第二百十五話 罠
ボーナスステージが終わり、残酷なことが起きる。覚悟はしていた。罠だと分かって乗り込んだ。この方向を選んだ自分は人間として終わってる。何しろこの世界は俺以外の人間にとっては最高なのかもしれないから。
それを全てなかったことにすると決めていた。
貴族が関わっている。そのことを濃厚に感じたのは木星でのことだった。五郎左衆がまるで計ったようにこちらの誘いに乗った。こちらはなんとか相手の戦力を削ぐ方法を探していた。そのための方策も一生懸命考えた。
そしてそれが"全てうまくいった"。誘い出した方向に五郎左衆は面白いように引っかかった。
『この過酷な環境だ。遊びとしては楽しくても戦いの場としては最悪だ。まず俺一人でいる。他のみんなは潜んでてくれ』
そして大八洲国の技術で造られた檻の中で、俺は囮として1人だけ入った。ただ木星の環境を安全な檻の中で、眺めることを楽しむ空間。サファリパークのバスみたいなものである。檻の中に入って木星の中を移動して楽しむのだ。
大気が体に害を及ぼさない程度に入ってくる。そんな仕掛けまで施されていた。アンモニアの強烈な匂い。そして地球では考えられないほどの暴風。青い円形の足場が直径1㎞ほどに広がり、上空は半円球の見えないバリアが築かれている。
超人気のアトラクションらしいが、時間帯によっては空いている。周囲を五郎座衆に囲まれていることが分かっていた。米崎がパークのからくり族を買収。本来なら開くはずのない檻となっているバリアを過酷な環境下となる木星のサイクロン。
『いくらなんでも調子に乗りすぎ』
『こっちは20人、お前は1人』
『助けを呼んでも誰も来ないぞ』
その場所で開いてもらった。俺だけは決して吹き飛ばされないように念動力全開で地面と固定した状態。閉ざされた空間の中、挑発的に一人でいる俺。五郎左衆は飛びついた。そこで守ってくれるはずのバリアが急に消える。
秒速400mにもなるジェット気流にいきなりさらされた。いくら探索者でもひとたまりもなかった。一瞬にして俺以外はまるでいなかったように消え去る。探索者だから即死はしない。それでも戻ってくる方法が分からない。
五郎左衆は全員、木星の中に残された。
最初はそれがうまくいったことを喜んでいた。
『次は私達がやるわ』
そんなことをエヴィーが言う。場所は、
【太陽系ランド】
太陽系の環境を【転移門】や【軌道エレベーター】を使い、実際に体験する。そんな趣旨の桃源郷三層にある遊園地である。内容は過激なものが多く、どの施設も最低でもレベル10。そこは超えてないと楽しむことすらできない。
『まあ任せてよ』
俺は美鈴達の囮は渋ったし、1度目と2度目では、相手の警戒度が全く変わる。
『いやいや、こういう危ないのは俺たちに任せとけって』
『そうそう。万が一にも死なれちゃ困る』
パークの休憩場でハンバーガーを食べながら、マークさんとジャックが口にした。
『そういうのは嫌なの』
『やるって言ったらやるから』
『大丈夫だよ祐太。こっちはこっちで結構ハードだったことは話したでしょ。鈍ったりしてないから』
そう言われた。今まで一緒に探索をしてきた仲間である。信じないわけにはいかなかった。そして15歳の美少女3人がおとりになる。マッチョとヤンキーよりは囮効果が絶大なことは認めざるを得なかった。
次はレベル100以上ならば太陽表面を触れるという体験だった。ちょっとだけ火傷はする。でも、日本でなら10万円で売ってるポーションですぐに回復させてくれる。そんな趣旨だった。太陽の表面を触る瞬間に足場が消える。
それに五郎座衆はまたもや引っかかった。その様子はまるで1度目の情報が何も渡っていないようだった。さらに3回目も玲香とシャルティーで火星に降り立ち、五郎左衆だけ置き去りにした。
刺激が少なく、あまり人気のないアトラクションだから、1ヶ月ぐらい閉鎖してもいいとのことだった。空気のない環境下で探索者がどこまで生きられるかという実験にもなる。悪趣味にからくり族が笑っていた。
そしてこの日だけで五郎左衆が呆れるほど死んだ。火星に置き去りになる五郎左衆の顔は悲惨そのもので、
『もう悪いことはしない!』
『頼むから迎えに来て!』
叫んでも誰も迎えに来ない。一応息絶えるまで見守ったが、1日もたなかった。本当なら生きられたかもしれないが、1時間ほど過ぎた頃に全員自殺してしまったのだ。
