうとした。
それなのにうまくいかない。死黒家に目をつけ、色々試したけど全員死んだだけだった。やはり千代女や豊國といった化け物は狙って出てくるものではない。だからってこのまま織田や近藤とガチンコ勝負は嫌だ。私だって死にかねない。
でもレベル1000を超えるレースから降りたらあと10年で死んでしまう。
「それであの子を見つけたと」
「ええ、最高だわ。千代女や豊國を超えてる。あの輝きは私と共に神様にだってなれる器よ。きっとルルティエラ様もそんなに気に入った子なら早く神様になってほしいはずよ。私がそれをお手伝いするの。きっと応援してくださるわ」
「でも、あっちのレベル1000枠はあっという間にうまっちゃったんじゃなかったのですか?」
「あっちはまだ全然落ち着いてないのよ。どうせまだまだ交代するわよ。そこに彼をねじ込むの。いえ、ひょっとすると無理にそんなことしなくてもなるかも。無理でも私が後援者になってあげれば絶対大丈夫。そして私は最高の旦那様を得るの」
「すごい評価ですね」
「だから八代。そのためにも邪魔なのは全員殺してきて。私以外の女はいらないから」
「はいはい。人使い荒い人ですねー」
Side八代
文句を言いながらも従う。私の主人は根性が悪い。それは貴族の間では有名。三層でもちょっと有名。レベルは900を超えてる。いくつだったか細かい数字は覚えてない。そんな月城家はゴールドの探索者を10人抱えてる。
超名門貴族である。まあ多少なりともそういう家には悪評がつきまとうものだ。私はその中のゴールドの1人。そして悪評の方に加担してる。私が悪事をやらせても一番文句を言わないので、迦具夜様は私を一番よく連れ歩く。
五郎左衆の子たちのことは正直ちょっと可哀想だなと思う。特に切江のことは嫌いじゃなかった。月影は私と迦具夜様が交代でしていて、切江とは何度かお話ししたけど結構楽しい子だった。その切江がもうすぐ死にそうだ。
まあそれもこれも仕方ない。本人も死にたがってるしな。
「何年もレベル200を超えられないなんて鈍臭い子だよな」
自分があっさり超えられたからそう思う。枠が開けばできれば次の貴族も目指してる。お松が死んだからもう1つは空いてる。2つ目は白猫だ。いや、お松は死んでるかどうかわからないらしいから、確実なのは1つだ。
六条君の集団まで10mぐらいの距離に近づいた。
「やっぱり次は勇者だよね」
なのに誰も私が喋ったことにも気づかない。私とこの子達じゃレベルが違いすぎる。私はあまりにも簡単な仕事にあくびが出た。やってることは最低だけど、今回の件は私にも利益がある。
宿で見たときに迦具夜様がピンときたという六条祐太。確かに顔の綺麗な子だった。迦具夜様の狙いじゃなければ、私のハーレムに入れてあげても良かった。迦具夜様ほどではないけど私も男には結構うるさい。
えりすぐりの美男子を手塩にかけて育てた口だ。自慢の美男子15人のハーレムである。別に私が人よりエッチなわけじゃない。こういうハーレムの作り方は、女探索者には多いことだ。天然物はなかなかいない。だから養殖で我慢するのだ。
「ちょっとぐらいつまみ食いさせてくれるかな」
そんなことを思いながら、東堂伊万里の胸に触れる。私の胸は小さいから、ちょっとこれは羨ましい。そのまま手に黒い炎を纏わせて抉り取る。それだけで相手が死んでくれる簡単なお仕事。私のこういう部分に同僚は引く。
私は色々あってあまり人を殺すことに感情が動かないのだ。虫が死んだぐらいにしか思わない。虫が死んで悲しめるほど私は器用じゃない。ちょうど切江も死んだみたいだ。
「なーむー」
そんな言葉だけ一応切江に対してつぶやいてあげた。ここまで六条君はよく頑張った。でも、これでもう足は止まるだろう。心が挫けて絶望する。私はそんなに残酷なことは好きじゃない。だからちょっとだけ心が痛む。でもそれだけ。
自分の利益の方が大事だった。あと何人殺すんだったっけ。忘れてしまって、迦具夜様のところに戻って確認しにいく。
「迦具夜様。次はどうなさいます?」
「そうね……次は美鈴って子にしましょう。玲香も姉妹って話よね。一緒に殺してあげなさい。どちらかが生き残るのは可哀想でしょ」
