第二百十四話 正体不明
相手が何をしたいのか分からない状態。正直言えばこれが敵なのかどうかすらも分からない。そうなっていると最も危険なのだという。作戦を立て五郎左衆を追い込んだ。下部構成員やただの幹部は、かなり見事に嵌まってくれた。
しかし結果を見ればどうだろう。五郎左衆が200人以上死んだ。伊万里、美鈴、エヴィーは人を殺すことに動揺したが、俺と毎日1時間の時間を持ち、そのストレスを乗り越えた。
俺たちはそれなりに頑張ったと思う。五郎左衆は壊滅寸前で間違いない。それなのに上級幹部が一人も死んでない。桃源郷の四層。そこには半壊した遊園地があった。まだかろうじて形を残しているメリーゴーランドの馬車に乗る。
なぜか考えをまとめようと思って乗っていた。メリーゴーランドは動いてはいない。崩れた観覧車やジェットコースター。四層の遊園地は日本のそれとそこまで変わらない。その中で、ただ一人になりたかっただけだ。
女性陣は誰もゴテゴテと装飾のあるファンシーな馬車の中に入ってこない。こういう時邪魔をすると嫌がるのを知ってる。死体があちこちにある。五郎左衆の探索者と遊園地の中で遊んでいた一般人たちだ。
ここまで作戦は成功している。
だが各地でかなりの被害は出てしまっている。
ただそれは四層の人間も納得してくれていた。
「ううん」
心が決まらない。ある程度の考えは頭の中に出来上がってる。でも、決心がつかない。そんな俺の横にマークさんが現れた。男性陣は俺に気を使うなんてことはしない。狭い子供用の馬車の中に大きな男2人が乗ってる。
「やったな祐太! これだけ五郎左衆の構成員がいなくなればさすがにもうクエスト達成だろ!」
期日は明日だった。明後日、面白いことが大好きなたぬきの神様【隠神刑部】が死ぬ。最終日である明日までに切江、木阿弥、月影を殺したい。そして未だに誰も見たことがないと言われていた五郎左を殺したい。
実際のところは五郎左の目撃情報は五層に行けばすぐに出てきた。ちょっと太った人の良さそうなおじさん。そんな人間なのだという。日本人だと思われるが、どこの誰なのかは分かっていない。それに目撃情報が得られただけで写真もない。
「そうなんですけどね……」
「こんなに大勝利なのに悩んでるのかよ」
マークさんがそんなこと言ってくる。マークさんはラテン系。俺なんかはいいことが続きすぎると怖くて仕方なくなってくる。正直、作戦自体は驚くほどうまくいってる。
「ちょっとうまくいきすぎですね。気味が悪い」
「お前、うまくいって悩むのかよ」
たぬきの神様が死に、貴族達が【桃源郷】を自由に動き始める。その明後日が訪れる前に、決着をつけたい。それは俺達もだけど、五郎左衆も変わらない。何しろこのままでは俺たちに200人も殺されて泣き寝入りすることになる。
五郎左衆は貴族へのヘイトもかなり買っている。明後日になってもまだ【桃源郷】にのんきにいたら貴族の部下、それこそシルバーやゴールドがわんさか出てきかねない。それまでに俺たちに一矢報いたいところだろう。
実際、招待状が届いていた。
【六条様、今回は格別のご指導を賜り、厚くお礼を申し上げます。
五郎左衆、桃源郷プロジェクトはおかげ様で大変な被害を受けました。
そこで神のごときお美しき六条様に私よりご提案があります。
明後日、狸が死ぬときまでに我々はあなたを殺したく思います。
五層で、明日の子の刻まで、五郎左衆総出でお待ちしております。
是非ともお越しの程よろしくお願いします。】
かなり怒っているのがよくわかる。ただ、この招待状。そこから感じられる知性と嫌味。俺は思う。これを出したのであろう五郎左は何事もしっかりと考えて動くタイプだ。そうだとするとこの1ヶ月間の五郎左衆は奇妙だ。