『貴様は人の心がないのか!』
効率よく五郎左衆を処分し、こちらに被害を出さない。そこに苦労した。五郎左衆からは大顰蹙の嵐だったが、その結果誰も死ななかった。だから、なんの問題もなかった。だから、ひょっとすると作戦がうまくはまっているだけ。
そんな希望もあった。
だが、五層では今までうまくいっていたことがまるで嘘のようだった。
「やるんだな?」
「……続ける」
ジャックが確認してきた言葉に俺は頷く。シャルティーの胸にはしっかりと穴が開いていた。最初に死んだのはシャルティーだった。心臓の部分がきっちりと綺麗にくり抜かれている。血は流れていない。
俺と同じ炎を使用するようだ。胸の部分が焼けただれて止血されていた。俺は仲間ができるだけ死なないようにと一塊で動いた。お互いに監視しあって不意打ちに備えた。しかしそれでも殺される。
シャルティーの体に触れた。まだ体温が残っていた。持っているポーションの中で一番いいものを無理やり口移しで飲ませたが、回復しなかった。仙桃があればここからでもまだ助かるかもしれないが、そんなものはない。
「やめとけ。俺の殺しで散々怖い目を見た経験が言ってる。これはやばい」
「そんなことわかってる」
「いやわかってない。俺はな、悪いことをした探索者を殺した結果、上のやつらを怒らせた。そんな経験が一度だけある。その時俺は仲間をあっさり一人殺された。そいつは口にしてたよ。『この子も悪いことをしてた。だからそっちも1人。こっちも1人。今回はそれで許してあげよう』ってな」
「それが?」
「このシャルティーの死体から俺がその時感じた不気味さを感じる。この相手はきっとお前の想像を超えてる。どうやったところで勝てない。だからやめるんだ」
「いいやジャック。お前のことはいいやつだって思う。忠告は確かに事実だと思う。でも引く気はない」
「バカか? お前よ。この女なら別に死んでくれても良かったって思ってるんじゃないだろうな?」
ジャックが怒ってる。場所は、あの最初の薬物工場だった。招待状がここを示していた。出てきたのは五郎左衆の生き残り。パーティーメンバーを殺されたものが10名ほど、この状況でも逃げずに待ち構えていた。
他はもう全部逃げたのだと彼ら自身が口にした。
『俺はお前が憎くてたまらない。ここで殺す!』
10人全員が復讐に燃えていた。しかしこちらは怪我はしたものの総合力で上回った。勝つことができた。それなのにいつの間にかシャルティーが死んでた。静かに眠るように死体になって横たわっていたのだ。
急に薬物工場のレーンが動き出した。シャルティーの死体は、俺たちの前に、そのレーンに乗って運ばれてきた。それを見た瞬間、全身が怖いと悲鳴を上げた。1分ほど震えて止まらなかったのだ。
「俺はそこまで人間終わってない。俺だって辛い」
心臓がうるさい音を奏でている。探索局の局長が言っていた言葉の意味がわかる。ああ、確かにこれは俺じゃ無理だ。やはり罠だった。そして何かがここにいる。想像していた通りだ。多分こいつは貴族だ。
なぜこいつはこんな変なことを……こちらより完全に強いのに、こんな方法をなぜとるんだ。
「お前がこの女の死体を見て、そこまで辛いと思ってるようには見えねえ! 言え! 明らかに罠だった! どうしてここにもう一度来た!」
「ジャック。嫌なら帰ってくれていい」
相手はルビー級だと確信した。俺たちはシャルティーから目を離したわけじゃない。それなのにシャルティーはいつのまにかいなくなっていて、死体として運ばれてきた。
『レベルが上になるほど相手の動揺とかを察知するのは得意にゃ。だから希望を持って動いているのか、絶望して動いているのか。それぐらいはすぐにばれるにゃ』
俺が何か考えて動いている。それは敵にバレてる。問題は【明日の手紙】。それだけなのだ。その存在には気づかれてないはず。俺がこの場にまだ残り、自信を保っている。その理由は、こちらにも貴族がいるのではと疑う。
五郎左衆は犯罪者集団。その支援をしていたなど、知られたらさすがに貴族でもアウト。もしかすると、だから目の前に出てこないのか。だから隠れてるのか。
「他のみんなにも言う。今回、俺たちにも"大量の死人が出る"。俺はそう思っている。当初からそのリスクは考えていた。それはあるいは美鈴たちの死かもしれない。それでも俺は引かない。もし生き残るのが俺だけだったとしても引かない。逃げたいものは逃げてくれていい。それで構わない」