「じゃあ行ってきます」
「あ、ちょっと待って」
言われるままに止まる。殺す相手を変えるのかと思った。聞こうとしたら迦具夜様は私を見ずに彼らの行動を見ていた。というのも六条君がもう動き出していた。
「おかしいわね。祐太ちゃんが勇者の死体回収を淡々としてるわ。辛そうな顔はしてるけど、泣き叫びもせずに、四箇所目に行くの?」
「嘘……」
珍しく迦具夜様の戸惑いの言葉が聞こえた。私も六条君を見たままだ。本当に決然とした顔で走り出してる。その綺麗な顔に絶望している様子はない。ただ死体を自分のマジックバッグに収納する。そしてそのまま走り出してる。
六条君は私みたいに人を殺しても平気なタイプだろうか。そういえば200人以上殺したんだった。でも何か違う。私の平気さとは六条君の顔は何か違う。ちょっと寒気がした。
「あなたの調べだと東堂伊万里は元義理の妹。今は恋人同士になるほどの関係だったわね?」
「はい。間違いありません」
「じゃあどうしてこんなにあっさり次に行くのかしら」
迦具夜様は腹を立てるというよりも、今まで見たことのない男の動きに嬉しそうに瞳がゆがんだ。とても美しい人だった。でも今の顔はその心を表すように、少しだけ怖く見えた。
「あまり好きではなかったのでしょうか。もしくはモテすぎて女一人一人に対する価値が下がっているのでしょうか」
「そういう感じには見えないわ。確かな考えがあって動いてる。そんな気がする。そもそもそれだと他の子たちがついてこないでしょう。全員欠けることなくついてきてるのよ。はぐれたものから殺す予定だったのに、それも起こってない。この状況で離反者が出ないのは、恐るべき統率力よ」
「友情の力でしょうか?」
「バカね。八代、人がそんなもので動くわけないでしょう。特にダンジョンには自分の未来の全てがかかってるのよ。そんな状況で『友達だからついてきてくれ』なんて言ったら、その子は真っ先に見捨てられるわ。友情とは相互利益で成り立つもの。一方が一方に、過剰な負担を押し付けすぎたら、必ずその関係は破綻する。この命の行軍。本人はともかく周りまで折れない。続けようとする」
迦具夜様の口数が増えてる。こういう時は本当に自分の考えに没頭している時。この件を成功させるため武官ですら来るのを嫌がる五層に自分で来る。そして自分で考えて行動する。そこまでして、更に一生懸命考えてすらいる。
迦具夜様はよっぽど六条君を手に入れたいんだ。
「上位者が完全に介入していることには気づいているでしょうに、命をかける。それに見合う利益を祐太ちゃんは仲間に示せてるのね」
「なんでしょう?」
「彼がレベル1000を超える見込みがある」
「でも仲間は死んだら終わりですよね? いくらなんでも【蘇生薬】が大量に手に入ってるわけではないでしょうし……」
「八代。あの子たち、ちゃんと死んでるわよね?」
五郎左衆は仙桃を大量に持っている。六条君たちはそれを手に入れられると見越している。その可能性を迦具夜様が私に問いかけてくる。ちょっとムカッとした。
「きっちり殺してます」
私は中途半端な仕事はしない。殺せと言われたものはきっちりと殺している。
「そうよね。何を考えているのかわからないわ。私が考えて結論が出ないのなら、必要な情報がないのね。面白い子。ちゃんと私にその狙いを隠してる」
「一人捕らえて催眠系のアイテムで操るのはどうでしょう?」
「そうね。一人捕まえてきなさい。一番古くからの子。誰か調べてるわね?」
「桐山美鈴ですね」
「じゃあその子でお願い。【極楽粉】はダメよ。時間がかかるわ。【服従薬】。これを使いなさい。ちょっともったいないけど、ここまでしたのに失敗するよりはマシよ」
言われるままに私は動き出した。気配を殺し、近づいていく。そして移動中の彼らと並走する。舗装もされていない道路。地面がむき出しの道路。桐山美鈴の顔が真横にある。かなり綺麗な子だと思う。その腕を掴んだ。
引き寄せる。
「あらら私か」
《ごめんね祐太》
桐山美鈴が六条君に【意思疎通】を送ったのがわかる。こいつら私たちの行動を読んでる?