「そりゃ悩みますよ。この1ヶ月。俺たちに都合のいいことしか起きてない。200人以上の構成員を葬り去るのにこっちは1人も死ななかったんですよ」
「そうだ。お前と米崎の作戦は完璧だったぜ。お陰で、大八洲中に俺たちの名前が轟いてる!」
「それはまあ嬉しいんですけど」
今まで誰からも褒められずに生きてきたような人間である。大八洲国に顔が知れ渡り、褒め称えられる現状が嫌ではなかった。正直のぼせ上がりたくもなる。俺たちは勇者である。最後の魔王城がある五層に挑み勝利すれば完璧だ。
中ボスとして切江と木阿弥と月影がいる。そして大ボスの五郎座が五層の中央で待っている。そんなシチュエーションになりそうな気配だった。
「女の子が胸や尻を自分から押し付けてくる。俺が気が多いタチだって分かってるから、『自分もどうですか』って感じですよ。この間、受けていた簡単なクエストをこなして、探索局に顔を見せたら、男まで寄ってきた。でもね。正直この状況、やっぱり気味が悪い。マークさんだって分かってるでしょう。軍人だったんだ。ダンジョンの中で苦労だってしたんだ。何事もこんなにうまくいくもんじゃないって」
「はは、まあ確かに気味悪いよな」
黒服マッチョ・シークレットサービスみたいな姿に戻ったマークさん。普段は楽天家のマークさんでも気味が悪いらしい。そもそも五郎左衆は今までもっと統率の取れた組織だと聞いてきた。
いくら俺たちが相手だからと言って、急に統率が取れなくなりすぎだ。
最初はわかる。完全な不意打ちだったのだから、対応が後手に回ることもあるだろう。しかしその後の対応まで後手に回ってる。一度だけじゃない。何度も何度もだ。そして気づいた。
「五郎左衆は、五郎左から何も命令されてないんじゃないかって」
「何も命令していないか……。まあ確かにそんな感じの動きだよな」
「でもなんだかそれも違う気がして……。軍隊だとどうですか?」
軍人上がりのマークさんに聞いてみた。
「軍隊でも将軍っていうのはとっても大事でよ。こいつが意味不明なバカだとどんなに強い軍隊でも、急に意味不明なことをやりだす」
「下がしっかりしてても仕方がないんですよね」
そんな話はよく聞いたことがあった。最近ではその系統の専門書籍もいくつか読んでみた。だがそれと照らし合わせても五郎左の作戦立案能力は、俺たちがクエストを引き受ける前と後でまるで別人に見えた。
「そうだ。集団が大きくなればなるほどそうなるんだよ。指示役がバカな軍隊ほど怖いものはない。本当は左に行かなきゃいけないのに右に行けと言われる。それに従わなかったら右に行くやつとか左に行くやつとか色々出てしまう。だから軍隊では必ず基本的に上の言うことを聞く」
「それが間違いだと分かっててもですよね」
「まあ内部分裂を起こすよりは、大抵の場合、上の言うことを聞いてるのが軍隊としては一番被害が少ないからな」
それぞれが正しいと思い、言うことを聞かない軍隊。それがどういう結果を招くかといえばクーデターや内戦である。そうならないために軍隊は命令違反が一番の重罪となる。そして今まで天才的と思えるほどの命令をしてきた五郎左。
五郎左が完璧に別人なのではと思えるほどのアホな指示をしている。五郎左衆はその命令をされている状況でも従った。今までの五郎左がきっと完璧だったから。そしてクミカに1人だけ下級幹部の心を読んでもらった。
その結果は、やはり五郎左からの命令は受けている。
「命令がないとは思えないのに、まるで何も命令されずに動いている。烏合の衆みたいに見えるんだよな」
「六条君はこれをどう思う?」
メリーゴーランドの馬車の中、マークさんと話していたら、土岐とジャックも入ってきた。
「てか、なんでお前こんなところいるんだよ」
「狭い空間だと落ち着くんだよ」