なんならここで1人だけになってもいい。この世界はどうせ消えるのだ。消える世界で頑張るのは自分だけでいい。自分だけならひょっとすると被害ゼロで、後ろにいる正体不明の何かに接触できるかもしれない。
「お前バカか? この状況で一人? 何を格好いいことだけ言ってるんだ!」
ジャックが激しくイライラしている。土岐と玲香と摩莉佳さん。何も教えなかったメンバーが、かなりの困惑を見せている。
「そんなつもりはない」
「こいつはマジでパンドラの箱だ。やばい匂いがプンプンする。クソを食べさせられてる気分だ」
「それは悪いな」
「本気で思ってるか?」
ジャックが盛大にため息をついた。玲香達も悩んでる。この作戦は明らかに俺の今までのスタイルと違う。
「六条」
ジャックが真剣に俺を見た。傍らには事切れたシャルティーがいる。これでジャックがいなくなる。いっそ一人で動く方がいいかとすら思えてくる。
「もし俺が途中で死んだら甲府にある高校で教師をしていた朝霧って元教師に『財産全部やる』って伝えろ。お前は死んだらなんか誰かに言い残すことはあるか?」
「ない。死ぬ気もない」
「はっ、分かった。俺からは以上だ」
意外なことにジャックが引いた。
「いいのか?」
「まあなんだ。お前はパーティーリーダー以前に友達だしよ。信じてやるよ」
「……ありがとう」
他のみんなは何も言ってこなかった。特に【明日の手紙】を知ってる美鈴、エヴィー、伊万里、マークさんはかなり覚悟してるみたいだった。俺一人でいいと口にしようとして、美鈴が自分の口に人差し指を当てた。
何も言うな。覚悟が決まってる。そう言ってる気がした。中途半端な気持ちでこのクエストに参加したものはいないらしい。
「じゃあ行こう」
招待状には、
【五層に六条様が来たあの日の道順通りにお進みください】
と書いていた。順番を変えるべきかと悩む。だが思惑に乗る方が、相手が正体を表す可能性が高まる。そう信じた。まだ時刻は夜のまま。午前0時を過ぎたあの時から2時間ほどが経過している。
夜の帳の中でも探索者ならば、昼間と同じぐらい視界が利く。街灯がなくても山道の中を走ることができた。最後の最後で、もししくじれば全員帰ってこない。黒桜に何度も確認した。
『失敗した世界線は破棄されるんだな? それは絶対間違いないことか?』
『それは間違いないにゃ。白蓮様だとそこまでは無理だと言ってたけど、ダンジョンアイテムはルルティエラ様の管理にゃ。ルルティエラ様は世界がいくつも存在するのは嫌われるって言ってたにゃ。だから必ず必要のない世界は消して【明日の手紙】を昨日に出した世界線が採用されるにゃ』
黒桜の言葉がなければ、シャルティーの死体を見た時点で心がくじけたかもしれない。それぐらい鮮やかに殺された。2つ目の工場に到着した。山間部に造られたその工場は、深夜ということもあり人の気配はなかった。
「みんな絶対離れるな! 一塊になって動くぞ!」
《六条。私が》
猫寝様が思わず俺に【意思疎通】を入れそうになる。それを容赦なく黒桜が頭を殴って止めた。暗号通信を使っていたが、上位者相手ではそれもだめなのだ。暗号自体が解読される。
力を制限している猫寝様では、解読できないほどの暗号通信を送れない。猫寝様の力は必要になる。だがこちらに貴族がいるとバレてはいけない。貴族がいると気づいたで瞬間、相手は今回の企みを諦めるかもしれない。
そうなった場合、何もつかめていない俺はシャルティーが死んでいても【明日の手紙】を使えない。しかし、シャルティーのことも見捨てる気にはなれなかった。シャルティーは昨日、初めておしゃべりだけでいいと言ってきた。
『六条、あなた私に【媚薬】を使ったのですね?』
『……』
死ぬほど驚いた。そして彼女が媚薬の効果が抜けて、どんどんまともになってきていると気づいた。シャルティーが怒ってる。俺がしたことは、シャルティーが俺を殺そうとしてきても当然の行為だ。
だからクミカが戦闘態勢に入ろうとしている。俺もここで死ぬわけにはいかなかった。
『六条。私はね。あなたのこと少し恨んでますわ。こんな私にたくさん時間を作ってくれて、もっと正気に戻らないように工夫すればよかったのに、私がだんだんまともに戻っていくように導いてくれた。あなたは本当に優しくていい人ですわ』