《八代! 早く飲ませなさい!》
言われるまでもなく急いだ。しかし、口に放り込み、【念動力】で無理やり胃の中に流し込んだ。苦手な水を操作し、黒い丸薬を溶かす。なのに、効果が現れない。六条君達から1㎞ほど離れた地点に桐山美鈴を引きずりこんだ。
様子を見る。すでに死んでいた。自分にスキルか魔法を使用して、私に捕らえられたと思った瞬間に自殺したんだ。心臓と脳に致死レベルの損傷を与えたのだ。よく観察するとそうわかった。
「嘘……」
「マークって男もこの子が捕らえられたと分かった瞬間に死んだわ。どうしましょう。【蘇生薬】はさすがに使いたくないわ」
迦具夜様が私のそばにやってきた。
「困りましたね。何かかなりの秘密を隠しているようです。それを知っているものは今の時点で死んだ」
「そのようね……後、知ってそうなのは祐太ちゃんだけよね。他の仲間は知らないから死ななかった。そういうことでしょう」
「もういっそ、彼に【服従薬】を使っちゃいましょうか?」
「いやよ。そんなことしたら、人間として終わるわ。レベル1000を超える可能性も0になるのよ。使うなら【媚薬】までよ」
「でも、狙いはちゃんと知っておくべきです。【媚薬】で明日までに吐かせることができるんですか? 大体、迦具夜様初めてですよね。ここは私が」
「却下。ううん」
迦具夜様が考え込みだす。そしてそれほど時間がかからずに顔を上げた。
「八代。祐太ちゃんには、一人だけ、あの宿で動いていない仲間がいたわね」
「え?」
そう言われて何のことかと考えた。そしてすぐに思い出す。確かにそういう男がいた。貴族御用達のあの宿。あの宿は盗聴などができないようにできている。貴族御用達ということで、内緒話にとても向いているのだ。
そういう目的で使われることもよくある。だから内部で話している会話は外に漏れてこない。私はあの中のことはあまり気にしてなかった。他の貴族もいるから派手に動くわけにもいかない場所なのだ。
でも私が気にしていないことをこの人は急に気にする時がある。そしてそういうとき大抵この人は、"当ててくる"。
「確か米崎秀樹でしたか?」
「あなたその人間が、祐太ちゃんのパーティーの中で一番頭が良さそうだって言ってたわね」
「ええ、まあ、でも戦闘能力は低いようですよ」
「探索者だものね。戦闘能力が高いことがまず大事よ。でも頭も同じぐらい大事。彼は15歳らしからぬ戦歴がいくつかあるわね。大人の補佐がある気がするのよ。かなりとびきり頭のいいね」
こういう時のこの人は怖い。全部何もかも分かっているように動く。私がこの人にずっと仕えているのは、この人の頭の良さが怖いという思いもあった。
「うん。決めました」
うっすらと笑った。水の精霊へと転生し、この上なく清らかで綺麗なのに、魔女の笑みだと思った。
「八代。本当は女以外は生き残らせようと思っていたのだけど、やっぱり全員殺しましょう。生き残らせるのは祐太ちゃんだけよ。クミカという人間も殺しましょう。あと全員殺した後に一応祐太ちゃんの荷物関係も全てチェックね。ガチャで何かいいものを手に入れたのかもしれないわ」
「そこまでしようと思ったらさすがに、こちらの存在がばれますよ。あまり細かい事ってばれないようにするのが難しいんですよね」
「仕方ないわ。祐太ちゃんには【媚薬】を使いましょう。念には念を。ダンジョンに好かれている子だもの。何をするか分からないわ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。確かに初めてだけどレベル160とレベル969よ」
そうそう。そんなレベルだった。まあ確かに大丈夫かな。この人見た目だけは抜群にいいし、六条君が傷心中に惚れちゃうとしてもおかしくない。それに関係者も全部殺すなら、事実を知ってる人もいないわけだし。
「それもそうですね。じゃあ面倒そうなのからどんどんと殺しましょう」
摩莉佳と土岐。四箇所目でこの2人を殺そうと決めた。米崎に関しては場所が離れてる。迦具夜様は、綾歌という私の次にレベルの高いゴールド級の探索者に殺しにいかせた。もちろん女である。
この人、男がいるとテンションが上がりすぎて、全部ダメにしちゃう。だから部下には女しかいないんだ。