「お前マジで引きこもりみたいなこと言うな」
男4人で狭い場所の中で顔を突き合わせている。若干汗臭い空間である。男4人で友達みたいに喋ってる。何気に嬉しい俺だった。
「それにしても彼らさ。まるで自滅したいみたいだよね」
土岐にはこの戦いにおいて表に出て戦ってくれとは言ってなかった。姿を隠し、戦場で不利になっている部分がないか。誰も死なないように見張っておいてほしいとお願いしていた。
「俺もそれを考えてるんだよ」
「なんとなくその言い分はわかるぜ。だがどういう意図でそんなことするんだ」
ジャックが口にする。
「あれじゃねーのか? 五郎座は五郎左衆を潰してしまうつもりなんじゃないか」
マークさんがそんなことを口にする。そしてその考えが一番しっくりきた。
「うん。僕もその意見に賛成だ。自分の痕跡を消すという意味では、ありえないことじゃない」
土岐が言い、ジャックが顔をしかめる。今回のクエストの詳細は全員が把握している。今がどういう状況なのかはそれぞれに考え続けていた。
『それが一番最悪のケースだね』
一番最悪の可能性を米崎とは以前から話し合っていた。その米崎は全員参加で五郎左衆をおびき出していたが、1人だけ参加していなかった。あえて参加してもらわないでいたからだ。
『彼らの行動がいくらなんでも後手後手に回りすぎだよ。正直もっと頭脳戦になると思っていた。だがならなかった』
『正直俺も気勢をそがれた気がした。局長が俺には“無理だ”って言ってたぐらいなのにこんなものかって思った』
『僕が考えているよりもはるかに五郎左という人間は頭がいいらしい。おそらく五層で戦った時、六条パーティーの戦力を見極めたんだと思う。その結果君たちがギリギリで勝てる戦力を【ジュピターパーク】に配置した』
『せっかく集めた戦力だ。そんなことせずにほとぼりが冷めるまで逃げたらいいだけ……なのに無駄に消費した。だとすると五郎左はもう五郎左衆が必要ない』
『僕もその結論だ。全て僕たちに殺させて終わりにする。華々しいヒーローが誕生して、好き放題やらかした自分は盤古にでも逃げ延びる。ほとぼりが冷めた辺りで、また何か悪さを始める。僕が五郎左ならそんな筋書きを立てるよ』
そんなことを話し合っていた。その内容を3人に伝えた。
「でもよ。これってある意味ラッキーじゃねえのか? それなら別にそれに乗っかればいいんじゃねえの?」
マークさんが言ってきた。それは確かにその通りで、五郎左は逃げたとしても、その他全員が死ねば、五郎左衆壊滅の認定はされるかもしれない。
「どうなんでしょうね。その場合完全に俺たちは五郎左の手の平の上で踊ることになる。肝心の首魁を取り逃がしているのにクエスト達成が認定されるのかも分からない」
この点は摩莉佳さんにも確認したが、本来首魁を取り逃がしているならばダメで当然である。ただ残りの全員が死んでいる。となると、可能性はあるとのことだった。ただ確実ではない。やはり五郎左は殺したい。
「大体、落とし穴がどこにもないとは思えねえよな」
ジャックが言う。完全に五郎左の思い通りに動く。結果がどうなるのかは未知数だ。できれば何とか裏をかきたい。しかしどうにもここまでやってきても五郎左という人間はつかみにくかった。本当にそんな人間がいるのかと思える。
それぐらい正体が見えない。
「じゃあどうするんだよ」
マークさんが聞いてきて、俺は自分の経験に照らし合わせて口にした。
「マークさん。きっとこれはゲームだよ。制作者はこの道筋通りに進んでください。そうすれば最後にトロフィーがあなたにプレゼントされます。そう言ってる。ゲームだからその通り進まないと、そもそも行き詰まるようにできてる。こちらはその思惑から外れたい。いくらそう思っても造られたゲームは、思惑から外れるとそもそも何もできなくなるんだ」