『……』
『だから、六条、今日はたっぷりお話ししましょう』
『心を操ったんだぞ。怒ってないのか?』
『怒ってたら不意打ちで殺してますわよ。でも私は、あなたに私のことをたくさん知ってほしいのです。そしてね。私こう見えてドベから抜け出したいのです。だって私あなたからもっと愛されてるって思いたいのですわ』
『俺に好かれたい?』
『ええ、それはきっと五郎左衆で経験した享楽の日々よりも大変ですわ。だから本当に少し恨んでますの』
「ちっ」
こんな調子で大丈夫か。本当に何人、死ぬかわからないぞ。
「祐太。イライラしないの」
人の気配がないままの工場。その中を誰もが周囲の人間を監視しあっている。そんな中でエヴィーが話しかけてくる。今回の取り決めの中で、一番きっと面白くなかったであろうエヴィー。3人の中で一番最後にされた。
それでも普段通りに接してくれた。
「シャルティーが死んだわ。あなたはこうなったらシャルティーのためにもやり遂げるしかない。そうでしょう?」
「ああ、できると思うか?」
「もちろん。だってこのエヴィー・ノヴァ・ティンバーレイクが選んだ男ですもの」
「はは、それは言えてるな」
少し気分が楽になる。本当に順番など必要ないと自分では思えるぐらいみんなが好きだった。自分のような男についてくるにはもったいない女ばかりだ。
「六条君、ここには誰もいないみたいだね」
「私も同じ意見だ」
「そうか」
土岐と摩莉佳さんが自分の不安を押し殺して教えてくれた。どう考えてもこの状況をやばいと思ってる。それでもまだ逃げてない。それだけでも評価できる。この後もし逃げたとしても、次もまたきっと仲間にしようと思えた。
「じゃあ、次に行こう」
とりあえず誰も死ななかった。ほっと息をつく。
「エヴィー。行こうか」
そう声をかけた。エヴィーの体が地面に崩れ落ちていく。全身に寒気が湧き上がる。ああ、これでもう絶対に何があっても後には引けない。必ず必ず必ず生き返らせる。そして胸にまた焼けただれた穴が開いていた。
《やられたにゃ。ここまでのようにゃ。私に気付いてやがったにゃ。祐太。絶対に冷静になるにゃよ。祐太なら最後までできるにゃ。何があっても泣いちゃだめにゃよ。主もそう信じてるにゃ。あと白猫、祐太の言うこと絶対聞くにゃ。最後の命令にゃ》
エヴィーの傍らを歩いていたラーイ、リーン、クーモ、そして黒桜の姿が消えていく。召喚獣として契約するということはそういうこと。主が死ねば召喚獣も死ぬ。
黒桜だからまだ言葉を残せたが、他のものは言葉もなくこの世からいなくなっていた。
《白猫》
猫寝様は現在白猫の姿になっており、黒桜が適当に名前を決めた。それでも白猫は喜んでいた。
《祐太。分かってる。暴れたりしないから安心して》
「次に行く」
「うん。分かった」
「行こう」
伊万里と美鈴が俺の手をつないでくる。こういう時一番何か言い出すだろうマークさんも言わなかった。マークさんも【明日の手紙】を知ってる。むしろ摩莉佳さんが意味も分からず2人も死んだことで動揺した。
「摩莉佳。祐太を信じようぜ。それでも嫌なら一緒に逃げてやるけどどうする?」
マークさんが問いかけた。
「……いや、大丈夫だ。もともと決めていたことだ。自分の命が散っても、五郎左衆だけは壊滅させる。肝心の五郎左が残ってる。こいつだけは殺したい。私はそれに協力すると決めた。決めたのだ!」
全員で走り出した。玲香が怖がってる。そりゃそうだ。仲間が気づけば死んでる。目を離したわけでもないのに死んでる。これはもう普通だったらどうしようもない。それなのに俺は何も教えてくれない。
「お姉ちゃん逃げていいよ」
「美鈴……」
この状況で煽っている。美鈴はやっぱり相当姉の行動に腹を立ててるんだ。
「仕方ないから私が一緒に逃げてあげるし」
「……余計なお世話よ」
美鈴から言われて逆に意地になる。
「マジで頭いかれてる。俺は何をしてるんだ? 土岐、お前真っ先に逃げろよ。俺が逃げられないだろうが」
「はは、そこは君たち日本人と大八洲の人間の違いかな。大八洲の人間はね。クエストの失敗は死ぬことと一緒なんだ。君たちのおかげで僕は最初のクエストで失敗、もう一度死んでる。死んでるからこそ二度目がどうなるのか最後まで見たいのさ。だってこの行いの末を見てみたいじゃないか」