「自由度ってことか?」
「どうやらこの道じゃないと相手は嫌らしい。しかも俺はなんというかこの製作者は、最後にクリア報酬のご褒美を用意してくれてそうな気はするんです」
「なんだと思う?」
「さあ、さすがにそこまでは分からないけど」
今のところ五郎左に関して有力な情報はない。期日ももう迫ってきている。おそらく明後日になった時点で、五郎左は姿を消してしまう。それはほぼ間違いない。切江も木阿弥も月影も殺せていない俺たちに動かない選択肢はない。
「ああ、12時過ぎたな」
探索者用のスマホを確認した。明日になってしまった。時間はもう24時間しか残されていない。明日の午前0時きっかりにたぬきの神様が死ぬらしい。神様はきっちり死ぬ。だから、死ぬまで貴族は行動を控えるなどということが起きる。
ともかく考えてばかりで動かなければクエストが不達成になってしまう。本当にクソゲーをやらされている気分。答えが1つしか用意されてない。五郎座の気に入る答えじゃないなら、許さない。この感覚。
このまま進んではいけない。それが明らかに分かっているのにこのまま進むしかない。メリーゴーランドから出た。15歳でもダンジョンから好かれてる。パーティーのリーダー。だから結論はお前が出せ。それを待ってくれている。
「祐太。悩んでる?」
美鈴が話しかけてきた。
「うん、ちょっとね。でももう時間がない。決めなきゃね。美鈴、【危険感知】はどんな反応をしている?」
女性陣は今のところ落ち着いている。毎日1時間。まず最初に美鈴、次に伊万里と時間を過ごす。三番がエヴィー。四番は玲香。最後はシャルティー。順番は自分の中での優先順位に従った。
そしてそうした方が治まると思った。今のところそれはうまくいっているようで、女性陣はその取り決め自体には文句を言わない。一時間の間、俺は美鈴達がどうしたいかに従った。ただのおしゃべりをしたいならそれでもいい。
交わりたい気分なら俺もそれに乗った。今のところシャルティーはほとんどしたがるが、必ず俺が言うことを聞いていたら、昨日は初めて『ただの話がいい』と言ってきた。他はその時々によって違う。その俺の行動は喜ばれているようだ。
ただ美鈴と玲香はあの日以来、話をしたことがない。それにクミカが表に出て玲香とお話ししたいと言った時があった。その時俺はつい嬉しくて一番最初に玲香のところに行ってしまった。その後どうなったのかは思い出したくもない。
俺は二度と順番を変えることだけはしないでおこうと誓った。そもそも最初から順番を順不同にしようかとも考えた。だが、
『それはやめとけ。お前はどうやったところでハーレムになる。だからその優先順位だけははっきりしろ。誰が一番好きなのか。誰を一番優先したいのか。そうじゃないともっと揉めるぞ』
とはジャックのアドバイスだった。土岐からも同じようなことを言われた。女性陣に気を使って、みんな平等に好きだよなんてことをやると、逆に収拾がつかなくなるらしい。なぜかと土岐に聞くと、
『君は美鈴が一番好きなんだろ?』
『ああ、色々考えてみてやっぱりそう思った。俺は美鈴が好きだ。はっきりそう言える。伊万里は大事だけど、その大事さがやっぱり美鈴とは違う気がする』
俺がもしこんな状況を許されなくて、誰か1人に絞るしかなかったら、伊万里を選ぶ。ただどちらも選んでよくて、伊万里から離れなくていいのなら、優先順位は美鈴が上に来る。伊万里と俺はそういうものなのだ。
けして恋愛として好きなのが伊万里じゃない。でも一番離れたくないのが誰かといえば伊万里なのだ。
『それでさ、シャルティーはもともと敵側の人間だし、優先順位は当然一番下に来るよね。でも順番を順不同にするとさ。美鈴とシャルティーは扱いが一緒なのかってことになるよね』
『それは……』
『それが遠くない未来。美鈴と伊万里のどっちが大事なの。って、話に発展するんだよ。ましてや僕の見立てでも君は必ずルビーまでは生きてる限り行くだろう。あるいは神に到達するかもしれない。そうなるとますます曖昧なことが許されなくなるんだよ。君の世界ではその昔徳川将軍家というのが存在したらしいね。今はそれは廃れているようだけど、その将軍が「どの女も同じように好きです」なんて言ったらどうなると思う?』
『治まらない。いやでも俺は将軍じゃないぞ』
『レベル1000以上を目指しているんだよね? 将軍どころか半神だよ』
『でもまだ日本は……』
口に仕掛けたが、日本は徐々に大八洲国に近いスタイルの国になろうとしている。そうなると土岐の言葉は笑い話ではなかった。何よりも、そんな意識は神に誓って本当になかったが、確かにハーレムというものが出来上がってしまった。
そしてはっきりと一番だと示した美鈴が一番よく表立っては喋りかけてくるようになった。
「はは、正直このクエストを始めてからもう頭の中でずっと鳴りっぱなしでよく分からない。役に立てずでごめん」
【危険感知】はある一定以上のリスクがあると反応するようだ。そしてそのリスクはこのクエストが始まった時点であるらしく、美鈴は【危険感知】が反応しすぎて、役に立たない状態なのだそうだ。
おかげでもうスキルを切ってしまってるらしい。
「だよな。いいよ。決めたから」
メリーゴーランドから降りた。今回の作戦が始まってその全ての人員が集まってきた。美鈴、エヴィー、伊万里、ジャック、マークさん、摩莉佳さん、玲香、シャルティー、土岐、そして常に一緒にいるクミカ。
米崎だけは姿を現さないように言っていた。そしてその米崎には俺の持っている手札で最も凶悪で確実なもの。あるいは【炎帝アグニ】よりも俺としては恐ろしいと思うもの。
それを使用するために、万が一でも失敗することがないように頼み事をした。俺は米崎に連絡を入れた。
《米崎。宿で留守番頼む》
《OK。五層のお土産を買ってきてくれるかな。できれば【異界渡り】と【極楽粉】がいいな》
《手に入ったらね》
そう口にした。このプランを決めた時から、米崎だけは不自然にならない程度には外に出たが、基本的には宿から動かさなかった。米崎はこのクエストが始まってから、今までずっと宿にいる人間だった。
米崎はドワーフ島に行きたいみたいだった。でも俺の考えが分かっていたから、『行きたい』とは言い出さなかった。そんな米崎は“戦いに向いていない”。それは結構有名らしい。少なくとも甲府にいる探索者の大抵は知ってること。
昔いろんな探索者と組んだことがあるせいで、手の内も結構バレてるらしい。だから米崎が今回の五郎左からの招待において五層に一人だけ行かない。それはたとえ誰であっても怪しまないはずである。
そして俺が今回のクエストのために仕掛けた一番の手札。自分の持っている手札を一番有効に使う。絶対に悟らせない。もし万が一、これでも五郎左に見抜かれていたらさすがに俺の負けだ。五郎左の手のひらの上で見事に踊るしかない。
その場合でも五郎左以外は全員殺せるかもしれない。だが肝心の首魁を取り逃がして終わりだ。それでクエストクリアーと判定されるのかどうかわからない……。何よりも多分こちらにも死人が出る。
「みんな。時間がない。これから五層にいる五郎座の残党を全員狩る。幸い敵は相変わらず俺たちを舐めて、戦力を分散させているらしい。俺たちはそれにつけ込んで全部平らげて終わりだ」
俺の言葉に全員違和感を持ったと思う。でもそれを指摘するものはいなかった。本当にそう思って俺が動くのなら、あんなに悩んでるわけがない。みんな分かってるだろう。美鈴達は俺が何かするつもりかも分かっているだろう。