「うえーマジかよ。ここで逃げるのはダサい。ダサすぎるってことか」
土岐とジャックがそんなことを喋っている。3つ目の工場が見えてきた。そこに1人だけ立っている女の人がいた。満月の夜。不思議と虫の音も聞こえてこない。静かでわずかな呼吸音すら聞こえる。女の人は片腕がなかった。
「やあこんばんは。こんな綺麗な月夜に僕たちの招待を受けてくれた。六条。そしてその他の紳士淑女の方々、とても嬉しく思うよ」
赤い髪をしていた。オールバックにして綺麗に服を着ていた。男のような女の人。それが1人で堂々と立っていた。
「1人か?」
俺は尋ねた。どう見ても1人しかいない。五郎左衆が一人でいるのは初めて見た。
「ああ、最初の工場で10人殺されたんだろう? まだ部下は残ってたんだけどね。聞いた瞬間みんな逃げちゃったよ。だから俺1人さ。悪事の末路としては、まあ、こんなものだよ。哀れと思い笑ってくれたまえ」
切江の瞳が奇妙なほど落ち着いて見えた。以前はもっとハイテンションに見えた。その様子は【極楽粉】がかなり抜けているように見える。
「お前は逃げなかったのか?」
「逃げなかったよ。それは俺の流儀じゃなかったからね」
この女……いや、男と言うべきか。きっと正気だ。レイピアをしっかりと構えた。瞳が澄んで見える。男のようだけど美しい顔をしている。
「六条。都合のいい申し出なのだけど、君と1対1で戦わせてもらえないかな」
「決闘か?」
「ああ、こう見えて紫乃もシャルティーも、俺なりに大事に思っていたんだ。2人とも君に殺されたんだろう? 六条が悪いとは言わないさ。俺たちはもう本当にたくさん人の迷惑になり続けてきたからね。でも俺の気持ちが許さない」
やはり正気だ。なぜここに来て正気に戻した。見えない敵は劇場型が好きなのか。
「君に復讐したい!」
「受ける必要ないぞ」
ジャックが言った。確かにそうだ。受ける必要などない。この状況で全員でかかれば簡単に殺せる。そうするのが正しい。でも、
『六条。私の言葉は都合がいいと思うでしょうけど、できれば切江も【媚薬】でこちら側に入れてあげてくれませんこと? 正直切江は一番悪いことをしていないのです。殺した人数だって10人にも届いてない。人を嬲るような真似もしませんでした』
シャルティーからそう言われていた。この世界はないものになる。俺がなんとしてでもそうする。でも今のこの生きている彼女の心は本物で、命をかけているのだ。シャルティーに心の中で謝った。きっと切江はそんなことを望んでない。
《クミカ。手を出すなよ》
《畏まりました》
「シャルティーが言ってたことは守れない。でも俺が引導を渡してやる」
右手に【焔将の刀】。体も全て赤備えになった。気配を消すには若干不向きな装備だった。それをフル装備する。前に出ようとした。だが肩を引っ張られた。
「祐太。お前は何があっても生き残れ。万が一にも死ぬリスクは取るんじゃねえ」
マークさんが前に出てきた。
「邪魔する気かい?」
「おい犯罪者。調子に乗るなよ。お前たちは悪いことをしたんだ。まともな死に方をしたいなんて贅沢誰が聞けるか。でも正々堂々としているところは気に入った。だから1対1ではやってやる」
「君がか?」
「悪い子は鬼が殺すって日本じゃ決まってるんだよ。悪事を後悔しながら、みっともなく死ね」
マークさんの体が鬼のものへと変化していく。どんどんと背丈が伸びていく。あの日見た鬼の姿。大鬼ラスト。あの声のままだった。そこにマークさんの声が交わる。
「それでも本懐ぐらい遂げさせてくれていいじゃないか!」
「「自分の本懐を遂げたいと抜かすならば、この我を殺してみせよ!!!」」
大気中に大鬼とマークさんの咆哮が響き渡る。俺は自分がやると口に仕掛けて、摩莉佳さんに止められた。マークさんと切江、2人が同時に動き出した。
本日の8月27日火曜日。
【ダンジョンが現れて5年、15歳でダンジョンに挑むことにした。】
のコミックス第一巻が発売されます!
ようやくここまでこぎつけることができて本当に嬉しいです!
それもこれも読者の皆様のおかげです!
本当にありがとうございます!
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ダン5一巻表紙画像帯なし
祐太立ち絵