本当は使いたくなかった。いくらガチャ運6でも狙ったアイテムが必ず出てくるわけじゃない。次のガチャで出てこなかったら、また大変なことになる。そう思ったがこのタイミングで切り札を切らなければ、ここで何かが終わる。
「行くぞ!」
全員が高速で移動を開始する。隠れる必要性は感じなかった。向こうもさすがにもうそろそろ俺たちが奇妙に思っていることは分かっている。それでも狙い通りに動く。あえてそれに乗っかる。そういう姿勢を示す。
“何か”をあぶり出したかった。
全員が一糸乱れず、ついてくる。何か罠があることだけは間違いない。何度かみんなと喋っているからわかってる。でも、誰も文句を言わない。景色が流星のように後ろに流れていく。そして黒い巨大な輪っか。五層へと渡る穴へと着いた。
《クミカ。頼む》
《畏まりました》
俺がクミカに頼んだこと。それは俺の胸元にしまわれた【明日の手紙】を開いて読んでくれというものだった。そう。切り札は時間干渉アイテム【明日の手紙】である。この【明日の手紙】は俺しか使用できない。
他の誰にも無理なのだそうだ。ブロンズガチャには専用装備とは別の1つだけ、自分専用のアイテムというのもあるらしい。
今回の五層への招待。ほぼ間違いなく罠。そして、この罠に嵌まり、必ず生き残れるのは、外で一切動かなかった米崎だ。そして五郎左から世間の目をそらしたいなら俺も死なない。それが俺と米崎の共通の見解だった。
だから俺は【明日の手紙】を“明日書ける”。
ただ、その書く時に“まともな思考”が残っているかどうかに関しては自信がなかった。だからその部分を米崎に任せた。米崎までまともではなくなっている。そのリスクはかなり低いと思った。
それだけ米崎を戦いから遠ざけたからだ。そして米崎はなんとしてでもこの時間に俺が【明日の手紙】を読めるようにする。そう頼んでおいた。俺が書きさえすれば、それは1日前に送られる。送られた後、読む人間は誰でもいいらしい。
だからそれをクミカに頼んだ。俺と完全に繋がっている影の中。そこからの【意思疎通】はアナログ通信と同じで外に漏れない。そこまでした。クミカが、未来である明日書いたはずの【明日の手紙】を開いて読んでいる。
それが伝わってくる。
さらにクミカが手紙の内容を見た瞬間、激しく動揺した。
《祐太様。手紙には"何も書かれていません"》
《そうか……“まだ”なんだな……》
まだというのは【明日の手紙】は時間に干渉するアイテム。そして内容はあくまでも"起こったことに対する記述"でしかない。
『おそらく君は何も書かれていない【明日の手紙】を見ることになるだろう。しかし、もし、そうだとしても絶望する必要はない。【明日の手紙】は君が書くんだ。そして送る。そのプロセスが必要なのだ。もし何も書かれてなかったら、その内容を君が書くんだ。そして昨日の君に白紙ではない手紙を出してくれ』
米崎が言っていたこと。この行いが成功するだろうか。かなりの高確率で五郎左衆には、貴族の関与が疑われていた。そもそも貴族たちが住まう二層でルビー級のアイテムを盗む。それは貴族が協力しなければ不可能なのだという。
俺の役目はその貴族の関与。その証拠を掴むこと。どこの誰がやったのか。それさえ分かれば……。
覚悟を決めた俺は5層の穴へと飛び込んだ。
明日の8月27日火曜日。
【ダンジョンが現れて5年、15歳でダンジョンに挑むことにした。】
のコミックス第一巻が発売されます!
ようやくここまでこぎつけることができて本当に嬉しいです!
それもこれも読者の皆様のおかげです!
本当にありがとうございます!
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祐太立ち絵





